プロ家庭教師「小学1年生から受験勉強をさせるのはいくら何でも早すぎる」
プレジデントオンライン / 2021年4月9日 9時15分
■早期教育で間違った勉強法を学ぶリスク
近年、首都圏では中学受験者数が増加傾向にある。それに伴い、まわりよりも少しでも先にアドバンテージをとっておきたいと早期教育に走る親がいる。だが、私は受験のための早期教育には反対の姿勢を貫いている。なぜなら間違えた勉強のやり方が身についてしまう危険性があるからだ。
首都圏の教育熱心な家庭が集まるエリアでは、本来なら4年生からスタートする中学受験塾の小学1年生クラスがすでに満席だという。また、それ以前の幼児向けの算数教室も人気だ。しかし、幼児や低学年から受験に向けた勉強をさせてみたところで、あまり効果は望めない。
そういう塾では、子供の成長を無視して、小1の段階で2学年上のレベルの問題を解かせたりする。何度もくり返し学習をしていれば、スラスラ解けるようになるだろう。だが、形だけ丸暗記させても、理屈で理解できていなければ、ちょっと問題形式が変わっただけで、たちまちお手上げになってしまう。また、中学受験で求められる抽象的な思考は、10歳未満の子供に理解させるのは難しい。子供の成長に応じた学びがあることを忘れてはいけない。
■フラッシュカードや速読には弊害もある
幼児向けの「右脳教育」にも、私は疑問を持つ。フラッシュカードや速読といったスピード重視のものは、特に注意が必要だ。
フラッシュカードで直感力は鍛えられるが、論理的に考える力は身につかない。長年、中学受験指導をしてきた中で感じるのは、幼児期にフラッシュカードをやっていた子は、中学受験でつまずく傾向があるということ。時間制限のある入試において、速く解けることは有利に感じるかもしれないが、速さを求めるばかりに「文章をきちんと読まない」「計算は速いけどミスも多い」などの弊害が生じてしまうのだ。
また、速読の成果を得られるのは大人に限る。部下が書いた報告書やレポートなど形式が決まったものなどを、ポイントをつかんで読むのには効果的だが、小説や文学などの込み入った文章を読むには、視線が早く動かせるだけでは、言語を選び取ることができないからだ。なんとなく分かった気になっているけれど、本質を理解することまではできない。このように、早期教育には弊害リスクがあることを知っておいてほしい。
■折り紙やパズルを楽しむのはおすすめ
一方で、折り紙やパズルなど、手と頭を動かして考えるものはいいと感じている。近年はこうした試行錯誤力を伸ばす教室も増えている。
だが、そこに通わせさえすれば頭が良くなると期待することはやめたほうがいいだろう。子供が楽しく取り組んでいれば効果は高いが、親が無理にやらせると子供の時間を奪うことになる。楽しんでいるかの判断は、子供の表情を見てほしい。家に帰ってきて、「今日はこんなことをやったんだよ!」とうれしそうに話していたら、楽しんでいる証拠だ。
■英語を習う前に、日本語を身につけたい
中学受験は国語、算数、理科、社会の4科入試が主流だが、近ごろは英語入試を実施する学校も出てきている。受験に関係なく、首都圏では幼児向けの英会話教室も人気だ。仕事で英語の重要性を感じている親が、これからの時代は英語が必須と習わせているケースが多い。
確かに発音は幼児期のほうが吸収しやすいだろう。だが、母語である日本語がしっかり話せないうちから英語を習わせるのは反対だ。いくら世の中がグローバル化しても、日本に暮らす限り母語をおろそかにしてはいけない。近年、求められる「思考力」「記述力」「判断力」は、正しい日本語が身についてこそ、培われるものだ。だから、幼い時から英語に触れさせたいのであれば、より一層日本語に触れる機会をつくらなければならない。その上で、英語に触れさせるのであればアリだと思う。
■最優先は自然との触れ合い、習い事もいい
幼児期に一番大事なのは、身体を使った学びだ。海や山などの自然に触れさせ、自由に遊ばせるというのが最も重要だと感じている。でも、都心にはそういう環境がない。だから幼少期からいろいろな習い事をさせる。
私は幼少期からの早期教育には反対だが、習い事はいいと思っている。特にピアノやバイオリンといった楽器は、両手を使うので右脳・左脳にもいい。また、楽器は毎日の練習が必要になるので、努力をする経験ができる。発表会といった日頃の成果を出す場があり、ここぞというときの集中力も身につく。本番に強くなることは、入試にも有利に働く。
■「書道」では正しいえんぴつの持ち方を身につけられる
書道や書写もおすすめだ。書道や書写を経験すると、字を書くことに慣れ、トメやハネなどの形を意識するようになる。また、正しい筆、えんぴつの持ち方が身につく。実は学習をする上で、えんぴつの持ち方は非常に重要だ。正しいえんぴつの持ち方ができていないと、自分の手で字が隠れ、書き写しのミスが出たり、姿勢の崩れによって疲れやすくなったりする。
近年、中学入試においても記述問題が増えている。記述で大切なのは、人に見せる字で書くことだ。ところが、今の子供たちは書くことを面倒くさがる子が多い。そういう子はいくら知識が豊富でも、採点する側が分かるように伝えることができない。何を書いているのかわからない。当然×がつく。だからこそ、正しくえんぴつを持ち、きれいな字で書くことが大切なのだ。こうしたものは、身体で覚えていくしかない。幼児期に何かさせたいというのなら、身体を使った芸事をおすすめする。
■「親子で絵本」はたくさんのことを教えてくれる
幼児期に鍛えておきたいのは、「読み」と「書き」だ。「読み」は親の読み聞かせから始め、子供が字を読めるようになったら、「お母さんに読んでくれる?」と、人に聞かせるように読む練習をさせてみる。絵本は親子で一緒に並んで読むといい。そのほうが会話が弾みやすいからだ。このやりとりで、子供はたくさんの言葉を吸収する。
また、絵本の良いところは、書いてあることと絵の情景がつながっていること。幼い子供は字だけで、その景色を想像するのは難しい。まだ人生経験が浅く、いろいろなシチュエーションを想像することができないからだ。でも、たくさんの絵本に触れるうちに、次第に絵がなくても、想像ができるようになる。入試では書いてある文章から情景を想像する力が求められる。その予行練習として、絵本は最適だ。
■書くことは、考える手助けをしてくれる
「書き」は先にも伝えたが、人に見せられる字を意識して書くこと。また、書くことは考える手助けをしてくれることを知っておいてほしい。人は短期記憶なら覚えておくことができるが、その内容が複雑になるとわからなくなってしまう。物事を整理したり、考えたりするときには、とりあえず書き出すと道筋が見えやすくなる。考えることは書くこと。この習慣がついていると、受験にも強くなる。
低学年になったら、「読み」「書き」に加えて「計算」も強化していきたい。低学年のうちはこの3つをしっかりやっていればいい。人より早く勉強をさせる必要はない。子供の成長に合わせ、無理なく確かな力をつけていくことが大切だ。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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