欧州の中流以上の家庭が「アンティーク家具」を置いている合理的な理由
プレジデントオンライン / 2021年4月11日 11時15分
※本稿は、谷本真由美『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■アメリカの富裕層は「投資」を増やす代わりに「消費」を減らす
世界の経営学者や社会学者の中には、お金持ちのライフスタイルを研究している人々がいます。収入区分や職業からアンケートやインタビューの対象となるお金持ちを探し出し、数年間にわたってライフスタイルを聞き出し、数値的な処理を施して、「お金持ちのライフスタイルの共通項」を探し出すのです。
このような研究の方法は、起業家を研究する経営学者や、特定集団の行動様式を研究する政治学者や社会学者が行っている方法です。マスコミやジャーナリストが、雑誌の売り上げや、テレビ番組の視聴率を狙い、センセーショナリズムを前面に押し出して紹介するお金持ちとは異なっています。
トマス・スタンリー博士とウィリアム・ダンコ博士は、アメリカの富裕層研究の第一人者として知られています。20年間にわたり、地理学者と協力して1万人以上の億万長者にインタビューとアンケートした結果をまとめた『The Millionaire Mind』(Gallery Books, Reprint版)(邦題『なぜ、この人たちは金持ちになったのか』日本経済新聞出版)は参考になる書籍の一つです。
この調査は、全米の国税調査対象地域から、100万ドル(1ドル=120円換算で約1億2000万円)の純資産額(持っている資産から負債を引いた額)を基準に億万長者の比率を割り出し、お金持ちのライフスタイルを丹念に調べたものです。スタンリー博士は、もともと富裕層向けのマーケティング研究を行っていましたが、その結果は驚くべきものでした。
アメリカの富裕層の84%は一代で財を築いた人々であり、そのほとんどは、中小企業の経営者だったということです。彼らの多くは普通の住宅地に住み、普通のファミリーカーに乗り、同じ配偶者と長年生活をともにし、最も気にしていることは、投資を増やす代わりに消費を減らすことでした。
ヨットもなければタワーマンションに住んでいるわけでもなく、パーティーに顔を出すわけでもありません。世間一般で想像されているような富豪のイメージとは正反対の、地味で実直な人々だったのです。
■億万長者が「家族や友人を大事にする」合理的な理由
図表1は『The Millionaire Mind』から抜粋した、アメリカの億万長者733人の、1カ月のライフスタイルに関するアンケートの結果です。
この結果で驚くべきことは、その上位を占めるのが、家族や友人と過ごす時間であることです。これには、アメリカの億万長者の多くは、中小企業を経営する、もしくは個人事業者であることが関係します。彼らの多くは時間が自由になるので家族と過ごす時間があります。さらに、事業の多くは個人や家族で起こした「家族企業」(Family Firm)なので、仕事も私生活も家族と一緒であり、家族の絆が強いのです。
家族や友人と時間を過ごすことは、精神的な面でも合理的です。オーストラリアのフリンダース大学が、1500人の高齢者に対して10年間にわたって実施した調査では、幅広い友人のネットワークがある人は、ない人に比べ、平均寿命が22%も長かったとの結果が報告されています。
スタンフォード大学のデビッド・スピーゲル教授が、1989年に「Lancet」誌に発表した研究では、ガンのサポートグループに参加したガン患者の女性の生存率は、参加しなかった人の2倍であり、痛みも軽減されたとの結果を報告しています。
友人が少ない若い人は、お酒やドラッグに走る傾向が高いという調査結果も報告されています。また友人が多い人は心臓発作からの回復が早いというのです。
つまり、家族や友人と過ごす時間を増やすことは、精神的なリラックスや健康の増進に繋がり、仕事にも集中できるというわけです。その上、豪華なパーティーや買い物にお金を費やすよりも、居間や食卓でおしゃべりをすることにはお金がかかりません。節約したお金を投資に回すことができるので、さらに合理的です。
■欧州の職場は「社員の家族事情」まで考慮する
家族と一緒になって、ペットと遊ぶことは、さらにリラックス効果を増進します。Robert Wood Johnson FoundationとHarvard School of Public Healthの研究によれば、ストレスを抱えたアメリカ人の47%はペットと時間を過ごすことで、ストレスが軽減されたと答えています。
お金持ちは、無意識で、合理的に資産を増やし、健康を増進し、自分の生活を、精神的にも豊かにする行動を選択しているのです。
仕事に追われるサラリーマンは、家族や友人と過ごす時間を軽視しがちですが、それは、体の健康の点から見ても、仕事の効率や創造性の点から見ても、実は間違った選択だということです。ストレスを溜めて体を壊してしまったら、仕事もできませんし、勉強だって不可能です。ストレス解消にお金を使い、そのお金を稼ぐために仕事をするのでは本末転倒です。
欧州の職場は、富裕層のように大変合理的な考え方をします。サラリーマンに、いきなり辞令を出して、家族の事情を考慮せずに転勤を強制することはまずありません。家庭生活がメチャクチャになってしまったら、その人の生産性は下がり、会社にとっても本人にとっても良くないことを知っているからです。転勤を頼むときは、家族の事情も考慮するのが一般的ですし、会社によっては転勤先で、配偶者の仕事まで用意します。
そうした方が、社員の生産性が上がるので、会社にとっても本人にとっても良いことを知っているからです。
また、有給休暇も消化するのが当たり前ですし、子供の学校や、配偶者の誕生日に早退する、というのも当たり前です。これも、家族との関係が良くなった方が、生産性が高まる、という考え方が下地になっています。不安定な時代だからこそ、ワークライフバランスを踏まえて、家族や身近な人との関係を、重要視しなければなりません。
