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「GAFAよりもトヨタのほうが価値ある企業である」冨山和彦がそう考える理由

プレジデントオンライン / 2021年4月17日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dogayusufdokdok

なぜトヨタは成長しつづけているのか。経営共創基盤グループ会長の冨山和彦氏は「トヨタはデジタル化の影響をほとんど受けていないため、GAFAに利益を奪われなかった。日本的な徹底した現場主義を貫いたことで、効率的な経営戦略を生み出していったことがトヨタの強みだ」という――。(第4回/全5回)

※本稿は、冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■インターネットの衝撃に強かった自動車産業

【田原】今、トヨタの話が出た。僕もトヨタは何度か取材にいったことがあるし、歴代の社長にも会ってきた。30年前と今で、日本企業の中でずっと世界で通用しているのはトヨタだけだ。どうしてトヨタは生き残れたのか。冨山さんの分析を聞いてみたい。

【冨山】まず、自動車産業が今までのところデジタル革命の影響を受けていないことが挙げられます。先ほども例を出したように、AIによる自動運転もあるし、電気自動車も走っています。けれども、インターネットの衝撃をパナソニックやソニーほどは受けていません。工場を各地に作り、世界中に生産拠点があり、現地社員がいる。

GAFAの中で、トヨタのような自動車メーカーはないですよね。流通もそうです。アマゾンや楽天で買い物をしたりウーバーイーツで出前を取ったりしたことがある人は日本ではもはや多数派だといえるでしょうが、インターネットで車を取り寄せたという人はきわめて珍しい存在にすぎません。

そして自動車そのものが人の生き死ににかかわる道具であることも大きな理由です。1トン近い鉄の塊が時速100キロを超えるスピードで安全に走行する、それも何10万キロも走行できる耐久性を持って。これは尋常なことではありません。

機械的に非常に複雑かつ高度で強靱(きょうじん)な工業製品です。こんな人命に関わる危険な道具を作るということが高い参入障壁になっている。スマホが壊れても人命に直結しませんし、サービスが使えないからといって命を落とす人もいませんよね。しかし、自動車は故障や誤作動、使えないときに命に直結するシリアスな道具です。

■世界中の製造業に取り入れられた「トヨタ生産方式」

【田原】電機の故障は、基本的にそれで死ぬことはない。

【冨山】オーディオ機器の故障で人は死なないですし、洗濯機などの家電はごくまれに火事の原因になりますが、自動車と同じリスクではないですね。自動車は不具合一つで多くの人命が失われる可能性があり、非常に高度な技術が必要となります。

フォード以外の2社(GM、クライスラー)は経営破は綻たんに見舞われたとはいえ、「ビッグスリー」がいまだに強い存在感を発揮しているのも、技術力ゆえです。日本が得意としてきた大量生産システムを最も洗練させ、自動車産業として求められるやるべきことを、一番愚直に徹底的にやり続けているのがトヨタです。

その結果、トヨタの仕組みは「トヨタ生産方式」として世界中の製造業で取り入れられていて、「カイゼン」という言葉も世界に広がっています。今のところ現場主導の改良的イノベーションの積み重ね、すり合わせの積み重ねが競争力の源泉となるビジネスモデルを維持できており、トヨタはまさにこのゲームの世界トップを走り続けている。

【田原】トヨタの源流にはフォードの存在がある。

【冨山】まさに20世紀にヘンリー・フォードが生んだ自動車の生産システムを、現代的にアップデートしつづけている企業がトヨタです。

■誰でも自動車を買える社会を作ったフォード

【田原】そこで、フォードが生んだ経営哲学であるフォーディズムについても話を聞きたい。車はお金持ちが買うものだ、というのが戦前のアメリカだった。しかし、フォードはそれではいけないと考えた。アメリカ人誰もが手に入れるものにならないといけない、と。国民が買えるということは、まずフォードの社員が買えるということが大前提になる。

そこで社員の給料を上げて車を買えるようにした。さらに社員に車に何を求めているかを徹底的に聞いてまわった。社員は使われる側ではなく、消費者であり、大切な顧客でもあった。第二次世界大戦後、アメリカで社会主義が発展しなかったのは、フォーディズムが歯止めになり、機能していたからだと思う。

ここで、単なる資本家と労働者という関係のままだったらフォードや他の製造業はうまくいかなくなり、アメリカでもっと社会主義が広がっていたかもしれない。

【冨山】それもやはり世界の自動車産業に影響を与えていて、トヨタも生産ラインの人たちが自社の自動車を買えるということを大事にしています。コロナ不況のなかでも豊田章男(とよだあきお)社長が雇用を守る、と宣言していたのも印象的です。こうした発信ができるのも、やはりトヨタがGAFA登場以前の大企業だからですよね。

1970年代までのアメリカの大企業はIBMしかり、GEしかり、GMしかり、多数の中産階級雇用をアメリカ国内に生んでいました。そのモデルの原型を作ったのがフォーディズムです。

