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日本経済のためにはペットボトルよりアルミ缶を買ったほうがいいワケ

プレジデントオンライン / 2021年5月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/spawns

■ペットボトル廃止と菅首相の発言の「つながり」

「無印良品」が4月23日から全ての飲料の容器をアルミ缶に変えています。ペットボトルを全廃してあえてコストの高いアルミ缶に変えたのです。これに伴い、容量も少なくなりました。たとえば「ノンカフェイン グリーンルイボスティー」なら、ペットボトルでは500ml(100円)だったところが、アルミ缶では375ml(90円)です。結果として、実質的には値上げとなりました。

4月22日、菅義偉総理は世界40カ国が参加した気候変動サミットで、「2030年度の温室効果ガスを2013年度比で46%減らす」という意欲的な目標を打ち出しました。日本はこれまで「26%減」を掲げていましたから、大幅な上積みになります。

このふたつの話は、企業と政府の環境対策という意味で共通します。ただし、その内実は、直感的に考えるよりも、複雑で興味深いものです。ペットボトルがなぜアルミ缶に代わるのか? そしてなぜ温室効果ガスの削減目標が急に大幅に上積みになったのか? その秘密を一緒に考えてみましょう。

■アルミの精錬は大量の電力を必要とする

そもそもアルミニウムという素材は電気代の塊だということから話を始めたいと思います。学校で習った方も多いと思いますがアルミは地殻を構成する元素の中で酸素、ケイ素の次にありふれた元素です。にもかかわらずアルミは鉄よりも価格が高い。理由は精錬する際にたくさんの電気代がかかるからです。

アルミの原料である鉱石のボーキサイトはオーストラリアやギニア、ベトナム、中国などで比較的豊富に見つかるのですが、それをアルミにする方法は実用的には電気分解する必要があります。そしてそこで使う電気の量は銅の精錬の10倍もかかります。

このように大量の電気が必要なことからアルミは電気代が安い国でしか精錬ができません。実際、日本はオイルショック以降、ほとんどの工場が閉鎖され、アルミ精錬は海外に依存するように産業構造が変わりました。

さて、地球の温暖化を止める目的で考えると素朴な疑問がわきます。なぜ無印良品は電力を大量消費するアルミを使うのでしょうか。企業と政府が温室効果ガスの削減を追求するうえでまず必要なことは、化石燃料の利用を減らすこと。石油が原料のペットボトルを減らすことはわかりますが、そこで大量の電気を必要とするアルミへと材料を変更する意味はあるのでしょうか?

それが実は「ある」のです。ここが今回の無印良品の取り組みのおもしろいところです。

■アルミを選んだのは「水平リサイクル率」が高いから

無印良品を展開する良品計画によれば、今回アルミに着眼したポイントは水平リサイクル率の高さにあるそうです。リサイクルにもいろいろと種類があるのですが、水平リサイクルとは回収し再利用する際に同じ製品に戻すこと。つまりアルミ缶をリサイクルしてアルミ缶に再生すれば、それが水平リサイクルということです。

ペットボトルもリサイクル率が高い再生可能資源です。ただし、ペットボトルをリサイクルするとポリエステルの綿になります。それはゲームセンターの景品になるぬいぐるみの中綿などに再利用されているのです。それはそれで意義があることですが、「景品のぬいぐるみがすぐに飽きられて捨てられるのであれば、どうなのか?」という問題提起もなされています。

そこでペットボトルでも水平リサイクルの取り組みが始まっています。日本コカ・コーラが「い・ろ・は・す」で100%リサイクルペットボトルを使い始めたのがその例です。ざっくりとした数字で言えば日本の指定ペットボトルの出荷量が年間63万トンほどで、うち7万トン強がペットボトルへと水平リサイクルされるので、単純計算すればペットボトルの水平リサイクル率は12%程度だと計算されます。

公園でペットボトルを手に持つ男性の手元
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rattankun Thongbun

■リサイクルを徹底すれば、電気代は3分の1になる

これに対してアルミ缶はもともとの電力コストが高いことから、昔から再利用が進んでいます。アルミ缶リサイクル協会によるとアルミ缶は、日本国内のリサイクル率が98%、缶から缶への水平リサイクル率は67%と非常に高いレベルなのです。

中学や高校で習った数列の公式を思い出していただくと計算できるのですが、67%の水平リサイクルを無限に繰り返していくと、最初に1個作ったアルミ缶は最終的に3個生まれることになります。つまりアルミを精錬するのに電気代が銅の10倍かかるといっても、リサイクルを徹底すれば最終的には電気代は3分の1で済むようになる。

こういった実に緻密な連鎖まで考えないと地球温暖化の抑制にはつながりません。近年、異常気象が繰り返され、地球環境がもうすぐ後戻りできないところに到達しそうだと言われています。止めるなら2020年代に世界全体でアクションを起こさなければならない。その前提で企業に求められる持続的な成長への取り組みは非常に重要なものになってきています。まだブランドイメージを高める程度の取り組みしかできていない企業も多い中で、良品計画の発表は非常によい着眼点を突いていると思います。

