「どうせ困るのは将来の日本人だから」返せない借金を膨張させる日本の末路
プレジデントオンライン / 2021年3月22日 11時15分
■先進国中でも最悪の財政状態になっている
新型コロナウイルスの蔓延に伴う経済対策で、いわゆる「国の借金」が急増している。
財務省が四半期ごとに発表している「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」によると、2020年末に1212兆4680億円と初めて1200兆円を突破した。財務省はこれまでも「国の借金が最高を更新している」と警鐘を鳴らしてきたが、新型コロナ発生以降の増加率はこれまでとは水準が違う。
四半期ベースで見ると、2020年3月末までの5年間は、前年同期比0.4%減から3.5%増の間で推移、概ね1%台の増加ペースできた。ところが、新型コロナが広がって以降、2020年6月末は4.8%増、9月末は7.7%増、12月末は9.2%増と急激に増えている。もちろん新型コロナの影響で経済活動が凍りついたため、ひとり一律10万円の特別定額給付金や雇用調整助成金、GoToトラベルといった前例のない大型経済対策を打ったからにほかならない。
経済の悪化でGDP(国内総生産)も落ち込んでいるため、国の財政状況をみるGDP対比の借金額は、ゆうに2倍を超え、先進国中でも最悪の財政状態になっている。それでも新型コロナ対策による財政出動は世界共通の手法のため、日本の財政状況だけが特段注視されることもなく、幸いなことに、円安や債券安(金利上昇)にはつながっていない。
■新型コロナ前から、国の借金は増え続けていた
もともと新型コロナ前から、日本政府には「大盤振る舞い」体質が根付いていた。3月に成立した2020年度当初予算の歳出総額は102兆6580億円と、長年予算作成上の精神的ハードルとなっていた100兆円の大台をあっさり上回った。高齢化に伴う社会保障費の増大に歯止めがかけられないことが主因だったが、「国土強靭化」を旗印に、公共事業費や復興関連予算も高水準が続いていた。
政府が緊縮予算に転換しなかった背景には景気の底入れで税収が増加、バブル期を上回って過去最大になっていたこともある。また、安倍晋三内閣下で2回にわたって消費税率を引き上げ、消費税収が倍以上になっていたこともあった。要は収入が増えたことで、緩んだのだ。それでももちろん、歳出を税収で賄うことはできず、国債発行への依存が続いており、ジワジワと「国の借金」が増えていた。
■本気で予算削減に取り組んでこなかった
本欄で「日本が返せるはずのない借金を重ねる根本原因」(2019年9月6日)にも書いたように、予算規模が大きくなれば権限が増える官僚機構にも、地元選挙民の期待に公共事業などで応えられる政治家にも予算を削減する動機はない。国の財政再建を口では言いながら、本気で削減に取り組まないのだ。一方で、国の財政を考えるのが仕事である財務省も、各省庁や政治家に痛みを求める歳出削減よりも気が楽な国民へのツケ回し、つまり増税ばかりを求めてきた。国借金が増えるのは問題だと言いながら、かつての「ゼロ・シーリング」つまり、予算増を認めない緊縮予算の策定などははなから放棄し、消費増税だけでなく、所得税の引き上げなどを政治家に働きかけて、実現してきた。
本来は、景気が回復期にある時にこそ、徹底して予算の使い道を見直すチャンスだったのだが、大盤振る舞いを続けてしまったのである。そこへ新型コロナ禍がやってきたわけだ。
■借金を続ける限り破綻しない「借金財政」が当たり前
「世界最大の対策を講じているので、それによって雇用と暮らし、日本経済を守り抜いていく」――。新型コロナ対策で1回目の緊急事態宣言を発出し、経済活動が止まったことに対して、安倍前首相は、巨額の経済対策で国民を守ると宣言。補正予算を組んだ。
4月末の1回目の補正予算で一般会計予算は102兆円から128兆円に増加、2次補正では160兆円となり、最終的に2021年1月に国会で可決された3次補正では175兆6877億円という未曾有の予算規模に拡大した。
もちろん、新型コロナウイルスと闘う上で不可欠なワクチンの確保や接種のための予算も含まれるし、困窮した世帯を救うための助成金など必要なものも多くある。一方でGoToトラベルなど多くの国民が過剰ではないかと感じる予算も含まれる。未曾有の経済危機に直面して世界恐慌並みの経済崩壊につながることを防ぐには、政府が一気に予算を支出することは必要だから、それを批判するつもりはない。
