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「新型コロナの死亡率が6倍に」一般の医者も知らない、病気の破壊力を増幅させる"リスクファクター"

プレジデントオンライン / 2021年4月25日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oonal

患者数が2100万人を超えて糖尿病以上に多くなっている「新・国民病」がある。「慢性腎臓病(CKD)」だ。発症すると様々な病気の死亡率が平均4倍に上昇し、新型コロナをはじめウイルス感染症の悪化リスクも高まる。一度人工透析になれば、一生やめられない。「実は、人間ドックや健康診断では予兆を捉えることができないのです。働き盛り世代は一刻も早く対策が必要」と、20万人の患者を診た牧田善二医師が警鐘を鳴らす──。(第2回/全6回)

※本稿は、牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■なぜ糖尿病専門医が誰よりも腎臓病に詳しいのか?

私は糖尿病専門医ですが、単に糖尿病だけを診ているのではありません。自分の患者さんが「死なない、ぼけない」ために、あらゆる角度からフォローをしています。

糖尿病の治療にあたっては、血糖値のコントロールよりもはるかに重視しているのが合併症の腎症予防です。モットーは、「自分の患者さんを透析にだけはしない」。だから私は、腎臓内科医ではないけれど腎臓にとても詳しいのです。

私は、北海道大学医学部を卒業し、当時はまだ患者さんも少なかった糖尿病を専門に研究していく道を選びました。その当時から、「糖尿病で大事なのは合併症の腎症であり、それが治せるようになれば問題は解決する」と考えていました。

中でも、腎臓病を発症・悪化させる「AGE(エージーイー):終末糖化産物」という老化促進物質に注目し、アメリカのロックフェラー大学などで、5年間、研究に没頭しました。

■40年間、腎臓とAGE研究に没頭

その間、「絶対に不可能だ」といわれていた血中AGE値の測定に世界ではじめて成功。その研究内容について「The New England Journal of Medicine」「THE LANCET」「SCIENCE」などの一流医学誌に、第一著者として論文を掲載してきました。

以後、40年間の糖尿病専門医としての年月は、ほぼ腎臓およびAGEの研究にあててきたと言っても過言ではありません。

そんな私が、ここ数年「糖尿病の合併症に限らず、大変なことになっている」と強い危機感を抱いているのが慢性腎臓病の激増なのです。

せっかく100歳まで生きられる可能性を手にしながら、このままでは多くの人にとって夢で終わることになりかねません。

■慢性腎臓病になると重篤な病に罹りやすく、悪化しやすい

厚生労働省の発表(2019年)によれば、今、日本人の死因の第1位はがん、第2位は心疾患です。第3位老衰、第4位脳血管疾患(しっかん)、第5位肺炎、第6位誤嚥(ごえん)性肺炎、第7位不慮の事故と続いて、第8位に腎不全が入ります。腎不全とは、すなわち腎臓が機能しなくなることです。

この死亡原因の第8位という順位を、あなたはどう捉えたでしょうか。

「腎臓って、意外と重要なところにいるんだな」と感じるか、「8位ならたいしたことはないな」と思うかは、人それぞれでしょう。

しかし、8位という数字が示すよりも、慢性腎臓病ははるかにタチが悪いのです。

慢性腎臓病があると、心筋梗塞(しんきんこうそく)、脳卒中、がんなどさまざまな病気に罹(かか)りやすくなることや、その進行・悪化を早めることがわかっています。

つまり、慢性腎臓病がある人は、腎不全で亡くなる以前に、心筋梗塞や脳卒中、がんなど、ほかの病気に罹り、その病気が進行して亡くなった可能性が高いと考えられるのです。単純に表面に現れた数字だけで判断することはできません。

■新型コロナの死亡率も6倍に上昇

実際に、慢性腎臓病になると、死亡率が平均で4倍に上がることがわかっています。

この死亡率は慢性腎臓病が重症になるほど高くなり、最大で5.9倍にまでアップします。慢性腎臓病に罹ることは、治療法がわかってきたがんに罹るよりもむしろ恐ろしいといえるのです。

また、慢性腎臓病は、感染症による死亡・重症化リスクも跳(は)ね上げます。

世界中を震撼させた新型コロナウイルスの流行では、感染してもまったく症状がない人やごく軽症で済む人がいる一方で、あっという間に亡くなる人もいます。

そのリスク因子として「高齢」「持病」が指摘されましたが、持病の最たるものは慢性腎臓病でしょう。ただ、高血圧や糖尿病のように自覚できておらず、患者さんからの病名申告は実情よりも少なかったかもしれません。しかし、実は慢性腎臓病を患(わずら)っていて、それにより重症化し、命を落とした人が多いのです。

