新聞記者、ニュースキャスター、DJ…米調査「将来が危ない最悪の仕事」ワースト10
プレジデントオンライン / 2021年4月17日 11時15分
※本稿は、谷本真由美『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■日本ではエリートの新聞記者はアメリカでは「最悪の仕事」
図表1はアメリカの求人サイトであるCareerCastがアメリカ政府の雇用データをもとにまとめた「最悪の仕事」のランキングです。
このランキングは、「酷い報酬」「ストレス」「ジョブセキュリティ」などをもとにまとめられていますが、日本の「人気企業ランキング」とは随分内容が違います。
まず、日本ではエリートの仕事であり、憧れの仕事の一つである新聞記者は、低い報酬、仕事の不安定性、ストレス、成長性などの観点から見て、現在アメリカで最悪とされる仕事の一つです。『The Jobs Rated Almanac: The Best Jobs and How to Get Them』(iFocus Books)で取り上げられている200の仕事の中でも最下位です。
この傾向は、アメリカだけではなく、カナダ、イギリス、オーストラリアなどの英語圏でもまったく同じです。英文メディアの世界では、新聞社の倒産、合併、縮小に伴って、記者のレイオフが増えています。英語圏は大胆なので、一気に記者を数百名単位でクビにしたり、写真報道部署の仕事をすべて海外に外注したりしてしまいます。
例えば、アメリカの主要大衆紙である「USA Today」の親会社であるGannettは、2013年には同社が所有する新聞社の中から合計で200名あまりを解雇し、翌年は「USA Today」のベテラン記者や編集者約70名を解雇しています。
2013年にはイギリスの経済高級紙であるFT「Financial Times」が35名の編集スタッフを解雇し、デジタル編集者に置き換えることを発表しています。
イギリスの保守系新聞である「Daily Telegraph」も、2014年にデジタル部門の編集者約50名を解雇しています。
さらに、新聞記者と同じく、なんと日本では皆のあこがれであるニュースキャスターやDJも危険職種とされていますが、これも新聞記者と同じく、インターネットの発達によりメディアの消費方法が変化していることが原因です。
■紙からデジタルメディアに転職する人が続出
アメリカの調査会社であるPew Research Centerの調査によれば、2000年と2012年を比較すると、アメリカのメディアにおける写真記者やビデオ記者の仕事は43%減少し、編集者やコーディネーターやレイアウト担当者は27%、記者や編集者は32%も減少しています。
記者の多くは、運が良ければデジタルメディアに転職したり、企業の広報に転職したりしますが、廃業後に失業してしまう人もいます。このような悲惨な状況は、新聞だけではなく、書籍や雑誌を出版する出版社も同様で、紙の媒体の需要が激減しているので、デジタルメディアに転職する人が増えています。
私はロンドンで開催される、出版業界の大規模展示会である「The London Book Fair」を毎年取材していますが、15年近く前からデジタルで出版するのが当たり前、という雰囲気であり、もはや展示ブースには紙の本を置いていない出版社も珍しくありません。
大盛況で立ち見が出るセミナーは、電子書籍を売る方法、小規模出版社がデジタルメディアで生き残る方法、Kindleで売れている本のトレンド、映画製作とのコラボレーションなど、そのほとんどが、デジタルメディアに関するものです。
業界を代表する書評家としてセミナーで話をするのは、今や、有名な作家や書評家などではなく、Booktuber(動画サイトYouTubeで書評動画を発表している人)やブロガーです。デジタルメディアを制する「素人」の方が、年配の業界人よりも影響が強いのです。
■配達人のライバルはドローン「ここ10年で求人数が激減する」
前出のランキングの2位の「木こり」は意外ですが、通信技術の発達や、グローバル化が、意外なところに影響を及ぼしています。
木材の需要は、出版や建設業界の先行きに左右されますが、通信技術の発達により、出版業界の景気が悪くなっており、紙の需要が減っているので、「木こり」の雇用が減っているのです。
さらに、技術革新により、建築業界で木材以外の材料を使うようになっています。技術革新は業務の効率を進めているので、以前よりも人が必要ではないのです。また技術革新も進んでいますが、事故のリスクが高くその割には収入が低いのです。
「風が吹けば桶屋(おけや)が儲かる」のたとえでは、風が吹くと砂埃(すなぼこり)のために目を病む人が多くなる……最終的に桶屋が儲かる、というふうになっていますが、グローバル時代においても、紙の本が売れなくなると、木こりが儲からなくなる、という連鎖が発生しているのです。
技術革新は、タクシー運転手の需要にも影響を及ぼしています。例えば、一般の人が、自家用車を使用して、他の消費者にタクシーサービスを提供することができるUberはその代表格です。
サービスが合法な国であれば、自家用車と、スマートフォンのアプリさえあれば、見知らぬ人を車に乗せてお金を稼ぐことが可能です。値段も安いので、消費者はわざわざタクシーを頼もうと思わなくなってしまいます。
また、配達人はここ10年以内に、その求人数が激減する仕事だと考えられています。現在よりもさらに多くの郵便物がデジタル化されるので、手紙の配達需要は減ります。
さらに、配達人の強敵はドローンです。受取人の住所さえ入力すれば、自動的に荷物を配送してくれるので、わざわざ人が届ける必要がありません。
