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なぜお笑い芸人は「デブ」「ブサイク」と言われてもニコニコしていられるのか

プレジデントオンライン / 2021年3月23日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

営業で成果を出すにはどうすればいいのか。元お笑い芸人で、芸人向けの人材紹介会社を経営する中北朋宏さんは「相手の心をつかむポイントは、コンプレックスを開示することだ」という――。

■元お笑い芸人社長が教える「武器になる」コンプレックス

私はかつて浅井企画に所属し、お笑い芸人として6年間活動しました。その後、人事系コンサルティング会社で内定者の教育から管理職の育成まで幅広く関わり、営業成績ナンバーワンを達成しています。500社以上の人事や経営者とお会いした経験をもとに、2018年には独立して株式会社俺を設立。笑いの力で組織を変える「コメディケーション(コメディ+コミュニケーション)」の普及や、お笑い芸人からの転職支援「芸人ネクスト」というプロジェクトも展開しています。

2019年に、笑いを組織の中で生かす手法をストーリー形式で解説した『「ウケる」は最強のビジネススキルである。』(日本経済新聞出版)を出版しました。コロナ禍で変わる営業の実態を受けて、今年2月には『コンプレックスは営業の最高の武器である。』(日本経済新聞出版)を上梓しています。

ここ数年、「心理的安全性」や「自己開示」という言葉が話題ですが、「コンプレックスの開示」ときいて戸惑う方もいらっしゃるのではないでしょうか。私が強調したいのは、コンプレックスという一見マイナスに思える要素を実は武器として使える可能性がある、ということです。

■昇華されていないコンプレックスは痛い

私は、コンプレックスまみれの人生でした。背が小さい、自分は芸人として全然売れないのに、仲が良かった後輩芸人が爆発的に売れていく、意を決して転職した会社が合わない、何をやってもダメ……。30代目前になって、かつての友人は仕事でも成果を出しはじめ、結婚して子どもがいるなど着実に人生の階段を駆け上がって行っているのに、自分は売れない芸人で、何者でもない。正直、どん底の日々でした。

そんな自分に嫌気を起こし、笑いの道は諦めた私を救ってくれたのは、お笑い芸人時代に得た考え方でした。お笑い芸人という職業は、個性を武器に戦う職業です。例えば、「家が貧乏」「ブサイク」「デブ」といった、一般的にはコンプレックスになりうる特徴やつらい経験も、すべて個性とし昇華し、武器とします。

重要なのは「昇華」です。つまり、自分で自分のコンプレックスを受け入れ、人に話す準備ができているかということです。自分でコンプレックスが受け入れられていないにもかかわらず、それを無理に伝えようとすると、「イタい」行為として相手に認識されてしまいます。

■コンプレックスの開示が笑いに変わる場合と凍りつく場合

例をあげましょう。会社に体脂肪率30パーセント以上、体重は100キログラム近くにもかかわらず、身長は170センチメートルない程度の部長がいたとします。明らかに不健康そうな感じです。部長とチームメンバーとの飲みの場で、服の話になりました。

ビジネスマン
写真=iStock.com/taa22
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taa22

【田中】「課長、今日のスーツもかっこいいですね!」

【鈴木課長】「またまた~。お世辞がうまいんだから!」

【田中】「お世辞じゃないですって! 本当ですよ」

【部長】「鈴木くん(課長)は、スラットしてて何を着ても映えるからね」

【田中】「部長も体格がいいのでスーツ姿が決まっててかっこいいです」

【部長】「いや、僕はデブだからね……」

【一同】「……」

「体格がいい」といったとき「デブだから」と返した部長の顔が、どこか悲しい顔だったらいかがでしょうか。周囲が笑いに変わる場合と凍りつく場合の分かれ道は、本人がコンプレックスを乗り越えられているかどうかなのです。

本心でプラスに物事を変えられていない場合は、喋(しゃべ)り方や目の動きに陰が残っています。相手は、無意識にそれを察して、反応し辛(づら)くなってしまいます。

■コンプレックスの昇華は、ポジティブに生きることにもつながる

コンプレックスを昇華させることは、ポジティブに生きることにもつながります。心理学者・行動経済学者のダニエル・カーネマン氏は「ピーク・エンドの法則」を提唱しています。これは、最も感情が動いたとき(ピーク)と、一連の出来事が終わった後の(エンド)の記憶だけで、その経験についての全体の印象が決定づけられるというものです。

