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マクドナルドを「外食一人勝ち」に導いたカサノバ経営の本当のすごさ

プレジデントオンライン / 2021年4月9日 9時15分

マクドナルドの店舗。新型コロナウイルス感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言延長を受け、国内全店で実施している店内飲食の休止措置を14日まで延長すると発表した(東京都)=2020年5月8日 - 写真=時事通信フォト

■カサノバ会長は「勝てば官軍」を証明した

コロナ禍でほとんどの外食産業が苦戦を強いられる中、日本マクドナルドは増収増益という驚異の業績を記録しました。2月9日に発表した2020年12月期決算によると、売上高は2883億3200万円(前年同期比2.3%増)、営業利益は312億9000万円(11.7%増)でした。

就任直後は業績低迷や異物混入などメディアに叩かれたサラ・カサノバ現会長(2021年3月まで社長)でしたが、この結果を見れば彼女の経営者としての手腕を疑う者はいないでしょう。「勝てば官軍」。日本マクドナルド創業者の藤田田社長が変革期によく口にしていた言葉ですが、それを証明したわけです。

日本マクドナルドの増収増益という奇跡の背景には、さまざまな要因があると考えられますが、本稿では同社の「セールスリポート」に注目して論じたいと思います。

■2019年より業績が悪化した3カ月間はどこか?

セールスリポートとは日本語で言えば営業報告書です。日本マクドナルドのホームページでは月次の売上と店舗数の情報が毎月更新されています。2020年を通じて店舗数は微増です。つまり他の外食業態が注力したような不採算店の大量閉店には踏み切っていません。

年末時点の店舗数は2924店。一年を通じてのグランドオープンが48店、閉店が34店。結果としてマクドナルドの店舗数は14店増えています。つまり店舗政策について大きな決断があったわけではないことがわかります。

秘密は「月次の既存店売上データ」にあります。ここでクイズです。日本マクドナルドの既存店売上高が2019年と比べて明らかに業績が悪くなった月が3カ月間ありました。ひとつは新型コロナが日本を襲い始めた2020年3月です。残りのふたつの月は何月と何月でしょう?

素直に考えれば「緊急事態宣言が発出された4月と5月じゃないか」となりますが、答えは逆です。2019年より明らかに悪くなったのは、緊急事態宣言が解除された6月と7月でした。

一方、その先の8月から12月までの5カ月間は、既存店売上高は単純平均で前年比9.2%増という絶好調へと転じています。

■すかいらーくグループ、松屋と比較してみると…

日本マクドナルドの2020年は波乱万丈で山あり谷ありでした。前年の2019年は消費増税前後を除き、年間を通じて堅調でした。それに比べると、2020年の数字はびっくりするほどデコボコしています。

新型コロナの脅威が広まり始めた2020年3月、他の飲食店同様にマクドナルドの既存店売上高は悪化しました。とはいえ客数が-7.7%の減少、それに対して客単価が8.3%増加で、トータルの売上は-0.1%の減少とコロナの影響は軽微でした。

日本マクドナルドホールディングス セールスリポートより、編集部作成
日本マクドナルドホールディングス セールスリポートより、編集部作成

同じ時期に他の飲食店はどうだったか。テイクアウト比率が低い飲食店の代表として、すかいらーくグループを見てみます。すかいらーくでは3月の既存店売上高が-24%の減少とすでにコロナ被害が拡大しています。そして客数が-26%とほぼ4分の3に減っていることから、売上減の原因は客数減だとわかります。

一方、テイクアウト比率が高い飲食店はどうでしょうか。牛丼大手・松屋の3月の客数減は-8.6%で、これはすかいらーくよりもマクドナルドに近い数字です。しかし松屋の場合は客単価が3.7%しか増えていないため、トータルでの売上は-5.2%とコロナの悪影響を受けています。

■ファミリー需要が客単価増に貢献した

ここから類推するに松屋とマクドナルドの違いは、「個人客」と「ファミリー」の違いだと考えられるでしょう。コロナ禍になりテイクアウト客が増えたところで、松屋は一人分のテイクアウトが多くなりましたが、マクドナルドはファミリー客のテイクアウトが増えて客単価が上がったわけです。

そしてこの構造の違いから4月、5月の日本マクドナルドの月次売上は新型コロナによる緊急事態宣言の逆風下であるにもかかわらず絶好調になります。この時期、すかいらーくは客数はほぼ半減、客単価はそれほど変わらずそのまま売上半減を記録します。松屋ではやはり客数が4分の3になり、同様に売上も4分の3近くに減ってしまいます。

ところが日本マクドナルドは客数が2割減少したにもかかわらず、客単価が4月は31%増、5月に至っては45%増となり、5月の既存店売上高は年間を通じて最大の対前年15%増を記録します。

■デリバリーへの注力にも成功した

このように比較すると「コロナ禍で飲食業全体がどうしていいかわからない時期に、たまたま顧客がファミリー主力で、事業構造がテイクアウトに向いていたマクドナルドに棚からぼたもち需要が転がり込んだ」ように感じるかもしれません。が、少なくともそこにデリバリーの付加価値を加えたのは日本マクドナルドの経営手腕だったはずです。

配達
写真=iStock.com/Biserka Stojanovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Biserka Stojanovic