■世界のアルミニウムの40%は中国で生産されている

そしてわたしたち消費者も常に地球環境については情報をアップデートすべきです。ペットボトルに関しても水平リサイクルの取り組みがこれから増えていくはずです。今は12%の水平リサイクル率が50%まで増えれば、1本のペットボトルは最終的に2本分になります。そうなれば使われる石油の量は半分で済む。将来的には日本コカ・コーラにならって、良品計画がアルミ缶からふたたびペットボトルにパッケージを変える日がやってくるかもしれないわけです。

さてアルミ缶のもうひとつ別の話から、菅総理の46%の削減目標へと地球温暖化を巡る話を続けていきましょう。

さきほどアルミニウムの精錬には大量の電力を消費することから日本ではオイルショック以降、アルミの生産工場はほとんどが海外に移転したという話をしました。ではどこの国がアルミニウムを生産しているのかというと、世界の40%は中国で生産されています。

中国・北京の近代的な金融街
写真=iStock.com/Sean Pavone
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sean Pavone

その理由は中国が世界的なボーキサイトの原産国だということに加えて、電力料金が国際的に見て安いという理由があります。そしてここで重要なことは、中国はこれまで資源国として化石燃料を豊富にもっていたことから電力が安かったわけですが、そこから今、世界最大の再生エネルギー国家に生まれ変わろうとしていることです。

■ゴビ砂漠で進む太陽光発電所の建設

少し前まで、北京は大気汚染がひどく、市民の大半がマスクをして生活をしている様子がたびたびニュースで取り上げられました。しかし最近の北京は違います。中国という国は「大気汚染が問題だ」となると、徹底的に撲滅するため強権を発動します。その結果、北京の大気はここ10年でかなりきれいになりました。新型コロナのワクチン接種も進んでいることから、北京は「マスクのいらない都市」になりつつあります。

中国では広大なゴビ砂漠に大規模な太陽光発電所の建設が進んでいます。太陽光発電というと日本人はコストが高い発電だと思いがちです。しかし、技術革新が進んだことで、現在では火力発電よりも方式によっては安く電力を作ることができるようになりました。

しかも中国は1000kV以上の超高電圧の送電網の建設を始めています。日本の高圧送電網だと電力の輸送ロスが大きいところ、この規模の超高電圧網だとゴビ砂漠から上海まで電力を送っても経済的な電力ロスがとても小さいのです。

そしてアルミ缶についても、これまでのように化石燃料を燃やして作った電力から、太陽光電力で精錬することになれば、ますますエコだという話になるかもしれません。ややこしいとお感じになるかもしれませんが、こうやってSDGsへの取り組みが高まるたびに素材やエネルギー源同士の競争が起きて、前提条件もどんどん新しく変わっていくべきなのです。

■アメリカが「50%の削減目標」をぶち上げられたワケ

4月22日に開催された気候変動サミットで示されたような地球温暖化を抑えるための高い目標には、ここ10年間で起きたグリーンエネルギーの生産コストの低下が非常に大きな意味をもっています。そして中国、アメリカ、欧州といった地域に比べると実は日本はグリーンエネルギーの生産コスト面で劣位にある。このことがこれから先の日本経済に大きな負担を生む可能性があるのです。

2021年4月22日、米国が主催する気候変動サミットにて、ホワイトハウスのイーストルームからスピーチを行うジョー・バイデン大統領
写真=Al Drago/CNP/時事通信フォト
2021年4月22日、米国が主催する気候変動サミットにて、ホワイトハウスのイーストルームからスピーチを行うジョー・バイデン大統領 - 写真=Al Drago/CNP/時事通信フォト

中国がゴビ砂漠という資源を持っているのと同じように、アメリカも非常に広い面積の砂漠を持っています。今回バイデン大統領が50%の削減目標をぶち上げましたが、その国土の特性を生かせば、目標達成は決して不可能な数字ではない。ここが中国とアメリカの有利な点です。

では欧州はどうなのかというと、風が強いというヨーロッパ大陸の特徴があります。ゴルフの全英オープンを見ると風がびゅんびゅん吹いていることがわかるように、特にイギリスは風資源に関しては有利な国です。実際にそれを利用してグレートブリテン島の東側、遠浅の海上に広大な面積の風力発電所を建設しています。

■わたしたちは生活を変えていく必要がある

このように意欲的な温室効果ガス削減目標を掲げている国々と比較して、実は日本は砂漠も海上風力も資源としては乏しいというハンディキャップがあります。そのハンディを踏まえたうえで今回、菅総理が46%削減をぶち上げたという事実が、この先、日本企業にとって大きな影響を与えると考えられるのです。

それでも地球温暖化を止め持続的な成長を続けるために世界各国の企業が削減目標に取り組むことは必須です。実際に効力がある施策を選びながら、電球はLED電球に取り替え、プラスチックのストローを紙製のストローに替え、プラスチック製のショッピングバッグは有料化する。ペットボトルもアルミ缶も水平リサイクルを追求して、1個から2~3個が生まれるように頑張っていく。コストは上がりますが、それでも持続的な明日をめざしてわたしたちは生活を変えていく必要があるのです。

つまり今回の良品計画のアルミ缶への変更計画は、このように全体像を見ていくと、私たちの未来計画でもあることがわかるという話だったのです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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