モヤモヤと「一生やるつもりはない仕事」を続けている会社員に伝えたいこと
プレジデントオンライン / 2021年4月6日 9時15分
※本稿は秋元里奈『365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■南場智子の言葉に惹かれてDeNAに入社した
わたしが新卒でDeNAへの入社を決めたのには、理由がありました。それは創業者である南場智子さんにとても惹かれたからです。会社説明会に来ていた南場さんは、「ただ見ているだけではダメ。自分で経験しないと、本当の意味でスキルを身につけることはできない」と仰っていました。
その言葉を耳にしたとき、まったくその通りだと衝撃を受けたのを覚えています。若いうちに厳しい環境に身を置くことで、さまざまなスキルが身につき、5年後に大きな差となって表れる――。南場さんとの出会いに感化されたわたしは、DeNAで体験するであろう日々に期待が膨らむばかりでした。
DeNAは社員に対して「成功確率50%の仕事を委ねる」と言われています。それは入社前から聞いていたことでしたが、実際に働きだしてみてもその通りだと感じました。
■自分を認めてもらいたかった新卒時代
けれど、最初から全てに満足できていたかというと、当然そうではありません。入社してすぐに配属されたのは「Mobage(モバゲー)」のアバター事業でかなり歴史のある既存事業の部署でした。新規事業の部署で働くことを志望していたので、正直、とてもショックでした。
でも、どんな部署にいたとしても結果が求められることに違いはないですし、むしろそこで結果を出さなければ希望が通るわけもない。まずは自分を認めてもらうためにがむしゃらに働きました。既存事業とはいえ日々新しいチャレンジがあり、楽しく必死な日々。
そして同時に積極的に他部署の方たちとの交流を図り、新規事業のアイデアを提案し続けました。すると、別部署への異動が決まったのです。
そこからはマッチングビジネスの立ち上げや、マネタイズで苦しんでいる社内の新規事業のセクションなどを任されました。特に印象に残っているのは、このマネタイズ案件です。そもそもどうすれば苦しんでいる事業がマネタイズできるのかを考え、企画し、サービスのディレクションやテレアポ営業、広告の提案など、幅広い業務に携わりました。
サービスを存続させるためにはプライドなんて持っていられない。なにもかもを捨てて、必死に仕事に打ち込む。忙しい日々でしたが、自分がどんどん成長できていることを実感していました。
■「本当にやりたいこと」を仕事にできているのか
DeNAでの日々はとても刺激的でした。けれど、3年ほど経つと、周囲でも転職して新しい道に進み始める人たちが現れます。彼らの姿を見ているうちに、わたしも自分自身を振り返るようになっていきました。
自分のアイデアを形にしたい。そんな仕事に就いて、やりがいを感じたい。そう思ってDeNAに入社したものの、わたしは「本当にやりたいこと」を仕事にできているのだろうか。DeNAでは4つの事業を経験しました。どれも面白く、夢中になって働けたのは事実です。
でも、その事業領域に一生を捧げることができるかというと、首を縦には振れません。心の底から熱狂できるものがあるはずだ。その予感をはっきりさせたいと思ったわたしは、異業種交流会などに積極的に参加し、社外の人とコミュニケーションを深めていくようになりました。そして、それがわたしの人生を大きく変えていくことになりました。
ある異業種交流会で出会った人と話していたときのことです。実家が農家だということを打ち明けると、「せっかくなら、その農地を活かしてお祭りを企画しよう」と盛り上がりました。農業とは離れたところまで来たけれど、こうして農家と関わることもできるのか。面白いと思ったわたしは、久しぶりに実家の農地を訪れることにしました。
■トマトもトウモロコシもない荒れた実家の畑
ところが、何年かぶりに足を運んだわたしの目に飛び込んだのは、とても荒れ果てた畑だったのです。陽の光を浴びて輝くトマトも、瑞々しく実るトウモロコシもなく、広がっているのは荒廃した土地だけ。これでは大勢を招くお祭りどころではなく、知人ですら呼ぶことができません。実家は農業を辞めてしまっていたのです。
わたしのなかで、実家の畑は幼少期に見た風景のままで止まっていました。きちんと整地されていて、一年中作物が植えられている。近所の子どもたちが農業体験に来ては、採れたての野菜を味わい、美味しそうに笑ってくれる。それが自慢で、そんな畑を持っていることがなによりも誇りだったのに——。
