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「一流の専門家のはずなのに」なぜ大学教授の話はわかりづらく感じるのか

プレジデントオンライン / 2021年5月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat

なぜ予備校講師の講義はわかりやすいのか。元駿台予備学校講師の犬塚壮志さんは「自分が詳しいことほど相手の理解度とギャップが生まれる。学力と説明力は別次元のものだと考えたほうがいい」という――。

■学力と説明力は別次元のもの

中学生や高校生の頃、テレビニュースを観ていて、「なんで、学者の人の話はこうもわかりにくいんだろう? この人、すごく頭いいはずなのに……」――よくそう思っていました。

しかし、いざ自分が予備校で教える立場になってみると、恥ずかしい話、生徒に飽きられたり、寝られてしまったりしたことは何度もありました。

もっとも始末が悪かったのは、講義に生徒が来なくなってしまったことです。これを業界用語で「授業を切る」といいます。塾や予備校の講師が生徒に授業を切られたらおしまいです。

「この先生の講義を聴いても時間のムダだ」――そう思われてしまったということです。自分自身の知識レベルや理解度がある水準に達しているからといって、それだけで相手にしっかりわかってもらえる説明ができるというわけではないことを痛感しました。

相手にしっかり理解してもらうための説明ができるというのは、自分の学力と別次元であるということをその経験から学んだのです。

■ベテランほど「説明のワナ」に陥りやすい

これは、ある予備校のベテラン講師から聞いた話です。

その方が言うには、「自身の知識や理解度が未熟なときのほうが、生徒の気持ちがわかった」と。年齢を重ねていくうちにご自身の知識や理解度が増して、「逆に、生徒が何がわからないのかが、だんだんわからなくなってきた」と話されていました。

私は、その先生の学力レベルには到達していないのですが、40歳を過ぎてその感覚がなんとなくわかってきました。

要は、自分の知識や理解度が上がれば上がるほど、相手のレベルから遠ざかってしまい、より一層のレベルのギャップができてしまうのです(図表1)。

『神わかり!頭のいい説明力』
『神わかり!頭のいい説明力』(PHP研究所)より

ただ、自分の知識や理解度のレベルが上がっていくことは決して悪いことではありません。むしろ率先して行っていくべきであり、大切なのは、そこで生まれてしまったギャップをどう埋めていくかなのです。

わかりにくい説明を解消する「たった1つのルール」

このように、自分と相手の知識や理解度にギャップがあるとき、説明によって解消するための必要条件とはなんでしょうか?

それは、1つしかありません。“理解の階段”と私が呼んでいるものがあります(図表2)。

『神わかり!頭のいい説明力』
『神わかり!頭のいい説明力』(PHP研究所)より

説明する人はその“理解の階段”をつくることが絶対に必要となります。この理解の階段を自在にコントロールすることができれば、聴き手の満足度は一気に高まります。

私の場合は、“理解の階段”を徹底的に意識したことで、約3カ月で受講生の数が倍となるなど、支持者が一気に増えました。

それでは“理解の階段”とは、具体的にどんなものでしょうか。

■理解度のギャップを埋めるにはステップを刻む

「風が吹けば桶屋が儲かる」という俗諺(ぞくげん)を聞いたことがありますか? これは、2つの物事の間の原因と結果を探っていくときによく喩えで使われるものです。

ただ、このフレーズを一度も聞いたことがないという人は、「風が吹いたら、なんで桶屋が儲かるんだ?」――そう思ってしまいますよね。

つまり、「風が吹くこと」と「桶屋が儲かること」の“つながり”がまったくみえないのです。

これを次のように説明したらどうでしょうか。

[説明例]
「風が吹けば桶屋が儲かる」というのは、次の7つのステップで考えると、このつながりがみえてきます。
Step1:風が吹くと土ぼこりが立ちます
Step2:土ぼこりが目に入って、視力の悪くなる人が増えます
Step3:視力の悪くなった人は三味線を買います(当時、視力の悪い人が就ける職業に由来)
Step4:三味線の素材となるネコの皮が足りなくなり、ネコの捕獲が行われます
Step5:ネコが減れば、ネズミが増えます
Step6:ネズミが増えれば、桶がかじられます
Step7:桶がこわれることで、桶の需要が増え、桶屋が儲かります

