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「ゴミ屋敷にポツンと残されたペットは…」遺品整理人が見た"後悔する老後"

プレジデントオンライン / 2021年3月27日 11時15分

石見良教さんの現場での様子。 - 撮影=松波賢

人は生きていればゴミを出し続ける。あなたの部屋には今、どれくらいの不要なものがあるだろう。もしも今日、自分が死んだとしたら、周囲にはその物の始末にどれほどの負担をかけるだろうか。できれば大切な人に、死後の“物の行き先”を伝えておきたい――。(連載第13回)

■3LDKに一人で住んでいるが、室内は足の踏み場がない

「私が死んだら、遺品整理をお願いしたい」

東京都内の一戸建てに一人で暮らす60代のNさんが、生前・遺品整理会社「あんしんネット」の事業部長である石見良教さんにそう連絡したのは、5年前の12月のことだった。Nさんはがん闘病中で、抗がん剤治療のため都内に入院していた。石見さんは病院までたずねて、Nさんから詳しく依頼内容を聞いたという。

石見「Nさんの身内には唯一お兄さんがいたのですが、お兄さん夫婦に迷惑をかけたくないと。退院後はヘルパーなどの介護を受けながら、引き続き一人で生活したいという希望がありました。ゴミ部屋化しているから恥ずかしいけれど、自宅の鍵を預けるので、今すぐここを見てきてほしい、とお願いされたんです。そして退院後にスムーズに暮らせるように、すべての部屋の整理を、また自分に万が一のことがあったら遺品整理も、という依頼でした」

【連載】「こんな家に住んでいると、人は死にます」はこちら
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Nさん宅は1階がキッチン、ダイニング、リビングに和室6畳、2階が洋室+和室という造りで、一人住まいとしてはかなり広い3LDKだ。当時の室内写真を石見さんに見せてもらうと、物が“山積み”ではないが、“足の踏み場がない”状態。2階の和室以外は、床面が見えず、大量の洋服や大きな紙袋が放り投げられていた。

■Nさんから連絡がくることは二度となかった

石見「われわれの仕事では、まず『作業段取り書』を作るんです。それでNさんに作業日までに『これは捨てないでほしい』と思われる物をリストアップしてメモ書きでいただけるようお願いしました。例えば衣類であれば、必要な衣類は『貴重品ダンボール』を作ってそこに確保、処分する衣類については90リットルのビニール袋にまとめていくんです。本や雑誌類も同様ですね。処分か保存か迷う場合は、一つひとつ依頼者に確認します。Nさんとは何度か整理に関する打ち合わせをして作業内容をつめ、あとは作業日を決めるということで連絡を待つことになりました」

しかしその後、Nさんから連絡がくることは二度となかった。

石見「どうしたのかなと思っていました。すると半年後、Nさんのお兄さんから電話があったんです。私へ依頼した一カ月後、Nさんは退院することなく、病院で亡くなったことを聞きました。驚きましたよ。大変残念でした。お兄さんはNさんが私に室内の整理を依頼したことは知らなかったのですが、Nさんの持ち物に『作業段取り書』を見つけ、『妹の家を整理してもらうのは、あなたしかいない』と言われたのです」

もちろん石見さんは、ほかの作業員とともにNさん宅の遺品整理を行った。「やっぱり生きている時から知っている間柄だから、こういう風に整理をしてあげたいという気持ちがあった」と、話す。

■「お客さんの懐具合で料金を倍に盛るなんて」

石見「通常は遺品を見ながら持ち主の人生をうかがい知りますが、生前にお願いされた場合は、ご本人に直接聞けます。ですからその人の人生がより深くわかり、大事な物の区別がつきやすいですね。生前にお願いされた遺品整理を行っていると、まるで自分の家族の遺品を整理している気持ちになります」

あんしんネットが手がけた作業現場。床の上にゴミが積み上がっている。
あんしんネットが手がけた作業現場。床の上にゴミが積み上がっている。(写真提供=あんしんネット)

身内でなくても、自分を気にかけ、心配してくれた作業員の手によって死後の整理が行われるのであれば、幸せだろう。

石見さんは、近年、「遺品整理業」に悪徳業者がはびこる現状に胸を痛めている。多くの依頼主は料金相場を知らないため、一部の業者が依頼主の懐具合に応じた“料金の上増し”をしているのだ。石見さんが「あんしんネット」の前に勤めていた会社も、いわゆる悪徳業者であった。

石見「前の会社では、現場でお客さんと話しながら見積もりをとる時に、全社員が必ず社長に連絡をしなければならないんです。例えば物量が2トン、作業員4名が必要な量で、30万円と見積もったとします。そうすると、『2、4、30』と見積もり中に電話で社長に報告する。社長は『金をもっていそうか?』と尋ね、そうであれば電話口で倍の金額を提案してくるんです。おかしいでしょう。お客さんの懐具合で料金を倍に盛るなんて、やってはいけない」

