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楽天、三井物産、東京電力…「中国色を消すのがうまい」テンセントの長い手が狙うモノ

プレジデントオンライン / 2021年5月2日 9時15分

中国の改革開放40周年記念式典で表彰され笑顔を見せるアリババの馬雲会長(中段右)とテンセントの馬化騰会長(同中央)=2018年12月18日、北京の人民大会堂 - 写真=時事通信フォト

■米政府の「中国締め出し」は、バイデン政権でより強硬に

「通信という国家安全保障のなかで最も重要な部分に、あっさり中国資本が入ってしまったのは正直ショックだ」。中国ネット大手の騰訊控股(テンセント)子会社が楽天へ3.65%出資した事態に、自民党の幹部たちは一様に頭を抱える。

1年前に外為法を改正し、外国人投資家が安全保障上重要な企業に出資する場合、事前審査基準を従来の持ち株比率で「10%以上」から「1%以上」に厳格化した。中国への機微情報や技術流出を警戒するトランプ前米大統領が昨年8月にテンセントや子会社と米企業・個人の取引を禁じる大統領令に署名したのに合わせた措置だった。

バイデン政権になっても米政府による中国締め出しの姿勢は変わらない。むしろ、中国に対する姿勢は強硬になった。

4月に入り、バイデン政権は米国内の民間企業に対し、中国製IT(情報技術)機器やサービスの利用を規制するルールを制定した。米国はこれまでも中国を対象としたハイテク規制を打ち出しているが、新たな規制では規制対象の企業を拡大した。

■楽天出資でも米大使館がすぐにNSSなどへ問い合わせ

これまで政府調達の禁止対象になっていた通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)など5社に加えて、米商務省が「外国の敵対者」として挙げる中国、ロシア、北朝鮮、イラン、ベネズエラ、キューバの6カ国の企業が対象になった。対象は広がったが、あくまでも主眼は中国企業だ。

これは米国内で活動する民間企業にも影響が出る。これまでは連邦政府と取引のある米国企業に中国5社の製品を使うのを禁じていたが、新たな規制は政府取引の有無にかかわらず、米国内で活動する企業に対して中国製品の使用を制限する。

さらに対象となる品目数も拡大。今回は通信網や重要なインフラに使う機器、ソフトウエアなどにも対象を広げた。例示されたものとしては個人情報を扱うサービスのほか、監視カメラやセンサー、ドローン(無人機)といった監視システムも含めた。人工知能(AI)や量子コンピューターなどの新興技術も対象だ。

楽天出資の件も、発表が伝わるとすぐに米大使館が日本の国家安全保障局(NSS)や財務省、事業官庁の総務省、経済産業省に、外為法上の取り扱いを問い合わせるなどあわただしく動いた。

■「純投資というテンセントの説明は完全には解せない」

菅政権発足後初の日米首脳会談を控えていた首相官邸も焦った。テンセント子会社による出資は「アメリカから疑問をなげかけられる」との見方が広がり、首相官邸で開いた首相補佐官による会議では、首相の訪米前の懸案として議題に上げ、対応策を練った。

結局、日本政府は外為法にのっとり、日米両政府で楽天グループを共同で監視するとのことでその場を収めたが、政府からの監視が強まるとの報道を受けた楽天の株価は、4月21日、前日比55円(4.1%)安の1278円まで売り込まれた。

日米政府が中国企業の自国への投資について監視を強める中で、テンセントがいとも簡単に楽天に出資できたのはテンセントの投資目的が「純投資」とされていたからだ。

テンセントシーフロントタワー
写真=iStock.com/Yijing Liu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yijing Liu

日本政府は改正外為法の制定にあたり「日本への海外からの投資の流れを阻害しないようにする」(経済産業省幹部)との観点から幅広い免除基準を設けた。「非公開の技術情報にアクセスしない」「自ら役員に就任しない」などの条件を満たす場合は、事前届け出を免除することにした。

免除基準に該当するかどうかは自己申告で、順守を誓約して事後報告すればよい。「純投資というテンセントの説明は完全には解せない」(日本政府関係者)との声はくすぶるが、制度上は認めざるをえない。

■「テンセントは表向きゲーム配信企業という形で入っていく」

米国では財務省や国防総省、エネルギー省から専門人材を集めた常設の対米外国投資委員会(CFIUS)がある。脅威が大きい企業には事後的に株式の売却命令を出すなど強権を振るう。非公式の事前相談も定着しており、一定規模以上の外資出資のほとんどはCFIUSとの調整が必要となる。投資の「日本離れ」を懸念するばかりに、強権を振るうのに二の足を踏む日本とは対照的だ。

テンセントの「長い手」は楽天だけではない。幅広い事業を手がける大手商社の三井物産や、日本のエネルギーの根幹を担う東京電力とも提携している。

NTTグループの幹部は「テンセントは表向きゲーム配信企業という形で相手国に入っていく。地元企業にうまく入り込んで中国色を消すのがうまい」という。三井物産と最初の関係を持ったのもテンセントが出資する中国の動画配信サービスを手掛ける「闘魚(ドウユウ)」を運営する武漢闘魚網絡科技を通じてだ。

