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自己都合での退職でも「失業保険」をすぐ受け取るための3つの方法

プレジデントオンライン / 2021年4月28日 11時15分

『おっさんず六法』より - イラスト=髙栁浩太郎

自己都合の退職では失業保険は支給されない。しかし、会社側が問題を抱えていれば、支給される場合もある。ライターの松沢直樹氏と弁護士の山岸純氏は「残業やセクハラなど、会社の違法行為を証明できれば待期期間なしで失業保険を受け取ることができる」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、松沢直樹、山岸純(監修)『おっさんず六法』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■そもそも従業員に残業させることは違法

この法律で身を守れ!
【労働基準法第36条】
時間外および休日労働についての規定
【自殺対策基本法第4条】
国や自治体が決めた働きすぎによる自殺防止対策に対して、会社経営者が協力する義務を定める
【労働安全衛生法第66条の8第1項】
残業が多い労働者のうち、希望者に対して医師の面接を行わせる義務を定める

──今の会社は待遇がよく満足している。だけど、あまりにも残業が多くて身体がツライ。月に200時間は残業していて、うつ病を発症しないか心配だ……。

よくある話だが、そもそも残業は違法だということはご存じだろうか? 労働基準法第36条では、週に40時間を超えて働かせることを禁止しているが、ほとんどの会社は従業員に残業を強いているのが実情だろう。上記のように奴隷に近い長時間労働を強いている企業だって少なくない。

これにはカラクリがある。従業員の代表者として選任された社員が残業することに合意した書類を労働基準監督署に提出すると、残業が可能になるのだ。これは、労働基準法第36条の規定が根拠となるので、「36(さぶろく)協定」という。会社が偽造すれすれでこの書類を提出しているケースも多い。

とはいえ、2019年4月1日からは長時間残業に対して厳しい罰則が設けられることとなった(中小企業は2020年4月1日から)。残業が許可された場合でも、以下の条件を超える場合は、違法として処罰される。

・時間外労働が年間360時間以内
・1年を通じて、毎月の時間外労働と休日労働が100時間未満
・1年を通じて、常に時間外労働と休日労働の合計について「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」がすべて1月当たり80時間以内
・時間外労働が月45時間を超える月が、年間通して6カ月以内

これを超える残業をさせられているなら、社外へ助けを求めてほしい。タイムカードのコピーを取り、労働基準監督署に訴えるもよし、弁護士や労働組合を使って残業減を約束させるのもよいだろう。

■長時間労働は重篤な病気になるリスクがある

そもそも残業を規制するのは、長時間労働が続くと、心疾患などの重篤な病気にかかることが科学的に証明されたからだ。そのため、残業規制以外にもいくつもの縛りがある。

会議
写真=iStock.com/YinYang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YinYang

代表的なのが、労働安全衛生法と自殺対策基本法だ。労働安全衛生法は、有害な化学物質を扱ったりする仕事に従事する労働者を保護するために幾度も見直されてきた。もちろん、一般的なサラリーマンにも心身の健康を保つための考慮がなされている。中性脂肪とコレステロール値のチェックで、年一回お世話になる職場の健康診断もその恩恵のひとつだ。

長時間労働については、労働安全衛生法第66条の8第1項に規定がある。時間外・休日労働が月当たり80時間を超える労働者が希望した場合、医師の面接を受けさせる義務を定めているのだ。

また、自殺対策基本法第4条では、長時間労働などの影響から自死に至る労働者の歯止めをかけるため、会社経営者は国や自治体の方針に従わなければならないことが決められている。

悲しいことに、疲労が蓄積し、長時間労働が常態化してくると疑問を感じなくなるどころか、自分を責めるようになる人が多い。仕事への責任感の強さには敬意を表したいが、それでも限界はある。

最近自分を責めがちだと思ったら、自分の思考を疑い、医師や法律家などに助けを求める勇気を持ってほしい。目安としては、仕事のことで「No!」と言えるかだと思う。

会社は、ひとりくらい持ち場を離れても回るようにできているし、そうでなければいけないのだ。ここは、勇気を持って、自分の心身の限界を周囲に告げる勇気を持っていただきたい。