このように、「風が吹くこと」と「桶屋が儲かること」の間にいくつかのステップを刻んであげることで、その「つながり」がみえてくるのです。

この「つながり」をつくるテクニックが、“理解の階段”をつくる説明スキルとなります。

■“理解の階段”を作るためには「初心にかえる」

なお、“理解の階段”をつくる上で気をつけなければならないのが、その段差です。図表3にあるように、あなたとその相手の間に知識や理解度に大きなギャップがあればあるほど、できるだけ1段ごとの段差を小さくします。

この段差を小さくするコツとして、話し手である自分自身が説明内容の知識やスキルを習得したときのことを思い出します。当時の自分がどのように階段を上がっていったのか、どこでつまずいてしまったのか、自分の記憶をたどるのです。ビデオを巻き戻して、初めから再生する感覚です。

まさに「初心にかえる」というやつです。逆に、この段差が大きく、段数が少ないとき、相手はなかなか理解してくれません。

『神わかり!頭のいい説明力』
『神わかり!頭のいい説明力』(PHP研究所)より

■同質性の高い人たちとばかり会話する弊害

また、学者の方の話がわかりにくくなる原因の一つに、「普段コミュニケーションをとる人が専門性の高い人に偏っている」というがあります。

私自身も現在大学院で研究をしているのでよくわかるのですが、研究をメインとしている学者の方は、専門家どうしでの会話が多く、専門書や研究論文に触れている時間も長いので、どうしても普段使いの用語や考え方の専門性が高度になってしまうのです。結果として、テレビや講演会で一般の人に向けて話をしようとすると、難しくて伝わらないということが起こってしまうのです。

これは学者の方に限らず、専門性が高く、普段のコミュニケーションが外界から閉ざされやすい業種の方にも当てはまります。

■あえて専門外の人とのコミュニケーションを増やす

これをクリアする手段として有効なのが、「自分の専門分野を、あえて専門外の人に話してみる機会をもつ」ということです。家族でもいいですし、異業種流会で知り合った人でもかまいません。自身の専門分野を、その道に詳しくない素人の方と積極的にコミュニケーションをとるのです。

『神わかり! 頭のいい説明力』(PHP研究所)
『神わかり! 頭のいい説明力』(PHP研究所)

そうすることで、自分の普段使っている用語や、当たり前に感じている考え方は、「いかに専門性が高いものなのか」ということに気づくことができます。言い換えると、自分はいつも段差の大きい階段を駆け足で上がることができていて、専門外の人には、それがいかに難しいことなのかを実感することができるのです。

このようなコミュニケーションの機会を増やすことで、専門外の人の視点を持てるようになるので、“理解の階段”の段差を小さく刻もうという意識が強くなるのです。

「わかってもらう」とは、聞き手のためにこの“理解の階段”を素早く精巧に作る作業ともいえます。聞き手ができるだけ理解しやすい、つまり“理解の階段”をいかに上りやすい段差に設計するか。そこが説明力の核心ともいえるのです。

ぜひ聞き手のために、この“理解の階段”を意識的に作ってみてください。

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犬塚 壮志(いぬつか・まさし)
教育コンテンツ・プロデューサー
福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。士教育代表取締役。大学在学中から受験指導に従事し、駿台予備学校の採用試験に25才で合格(当時、最年少)。駿台予備学校時代に開発したオリジナル講座は、3000人以上を動員する超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となった(映像講義除く)。2017年に社会人向けビジネスセミナーの開発や講座デザイン、テキスト作成などを請け負う事業を興す。企業向け研修講師としても登壇。現在は東京大学大学院で「認知科学」をベースとした研究も行う。主な著書に、『頭のいい説明は型で決まる』(PHP研究所)、『理系読書−読書効率を最大化する超合理化サイクル』(ダイヤモンド社)、『神わかり! 頭のいい説明力』(PHP研究所)などがある。

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(教育コンテンツ・プロデューサー 犬塚 壮志)

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