とくに、慢性腎臓病で透析を行っている人の新型コロナウイルス感染による死亡率は一般の人よりなんと6倍も高いと報告されています(第63回日本腎臓学会総会・特別シンポジウム)。

■罹るだけで病気との不利な戦いに…

また、最新の調査では、一般の人の死亡率1.9%に対し、透析患者さんの死亡率は14.2%と7倍以上の高率であることが明らかになっています(「新型コロナウイルス感染症に対する透析施設での対応について 第五報」日本透析医学会、2020.10.8)。

ちなみに、糖尿病の持病の有無について見てみると、糖尿病でない人は2.7%の死亡率なのに対し、糖尿病の人の死亡率は7.8%と大きくアップします。中でも糖尿病のコントロールがひどく悪い場合は、さらに11.0%まで死亡率が跳ね上がります(Cell Metabolism 2020;31:1068-1077)。

糖尿病の人は、そもそも合併症で腎臓を悪くしやすいこともあり、新型コロナウイルス感染で命を落とすことがないように、日頃から血糖値をコントロールしていく必要があります。

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写真=iStock.com/photo_chaz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/photo_chaz

いずれにしても、新型コロナウイルスの流行収束後も、また必ず新しい病原体が登場することでしょう。そのたびに、私たちは感染症との闘いを勝ち抜いていかねばなりません。しかし、慢性腎臓病があるだけで、とても不利な戦いを強いられる。そのことは忘れないでいてください。

■がんと同様に恐れるべき

あなたが一番、罹りたくない病気はなんでしょう。がんではありませんか?

がんが恐れられるのは、発見したときには手遅れで命が助からないケースが多いからです。だからこそ「早期発見が大切」といわれてきたのですが、普通の健康診断では、なかなかそれは叶いません。毎年きちんと健康診断を受けているのに、がんで命を落とす人があとを絶ちません。だから怖いのです。

一方で、慢性腎臓病については、まだ「余裕」を感じている人が多いのではないでしょうか。もしかしたら、「慢性」という呼び名がインパクトに欠けるのかもしれません。

しかし、だとしたらなおさら事態は深刻です。本当は、慢性腎臓病にはがんと同様に恐れる意識が必要です。

たとえば、肺の細胞に、あるとき運悪くがん細胞が発生したとします。この細胞はまず2つに、それが4つにと分裂を繰り返していきます。

その速度は非常にゆっくりとしたもので、肺のCT検査で見つけられる大きさに成長するには、20年くらいかかると考えられています。なぜなら国立がん研究センターの調べでは、なんと10~19年前にタバコをやめた人にも高率に肺がんが発生しているからです(International Journal of Cancer 2002;99:245-251)。

とっくにがん細胞自体は分裂を始めているのだけれど、見つけられない期間が最長20年近くあるわけです。

■「治せる早期」で見つけることが大事

ただし、肺のCT検査を毎年受けていれば、「命が助かる大きさ」で見つけることができます。助かる肺がんの大きさは、直径1.5センチ以下といわれています。この大きさだと、リンパ節への転移はありません。

一方で、健康診断で行われている不明瞭なレントゲン撮影に頼っていれば、「助からない」事態になります。というのも、それまでゆっくり成長していたがん細胞も、1.5センチくらいになると、その後1年で加速度的に大きくなり、リンパ節などへの転移が始まります。こうなっては“手遅れ”なのです。

要するに、私たちががんを「治せる早期」で見つけられるチャンスは限られており、そのタイミングを逃さないのがなによりも大事だということです。

■「少し腎機能が落ちてますね」は2年以内に人工透析リスク

同じことが慢性腎臓病にもいえます。

一般的な健康診断で「あなたは少し腎機能が落ちていますね」などと指摘されたときには、「少し」どころか「ひどく」進行しているケースがほとんどなのです。具体的には、2年以内に透析になる可能性が高いと考えていいでしょう。

牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)
牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)

目覚ましい進歩を遂(と)げている医療の世界にあって、こうしたことが起きるのは、腎臓病の予防と治療に関する分野が最も遅れているからです。あたかも、そこだけストンと抜け落ちたような状況なのです。

しかし、そのことにほとんどの人が気づいておらず、医師すらも理解できていないのが現状です。

そういう意味では、人々の認識が深まっているがんよりも恐ろしい病なのかもしれません。

だからこそ、慢性腎臓病と無縁ではない日頃の不調を「ありがちなこと」と看過(かんか)せず、100歳まで健康で生き抜く体をつくりあげる意識が大切です。

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牧田 善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。 2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。 著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。

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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)

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