■タフな人であっても精神疾患を発症する可能性はある

困ったことに、メンタルがやられる一歩前の状態の人は、はたから見て、とても元気に見えることが多い。そのため、悪意なく仕事を振ってしまうことがあるかもしれない。

管理職はもちろんだが、それ以外の人も、出勤簿などをチェックし、過重労働になっている人は意図的に休んでもらうことを忘れないでほしい。また、えてして産業医の診察を拒む人も多いので、法律で定められた労働時間を超えるなら、医師の診察を受けさせたほうがよいだろう。

過労からメンタルがやられると、最悪自死に至るケースもある。悪意なく仕事を振っただけで自死させてしまい、遺族から損害賠償を起こされることもあり得る。また、そこまで同僚や部下が追い詰められていたことに気づかないまま仕事を振り、自分が追い詰めてしまったと長い期間、良心に責められ続けることにもなりかねない。

精神疾患は特定の人がかかる病ではない。屈強な人、タフを自認する人でも発症する。生活の糧を得る場所で命を落とすなど、それこそ本末転倒もいいところだ。職場全体が不幸になりかねない。皆で理解を深めあい、予防していくことがきわめて重要だ。

ここがPOINT!
・メンタルや身体を壊す原因となる長時間残業・休日出勤は、厳しく規制されている
・時間外・休日労働が月80時間を超える者が希望した場合、企業は医師の面談を受けさせなければならない
・長時間労働や精神的なストレスから、メンタルの不調や自死に至る深刻な状態を避けるために、自殺対策基本法ができ、会社側は国や自治体の指導に従う義務が明記された

■所定の残業時間を超えている場合は雇用保険がすぐに支払われる

この法律で身を守れ!
【雇用保険法】
退職や、会社倒産などで離職した労働者の生活を金銭面でサポートする
【労働基準法第36条】
残業の可否や上限を定める

会社を辞めてカネをもらう方法がある。そう、雇用保険だ。突然の会社倒産や、退職後、次の仕事が決まらない場合に労働者を支える保険制度のことで、またの名を失業保険(失業手当)という。

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写真=iStock.com/Motortion
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Motortion

本来、やむを得ぬ事情によって仕事を失った場合を想定した保険であることから、自発的に会社を辞めた労働者には、給付金は退職後すぐには支給されないことになっている。早く次の仕事を探してもらうためだ。具体的には、ハローワークに求職の申し込みをした日から7日+3カ月が経過した時点で次の仕事が決まっていない場合、給付金が支給される。

だが、自発的に会社を辞めたとしても、ハローワークへの求職申し込みの7日後から給付金が支給される例外がある。

それこそが、残業がきつくて辞めた場合である。

そもそも、残業自体が労働者全員が合意した場合でないと行わせることはできない(労働基準法第36条)。また、社員全員が残業することに合意したとしても、労働者の健康を守るため、残業時間の上限が定められている。

つまり、上限時間を上回る残業をさせられている場合には、自発的な退職であっても会社の違法行為から自分の身を守るために辞めざるを得なかったとみなされ、退職後すぐに雇用保険の給付金が支給されるのだ。

退職前6カ月間のうち、以下のいずれかに該当する場合に適用される。

・連続3カ月以上、月当たり45時間以上の残業をしていた場合
・連続する2カ月から6カ月のうち、平均して月当たり80時間を超える残業が発生していた場合
・6カ月のうち、いずれかの月で100時間以上の残業があった場合

■給料の遅配、セクハラ、いやがらせがあれば雇用保険がすぐおりる

残業時間の上限を超えている場合、自主的に退職しても3カ月のインターバルなしで雇用保険の給付金が支給されるのは、会社の違法行為から自分の身を守るためにやむを得ない退職だと認められるためだ。

