「5月23日に総選挙か」コロナ禍でも菅政権が解散に向けて動き出すワケ
プレジデントオンライン / 2021年4月5日 15時15分
■「5.23」のささやきは、与野党双方から聞こえてくる
永田町で解散風が吹いている。今は、新型コロナウイルス感染者が、またも急拡大を始めている。この時期に政治空白をつくるのは常識では考えられないのだが、それでも「風」が吹いている背景には、皮肉にも野党勢力の「体たらく」がある。
「『5.23』だと思って準備を進めるしかないか」
最近、衆院議員会館の秘書たちの間からは、こんなささやきが漏れる。ささやきは、与野党双方から聞こえてくる。
菅義偉首相が4月中旬に訪米してバイデン大統領と会談、強固な日米同盟を高らかに宣言し、4月中に「デジタル庁設置法」を成立させたところで衆院解散。5月11日に公示、23日投開票……というシナリオだ。
■3月中旬ごろまでは、こんな見通しはほとんどなかったが…
7月4日に行われる都議選を重視する公明党は、都議選と衆院選の同日選となるのは絶対反対だが、5月の衆院選ならば容認するという話も伝わっている。
3月中旬ごろまでは、こんな見通しを語る関係者は極めて少なかった。それが、数週間の間で劇的に状況が変わった。
発信源は、自民党の二階俊博幹事長だ。二階氏は3月22日、自民党本部で菅氏、選対委員長の山口泰明氏、二階氏側近で幹事長代理の林幹雄氏の4人で会談。その顔ぶれから見て「解散のうち合わせではないか」とざわつかせた。
二階氏は29日の記者会見で「私は衆院解散権を持っていないが、(野党が)内閣不信任案決議案を出してきた場合、直ちに解散で立ち向かうべきだと首相に進言したい」と語った。
前日に立憲民主党の安住淳国対委員長が「内閣不信任案の準備をしたい」と述べたのを受けての発言。「売られたけんかを買った」形だが、ここから「風」が急速に強くなった。
■安倍前首相は「早期解散論」の急先鋒
ちょうど同じ29日、菅氏が安倍晋三前首相と会ったことも、解散風をあおった。これには解説が必要かもしれない。昨年9月、菅氏に首相をバトンタッチして以来、安倍氏は菅氏に早期解散を進言し続けている。安倍氏は首相を辞任して以来、表立った動きを控えているが、衆院選の後は、最大派閥・細田派に戻って会長に就く考えだ。このため、派内の若手議員の選挙応援には全精力を使うつもりだ。
実は森喜朗元首相が2月、「女性蔑視発言」で東京五輪組織委会長を辞任した際、森氏は極秘に安倍氏に対し後継会長を打診している。その際、安倍氏は秘書を通じて「次の衆院選の後に派閥に戻るので仲間が選挙で勝ち上がれるように応援に専念したい」と伝え、辞退した。
五輪の成功よりも派閥の事情を優先させたことには残念な印象も残るが、安倍氏が次の衆院選に向けて燃やす執念がうかがえるエピソードだ。
これらの出来事が、「点」から「線」につながり、永田町を駆け巡っている。
■内閣支持率下げ止まりで「勝てる」と踏んだ二階氏
二階氏は4月1日にも菅氏や森山裕国対委員長と首相官邸で「密談」。密談といっても、誰もが分かる場所で「何を話しているか気になる」場面を演出するのが、二階流だ。
それではなぜ二階氏が解散風を吹かせる理由は何か。当然ながら「勝てる」という判断がある。
政権発足時は7割近い支持を誇った菅内閣だが昨年11月ごろから支持は急落。30%台の「危険水域」に落ち込んだ。この段階では「早期解散は自殺行為。21年10月の任期満了近くの選挙になる」との見方が支配的だった。
しかし、ことし3月の最新データでは4割超に持ち直してきた。一方、野党第1党の立憲民主党は10%未満にとどまる。そして、野党各党間の衆院選挙区調整は遅々として進んでいない。「今なら勝てる」に変わったところで、二階氏が動きだしたのだ。
■野党がスキャンダル追及をしている限りは脅威ではない
ただし、二階氏が「5月選挙」に1本に絞って政局シナリオを練っているわけではない。話はそう単純ではないのだ。二階氏とて、やはり新型コロナの感染者の推移は慎重に見極めようとしている。4月1日、東京都の感染者は475人にのぼった。この段階での衆院選は難しいことは分かっているし、有権者の支持は得られないことも、理解している。
その一方で、この時期に解散風をあおることのメリットも熟知している。ずばり野党への牽制だ。菅政権誕生後、「学術会議」の任命拒否問題、吉川貴盛元農相らへの鶏卵大手から現金授受問題、「桜を見る会」で安倍氏元秘書の略式起訴、森氏の女性蔑視発言、そして総務省などの官僚への接待問題。次々とスキャンダルが浮上してきた。
野党側からすれば、突っ込みどころは満載だった。ところが、どれだけ突っ込んでも野党側の支持は上がらない。言い換えれば野党がスキャンダル追及に血道を上げている間は、自民党には脅威ではない。
適度にスキャンダル追及をさせておき、あまり追及の手を強めると解散するぞ、と脅して野党を「びびらせる」(自民党ベテラン秘書)という高等戦術を二階氏らは描いているのだろう。その結果、早期解散となってもいいし、10月の任期満了に近づいてもいい。
■官邸の「菅派会合」は解散風をあおるためか
自民党幹部たちも二階氏と足並みをそろえている。下村博文党政調会長は「追い込まれ解散という構図はつくりたくない」と早期解散論をあおる。
菅氏側近の坂井学官房副長官は4月1日、首相官邸で、菅氏の「親衛隊」の色彩の強い無派閥若手議員の会「ガネーシャの会」を首相官邸で開いた。この会合は、「官邸の政治利用」として批判を受けたが、これは承知の上での開催だ。
「菅側近たちが、官邸に招かれた」という非日常の光景を演出することで、解散風を強める効果を狙ったと考えればいい。
この戦術で、野党側は少なからず「びびって」いる。二階氏の戦略は功を奏し始めている。内閣不信任案の提出を口にして今回の解散機運に火をつけた格好となった安住氏には「軽率な発言だった」と、批判するささやきが内部にあるという。
■内閣不信任案の提出を「先延ばし」にする野党の体たらく
福山哲郎幹事長は3月29日、「このコロナの状況で解散できるなら、いつまでも受けて立つ」と発言。強気にみえるが、「まさかコロナ禍での解散はないでしょうね」と探っているようにも聞こえる。
野党は内閣不信任決議案は温存し、まずは武田良太総務相の不信任決議案を提出。4月1日に否決されると、田村憲久厚労相に照準をあわせ、同省職員23人が銀座で深夜会食していた問題を追及して辞任を求めている。一連の戦術は、解散の引き金になりかねない内閣不信任案の提出を先延ばししていると言われてもしかたがない。
コロナ感染が拡大し、スキャンダルや霞が関の不祥事が続く4月。しかし、解散をめぐる与野党の攻防を見る限り、主導権は与党が持ち続けているのは明らかだ。衆院解散までにこの構図を崩さない限り、野党の浮上はない。しかし、その道は極めて厳しいと言わざるを得ない。
3月20、21の両日に共同通信社が行った世論調査では自民党の支持率は38.3%。立憲民主党は7.4%。5分の1にも満たないのだ。
(永田町コンフィデンシャル)
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