■節税はお金を稼ぐことと同じ
アメリカの大富豪であるウォーレン・バフェット氏は、長期投資で知られていますが、投資で大事なことは、地道な調査と忍耐であり、短期的に利益を得る魔法などない、と言い切っています。
投資をするには、投資アドバイザーの力を借りたり、うまくいっている人の真似をしたりする方法もありますが、経済の仕組みの「根本」を理解しないで、大事なお金を投じてしまうのは危険です。
それは、ボートの運転の仕方をまったく知らずに、いきなり太平洋横断の旅に出てしまうようなものです。まずは大学学部レべルの専門書を購入し、自分で基本を学ぶのが大切です。語学学習やダイエットと同じく、投資にも近道はないのです。
また投資と並行して重要なのは、節税対策です。日本のサラリーマンは源泉徴収に慣れているので普段税金のことを十分勉強しませんが、節税はお金を稼ぐことと同じです。あくまで合法な手段で、お金を賢く節約するのが節税です。
政府が発表している一次情報をじっくりと読んで自分で対策を練る方法もありますが、その道のプロである税理士さんや会計士さんの力を借りる方法も有効です。お金を払ってプロの知識を得ることで、時間を節約できますし、結果的に大きな金額を節約できる可能性が高いからです。
■ヨーロッパの人たちがアンティーク家具を使い続けるワケ
億万長者のライフスタイルの上位には、買い物がないことに気がつかれたでしょうか? 彼らは、「買い物」=「消費」にはお金を使わないのです。消費というのは、「買ってしまったらそこで終わり」のものやサービスにお金を使うことを指します。
例えばトイレットベーパーはお尻を拭いてしまえば終わりですから、一つ1万円もするトイレットベーパーにお金を使うのはばかげています。安い家具は10年ほどしたら古ぼけてしまい、使い物にならなくなります。
しかし、何年経っても価値が減らないものや、むしろ価値が高まるものを買って使っていたらどうでしょうか?
その代表は、アンティーク家具です。もともと質の良い素材で丁寧に作られた家具は、きちんと手入れをしていれば何十年ももつのです。
イギリス、イタリア、スペイン、ドイツ、フランスの中流以上の家庭にお邪魔すると、ある程度お金がある家でも、古い家具を使っているお宅がけっこうあり、驚くことがあります。1930年代に作られたタンス、1940年代のコーヒーテーブル、1960年代の食卓などを普段から使っているのです。
これは、単に彼らがアンティークが好きだからという理由ではありません。家族から譲られた家具を使えば、新しいものを買う費用を節約できます。昔の家具は今のような合板で作られていないので、ニスを塗ったり、削り直したりすれば何十年も使えます。
さらに良いアンティーク家具は、売りに出せば、それなりの値段がつくので、良い投資にもなるのです。実用性もあって投資価値もある、という一石二鳥です。
■資産として価値が出る中古のポルシェを買う
もっとお金を節約したい人は、自ら家具補修のコースに通って自分でアンティーク家具を直します。欧州にはそういうコースを提供する学校があり、気楽に通うことが可能です。カルチャーセンターで古代史やハワイアンを習う代わりに、何か価値を生む知識を学ぶためにお金を使うのです。家具補修は休日の趣味にもなりますので、お金の節約になります。
お金の使い方にシビアな人が多いイギリスでは、地上波のテレビの昼間や休日の放送時間には、アンティークのオークション番組が大量に放送されています。日本の番組のようにショーアップされた派手な番組ではなく、実際にプロのオークションで値段がつく様子が放送されます。
番組をずっと見ていれば、何年に作られたどんな感じの商品なら、相場はどれくらいかがわかるようになります。ときどきプロの鑑定士による、商品の年式の見方の解説もあり、大変実用的です。
お金にシビアな中流以上の人々は、こういう番組を熱心に見て、様々な地方のアンティーク市場、チャリティーショップを回って掘り出し物を探し、オークションにかけて儲けるのです。趣味と実益を兼ねた賢いお金と時間の使い方といえるでしょう。
日本では車は数年ごとに買い換えることが珍しくなく、消費財のような扱いですが、車を買う時も、資産として価値が出るものを買うのが重要です。例えば、私の仕事仲間の一人は、ポルシェを所有しています。
とはいっても、新車ではなく、中古をどこからか探してきて、自分や知り合いの手を借りてオーバーホールするのです。人気のある車種だと何年か経つと、買った時よりも値段が高くなっていることがあるので、割の良い投資なのです。
■3回の離婚で慰謝料や生活費を払っても生活は苦しくない
所有している間は、ときどき乗って出かけることも可能ですし、ポルシェなので、ホテルやレストランでの扱いも悪くありません。
この人はある分野の技術者ですが、お金の使い方がうまいので、イギリスの高級住宅地に2軒も家を持っていて、3回も離婚していますが、奥さんたちにはきちんと慰謝料や生活費を払っています。それでも生活は苦しくはありません。
ストレス解消のためにネットを巡回する際も、お金を生むような情報を得られるサイトを見ることを趣味にすれば一石二鳥です。
例えば、割引情報が載ったサイト、経済情報、商品の値段の比較サイトなどを丹念に見て回れば、お金がまったくかからない暇つぶしになる上、節約や投資の情報も得られます。そして、得た情報を自らブログにまとめて、広告費を得る仕組みにすれば、お金を稼ぐことだって可能です。
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著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する
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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
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