転職でどんどん給与が増える「希少なABC人材」になる簡単な方法
プレジデントオンライン / 2021年4月12日 11時15分
※本稿は、村上臣『転職2.0 日本人のキャリアの新・ルール』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■社内と社外、どちらでも通用する働き方が必要
仕事は需要と供給が釣り合ったところに成立するものです。職業人としての自分の価値も、「市場」という物差しに当てることによって、初めて計測可能となります。
もちろん、社内でやりたい仕事を手に入れたり、昇進を狙ったりすることは重要です。
ですが、自社の中ばかりを見て社外との接点をおろそかにしてしまうと、いざというときに身動きが取れなくなります。
社内と社外の両方を常に見て、どちらのキャリアを選んでも「我慢しない働き方」が実現できるようにしておくことが肝心です。
前回の記事「「いまの会社に不満がある」という転職理由をポジティブに言い換える方法」で、“タグ”という考え方を紹介しました。
“タグ”とは、「法人営業」、「自動車業界」、「(顧客が)中小企業相手」などの経験や「コミュニケーション能力」、「誠実性」などの能力など、あなたという商品を想起させるためのフックとなるキーワードです。これらはすべてタグになります。
■自分の市場価値を把握する2つの方法
自分の市場価値を知り、高めるということは、自分のタグを知り、タグの掛け合わせを増やしていくことです。
まずは、タグを意識しながら自分の職務経歴書を書いてみましょう。自ずと自分のタグが見えてくるはずです。
そして、自分のタグがわかったらSNSなどで発信することも大切です。発信することで、自分の持っているタグがどれだけ需要があるかが分かり、市場の中での自分の立ち位置を把握できるからです。
その後、今の自分がやっている仕事と同じような仕事の求人をチェックしてみてください。そこにはおおよその収入の目安も提示されています。
求人市場と比較して自分の収入が低ければ、自分の市場価値はもっと高いことが推測できますし、逆に求人よりも現在の収入が高ければ、実は好待遇で仕事をしているのがわかります。
後者の場合は、安易に転職を試みると、より厳しい条件で働くことになりかねません。
こういった人は転職以外の方法で自分の望むキャリアを模索しなければならないでしょう。
■「いそうでいない人材だけど、多くの企業がほしいと思う人」が狙い目
会社が積極的に募集している職種は、大きく2パターンに分かれます。
一つは、多少人材のバラつきに目をつぶってでも、とにかく人数の確保を重視する職種。フロントの営業職などが代表的です。
そしてもう一つが希少な職種です。市場価値を高める上で目指すべきは、後者の「いそうでいない人材だけど、多くの企業がほしいと思う人」になるということです。
具体的には、新しい職種に就く人、新規事業に携わる人をイメージすればわかりやすいと思います。
日本の企業では数年前から「オープンイノベーション」という言葉が使われるようになり、オープンイノベーション推進室などの部署を立ち上げるケースが増えました。オープンイノベーションとは、社外から技術やアイデアを取り入れ、革新的なサービスを生み出す取り組みを意味します。
オープンイノベーション推進室の立ち上げに参画できるような人は、一部の人材に限られます。ここで、もし新規事業につながるようなタグを持ち、それを発信している人がいれば、声がかかりやすくなるのは間違いありません。
■多くの企業が求める「ABC人材」
あるいは、少し前から現在に至るまで、多くの企業が求めている人材として「ABC人材」という言葉もキーワードとなっています。
「ABC人材」とは、AI、ビッグデータ、クラウドに精通している人材を指します。
クラウドに精通する人材一つを取っても、細かく見れば「運用に長けている人」「開発に長けている人」「ビジネスの企画提案ができる人」など、職種は分解されます。つまり、ホットな領域の中には、さまざまなポジションが存在するわけです。
キャリアアップを成功させるには、自分の手持ちのタグを踏まえて、最もホットな領域の中で自分に最適なポジションを見つけることが不可欠です。そこで、自分の強みを活かしながら、少しずつ方向を変え、今までの延長線上のキャリアとは違うキャリアパスに入っていくのです。
■「○○一筋20年」には賞味期限切れのリスクがある
「いそうでいない人材だけど、多くの企業がほしいと思う人」は、基本的にはタグの掛け合わせから生まれます。
同じ企業で同じような仕事を続けていく積み上げ型のキャリアは、一つのタグをひたすら強化していくようなイメージです。
確かに「○○一筋20年」という積み重ねには重みがあります。
ただ、一つのタグを強化し続けた結果、そのタグが賞味期限を迎えてしまったらどうなるでしょうか。
例えば、昔の鉄道の駅には、切符に改札ばさみを入れるのが手早くて正確な熟練の駅員さんがいました。流れるように乗客の切符をさばき、なおかつ定期券の期限切れまで指摘するような熟練の技を持つ人がいたのです。
