「YouTubeは終わった」と語る人は「私と仕事どっちが大切なの?」と聞く人と同じくらい怖い人である
プレジデントオンライン / 2021年4月13日 11時15分
※本稿は、メンタリストDaiGo『悩む力 天才にすら勝てる考え方「クリティカル・シンキング」』(きずな出版)の一部を再編集したものです。
■口がうまい人、言葉巧みな人が駆使する「人の心を操る話術」
本章のテーマは「洗脳」です。特定の話術やテクニックを使い、マインド・コントロールをおこなうため「洗脳」の技法について見ていきましょう。
洗脳とクリティカル・シンキングは一見、関係なさそうですが、その印象は大間違いです。洗脳の定義をひと言で言うと、「ものごとの見方をひとつに強制されること」だからです。
教祖の言葉だけに従うカルト宗教、トップの行動が絶対の規範になる独裁国家、暴力思想を叩き込まれるテロ組織など、偏った組織では必ず特定の方向に思考を矯正されます。そこに自分の意志が働く余地はありません。
その一方で、これまで何度もお伝えしてきたとおり、クリティカル・シンキングには「複数の視点を持つ」という要素がふくまれます。ひとつの思考にとらわれず、あらゆる方向からものごとを見つめるのがクリティカル・シンキングの大前提です。
その点で、洗脳とクリティカル・シンキングは、同じコインの表裏のような関係にあります。つまり、クリティカル・シンキングを学んでおけば、こちらを洗脳してくる相手に気づけるわけです。
「自分には洗脳など関係ない」と思われたかもしれませんが、私たちの身のまわりには洗脳があふれています。
もちろんカルト宗教や独裁国家レベルの洗脳に出くわすケースは少ないでしょうが、ネットの噂やニュースに流されたり、世の中の空気に振り回されて大事なことを決めてしまう人は少なくありません。企業マーケティングや教育の世界など、無意識に私たちの心を操ろうとする組織や団体は無数に存在します。
そこで本章本稿では、よく使われる洗脳テクニックを2つお伝えしていきます。
洗脳テクニックの存在を知っておくと、世の中の裏側が読みやすくなりますし、悪用すれば他人を思うままに動かすこともできてしまいます。くれぐれも悪用厳禁で、自分の身を守るための知恵としてお使いください。
■人にネガティブなラベルを貼りつけ、論点をズラす
■洗脳テクA「ネーム・コーリング」
「ネーム・コーリング」は、特定の人や物にネガティブなラベルを貼りつける技法です。たとえば次のような会話があったとしましょう。
A「金持ちはもっと貧しい人たちにお金を分け与えるべきだ! いまは一部の人間が富を独占しすぎている!」
B「そうは言いますけど、あなたはこのあいだ高級な車を買ったばかりじゃないですか。そんな人がする主張は信用できませんね」
A「私の車と主張は関係ない!」
これはAさんの言葉が正しく、「富の分配」と「高級車の購入」にはなんの関係もなく、それで主張の正否は判断できません。しかし頭でわかっていても、反射的にAさんの言葉に疑いを持ってしまう人は多いでしょう。大半の人が「お前が言うな!」と思ってしまうはずです。
このようにネーム・コーリングは相手の信頼性を下げる働きが強く、討論の場などでもよく見かけます。2020年のアメリカ大統領選挙で、民主党側が「トランプは汚い差別主義者だ!」と敵陣営をののしり、共和党側が「バイデンは卑屈な中国の犬だ!」と返したのもネーム・コーリングの典型的な例です。
不用意にネーム・コーリングに乗ってしまうと、こちらがどんどん不利な立場に追いやられてしまいます。もうひとつ会話例を見てみましょう。
A「近ごろウチの会社はモラルが乱れている。これを正すために、もう少しこまかなルールを定めようと思う」
B「いや、君みたいな『ダメ人間』に言われても誰も納得しないから、その提案は間違ってるでしょ」
A「僕のどこがダメ人間なんだよ!」
B「このあいだも遅刻したし、机の上も汚いしさぁ」
A「その遅刻は親戚の不幸があってしかたなかったんだよ! 机だってこの前は忙しかったからたまたま汚くなっただけ!」
B「いや、まだまだあるぞ。先週はゴミの分別を間違えてたし……」
Bさんが持ち出した「ダメ人間」の話題に乗ったため、Aさんは「自分はダメではない」という論点を主張し続ける展開になってしまいました。いったんこうなると、Aさんは不利な展開に追い込まれていくばかりです。
■「ネーム・コーリング」への対処法
もし相手がネーム・コーリングを使ってきた場合は、次のように言ってみてください。
・論点のズレを指摘する
=「いや、僕がダメ人間かどうかはルールの設定とは関係ない」
・ネーム・コーリングを指摘する
=「ネーム・コーリングって知ってる? 特定の人にネガティブなラベルを貼りつけることなんだけど、いまの君がやってるのはまさにそれなんだよ。ネーム・コーリングをしているあいだは、ちゃんとした話ができないよ」
個人的におすすめなのは「ネーム・コーリングの指摘」です。ネーム・コーリングをしてくるような相手はそもそも論点のズレを認識できないことが多いため、一段上の視点から現状を説明したほうが効果的なことがよくあります。
■他にも選択肢があるのに、2つの選択肢だけを提示して判断を迫る
■洗脳テクB「白黒思考」
「白黒思考」は、実際には他にも選択肢があるのに、2つの選択肢だけを提示して判断を迫る手法です。たとえば次のようなことを言う人がいたら、あなたはどう思われるでしょうか?