■絶対に悪徳業者にならないという信念で立ち上げ

石見さんは、その会社の運営に疑問を感じ、1年半程度で退職した。

石見「それで今の会社で整理業を立ち上げることとなり、『あんしんネット』ができたんです。絶対に悪徳業者にならないという信念をもっていましたが、民間ですから利益をあげなければならない。ですから人件費、車両費、処分費など“必ず発生する費用の原価”を踏まえ、そこから何%の上乗せまでが適正なのかを考えました。

明確な料金体系をつくったので正々堂々と行政に売り込みにいって、やがて包括支援センターからも依頼をいただくようになりました。最近は悪徳業者からの不当請求に悩んだ依頼者から、連絡をいただくことも増えています」

■大家がリフォーム代として900万円を遺族に請求

ゴミ部屋の片付けでは大家とのトラブルも少なくないという。

ゴミが天井近くまで積み上がっている作業現場。ここにも人が住んでいたという。
撮影=笹井恵里子
ゴミが天井近くまで積み上がっている作業現場。1DKで60代女性が住んでいた。 - 撮影=笹井恵里子

ゴミ部屋で孤独死したある1DKの賃貸物件では、その大家が遺族に対し、リフォーム代として900万円を請求した。その物件は、生前はゴミ部屋だったが、「あんしんネット」の作業によって室内のゴミは全て処理していた。室内には傷みもあったが、孤独死した人は20年近く住んでいて、「経年劣化」と考えることもできる。石見さんは遺族の負担を軽減するため、知り合いの弁護士に相談をもちこんだ。

石見「大家さんが孤独死した人の遺族に、原状復帰としてのリフォーム代を請求するのは当然なのですが、長く住んでいた人の場合は、どこまでを請求するのか難しいところです。その案件は、われわれが作業後に風呂場や室内の状況を撮影していて、そこまで傷んでいないことは明らかでした。ですから弁護士に写真を提供して、大家さんと話し合い、請求額を90万円にまで減額してもらいました」

■数百万円のリフォーム代が大家負担となったケースも

一方で、大家が気の毒なケースもある。

あんしんネットが手かげた作業現場。1DKから大量の傘が出てきた
あんしんネットが手かげた作業現場。1DKから大量の傘が出てきた(撮影=笹井恵里子)

私が今月関わった現場では、家賃を数年滞納している上に室内がゴミでいっぱいという状況だった。その人は30年近くその部屋を借りていたのだが、ここ数年失業状態にあり、家賃が払えなくなったという。大家は退去命令を出し、居住者は出ていったものの、あんしんネットがゴミを撤収する作業代、室内のリフォーム代はすべて大家の負担になる。その額、数百万円におよぶ。

涙目の大家から事の顛末を聞いて、大家を“守ってくれる”存在はいないのだと実感した。

もっと気の毒なのは動物(=ペット)だ。人には福祉制度があるが、ペットには何もない。最近は、孤独死現場での「ペットの置き去り」が問題になっているという。

石見「死後2週間たった現場で、猫がポツンと鳴いていたことがありました。その猫は同じマンションの方が引き取ってくれましたが、ペットが一緒に死んでいるケースも少なくありません」

家主が孤独死したあと、室内に残されていた猫
写真提供=あんしんネット
家主が孤独死したあと、室内に残されていた猫。 - 写真提供=あんしんネット

■物の整理の仕方は、その人の性格や生き方を表す

石見「ベランダの室外機のそばに鳩が巣をつくっていて、別の業者に回収を依頼したこともあります。法律の関係で、巣に卵やヒナがいれば、われわれには手を出せないのです。ですから東京都に連絡して、専門の業者にお願いするのですが、ヒナ1羽を回収するのに、1万円もかかりました……」

バルコニーから保護した鳥のひな。
写真提供=あんしんネット
マンションのベランダ室外機裏に鳩が巣をつくっていた。2羽のひなは保護された。 - 写真提供=あんしんネット

飼い主が亡くなった後も、ペットは生き続けることを忘れてはならない。飼い主に万が一の事態があった際のペット引き取りを請け負う業者がある。自分であらかじめ「引き取ってくれる人」を決め、その人に相談の上、「遺言書」を作成してもいい。遺言書には引き取ってくれる方の名前と、託すお金を記しておく。

何もかも残さないようにするのは難しいが、なるべく“身軽に”なろう。私たちは生きているだけで毎日たくさんのゴミを出す。しかし高齢になれば、ゴミを捨てる体力や片付ける気力が失われていく。誰かの手を借りながらでも、不用品はこまめに処分しておきたい。そして自分の死後のペットや物の行き先を決めておく。

物の収集や、整理の仕方は、その人の性格や生き方を表すといわれる。本来、“生きていた証し”は本人か、本人を愛する人の手で行われるのが一番いい。(続く。第14回は4月26日に公開予定)

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)など。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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