世界120位「女性がひどく差別される国・日本」で男より女の幸福感が高いというアイロニー
プレジデントオンライン / 2021年4月7日 9時15分
■「日本はひどく女性が差別される国」は正しいのか
日本の男女不平等ランキングは、156カ国中120位……。
3月31日、スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」が作成した「ジェンダーギャップ指数」の最新データが公表された。「経済」「教育」「政治参加」といった分野での男女格差を指数化したものだ。日本の男女不平等の総合ランキングが156カ国中120位で、突出した男性優位社会(女性差別社会)という結果をマスコミ各社は大きく取り上げ、社説のテーマにした新聞もあった。
ただ、統計を専門とする私としては、奇妙に感じることがある。それは国連の専門機関の一つである国連開発計画(UNDP)が毎年刊行する人間開発報告書で作成されている「ジェンダー不平等指数」の結果はあまり報じられないのに、この世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」は公表されるたびに必ず報道され、話題となることだ。
これは「ジェンダーギャップ指数」のほうが日本の男女平等度のランキングがずっと低く(女性差別社会)、その分、目立っていて取り上げやすいからだろう。
「ジェンダーギャップ指数」の2021年報告書における順位は上述のように156カ国中120位であり、前回2019年報告書の121位(153カ国中)に引き続き、非常に低い順位だった。
ところが、国連開発計画「人間開発報告書」の2020年版における「ジェンダー不平等指数」では24位(162カ国中)となっており、女性差別社会とは言えない結果になっている。
図表1は、G7諸国における両指数の順位を比較したものだ。「ジェンダーギャップ指数」では最下位の日本も「ジェンダー不平等指数」では5位と英国と米国を上回っている。日本以外のG7諸国の順位も両方でばらばらである。日本だけでなく参考に掲げた韓国も「ジェンダーギャップ指数」では世界順位100位以下とランキングが低い点が目立っている。
■日本は女性差別国か否か「指標によって、結果が異なる理由」
なぜ、このようなランキングの差が生じるか。その背景に指標のとり方の違いがある。例えば……。
・途上国の社会開発を使命とする国連開発計画の「ジェンダー不平等指数」では女性がどれだけ安全に出産できる環境かを重視しており、「妊産婦死亡率」や「未成年出生率」などの指標が入っている一方、世界経済フォーラムには入っていない。同フォーラムはその代わり、「新生児の男女比率」と「健康寿命の男女差」を健康分野の指標としている。
・日本の「新生児の男女比率」は1位、「健康寿命の男女差」は72位。
以上の傾向からしても、私は、同フォーラムが出産リスクや寿命そのものはスルーして、健康の男女格差をこの2つの指標(「新生児の男女比率」「健康寿命の男女差」)で代表させるやり方に大きな疑問符をつけたい。
はなから構成指標の妥当性などが議論されることはなく、もっぱら日本は女性差別のヒドイ国だと主張したい場合の絶好のデータという観点だけで世界経済フォーラムの「総合ランキング」が引用されているように感じられなくもない。
この手のランキングは、構成する複数の指標を加重平均して作成される総合指標によっており、指標の選択やウエートづけは作成者の考えによっているので、結果も恣意的になりがちである。
(※私が主宰している「社会実情データ図録」サイトでは極力、そうした総合指標のランキングは取り上げないようにしている)
例えば、複数指標を総合化した世界各国や都道府県の幸福度ランキングが複数発表されているが、それがOECDの作成する権威あるランキングであっても、なるべく、無視するようにしている。幸福度を「そうであれば幸福であるに違いない」という観点から、所得、生活環境、医療介護、格差、自然などの状況の良好度を総合して順位づけしている場合がほとんどであり、「それで幸せを感じるのかは人それぞれ、国それぞれなのだから放っておいてくれ」と言いたくなる。
そして、幸福度を測るなら、幸福かどうかを聞いた意識調査によるのが一番だと思っている。
■一貫して、女の幸福度が男を上回り続けている日本人
さて、本題に入るが、幸福かどうかを聞いた結果の幸福度を、他のさまざまな項目とともに、ほぼ5年おきに国際的に共通調査票で調べている「世界価値観調査」の最近回の結果が公表されたので(2021年1月)、このデータのジェンダーギャップについての国際比較を次に試みよう。
ジェンダーギャップ指数と幸福度の男女格差はどんな関係にあるかを知りたいと思う人は多かろう。
幸福度そのものの国際比較は、質問文の言語の差、あるいは幸福に対する文化的な考え方の差異が影響して解釈が難しい。例えば、所得水準に比例しているという結果はあるが、低所得の国でも幸福度の国別のばらつきは非常に大きいのである。
ただし、それぞれの国の幸福度の男女差については、回答者が同じ言語を使用し、同じ幸福感を持っている場合が多いはずであるので、むしろ、幸福度そのものより国際比較に適していると考えられる。