「YouTubeはもう参加者が多すぎて、これ以上の再生回数アップは望めません。このまま続けていても収益は下がっていくばかりです。新しいメディアを見つけなければ、もう先はないでしょう」
確かに現在のYouTubeは参加者の数が飽和状態にあり、ひとつのチャンネルあたりの再生数も低下傾向にあります。しかし、この人物が指摘するように、本当に「YouTubeを続けるか止めるか」の二択しかないのかといえば、そんなこともないはずです。よく調べれば現在のチャンネルに改善の余地が見つかるかもしれませんし、私のように「YouTubeは有料サイトへの入り口」と位置づけて、そもそも再生回数を気にしない手法もありえます。
この世の中に白か黒かで決着がつくような問題などほとんどなく、たいていは第三、第四の道があるもの。そんな代替案の存在を無視してこちら側の思考力を奪ってしまうのが、「白黒思考」の恐ろしさです。
その他、白黒思考にはこんな例もあります。
「私と仕事のどっちが大切なの?」
「反原発の活動に疑問があるということは、君は原発推進派だな?」
「経済学が未来を正確に予想したことはない。つまり、経済学は学問の名に値しないということだ」
いずれの発言も、ものごとを強引に2つに分けて、それ以外のグレーゾーンを認めません。本来は別の答えもあるはずなのに、2つの選択肢だけから選ぶように迫って、相手の思考力を奪おうとしているのです。
白黒思考が洗脳に効くのは、相手に即断即決を迫ることが可能だからです。
いくつか例をあげましょう。
「肉が多い食事が身体に悪いのは間違いない。ならば、ベジタリアンになるしかないだろう」
→「ほどよく肉を食べつつ野菜もたくさん食べる食事」という第三の道を無視して、肉食か菜食かの2つに限定しています。
「あんな難しい語学教材を使ったところで、モチベーションが落ちるばかりで英語力は伸びない。私がおすすめするような簡単な教材でないと意味がない」
→世の中の英語教材を「難しい」か「やさしい」かの2つにだけ分類し、「その人に適した難易度」の存在を無視しています。
このように、白黒思考は私たちの視野をせばめてしまう効果を持ちます。相手の強弁に流されないためにも、なにか重大な決断を迫られたときは「これは白黒になっていないか?」を考えるようにしてください。
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メンタリスト
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒。人の心をつくることに興味を持ち、人工知能記憶材料系マテリアルサイエンスを研究。英国発祥のメンタリズムを日本のメディアに初めて紹介し、日本唯一のメンタリストとしてTV番組に出演。その後、活動をビジネスやアカデミックな方向へ転換、企業のビジネスアドバイザーやプロダクト開発、作家、大学教授として活動。趣味は1日10~20冊程度の読書、猫と遊ぶこと、ニコニコ動画、ジム通いなど。ビジネスや話術、恋愛、子育てまで幅広いジャンルで人間心理をテーマにした著書は累計400万部を超える。主な著書に、『自分を操る超集中力』『知識を操る超読書術』(かんき出版)、『自分を操り、不安をなくす究極のマインドフルネス』(PHP研究所)などがある。
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(メンタリスト DaiGo)
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