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「異常な高値から急下落」インフレ懸念が高まる米株式市場をどう読むべきか

プレジデントオンライン / 2021年5月17日 11時15分

米国ワシントンD.C.にある連邦準備制度理事会(FRB)本部=2021年4月16日 - 写真=CNP/時事通信フォト

■“バブル”の兆候が出始めている

足許で、米国やわが国をはじめ世界的に株式市場が不安定な展開になっている。特に、これまで世界の主要株式市場を牽引してきた米国市場の下落が目立った。GAFAMやテスラなど、相対的に成長への期待が高い先端企業(グロース銘柄)が中心のナスダック総合指数の下げが大きかった。

これまで圧倒的な上昇相場を形成してきた、先端のGAFA銘柄はかなり高値にあった。多くの投資家が、そろそろ利益確定の売りに動くタイミングだったといえるだろう。そこに消費者物価の上昇懸念が重なった影響は大きい。4月の米消費者物価指数は前年同月比で4.2%上昇し、事前予想(3.6%程度)を大きく上回った。インフレ懸念の高まりから先行き警戒感を強める投資家は多く、売りが売りを呼ぶ格好で下落幅を広げる展開になった。

今後、米国の株式市場はグロース銘柄を中心に不安定に推移した後、徐々に値を戻す可能性はあるだろう。今回の株価下落は、本格的な調整には至らない可能性がある。現在、連邦準備理事会(FRB)は低金利環境の維持を重視しているため、カネ余りの状況に大きな変化はないとみられ、それが株価の下支え役を果たすことが予想される。

ただ、株価がいつまでも上昇し続けることはない。特に、パウエルFRB議長が株式市場に“フロス(小さな泡)”が出始めているとの認識を示すなど、米国の株式市場には“バブル”の兆候が出始めている。やや長めの目線で考えると、どこかのタイミングで米国の株式市場全体が本格的な調整局面を迎える可能性はあるとみた方がよさそうだ。

■テスラの株価収益率は500倍にも

5月に入ってナスダック総合指数をはじめ米国の株式市場が下落した要因の一つは、なんといっても株価があまりに上昇し過ぎたことだ。例えば、2020年5月上旬、電機自動車(EV)メーカーのテスラの株価は150ドル程度だった。その後、2021年1月下旬テスラの株価は800ドル超まで上昇した。2月以降の株価は幾分か下落したが、4月下旬の株価は700ドル台と1年前の株価水準を大きく上回る水準にあった。

足許、テスラのPER(株価収益率、5月13日時点の米ウォールストリートジャーナル公表の実績値ベース)は500倍を超え、過去の平均的な米国株式市場のPER(14~17倍)を大きく上回っている。つまり、株価は割高だ。2020年のテスラの納車(新車販売)台数は前年比36%増の約50万台であり、トヨタ自動車単体の販売台数(約870万台)との差は大きい。

株価上昇のかなりの部分がカネ余りと成長への過度な期待に支えられている。世界的なEVシフトという成長テーマに加えて、テスラが技術革新を目指していることは重要だが、現在のテスラの株価を正当化することはできない。ワクチン接種の進展が米国経済の自律回復の勢いを支える中で在来分野の企業の株価が持ち直した結果、そうした見方を持つ投資家は増えた。

■利益確定に動き出した

さらに4月27日と28日に行われた連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、パウエル議長が「米国の株式市場にはフロス(小さな泡)が現れている」と述べた。その意味は、低金利環境が続くとの楽観を根底に多くの投資家が先端企業などの成長への期待を強めた結果、米国株式市場に“バブル”の兆候が表れていることだ。

自動車メーカーのテスラ
写真=iStock.com/DKart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DKart

その結果、株価が割高だと考える個人投資家(“ロビンフッダー”)や機関投資家が追加的に増え、株価が大きく上昇したテスラなどに利食いの売りを仕掛けた。それはGAFAMやビデオ会議システムを提供するZOOMなど、多くのIT先端企業の株価下落に当てはまる。“最強のインデックス”と呼ばれる「ナスダック100指数」に連動するETFを売りに回るヘッジファンドも増えるなど、割高感が高まる中で利益確定に動く投資家は多い。

■財政出動で高まるインフレ懸念

それに加えて、米国経済におけるインフレ懸念が高まり、金利が上昇するとの警戒感が増したことも、米国の株価下落の要因だ。物価上昇の要因として重要なのは、経済対策とパイプラインの操業停止だ。