■利益は生んでも雇用は生んでいないGAFA

大企業はとにかく多くの社員を抱え、それによって大量生産で富を生み出し、社員を雇用する。安定した雇用は、豊かな中産階級を生み出し、それがアメリカ民主主義の繁栄の中核になる。自動車もコンピュータも製造業も、すべての中心がアメリカにありました。

日本も同じで、かつてのグローバル大企業というのは、直接的であれ間接的であれ多くの雇用を生み出し、社員を養っていたんです。ですがGAFAをみてください。彼らはどんな人間を雇っていますか。

【田原】GAFAが雇っているのは、高学歴のエリートたちだ。

シリコンバレー
写真=iStock.com/JHVEPhoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JHVEPhoto

【冨山】そうです。だからGAFAはデジタル時代、知識集約産業時代の最も成功した企業群で、もっとも時価総額が高い企業群ではありますが、30年前に時価総額トップ10が生んでいた雇用の数、しかも良質な雇用の数を生み出していません。一部のトップエリートが富を分け合っていて、それはデジタル革命の必然なんです。

【田原】そうか、そこが違う。30年前のトップ企業は、多くの雇用を生んでいた。

【冨山】自社やグループ会社だけではなく、下請けの自動車工場などでも大量の人を雇っていました。アメリカではそうした人々が、いわば穏健な中産階級になっていき、時々共和党に入れて、問題があれば時々民主党に入れるような層となっていったんです。それが今は深刻な格差社会になっています。

GAFAが日本で言う正社員的に雇っている人たちは、スタンフォード大学やMITを卒業し、しかも博士号は当たり前というような、超がつくもの凄いインテリが中心です。あれだけの時価総額なのに数万人しか雇用がない。世界で戦っている自動車産業のトヨタが生み出している雇用にはまったく及ばないでしょう。

■中産階級の雇用を生む産業を育てるべき

そしてかつて米国の中産階級雇用を生み出した製造業系の現場はグローバル化で新興国に流出してしまった。何せ人件費が何10分の1ですからいかんともしようがない。対抗しようとしたら大幅に賃金を下げるか、猛烈な自動化しかないので、結局、良質な雇用は生まれません。

今のトップにいるグローバルIT企業は製造業に比べて、まったく雇用を生み出しませんし、雇用を必要としないモデルなんです。このことこそ本当に考えるべきことで、日本は遅れている、日本からもGAFAのような企業を生み出さなくては経済の復活はないと主張する人が時々います。

でも今からこの領域に追いつくのはものすごく大変というかほぼ無理で、しかも実現したところで日本社会に大きな雇用は生まれません。グローバルな競争をやりたいという人がいることはもちろん大切なんですが、それで潤うのはトップクラスの人材だけです。

日本においてもマジョリティにとって大事な中産階級の雇用をどこで生むか、そうした産業をどう育てるかを考えないといけないんです。グローバル化とデジタル化が、先進国の中産階級雇用を猛烈な勢いで奪ってきたことはまぎれもない事実です。実際に、ソニーもパナソニックも失われた雇用がある。デジタル化の打撃が比較的少ない自動車産業は、今はまだ特別な領域なんです。

■ボトムアップの改善改良を全社レベルで行えるのがトヨタの強み

自動車産業でもトヨタは本当に特別な存在です。トヨタの強みは特定の人に頼った発明や技術というものがほとんどないことにあります。もちろん有名な経営者やプロジェクトリーダーはいますが、トヨタの一番大切なものは現場から生まれています。現場の働き手たちが集団で努力をして、その結果としてカイゼン、ジャストインタイムという根幹部分が出てきた。

冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(角川新書)
冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(角川新書)

営業セクションも同じで、現場ごとの集団改良というのを大切にしていて、足元からはじめていく。それはすごく日本的な集団主義にマッチしています。「冨山が批判してきた日本企業じゃないか」と思われるかもしれませんが、私は非効率な集団主義は悪いと言っているだけで、何が効率的で、何が非効率かは業種、会社により違っています。

そして、何よりトヨタは海外展開もしている企業なので、取締役に女性もいれば、外国人もいます。同質性の高い経営陣ではありません。そこに日本的に集団で改善改良をやっていくということを徹底してきた現場が結びつく。

いずれも私の高校大学の先輩である経営学者の藤本隆宏(ふじもとたかひろ)先生や新宅純二郎(しんたくじゅんじろう)先生の有名な研究がありますが、現場起点、ボトムアップの改善改良が本社レベル、全社レベルの変容まで引き起こす力を持っている、ここもトヨタの強みでしょう。

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冨山 和彦(とやま・かずひこ)
日本共創プラットフォーム代表取締役社長
1960年生まれ。東京大学法学部卒、在学中に司法試験合格。スタンフォード大学でMBA取得。2003年から4年間、産業再生機構COOとして三井鉱山やカネボウなどの再生に取り組む。機構解散後、2007年に経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年12月より現職。パナソニック社外取締役。

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田原 総一朗(たはら・そういちろう)
ジャーナリスト
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所へ入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。

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(日本共創プラットフォーム代表取締役社長 冨山 和彦、ジャーナリスト 田原 総一朗)

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