レジの待ち時間を短くしたければ「待っている人が少ない列」に並んではいけない
プレジデントオンライン / 2021年3月24日 11時15分
※本稿は、サトウマイ『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち!?』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■統計学で行列の待ち時間を短縮する
スーパーのレジ、病院の診察室、銀行のATM、空港の搭乗手続きなど、世の中のいたるところで順番待ちをする人の行列(待ち行列)が見られます。
一生のうちに、レジに並んでいる時間はどのくらいでしょうか。まずは、レジに並ぶ回数を計算します。寿命を80年として、20歳から毎日なんらかの買い物をしてレジで会計をすると仮定すると、(80-20)年×365日=2万1900回ということになります。
統計学を応用するには、このように「頻発するような出来事」のほうが効果は高いといえます。その理由に、第1章で解説した「大数の法則」が働くためで、日常生活のよくある出来事ほど統計的な視点を入れたほうがお得、ということです。
一生でレジに並ぶ回数2万1900回のうち、半分が「前の人の会計を並んで待っている状態」で、平均3分待つとします。すると、次のような計算式になります。
成人してからの人生の中で、約23日間も「ただ並んで待っているだけの時間」(自分が会計をしている時間は含まない)があるということです。
移動時間であれば、本を読んだり音楽を聴いたりできますが、商品を持ちながら並んでいてはそうもいかないでしょう。だとすると、なるべくこの時間を短縮したいと思うのも当然です。
迎える側の企業としても、お客さんの待ち時間が少なくなることで、お客さんの満足度が向上し、業績のアップにつながるはずです。
そんなときに役に立つのが、「待ち行列理論」です。この理論を使って、なるべく待ち時間の少ないレジに並ぶ、レジ戦争を勝ち抜く方法を紹介したいと思います。
■「待っている人が少ない」列に並んではいけない
みなさんは、「混んでいる時間帯のスーパーで、どのレジに並ぶのか?」をどのようにして決めていますか?
待っている人のかごの中身が少ない
レジ係の手際の良さ
一番多い回答は、「待っている人数が少ない」ではないでしょうか?
しかし、この選び方は、あまりおすすめできません。のちほど説明しますが、待ち人数よりも「そのレジがどれだけスムーズに流れているか」のほうが、レジ戦争では大事だからです。飲食店などでは、このことを「回転率」といいます。
お昼時の立ち食いそば屋さんは、行列ができていたとしても、案外すぐに食べられます。これは回転率がいいからです。レジにも、この回転率なるものが存在します。正確には、回転率ではなく「そのレジの混み具合」を計算します。
ここからちょっとした計算が出てきますが、苦手な方は読み飛ばしていただいてかまいません。結論だけを知りたい方は、後述の「レジがスムーズかを見極めるポイント」をご覧ください。
混み具合は、「そのレジにお客さんがどのくらい頻繁にくるか(A)」「レジ係の手際の良さ(B)」で決まります。もう少し正確に表現すると、
÷
B:1時間のうちに何人のお客さんの会計ができるか
=レジの混み具合(稼働率)
この二つの変数を使って、推定待ち時間を計算するのが待ち行列理論です。
どんなレジに並ぶべきなのか
お客さんをさばける数(B)に対して、それを上回るお客さん(A)が並んでいると、A/Bは1を超えます。これを、その「レジの稼働率」ともいいます。稼働率が100%のとき、1時間レジが休みなく動いている状態ということになります。
これが100%を超えると、レジでいくらお客さんをさばいてもさばいても行列が長くなっていく状態、ということになりますが、普通はこの稼働率は100%未満になっているはずです。
例えば、以下のような状況を想定します。
あるスーパーマーケットの夜8時台では、平均5分間隔でランダムにお客さんが会計にくる。稼働しているレジの台数は1台であり、1時間で30人の会計ができる。この状況のときの稼働率はいくつでしょうか?