3月、米国経済が自律的に持ち直す中で、バイデン政権はコロナ禍での個人消費などを支えるために1.9兆ドル(約200兆円)の経済対策(追加財政出動)を成立させた。その結果、米国経済が"高圧経済"(経済全体で需要が増加し、景気の過熱感が高まること)に向かい、物価が勢いよく上昇し始めるとの見方が増えた。

それに加えて、5月7日にはサイバー攻撃によってコロニアル・パイプラインの操業が停止し、ガソリン価格の上昇懸念が高まった。車社会の米国において、ガソリン価格の上昇は消費者物価をはじめ経済全体での物価上昇に無視できない影響を与える。

それらを反映して、米国の債券市場では、“ブレークイーブン・インフレ率(市場参加者が予想する物価上昇率を示す指標)”が上昇した。5月10日にはブレークイーブン・インフレ率が5年物で2.7%台に上昇し、リーマンショック後の最高値を付けた。10年のブレークイーブン・インフレ率も2.5%台に上昇した。

■グロース銘柄を警戒する投資家の心理

インフレ懸念が高まると、国債の流通利回り(名目金利)には上昇圧力がかかる。金利上昇は株価にマイナスだ。ファイナンスの理論では、株式の現在の価値(株価)は、その企業の株に投資することによって得られる将来の価値を、名目金利とリスクプレミアムを足し合わせた数値(割引率)で割ることによって求められる。

株式市場
写真=iStock.com/Butsaya
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Butsaya

分かりやすく言えば、株式投資から得られると予想される将来のキャッシュフローの現在の価値を計算する。理論上、名目金利の上昇は割引率を上昇させ、株式の現在価値は小さくなる。そのため、金利上昇は株価を下落させる。

特に、テスラのように成長期待の高い新興企業の場合、大企業に比べると財務の信用力や収益力の安定性や持続性に関して不確定な要素が多い。そのため、金利が上昇すると投資家はより多くのリスクプレミアムを求め、グロース銘柄にはより大きな下押し圧力がかかりやすい。

■値は徐々に戻るだろう

また、金融規制の強化観測も株価の下落要因だ。足許、米国の証券取引委員会(SEC)は特別買収目的会社(SPAC)への規制強化に取り組んでいる。また、アルケゴス問題の発生によって、規制の対象外となってきた投資会社である“ファミリー・オフィス”のリスクも浮上した。金融規制の強化は、金融機関や主要投資家のリスクテイク能力を低下させ、株価にマイナスだ。

今後の展開を考えた時、目先、米国の株価は不安定に推移した後、徐々に値を戻す可能性がある。そう考える最大の理由は、今のところ、FRBが雇用の回復を重視し、緩和的な金融環境の維持を重視していることだ。低金利環境が続くとの観測がサポートされることは、株価を下支えする。

FRBの低金利重視姿勢は、大海原で停泊するタンカーを安定させる錨=アンカーのように、徐々に投資家のリスクテイクの心理を落ち着かせる可能性がある。短期的には低金利環境の継続期待を根底に先端銘柄の成長期待が徐々に盛り上がり、米国の株価は持ち直す可能性がある。

■今後の展開は?

ただし、未来永劫、株価が上昇することはない。やや長めの目線で考えると、徐々に米国株の割高感は高まりやすい。その要因は複数ある。最も重要なのが、パウエルFRB議長のフロスに関する指摘だ。それは、米国株のバブル膨張を示唆する。今すぐではないにせよ、中長期的な展開としてFRBが景気の過熱を抑えるために政策の修正を示唆するシナリオは軽視できない。

中長期的な展開を考えると、金融政策の修正、増税や金融規制への警戒感、株価の割高感を理由とする利食いの活発化などがトリガーとなり、どこかのタイミングでナスダック総合指数には追加的な調整圧力がかかる恐れがある。

その場合、S&P500指数を構成する銘柄など在来分野の企業の株価にも売り圧力が波及すると、売るから下がる、下がるから売るという具合に、米国の株式市場全体が本格的な調整局面を迎える可能性がある。そうした展開が現実のものとなれば、外需を取り込んで業績が回復してきたわが国の株価にも無視できない影響があるはずだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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