2020年にはマクドナルドにウーバーイーツの配達員が頻繁に出入りするのを見かけました。しかしマクドナルドはそれ以前から「マックデリバリー」という自前のサービスでデリバリーに乗り出していました。つまりイートイン、テイクアウトに加えてデリバリーを販売の柱にしようとする意思が明確だったのです。このためコロナ禍で他社よりもスムーズにデリバリーに注力することができました。

6月になり緊急事態宣言が解除されると、逆に日本マクドナルドの店舗業績は年間を通じて最悪の状況に落ち込みます。客数は5月同様に2割減でまだ戻ってこない。一方で巣ごもり消費が終わることで客単価の異常な特需も終焉します。6月、7月は既存店舗の売上でみると我慢の2カ月であったことがわかります。

■松屋はメニュー開発で客単価を上げた

8月に入ると、マスクは着用しながらも外出できる生活が戻りました。とはいえこわごわという感じで、繁華街はそれなりに密が戻りつつ、それなりに元通りではないという新しい日常が始まりました。

飲食業各社が生き残りをかけて踏ん張る中で、各社とも顧客が十分には戻ってこないもどかしさを経験します。着席型飲食業の代表格としてのすかいらーくグループを見れば、緊急事態宣言時に半減した客数はほぼほぼ4分の3までしか戻らず、工夫をして客単価を上げても売上は2割減。これが多くの飲食店の平均像でしょう。

個食型外食の代表格の松屋でも客数の戻りはやはり8割程度。しかしジョージア料理のシュクメルリが話題を集めたように、メニュー開発のチャレンジを続けることで10月以降、客単価を前年比10%前後と松屋はビフォーコロナとは違うレベルに引き上げることに成功しました。このようなメニュー開発で成功した外食業では、松屋のように顧客2割減の状況下でも売上1割減といった業績を上げられたと思います。

■デリバリー強化、アプリ、クーポン配信という複合効果

そして日本マクドナルドがどうだったかというと、2020年の後半には客数減は前年同月比でマイナス6%にまで戻すことができました。客数減を抑えられたのにはさまざまな要因があります。

フライドポテト
写真=iStock.com/LauriPatterson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LauriPatterson

ウーバーイーツに代表されるデリバリー強化に加えて指摘したいのは、マクドナルドが磨き上げてきたスマホアプリの使いやすさです。「どうせ注文するならマックが簡単だな」と消費者に思わせる効果があったと思います。メルカリやスマートニュースなど、さまざまなアプリにマクドナルドのお得なクーポンが提供されていて、外部サイト経由での顧客流入もかなり確保できたはずです。

そして客単価は16%増となりました。2019年以前の日本マクドナルドの月次レポートの数字と比較すれば、これが驚異的な水準であることがわかります。

この単価の上昇はファミリー需要だけが理由ではないかもしれません。生活が緊急事態宣言から平常に戻った以上、わざわざマクドナルドから家族分の食事を取り寄せるファミリー需要がそのまま残るわけではないですから。

■なぜ「夜マック」の可能性に気づかなかったのか

その観点で見て、マクドナルドの客単価向上につながる別の要因として考えられるのが「夜マック」です。

夜マックは別に新型コロナで始めたものではなく2018年から実施していたもので、夜17時以降は100円プラスすればミートを倍にしてくれるというサービスです。始まった当初は私自身も「まあお得かもしれないな」ぐらいに思っていたのですが、3年たってみて、最近ではマクドナルドで夕食をする時は必ず夜マックを頼むようになってきました。個人的な感想ですが、100円プラスしたらちょうどいい感じでお腹いっぱいになるのです。

これはよく考えてみたら一般の飲食店の大盛りサービスと同じです。あって当たり前なのになぜ日本マクドナルドに2018年まで大盛りが存在していなかったのか。たぶん理由はアメリカにメインメニューの大盛りという概念がないからでしょう。

アメリカはすべてがスーパーサイズな国です。ポテトであればスーパーラージ、コーラであってもスーパーラージとでかいサイズで注文します。しかしチーズバーガーのスーパーサイズが欲しい人は2つ注文する。ないしはダブルチーズバーガーを注文するわけです。つまりメインメニューは大盛りではなく2つオーダーする国だということです。

ですからアメリカのマクドナルド本社は、アジアでは大盛りが文化になっていることに、50年近く気づいていなかった可能性があります。

■本社を説得し、3年かけて定着させ、客単価を増やした

日本マクドナルドの夜マックはそこに気づいてメニュー構造をローカライズしたわけです。アメリカ本社と掛け合って「日本はそういう文化の国であり、そこに合わせると増収の可能性がある」ということを納得させる。これは通常、グローバル企業の日本法人にとっては非常に大きなチャレンジとなります。その説得に成功し、かつ3年かけて定着させ、結果として客単価も増えて定着してきた。そういった成果だといえるのではないでしょうか。

本当は日本マクドナルドの一人勝ちともいえる好決算については、もっとさまざまな要因が組み合わさっていて、数多くの経営判断と積み重なった現場の努力の結果です。しかし月次データから読み取れる基本構造の部分については外食業に携わるすべての業態の方が学べる「何か」があるのではないでしょうか。

そしてそこから学ぶことで読者のみなさんも次のサラ・カサノバになれるかもしれません。コロナ禍がいくら厳しくてもこの世界は「勝てば官軍」なのです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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