B:1時間のうちに、何人のお客さんの会計ができるか→30人
この時の稼働率は、「A/B=12/30=0.4」。稼働率は、40%[夜8時台では40%(24分)レジが稼働している状態]ということになります。稼働率が100%未満ということは、お客さんが並ぶペースよりもレジの処理能力のほうが高いので、一時的に2人以上並んでも「いずれ、行列は収まる」という状態です。
■参考にすべきなのはレジの回転率
レジ待ち時間を決めるのは、「そのレジにお客さんがどのくらい頻繁に来るか(A)」「レジ係の手際の良さ(B)」ということがわかりましたが、多くの人は「どのレジに並ぶか」を考えるとき、まずは「そのレジに並んでいる人数(列の長さ)」を見て、どこに並ぶかを決めていると思います。
しかし、大抵は「待ち行列はどこも大差ない」はずです。レジの処理速度が早ければ、その分待ち人数は減っていくため、たくさんの会計処理ができるところほど人が流れて頻繁にお客さんが来ます。
つまり、「そのレジにお客さんがどのくらい頻繁にくるか(A)」ということも、「レジ係の手際の良さ(B)」に依存しているといえるでしょう。その時点での「レジごとの待ち行列の長さ」を見るよりも、「どこがスムーズに回転しているか」を見極めたほうが、早くレジを通過できます。
では、どこのレジがスムーズに回転しているのかの見極め方を紹介します。
■最善の方法は「2人態勢のレジに並ぶ」
①2人体制のレジに並ぶ
具体的には、2人体制でやっているレジに並ぶのが最善です。これが意外と盲点です。会計には、大きく分けると「スキャニング」と「会計」の二つのプロセスが存在します。スキャニングは商品のバーコードを読み取る作業で、会計はお金をもらってお釣りを渡す作業です。ここではこの二つを併せて「レジ通過」と呼ぶことにします。
店員Aさんがスキャニングをしているときに、店員Bさんが別のお客さんの会計をするという同時処理が可能です。POSシステムなどを製造・販売している株式会社寺岡精工の調査によると、購入点数が10点の場合、スキャニングの平均時間は約27秒、会計は約21秒という結果が出ています。
スキャニングと会計はおおよそ同じくらいの速度なので、2人体制にすることで処理量は2倍近くに上がることになります。実際には、購入点数や決済方法によってバラつきがあるので、2倍の処理量にはならないと思います。しかし、ここでは単純化するため2倍と仮定します。
■2人体制レジの処理速度は通常の5倍
例えば、ポイント10倍デーの夜8時台はレジを2台稼働させる。二つのレジともに平均5分間隔でランダムにお客さんが会計にくるとします。
ひとつ目のレジは1人体制で対応しており、1時間で30人の会計ができる二つ目のレジは2人体制で対応しており、1時間で60人の会計ができるとすると、まず1人体制のレジの待ち時間は前述の計算と同じです。では、2人体制のレジの待ち時間はどうなるでしょうか?