ドローンによる配達は、すでに実用化されています。例えば2021年にはカリフォルニアのスタートアップであるZiplineがナイジェリアやルワンダの僻地(へきち)にコロナウイルスのワクチンをドローンで配送しています。
■コンサル会社のレポートではなく、学術研究を参考に
『The Jobs Rated Almanac: The Best Jobs and How to Get Them』(iFocus Books)のような定点観測をしている調査以外に参考にすべきなのが、多数のデータを収集して、仕事の需給や未来を予測している学術研究です。
学術研究を薦めるのには理由があります。まず、学術研究というのは、質の良い調査であれば、データの質や分析モデルを詳しく検証するので、答えありきの内容にはなっていないからです。
一般向けの書籍やビジネスコンサルティング会社が出すようなレポートは、売ってナンボなので、最初から読者が喜ぶような答えに沿ってデータをいじっていたり、そもそも、きちんとしたデータさえ使っていなかったりします。
また、売れてナンボですから、読者を扇動するような、センセーショナルな内容が書かれているため、読んで面白いかもしれませんが、その正確性や信頼性には疑問符がつきます。
学術研究の結果のほとんどは、学術論文として学会誌に掲載されるので、一般書店に並ぶことはありません。論文を読むには、学会誌を購読したり、大学図書館で読む、商用データベースで検索して読む、論文をネットで購入するという方法があります。興味のある方は、ネットで検索して普段からいろいろ読んでみるといいでしょう。
■今後20年でアメリカに存在する仕事の47%が自動化
さて、そのような学術研究はたくさんありますが、最近発表されたものの中で、仕事の未来予測をするのに役に立つのは、イギリスのオックスフォード大学の研究者であるカール・フーレイとマイケル・オズボーンが執筆した「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」という論文です。
この論文で、フーレイとオズボーンは数値モデルを設計し、様々な業種が自動化される可能性を予測しました。研究の結果は驚くべきものです。今後20年の間に、アメリカに現在存在する仕事の47%が自動化されます。
自動化される可能性が高い仕事は、床掃除や単純な経理、レジ打ちの仕事など、高い技能が要求されず、なおかつ、賃金が低い仕事です。特に自動化のリスクが高いのは、輸送、単純事務、製造業における単純作業です。
フーレイとオズボーンは、ここ10年のアメリカで最も増えている仕事は、それらの分野であるが、いずれ自動化により消えていくだろうと予測しています。
一方で、コンピューターやロボットにも限界があります。高い技能が必要ではなくても、曖昧な判断を必要とする仕事や、創造性を発揮する必要がある仕事、提示された情報を分析して判断する仕事、周囲の環境を判断して考慮するべき仕事などは、自動化することが難しいので、人間が作業しなければなりません。
例えば、デパートでの特定の顧客に対する接客、複雑な症状を抱えた認知症患者とのコミュニケーション、繊細な繊維で作られた家具の掃除、広告の企画、ユーモアのある文章の作成、料理の繊細な盛りつけ、経営判断、従業員のマネージメント、システムの企画や設計などです。
以下のサイトは、フーレイとオズボーンのモデルに沿って、各仕事が自動化される可能性が何パーセントあるかを視覚的に表現したものです。このサイトを使って、サラリーマンが一般的に行っている仕事が自動化される可能性を計算すると、図表3のようになります。
■複雑な判断が必要な仕事はロボットにはできない
フーレイとオズボーンのモデルは、AI(人工知能)の研究者たちからは、正確性を欠く、曖昧すぎると批判されていますが、コンピューターが可能なのは、ごく単純な作業だけである、という点は合っているようです。
マンチェスター大学で、人間の脳をコンピューターで再現するSpiNNakerというプロジェクトに長年取り組んでいるスティーブ・ファーバー教授が、インペリアル・カレッジのData Science Instituteが主催した「Data Science Insights」という講義で指摘したことは、複雑な判断やコミュニケーションを必要とする仕事は、しばらくはなくならないだろうという予測の裏づけになります。
私はこのセミナーに出席していましたが、参加者の多くの興味を引きつけたのは、会場のある人が質問した「AI(人工知能)は人間の仕事を奪うか」という質問でした。
教授の回答は、「そもそも、人間の脳がどのように動くかは、人工知能や神経科学者の間でもわかっていない。人工知能が何かを判断するには、コンピューターが実行できるモデルを作って、それをプログラミングしなければならない。しかし、そもそも、脳の動きが判明しておらず、モデルが設計できないので、現時点で可能なのは、ごく単純なことだけです」というものでした。
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著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。
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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
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