たくさんの想い出が詰まっていた畑は、無残な姿になっていたのです。とてもショックでした。同時に胸のうちには、「どうして農業を辞めちゃったんだろう」という純粋な疑問が湧きました。「農業は儲からない」という母の言葉がよみがえってきます。でも、本当にそうなのだろうか。
■全国の農家を訪ね歩いて話を聞いた
それを機に、わたしは全国のさまざまな農家さんを訪ね歩くことにしました。話を聞いてみると、みなさん口を揃えて「農業はなかなか儲からないから続けるのが難しい。子どもたちには継がせたくないんだよ」と言います。なかには「自分の代で終わりにしようと思っている。でも、代々引き継がれてきた種を途絶えさせるのは嫌なんだ」と悩みを口にする伝統野菜の農家さんもいました。
その言葉を聞いたとき、わたしは家族のことを思いました。母も祖母も、亡くなった祖父や父も、同じようなことを考えて葛藤していたのかもしれない。その苦しみを、わたしは1ミリでも想像したことがあっただろうか。なにも知らず東京に出てきて「やりたいことをやるんだ」と自分のことしか考えていなかった。
でも、目の前で畑をなくすかどうか悩んでいる農家さんたちを、決して他人事にしてはいけないとも思いました。わたしたちが日々口にしている作物を育ててくれている、一次産業に従事している人たちを、もっとサポートしなければいけない。「農業は儲からない」と諦める人たちがいるのであれば、わたしが少しでも彼らの仕事がうまくいくように貢献したい。そのためにも、この世界にフルコミットして、一生をかけてよくしていきたいという想いが胸を熱くしました。
■生まれて初めて「やりたい!」と熱望した仕事
農業をよくしていきたい。それは生まれて初めて心の底から「やりたい!」と熱望したことでした。DeNAで任されていた仕事はとても楽しく、夢中にもなっていましたが、あくまでもそれは「会社に指示されたからやっていたこと」であり、自ら進んで「やりたい」と言った仕事ではなかったのです。3年の間、ずっとそれがコンプレックスでもありました。わたしの「やりたいこと」ってなんだろう。それがわからないまま、手探りで忙しい毎日を乗り切っていたのです。
でも、農業をよくしていきたい、という想いは本心。だったら、この情熱を大切にしなければいけないのではないか。そう痛感したわたしは、すぐにDeNAを退職することにしました。
■がむしゃらな会社員時代は必要な準備期間
いまとなってみれば、DeNAでがむしゃらに働いていた3年半は、準備期間だったとも思います。そこで頑張っていたからこそ、「やりたいこと」が見つかったとき、応援してくれる人もいたのです。
与えられたことのなかに「やりがい」を見出すのも、ひとつの才能です。モチベーションをコントロールして「夢中になれる力」ともいえます。本当に嫌で嫌で仕方ないのであれば離れた方がいいと思いますが、嫌ではなく、初めは「やりたいこと」ではなかったものの、次第に面白さを見いだせるようになったのであれば、それは素晴らしいことです。
わたし自身のように、「やりたいこと」というのは、突然見つかったりもします。それが見つかったときに重要なのは、周りの人がサポートしてくれるかどうか。そのためにも、日々の仕事のなかでコツコツ実績を重ね、周囲の信頼を集めておくことが大事だと考えています。
繰り返しますが、「やりたいことが見つからない」のは悪いことではありません。与えられた場所で懸命に働く。それ自体、立派なスキルなので、「やりたいこと」をしている人たちと自分とを比べて落ち込む必要はありません。
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ビビッドガーデン代表取締役社長
1991年、神奈川県相模原市出身。住宅街にポツンとある野菜農家で生まれ育つ。相模原高校、慶應義塾大学理工学部を経て、2013年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社するが、荒れ果てた実家の農地を目にして起業を決意。16年には農業支援ベンチャー・ビビッドガーデンを創業し、翌年にはオンライン直売所「食べチョク」を開始。TBSの報道番組『Nスタ』にレギュラー出演中。著書に『365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘』。
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(ビビッドガーデン代表取締役社長 秋元 里奈)
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