お笑い芸人をあきらめて、営業職になりたてのころは、全く案件を受注できない日々をすごしていました。しかし、提案書を突き返されるなかで、「中北さんと一緒に組織を変えてみたい」という言葉もいただくようになり、顧客から感謝状を贈られるようになったのです。

「終わり良ければ全てよし」という言葉もありますが、今の私の中で、営業職として働いた日々はプラスになり、自分の自信に変わっています。

■なぜコンプレックスは営業に役立つのか

ところで、どうしてコンプレックスが営業に役立つのでしょうか。答えは2つあります。まずは、求められるリーダー像の変化です。かつてはカリスマのような人が周囲を巻き込みながら進めていくことが求められていました。しかし、急激な社会の変化で生き残るためには1人の力では限界が生じるようになってきています。

中北朋宏『コンプレックスは営業の最高の武器である。』(日本経済新聞出版)
中北朋宏『コンプレックスは営業の最高の武器である。』(日本経済新聞出版)

だからこそ、「助けてもらう」ことが重要になってくるのです。そのためには、「コンプレックス」をさらけだし、「助けてやるか」という相手の気持ちを引き出すことが成功のカギになってきます。その過程で、「自分のこんな大切なことを打ち明けてくれた」という思いが先方に芽生え、信頼関係もより強いものになるはずです。

つぎに、強い「共感」の醸成です。オンラインでの営業により、会うまでのハードルがぐっと高くなりました。嫌になればスイッチひとつで離脱でき、会うための支度もしなくていい。自由に使える時間が増えたいま、かつてのようにわざわざ「会って」話すためには、「この人に会いたい」という強い動機が必要です。

人は誰しも、大なり小なりのコンプレックスを抱えています。しかし、その多くは恥ずかしかったり、諦めていたりして、なかなか人に伝えるのは難しいでしょう。だからこそ、コンプレックスを昇華し、「かつては○○だったけど、今は楽しい」とポジティブに過ごしている人に対して憧れと尊敬を抱くのです。

だからこそ、コンプレックスを昇華した人の人間的魅力は高まります。普段、非常にポジティブで仕事もできるように見える営業が、実は暗い過去や暗黒時代を乗り越えていたとしったら、ちょっと心を引かれるかもしれません。場合によっては、遠くに感じていた営業の存在に、自分を重ね合わせることができ、一気に心の距離を縮めることができたり、応援したくなったりするかもしれません。

コンプレックスの開示には、人の心を動かす強烈なメッセージが伴うのです。

■「伝える」コンプレックスを作るための3つのステップ

最後に、コンプレックスを整理し、人に伝えられるようにするための3つのステップをお伝えします。まずは、心が動いた瞬間を洗い出しましょう。できれば社会人になってからの経験のほうが、営業シーンでは使いやすいはずです。「頭にきた」「悲しかった」など、自分の心が動いたシーンを書き出してください。自分史を書きながら思い出すのも有効でしょう。

次に、洗い出した経験から得たプラスの側面を書き出します。例えば、提案書を突き返されて悔しかった経験から「顧客のことを考えて行動する必要性を学んだ」、というような感じです。

最後に、このマイナスとプラスの要素をつなげ、今の自分を作っているものとして再認識しましょう。ポイントは、お客さまに話す前提で、浅い学びから深い学びまで、段階に応じて作ることです。

自己開示は、相手に合わせて段階的に行うことが大切です。例えば、初対面の相手との自己紹介で、「実は昨日離婚しまして……」と伝えれば、たしかに印象には残るかもしれませんが、多くの相手は少し引いてしまうでしょう。だからこそ、多様なレベルのエピソードを持っておけば、「ここぞ」というときにエピソードを差し込み、心を掴むことができるでしょう。

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中北 朋宏(なかきた・ともひろ)
俺 代表取締役
1984年生まれ。NSC東京・吉本総合芸能学院に入学し、浅井企画へ転籍する。年間約100舞台を経験し、K-PRO主催のライブでは、6位に。6年間の芸人生活後、シェイクに転職。5年間人事コンサルティング業務、研修講師に携わり、新規顧客獲得数など、数々のMVPを達成。その後、Huber.を経てコンコードエグゼクティブグループに出資を受けて、2018年俺を設立。

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(俺 代表取締役 中北 朋宏)

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