■俳優やお笑い芸人が参加するゲームで、日本に浸透していく

ドウユウはeスポーツを中心に中国で月間1億5000万人が視聴する同国最大のライブ動画配信サービスを手掛ける。コロナ禍で劇場が閉鎖される中で、出演機会が減った俳優やお笑い芸人がゲームに参加し、その模様をを配信して「投げ銭」などを実施するなど、日本での浸透を深めている。テンセントとの提携もドウユウとの協業を通じて培った関係から三井物産が応じたという。三井物産としても中国の12億人が登録するSNS「微信(ウィーチャット)」にアクセスできるのは魅力だ。

三井物産との提携はゲーム事業をきっかけに進出先の企業と提携や出資を繰り返して現地に浸透していくテンセントの「帝国」拡大の典型的なやり方だ。

テンセントは「ウィーチャット」を核に、ニュース、音楽配信、決済の「ウィーチャットペイ」を押さえ、基盤となるインフラとしてクラウドサービスを持っている。ウィーチャットのアプリ上で動いて機能を強化できるミニアプリは17年に開始。京東集団(JDドットコム)、出前アプリの美団にも出資し、電子取引機能を強化する一方、産業用途でも車載基本ソフト(OS)開発、人工知能(AI)、スマートシティーと連動したシステム開発、配車や地図サービスなど出資・提携を軸にさまざまな分野に拡大している。

決済やSNS、飲食や配車などあらゆるサービスをアプリ1つにまとめる「スーパーアプリ化」の戦略はアジアを中心に広がっている。特に日本では中核企業への食い込みが目立つ。

WeChat
写真=iStock.com/stockcam
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockcam

■東電の抱える個人や企業の情報は筒抜けになる恐れ

三井物産以外にも東京電力とも「ウィーチャット」で電気やガスの申し込みや料金の決済などができるサービスで提携した。東電の小売子会社である東電EP傘下で割安に電気を販売している新電力PinTを通じて中国人向けを対象としているが「契約者を装ってシステムに入り込めば、東電の抱える個人や企業の情報は筒抜けになる」(経産省幹部)恐れがある。

三井物産や東電との提携も「訪日客への激減や電力自由化で苦戦する両社の懐にうまく入り込んで事業を拡大していくやり方はさすがだ」(同)と指摘する。そして、ついには通信大手入りを目指す楽天にまで入り込んだ。

中国のスパイ活動といえば、もっぱら宇宙航空研究開発機構(JAXA)や三菱電機、NEC、神戸製鋼所など防衛や航空関連企業を中心にした「軍事面」での動きに関心が集まりがちだ。その背後には中国のハッカー集団「Tick」の存在があるといわれたり、JAXAにサイバー攻撃を仕掛けたハッカーは中国共産党員ともいわれている。Tickには日本などを標的にした中国軍のサイバー攻撃専門組織「61419部隊」が指示を出していた可能性が高いとされ、そこには軍と共産党という中国の最高権力を担う人物が背後に潜んでいるとされる。こうした動きは警視庁公安部もつかんでいる。

しかし、こうした軍や共産党が絡む軍事面のスパイ活動という伝統的なやり口に加え、最近ではSNSを使ってさまざまな情報を「入手」する手口も増えている。

■身近な通信ツールから、企業や国家の機微情報が漏れるリスク

大阪地検は3月に自社技術の機密情報を中国企業に漏らしたとして、積水化学工業の元社員を不正競争防止法違反罪で在宅起訴した。その元社員は情報をビジネス向けのSNS「リンクトイン」で漏洩していた。中国企業はスマートフォンの液晶画面に使われる「導電性微粒子」という素材をめぐり、リンクトイン経由でこの元社員に接触し、国際電話やメールなどでやり取りを重ねた後に中国に複数回招いていたとされる。

トランプ前米大統領がアリババグループが提供するスマホ決済アプリ「支付宝(アリペイ)」やウィーチャットの決済機能、その前には動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」とウィーチャットを禁じる大統領令に署名したのも、こうした身近な通信ツールからいとも簡単に企業や国家の機微情報が漏れる危険があるとの警戒しているからだ。

今回、テンセントの楽天への出資も「純投資」とされ、三井物産も「顧客の個人情報を管理するサーバーは日本国内にある」として中国への情報漏洩はないとしている。ただ、テンセントはゲーム配信やウィーチャットなどで取得した情報を蓄積するデータセンターを国内に持ち、その規模は日増しに大きくなっている。

日頃、家庭や職場で情報交換や決済、ゲーム、出前や配車などで何気なく使うスマホを通じて、テンセント経由で中国に情報が筒抜けになる。「スパイ天国」と言われてひさしい日本が、連携する欧米諸国から後ろ指をさされないためにも、さらなる対応が求められる。

(プレジデントオンライン編集部)

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