B:1時間のうちに何人のお客さんの会計ができるか
→60人(レジ2人体制で、2時間の処理量が2倍に増えたと仮定)
A/B:稼働率(レジの混み具合)
→12/60=1/5
(A/B)/1-(A/B):待ち人数
→(1/5)/1-(1/5)=1/4[人]
1/B:平均レジ通過時間
→1/60[時間]=1[分]
待ち人数×平均レジ通過時間:待ち時間
→1/4[人]×1[分]=1/4[分]=15[秒]
レジが2人体制になったことで、待ち時間が80秒から15秒と5倍以上も短縮されました。処理量が2倍になったことで待ち時間が半分になるわけではなく、もっと短くなる、ということがわかりました(図表1)。
「処理量が2倍になると待ち時間は半分どころかかなり減る」ということを覚えておくと、2人体制のレジがある場合、待ち人数が1~2人多くてもその列に並んだほうが会計が早く終わる、ということです。
■空いているレジと手際の良いレジを探す
②空いているレジに並ぶ
レジが混んでいるとき、使っていないレジが開放されて「お次にお待ちのお客様、こちらのレジへどうぞ~」と声をかけられます。つまり、レジの数が倍になるのです。この場合も、稼働率が半分になったと考えるので、前述の計算と同じように、待ち時間は80秒から15秒に短縮されます。
ただし、この方法は運よくレジ開放イベントに遭遇できた場合なので、確実性は①に劣ります。大手スーパーでは、「3人並んだら空レジを開放する」という基準を設けているところがあるので、3人くらいが並び始めたら、空レジの隣レジに並ぶとよいかもしれません。
③手際が良いレジ係に並ぶ
レジの仕事というのは、単純作業な部分ばかりではありません。商品が痛まないように精算カゴに入れる順番を考えたり、タッチパネルの操作を覚えたり、イレギュラーな対応を求められることもあります。
ベテランのレジ係は、正確かつスピーディーに作業ができるので、処理能力が優れているといえます。「新人さんが担当するレジに並びたい」という人以外は、急いでいるときは手際の良さそうなレジ係のレジに並びましょう。
■セルフレジは圧倒的に処理速度が遅い
④かごの中見が少ない人がいるレジに並ぶ
1点の商品につきスキャニングに約3秒の時間がかかるので、なるべくかごの中身が少ない人がいるレジに並ぶのがいいでしょう。
といっても、現実的にはそこまで見分けがつかなく、仮にひとつのレジのお客さんのかごだけ商品数が半分だとしても、会計の時間が短縮されるわけではありませんので、そこまでの効果は期待できないでしょう。
レジに並ぶとき、目の前の行列や並んでいる人たちのかごの中の商品数をなんとなく見て、「こっちかな」と選んでいる人がほとんどではないでしょうか。しかし、その先にあるレジ係の手際の良さを無視してはいけません。セルフレジの場合でいえば、有人レジと比べると、圧倒的に「1時間のうちに、何人のお客さんの会計ができるか」が劣ります。
■処理速度は遅くとも「待つのが嫌」解消してくれる
セルフレジを使ったことがある人はわかると思いますが、「スキャンしていない商品がかごにあるようです。取り除いて下さい」と怒られたりして、会計がなかなかスムーズにいかないものです。そういった理由から、私は基本的に有人レジを利用していました。
ある日、母とスーパーマーケットに買い物に行ったときのことです。レジが少し混んでいたのですが(各レジ2人くらいの待ち行列)、それでも私は有人レジに並ぼうと思ったところ、母に「こっち!」と促され、セルフレジへ連れて行かれました。
「普通の(有人)レジのほうが早いと思うよ?」といったら、母に「私は、待つのが嫌なの!」といわれました。量も少なかったので、「まあ、いいか」とそのときは思いました。結果的に、有人レジに並んでいた人のほうが先にレジ通過してしまい「ほらね」と思いましたが、有人レジの場合は「なにもしないでただ待つ」時間は確かに長いのです。
セルフレジは「自分でスキャニングをする」という動作が発生するので、レジ通過時間が長かったとしても、「待つのが嫌」という心理的負担は軽減できているのかもしれません。
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合同会社デルタクリエイト代表社員。データ分析・活用コンサルタント。国立福島大学経済経営学類卒業。一般企業就職後、26歳で独立、データ分析・統計解析事業を始める。現在は企業のマーケティングリサーチや需要予測調査、商品開発支援などを行っている。数学アレルギーから学生時代より文系の道に進むが、統計学と出会いアレルギーを克服。野村総合研究所主催の「マーケティング分析コンテスト」入賞。学生や社会人向けに、データ分析をリアル謎解きとして楽しみながら、仕事に役立つ実践的なトレーニングを行っている。
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(データコンサルタント サトウマイ)
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