残業の法定上限を超えていなくても、すぐに雇用保険の給付金がおりる場合がある。それは以下のような場合である。

・入社してみると、雇用契約締結前に見せられた働く条件と著しい違いがあった(絶対的明示事項違反)
・給料の支払額が、雇用契約書で約束した金額の85パーセント以下だった
・給料の1/3を超える金額が、給料日までに支払われなかった
・妊娠中の休暇や、介護休暇中に、不当に働かされた。また、働くことを希望したのに、不当に制限された
・セクハラを受けたものの、会社側が解決しようとしなかった
・職場全体ないし、一部の人から嫌がらせを受けたが、会社が解決しようとしなかった

なかには、これらのトラブルで泣く泣く会社から脱出したにもかかわらず、雇用保険を即受給する手続きをしなかった人もいるかもしれない。法律さえ知っていれば、口惜しいかな、実はカネの面では命綱がつくようになっていたのだ。ちなみに、雇用保険の給付金は、所得税が一切いかからない。

また、ハローワークへの求職申し込みにあわせて最寄りの自治体に国民健康保険料の免除・猶予を申し込み、可能なら生活困窮者自立支援法に基づいたサポートを受けると、さらに金銭面の不安が軽減される。

■会社の違法行為を証明できれば支給期間を延長できる

さらに驚くべき裏ワザがある。雇用保険の給付期間を延長できるのだ。たとえば、勤続20年、45歳のあなたが自主的に退職したとしよう。この場合、雇用保険の給付金が支給されるのは90日~150日間である。

松沢直樹、山岸純(監修)『おっさんず六法』(飛鳥新社)
松沢直樹、山岸純(監修)『おっさんず六法』(飛鳥新社)

ところが、裏ワザを使って退職した場合、雇用保険の給付金支給期間が90日から~330日となる。支給期間が2倍以上になる可能性があるのだ。

注意すべき点を上げるとすれば、ハローワークも役所である。法的な証拠をきちんとそろえて、こちらから申請しなければ対応はしてもらえないところだ。

ポイントは、会社が違法行為を行っていて、すでに法的になんらかの処罰を受けていると証明すること。たとえば残業時間の超過やその他の会社の違法行為が原因で会社を辞めるのであれば、退職届を出す前に会社の所在地を管轄している労働基準監督署に相談したほうがよい。

そのうえで、労働基準監督署から受け取った書類を添付して、ハローワークの雇用保険適用課へ雇用保険の給付申請を行う。これが支給開始時期の変更と、給付期間の延長を認めさせるための裏ワザだ。

場合によっては雇用保険受給中に、労働基準監督署が会社に残業代を支払うよう命令してくれて、さらに懐があたたまることもある。

ここがPOINT!
・雇用保険の支給開始は、自主退職の場合ハローワークへの求職申し込み後7日+3カ月後
・自主退職であっても、会社の違法行為が原因であれば、退職後すぐに雇用保険が給付される
・会社の違法行為が原因で自主的に退職した場合は雇用保険の支給開始が早くなるだけでなく、支給期間が2倍以上に延長されることも

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松沢 直樹(まつざわ ・なおき)
フリーライター
1968年生まれ。福岡県北九州市出身。SEや航空会社職員を経て、1994年よりライターとして活動を開始。労働組合「インディユニオン」の執行副委員長として、組合員のあらゆる法律トラブルを解決に導いてきた豊富な経験をもとに、WEBや雑誌で積極的に発信している人権派ライター。著書に『うちの職場は隠れブラックかも』(三五館)などがある。

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山岸 純(やまぎし・じゅん)
弁護士
1978年生まれ。福島県原町市出身。2001年に早稲田大学法学部を卒業し、2003年に旧司法試験合格。多くの後輩弁護士を育成した後、2020年に山岸純法律事務所を開設。時事ネタの解説に定評があり、WEBサイト「Business Journal」などで活躍中。

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(フリーライター 松沢 直樹、弁護士 山岸 純)

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