田端信太郎「堂々と謝罪はしても、"申し訳ありません"と言ってはいけない」
プレジデントオンライン / 2021年4月19日 9時15分
※本稿は、田端信太郎『部下を育ててはいけない』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■予算が未達の時に、自分から減給を申し出た
リーダーの役目は部下に仕事を任せ、部下の力を引き出すことで目標達成することだが、それと同時に、目標未達の際、あるいは部下が何か問題を起こした際には、最終責任を負う覚悟も求められる。
私はある会社で執行役員・事業部長をしていたとき、チームの予算が未達の時に、自分の側から減給を申し出た経験がある。
目標を達成することができず、部下に厳しくプレッシャーをかける以上、まずはリーダーである自分自身が「身を切る覚悟」を示してはじめて、部下に真剣の本気度が伝わると考えたからだ。上司たるもの、自らの「減給」ですら、社内にメッセージを伝えるための材料として利用すべきである。
■堂々と謝ってこそ真のリーダーだ
リーダーとしての責任の取り方は、「私の責任です」と自分の口で言うことが第一のステップだ。
当然、部下が起こした問題を何も知らなかったということもある。そうした時、本心では「俺は何も知らなかったし、俺に責任があるの? 悪いのは部下でしょ?」と誰しも思うものだ。
私自身、これまでの経験を振り返り、自分の胸に手をあててよくよく考えても「俺はまったく悪くない」としか思えないこともあった。
しかし、リーダーというのは、その部門で起こったことに関しては、たとえ理不尽に感じるものであっても自分に全責任があると考えてしかるべきだ。
なぜなら、そうした厳しい状況を収めるためには、誰かが代表者として、けじめをつけなければならず、その役割を負うのがリーダーであるからだ。対外的なお詫び訪問や記者会見なら、「俺の名演技を見ておけ」くらいの姿勢で堂々と謝ってこそ真のリーダーだ。
■Uber Eatsはお見舞いに行くべきだ
一例を挙げよう。この数年、Uber Eatsの配達人が自転車で配達中に歩行者をはねてケガを負わせるといったニュースをよく耳にする。Uber Eats側から言わせれば、配達人は個人事業主であり、会社には責任がないということで、Uber Eats側が謝罪をすることは一切ない。
これはたしかに法律論としては正しい。しかし、普通の感覚として、Uber Eatsを代表した会社の人間が菓子折りの1つも持ってケガをした人を一度くらいはお見舞いに行くべきだろう、というのが人情大人の常識であり、誠意というものだ。
相手の心情に寄り添った対応をするだけで会社に対する世間の見方は大きく変わるし、ケガをした人の気持ちもずいぶんと救われることになるはずだ。
リーダーの謝罪も同様である。チームメンバーが起こした問題についてまったくあずかり知らなかったとしても、「俺は関係ない」と言うことは許されない。こうした状況下で「私の責任です」と公言し、頭を下げるという「名演技」ができてこそ、一流のリーダーだ。
■「申し訳ありません」を言ってはいけない
ただし、頭を下げるとか謝ることは必要でも、その場合の「言葉遣い」には細心の注意を払う必要がある。
たとえば、Uber Eatsの担当者がケガをした人のもとを訪ね、菓子折りなどを渡して謝るのはいいが、その際、「この度は大変申し訳ありませんでした。今後につきましてはご意向に応じて、弊社として誠心誠意対応させていただきます」とまで言ってしまうと、どうなるか。場合によっては膨大な賠償金を求められるかもしれない。
この場合は、お見舞いに行ったうえで、「この度は、お見舞い申し上げます。本件に関して、事故に遭われて、お気の毒に思っております」と言うくらいが適切だろう。「大変、申し訳ありませんでした」とまで言うのとは大きな違いがある。こういう重大クレームの場面で、どの程度の対応が、ちょうど良いバランスなのか? の判断は場数が問われる。リーダーは「名演技」だけでなく、「言うべきセリフ」の細部にまで心を配ることが重要だ。
■「私の不徳のいたすところ」の一言が持つ力
たとえば選挙に立候補して落選した候補者がよく口にするセリフが「すべて私の不徳のいたすところでございます」だ。
本来、選挙の敗北は候補者1人に責任があるわけではない。たくさんの支援者がいて、運動員がいて、支えてくれる政党などもあるだけに、たとえば政党のイメージが良くなかったとか、運動員が思うように動いてくれなかったなど、さまざまな理由があるはずだが、選挙結果が出たあとに、そんなことを言ったところで何の意味もない。誰も得をしないからだ。
だとすれば、関わってくれたすべての人への感謝の意味も込めて、「すべて私の不徳のいたすところでございます」の一言で「私の責任」を強調した方がいい。そうすれば、周りも「君はよく頑張った、俺たちにももうちょっと、何かできることがあったかもしれないな」と慰めてくれるはずだ。
■「わかりました」と受けて、実は何もしないでおく
ある国会議員の秘書を務めた人曰く、支持者からの依頼は、結構ヤバめなものも含めて基本的にはすべて受けるという。もしここで「そのようなものは受けられません」と正論を振りかざすと、途端に議員のイメージが悪くなってしまう。だから、一旦は「わかりました」と受けて、実は何もしないでおく、という手法だ。
中には当然、支持者の要望がかなわないこともある。そんな時には支持者を前に「今回は私の力不足でした。ただひとえに私の責任でございます」と自分の責任を強調して伝える。すると、最初は怒っていた支持者も後ろめたさがあるだけに、それ以上は言わなくなるという。
このように謝罪1つとってもいろんなやり方があるし、「申し訳ありませんでした」だけが能じゃない。その場その場に応じた適切な言葉の使い分けと、八方に目配せと気配りした演技力が重要だ。
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オンラインサロン「田端大学」塾長
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げる。2005年、ライブドア入社、livedoorニュースを統括。2010年からコンデナスト・デジタルでVOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年NHN Japan(現LINE)執行役員に就任。その後、上級執行役員として法人ビジネスを担当し、2018年2月末に同社を退社。その後株式会社ZOZO、コミュニケーションデザイン室長に就任。2019年12月退任を発表。著書に『これからの会社員の教科書』『これからのお金の教科書』(SBクリエイティブ)、『ブランド人になれ!』(幻冬舎)他。
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(オンラインサロン「田端大学」塾長 田端 信太郎)
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