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お金持ちで家族がいても「孤独死する人」が根本的に欠いている"あるもの"

プレジデントオンライン / 2021年5月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LSOphoto

お金持ちで家族がいても「孤独死」する人がいる。一方で、おひとりさまでお金がなくても幸せな老後をすごせる人がいる。いったいどこに違いがあるのか。評論家の真鍋厚さんは「良好な人間関係を築く能力、つまりコミュニケーション能力によってその差が生じる」という――。

■家族がいても孤独や孤立のリスクは付きまとう

最近、コロナ禍での若者や女性の孤立が話題になることが多くなりました。日本でもイギリスに続いて「孤独・孤立対策担当大臣」が設けられ、自殺防止や高齢者の見守り、子どもの貧困といった問題に取り組むことになっています。

しかし、ここで決して見落としてはならないのは、家族やパートナーなどの有無にかかわらず、孤独や孤立のリスクは付きまとうという事実です(ざっくり説明すると、孤独は主観的な感じ方、孤立は客観的な指標として用いられる傾向があります)。

結婚していて子どもがいても友人が一人もおらず、強い孤独感を抱えている人もいれば、独身だけど多様な人間関係を持ち、独自にコミュニティーを作っている人もいるからです。また、相変わらず結婚すれば孤立せずに済むといった言説が多いですが、誰しも離死別をきっかけにシングルになる可能性は避けられません。

つまり、予防的観点から見て重要なファクターになってくるのは、「自分にとって最適な関係性を構築できる能力」だといえるのです。

■友人の「数」は重要ではない

人を健康で幸福にする要因について長期間追跡した「ハーバード成人発達研究」という有名な研究があります。研究責任者で精神科医のロバート・ウォールディンガーは、「私たちを健康に幸福にするのは、良い人間関係に尽きる」と主張しました。そして「ここで重大な事は、友人の数だけがものをいうのではなく、生涯を共にする相手の有無でもない」と言い、「重要なのは身近な人達との関係の質」であると結論付けました(ロバート・ウォールディンガー『人生を幸せにするのは何? 最も長期に渡る幸福の研究から』TED)。

言い換えれば、生活を共にする家族やパートナーの存在、友人の数は畢竟、決定的な要素ではないということです。「生活の質」(quality of life)ならぬ「関係の質」(quality of relationships)だというわけです。

確かに、人によって人間関係の快不快は、相性だけでなく、多寡(会う頻度)や濃淡(浅いか深いか)にもかなり左右されます。例えば恋人と毎日一緒にいたい人もいれば、月に1回で十分、あるいは恋人という固定的な関係も不要という人もいるわけで、本人がどう感じているかに依存するからです。つまり一般化しづらいのです。

■友達をつくるのにも「能力」がいる

では、その良好な人間関係はどうやって構築できるのか。経済的な基盤(収入や資産があるか)や文化的なリソース(趣味や教養があるか)は、完全には無視できない要素ではありますが、最も大きいのはコミュニケーション能力といえるでしょう。コミュ力がなければ最低限の人間関係を営むことも困難だからです。よく「友達なんて自然にできるものだ」と話す人がいますが、その自然は後天的に得られたものであることに注意が必要です。

これは近年、社会学の分野で使われている「感情資本」という概念が参考になります。感情資本は、一言で言えば、自己の感情をうまくコントロールできる能力のことであり、他者とのコミュニケーションが発生する場面では、絶えず抑制や同調といった感情の調整が求められるものです。

これは、ちょっとしたあいさつから、相手の気持ちをくんだ根回しに至るまで、どこにでも付いて回ります。ビジネスにおいてもプライベートにおいても、それに長(た)けた人々がさまざまな恩恵を享受しています。

感情資本とは、文化資本のひとつである身体的資本として、感情管理の特定のスタイルを「自然に」身につけた人間が、より有利な社会的位置を「個人的に」獲得するかにみえるような事態を招くものである。(『希望の社会学 我々は何者か、我々はどこへ行くのか』山岸健・浜日出夫・草柳千早編、三和書籍)

■婚活や就活における「好印象」の正体

それは、資産や身分とまったく同様に個人差があり、生育歴なども絡んでスタートラインに有利不利があります。要はその能力が備わっている人ほど、自分にとって最適な関係性を作ることや、「関係の質」を高めることが容易にできるからです。