しかし、今はご存じのように駅には自動改札が設置され、そもそも乗客が切符を購入する機会すら激減しています。もはや「切符を切る」というスキルのタグは消滅しています。それを踏まえると、タグの一点突破でキャリアを切り開くのはリスクが大きすぎるのがわかると思います。
そこで、タグをかけ算するという手法が役立ちます。タグを掛け合わせた結果、今のキャリアの延長線上とは少し違うポジションに行くようなイメージです。
タグを掛け合わせるときは、一つのタグの強みを活かせるような別のタグを選ぶのがポイントです。
■「31歳・法人営業・2社目」Aさんの場合
タグのかけ算の仕方を具体例で説明しましょう。わかりやすいように以下のロールモデルで考えてみます。
31歳、男性Aさん。都内の平均的な偏差値の私立大学出身。1年の就職浪人を経て23歳で入社したのはエンジニアを派遣する中小の人材派遣会社。そこで法人営業を経験。営業相手は主に中小企業。4年ほど勤務した後、27歳で現在の中小自動車部品メーカーへと転職。現在4年目で法人営業部所属。営業先は同じく中小の自動車部品メーカー。営業成績は部内で中間くらい。
Aさんの例で言えば「法人営業」「人材業界」「自動車業界」「IT」などのタグが考えられます。また、もし「法人営業」でも「インサイドセールス」をやっていればそれもタグになりますし、「1年でチームの売り上げを3倍に伸ばした」などの実績があればそれもタグです。
一つ一つのタグは他の人も持っているかもしれません。それではもちろん希少性にはなりません。
しかし、掛けてみたらどうでしょう。
「法人営業」×「人材業界」×「自動車業界」×「IT」×「インサイドセールス」×「1年でチームの売り上げを3倍に伸ばした」
このような人材はかなり減るはずです。つまり、あなたの希少性が高まるということです。
■「エンジニア」×「企業買収」で自分の市場価値が高まった
私自身の例でいうと、もともとエンジニアとしてプログラムを書くという仕事をしており、これが「スキル」のタグとして確立していました。
当時、私が在籍していたヤフーは、企業買収を多く手がけていました。新規事業につながる企業買収を計画する際、どの技術を手に入れるべきかが問題となります。
そこで、技術の判断ができるエンジニアが求められるようになり、私が買収のプロジェクトに関わるようになりました。そうやって仕事をしているうちに、「この会社は技術がイケてる、イケてない」などと判断し、買収候補となる企業を提案できるのは、私にしか出せない価値であると気づいたのです。
それまではぼんやりと「企業買収みたいなことは、偉くて賢そうな上層部がするものであり、自分が立ち入るような話ではない」と考えていた私にとって、自分が「企業買収を手がけた」という経験のタグを持てることに初めて気づいた瞬間でした。
結果として、「エンジニア」と「企業買収を手がけた」というタグを掛け合わせることによって、自分の市場価値が高まったというわけです。
■タグのかけ算で希少性を構築する
実際に私は、「企業買収を手がけた」という経験のタグを掛け合わせたことで、これまでのエンジニアとしてのキャリアの延長線上から離れて、リンクトインという場で新たなキャリアを獲得することができました。
人が持っているキャリアのタグは、一つだけで希少なものもあれば、かけ算で希少性が生まれるものもあります。
私のお勧めは、タグのかけ算で希少性を構築する方法です。なぜなら、一つひとつのタグには必ず賞味期限があるからです。
仮に、一つの強力なタグを保持しているとしても、それが5年後にも強力であり続けるという保証はどこにもありません。基本的に希少性のあるタグは確実に陳腐化します。特にスキルのタグは5年も持てばいいほうです。
それを考えれば、一つのタグに固執することのリスクが理解できるのではないでしょうか。
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LinkedIn日本代表
青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に現・ヤフーCEO 川邊健太郎らとともに有限会社電脳隊を設立。2000年にその後統合したピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴いヤフーに入社。2011年に一度ヤフーを退職。その後、孫正義が後継者育成のために始めた「ソフトバンクアカデミア」で、ヤフーの経営体制の問題点を指摘したことを機に、当時社長の宮坂学など新しい経営陣に口説かれ、2012年にヤフーへ出戻る。弱冠36歳でヤフーの執行役員兼CMOに就任。2017年11月、米国・人材系ビジネスの最前線企業・LinkedIn(リンクトイン)の日本代表に就任。複数のスタートアップ企業で戦略・技術顧問も務める。
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(LinkedIn日本代表 村上 臣)
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