国際比較に入る前に、まず、日本人の回答結果について、時系列的に過去からの推移を振り返っておこう(図表2参照)。
幸福度(幸せと回答した者の比率)の推移は、男女計では、1981年、1990年には、77%程度だったが、2000年、2005年、2010年、2019年には、86~88%となっている。バブル期までより、その後の失われた10年、20年と呼ばれる時期のほうが、幸福度ではより高い水準となっており、意外な結果だともいえる。
ここで主題としている男女差だが、女性の幸福度から男性の幸福度を引いた数字で追ってみると、1981年から1990年に6.5%ポイントから8.1%ポイントへと開いた後、2005年にかけて2.3%ポイントまで狭まったが、2010年には8.1%ポイントと再度広がっている。2019年にもほぼ同レベルの7.2%ポイントの開きとなっている。
日本においては女性のほうが男性より幸福感を感じやすい状況が続いているといえよう。
■国際的に見ても日本人の幸福度女性優位は稀有な事例
幸福度について女性から男性を引いた値、すなわち「幸福度女性優位」のランキングを図表3に掲げた。図表の一番左の折れ線が世界価値観の最新データのランキングである。日本はフィンランドに次ぐ世界第2位となっている。
世界価値観調査の前回、前々回の結果は、それぞれ、世界1位、世界11位だった。
世界価値観調査だけでは怪しいと見る向きのために、もうひとつの権威ある国民意識の世界調査であるISSP調査の4回分の結果も図示している。
幸福度の女性優位度についての以上7回にわたる調査結果では、日本の順位は1位が3回、2位が2回、3位が1回、11位が1回となっている。日本の女性の幸福度が男性を上回る程度は、まず間違いなく、世界トップレベルにあるといってよいであろう。
どうして、日本の女性の幸福度が男性よりこれほど高いのか。それについての定説はない。というより、その事実じたいが、日本は根強く男性優位社会(=男性のほうが幸福)であるという一般的な通念と矛盾するので、看過されてしまっている。
私の考えを述べたい。
日本ほどではないが、幸福度の女性優位は、韓国、台湾、香港といった東アジア諸国でも共通な場合が多い点を考え合わせると、相続や選挙権に関する制度的な男女平等が各国で戦後実現したこと、また現代ではかつての儒教道徳から女性がかなり解放されたのに対して、男性のほうは「男は一家の大黒柱」あるいは「男はか弱い女性を守らなければならない」といったような古い道徳観になお縛られていること、などがこうした結果の背景にあるのではないか。日本では男への期待感が潜在的に大きいだけに、当の男性としてはそれに応えられているかどうか微妙でなかなか幸福度を感じにくくなっている、というのが私の見方である。
■ジェンダーギャップ指数と幸福度の男女格差は無相関
上にふれた「世界経済フォーラム」が作成した「ジェンダーギャップ指数」の結果(世界の中でも有数の男性優位社会、女性差別社会)と、意識調査結果による幸福度の男女格差のランキング(女性の幸福感が男性を常に上回る)はあまりに食い違っている。
この点を確認するために、両者の相関図を図表4に掲げた。
幸福度女性優位度世界一のフィンランドはジェンダーギャップ指数でも男女格差の小ささが世界2位であり、両者には関係があるようにも見える。しかしながら、ジェンダーギャップ指数で男女格差の小ささが世界1位のアイスランドでは、幸福度はむしろ男性のほうは2%ポイントほど大きいという結果(女性の幸福度が男性より低い)となっており、まったくの逆比例である。
男女格差が大きいパキスタンやイランでは、幸福度も男性優位であるが、日本の場合は、男女格差が大きいのに幸福度は明確に女性優位である。
つまり、ジェンダーギャップ指数で測った男女格差と、幸福度の男女格差はまったく相関していない。相関図の全体的な分布を見てもそう言える。
図表4の右上には、当記事の冒頭でジェンダーギャップ指数と比較した国連開発計画のジェンダー不平等指数で同様の相関を見た図を掲げておいた。こちらのほうでは、相関度は低いが、多少なりとも右下がりの傾向、すなわち、男女格差が大きいほど幸福度の男性優位となる傾向が認められる。
相関度を表す値にR二乗値があるが、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数では0.022とほとんどゼロ(無相関)であり、しかも傾きがプラスであるのに対して、国連開発計画の指数では0.076で傾きもマイナスであり、若干ながら右下がりの相関があるといえるのである。
こうした面からも、マスコミ各社が「日本=旧態依然の女性差別国・男性優位社会」ということを述べるためにこぞって取り上げる世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」を男女格差の程度を示す指標としてうのみして論じることには無理があろう。
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統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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