婚活や就活が非常に分かりやすいでしょう。面談や面接において相手から「好印象の人物に見え」なければ選ばれることがありません。この「好印象」とは、通常要求されるコミュニケーションの作法や、感情の表出を含む自己表現といった所作をクリアしていることが暗黙の前提です。

よく新入社員が辞めたときに「あいつ微妙だった」とか「あの態度はない」といった決まり文句で語られることがありますが、これは「感情の働き」が重要な能力として指標化されていることの表れといえます。一昔前にブームになったEQ(心の知能指数)が典型ですが、アタマではなくココロの作動が焦点化されているのです。

■上野千鶴子とヒロシの共通点

累計100万部を超える『おひとりさまの老後』シリーズで知られる社会学者の上野千鶴子さんは、いわば優雅なおひとりさまの代名詞になっていますが、その秘訣(ひけつ)として友人関係の重要性を説いています。

「老後のおひとりさまを支えてくれるのは、『このひとイノチ』という運命的な関係よりは、日々の暮らしを豊かにしてくれるゆるやかな友人のネットワーク」(『男おひとりさま道』文春文庫)というわけです。ここでも「関係の質」が必須条件になっています。これは裏を返せばコミュ力のない者は淘汰(とうた)される事態を意味しています。

もう1つ例を挙げましょう。お笑いタレントでYouTuberのヒロシさんです。メディアでは彼女も友達もゼロという面ばかり強調されることが多いのですが、『ひとりで生きていく』(廣済堂出版)を読むと「僕はソロキャンプをする者同士で集う『焚火(たきび)会』に参加している」と言い、「共通の趣味と話題を通じたゆるい人間関係を築いていこう」と書いています。

これもその輪の中に入って馴染(なじ)むためには基礎的なコミュ力が要求されます。また、どんなゆるい関係性もウチとソトがあり事前に選別されている場合が大半です。

■「孤独格差社会」における勝ち組はコミュ力が高い

これは、ソロ・非ソロを問わず、自分にとって良好な人間関係を確保し、うまく維持していける積極的孤独(神学者のパウル・ティリッヒの言葉を借りれば、「ひとりきりでいるという恵み」)に生きる勝ち組と、良好な人間関係を築ける見込みがなく、常にあっぷあっぷしている消極的孤独(ひとりきりでいる苦痛)に生きる負け組に、いやが応でもグラデーション分けされてしまう「孤独格差社会」と呼べるものです。

なぜなら能力主義と同じく良好な人間関係は、自らの手で作り上げるしかないからです。労働市場や恋愛市場におけるすさまじい生存競争の延長線上にあり、相手につながりを持ちたいと思わせられるかという当人のコミュ力にかかっているのです。

■コミュ力がない人は「孤独死予備軍」である

先に紹介したウォールディンガーは、人間関係は複雑に込み入っているものであり、「家族や友達との関係をうまく維持して行くのは至難の業」とご丁寧に付言してくれています。さらに言えば、広く浅い関係性であっても、それを複数持つことができるのもまた才能であり、それなりの時間も余裕も必要になってきます。

これはやはり公共政策でどうにかなる問題には思えない一方で、すべてを自己責任に帰する風潮と相まって、社会的孤立までが放置される危険性があることも見過ごせません。実際、コミュ力や感情資本が乏しいと、最悪の場合、孤独死予備軍の仲間入りをする可能性があります。

夜道を一人で歩く影
写真=iStock.com/AlexLinch
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexLinch

2018年に英誌エコノミストなどが日米英3カ国を対象に行った「孤独」に関する意識調査では、「孤独は自己責任」と考える人が日本で44%に上り、米の23%、英の11%に比べて多いことが分かっています。前述のようにコミュ力や感情資本には個人差がありますが、可視化されにくいこともあってその事実は軽視されがちです。それで仮に自殺してしまったり孤独死したりしてしまっても仕方がないというわけです。

「孤独格差社会」の悪夢とは、資産とみなされない資産=関係資本によって個々の健康や幸福が天と地ほど開いていくことです。そしてその真実が驚くほど意識されない、大っぴらに議論されない不穏な世界なのです。

ソロも非ソロもすべての関係性をDIYでこなさなければならないことを熟知し、適切にメンテナンスできる者だけが健康や幸福を高めることができるのです。新しくてかつ終わりのない過酷なゲームの幕開けといえます。

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真鍋 厚(まなべ・あつし)
評論家、著述家
1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。

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(評論家、著述家 真鍋 厚)

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