だが、そうして急増した国の借金は間違いなく、国民にツケとして回ってくることになる。本来、政府はそのための「出口戦略」、つまり、どうやって増えた借金を元の水準に戻していくのかを描いておく必要がある。
残念ながら、日本政府の予算決算の仕組みは単年度で、それもかつての大福帳さながら、収支だけしか見ていない。国債の発行で得られる資金流入も「歳入」なので、いくら「歳出」が増えても借金ができる間は破綻しないという「借金財政」が当たり前になる。米国など多くの国は歳入が確保できないと予算支出が止まり、公務員の給与が止まったりするが、日本の場合、国債発行で見た目の収支尻が合えば、国は活動を続けられる。
■大増税をしたら、国民生活が成り立たない
企業のようなバランスシート(貸借対照表)の発想もないので、設備を作ったら減価償却費を計上するといった考えもなく、借金をどうやって返済するかという工夫も出てこないのである。もちろん、昔から国のバランスシートを作るべきだという議論はあって、実際に作ってもいるが、それはまったく運用には使われていない。
そんな仕組みの中で、膨張した借金は、どんな格好で国民のツケとして回ってくるのか。
財務省が普通に考えるのは、増税によって歳入を増やし、借金返済に回すという手法だ。つまり、いつか大増税がやってくる、という形でツケを払わされる。
だが、これは実際には難しい。
財務省は毎年2月に「国民負担率」という数値を発表しているが、この2月のデータでは、2019年度実績の国民負担率は44.4%と過去最高になった。税金と社会保障費を合わせた金額が国民所得のどれぐらいを占めるかという数字で、かつては世界でも有数の低さだと言われていたが、今でも米国を大きく上回りドイツに迫っている。後は、福祉国家と言われる高負担高福祉の国ぐらいしか上にはいない。
経済が落ち込んだこともあり、2020年度の国民負担の見込みは46.1%である。つまり、これ以上の増税となれば、国民生活が成り立たなくなる恐れがある。
■国は国債発行を続け、日銀も購入を続けるだろう
仮に、誰かの内閣が消費税率をさらに引き上げることを断行したとして、国民は所得が増えない以上、消費を減らすことになる。ますます経済が冷え込み、税率を引き上げても税収は増えないというジレンマに陥ってしまう。安倍内閣が2回にわたって消費税を引き上げられたのは、雇用が増え、所得が比較的安定していた環境だったからで、それでも2019年10月の8%から10%への増税は消費にボディーブローのようにきいている。
つまり、これ以上の増税は難しい。
かといって今の政府の体質では、緊縮財政に舵を切ることもできない。景気低迷が続く中では、景気対策を求める声が強く、「大盤振る舞い」が続くことになる。
ではどうなるか。おそらく、国は国債発行を続け、国の借金が減ることはないだろう。日本銀行も国債の購入を続け、それを助けることになる。
■国民が払わされる「インフレ」というツケ
どこかの時点で国債発行が限界に来るはずだが、海外投資家が日本国債を持つ比率は高くないので、ギリシャのように海外投資家に売り浴びせられて一気に国債暴落が起きることになるかどうかは分からない。
おそらく国民に回ってくるツケで蓋然性が高いのは、インフレだろう。当面は企業業績の悪化から賃金減少、そして消費の減少とデフレ色が強まることになるだろうが、ポストコロナで世界経済が回復過程に入ると、一気に物価上昇に火が付くことになりかねない。日本銀行が紙幣を擦り続ければお金の価値は下がっていくわけだから、相対的に物価は上がらざるを得ないのだ。今、株価や不動産などの資産価格だけが上昇しているのは、実体経済の回復を先取りしているのではなく、貨幣価値の下落を織り込みつつある将来のインフレの予兆なのかもしれない。
日本自体の成長率が世界に比べて小さくなれば、日本人は相対的に貧しくなって海外からの輸入品もすべて手が出ない高級品になってしまう。つまり、生活の劣化でいずれツケを払うことになってしまうのだ。
そうならないためにも、国は大盤振る舞い予算の出口戦略を考える必要があるのだが、霞が関や永田町を見ていても、誰もそこまで知恵が回っていないように見える。
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経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
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