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キリンがビールのCMで「コク」や「キレ」と言わないワケ

プレジデントオンライン / 2021年5月25日 11時15分

キリンビールマーケティング本部の間木研吾さん - 筆者撮影

キリンビールが好調だ。2020年のビール類の販売数量でアサヒビールを追い抜き、11年ぶりにビール大手4社のトップへと返り咲いた。なぜ、首位の座を奪還できたのか。キリンビールでブランドマネージャーを務める間木研吾さんに聞いた――。

■「会社全体でブランドを育てた」本麒麟

2015年からキリンビールを牽引する布施孝之社長は、既存ブランドの価値を長期的な視点で育てていくとともに、新たなビール事業の柱となるヒット商品を生み出すために経営資源の選択と集中を行う「布施改革」を掲げ、同社の躍進を支えた。

売り上げ好調な「本麒麟」
売り上げ好調な「本麒麟」(画像提供=キリンビール)

成果として表れたのは、2018年に発売した「本麒麟」だ。毎年右肩上がりの成長を見せ、昨年の販売数量は酒税法改正による増税の影響をものともせず、前年比約3割増を達成した。

これまでに「キリン 氷結」や「キリン 一番搾り」など、キリンビールの主幹ブランドを担当してきた間木研吾さんはその理由をこう解説する。

「『本麒麟』が大きく伸長したのは、競合他社との競争を優先するのではなく、お客様を理解し、お客様との共有財産であるブランドを育成する、という意識が全社で高まった結果だと思っています。お客様が新ジャンルに期待する『ビールらしい』味覚を徹底的に研究し、キリンビールの持つクラフトマンシップを結集させました。ものづくりに込めたキリンの思いが体現された商品、といえると思います」

■競合との差別化よりも、顧客の声に耳を澄ませる

組織改革を行い、消費者の声や求められているニーズに対して実直に向き合ってきた結果、長年ビール業界1位に君臨していたアサヒビールを抜き、首位に躍り出ることができたわけだ。

間木さんは「お客様の支持が過去と比較して着実に上がってきている」と話す。

「うまさやおいしさ、コク、キレなど商品を研ぎ澄ませることはもちろん大事なことです。でも、それがお客様起点でなければ、一方通行なコミュニケーションになってしまう。布施改革では『競合との差別化ではなく、お客様が何を求めているか』という議論にシフトし、『お客様に支持されるブランド価値の創造を追求する』ことを徹底してきました」

「商品を手に取るお客様がどういう気持ちなのか、あるいはどんなシーンで飲用してもらえるのかというのを常に念頭に置き、直感的においしさが伝わるようなコミュニケーションを繰り返した結果、お客様のご支持を得ることができたと考えています。もちろん、キリンビール強みの家飲み需要が増えたことも要因として挙げられますが、やはり一番はお客様の声を理解し、商品を進化させてきたことに尽きると考えています」

■「スプリングバレー」でクラフトビール市場に参入した理由

キリンビールは今年からクラフトビール家庭用市場へ本格進出している。

3月23日に発売した「SPRING VALLEY 豊潤<496>」
3月23日に発売した「SPRING VALLEY 豊潤<496>」(画像提供=キリンビール)

3月23日から発売した「SPRING VALLEY 豊潤<496>(以下スプリングバレー)」は、ビール類市場の活性化はもとよりクラフトビール市場の拡大を狙った商品だ。今後のキリンビールの明暗を分けるブランドといえる。

同商品を発売した経緯について間木さんは次のように説明する。

「クラフトビールの認知度や需要は年々高まっていて、より多くのお客様にクラフトビールを手に取っていただきたいとの思いから缶で展開することはコロナ禍以前から計画していました。そんな中、コロナ禍を機に生活様式が一変したことでビールに対する価値観も変化し、『家飲み時間の充実』と『高級志向』のニーズが高まったことも発売の追い風となりました。大手酒類メーカーとして、クラフトビール市場への本格参入は覚悟が必要なものでしたが、クラフトビールの将来性や新奇性を考えれば、十分にポテンシャルはあると確信していました。クラフトビールならではの『本物志向』や『創造性』といった高付加価値をお客様へ届けることができれば、おいしさの選択肢が広げられるのではと思い、『スプリングバレー豊潤<496>』を市場へ投入したのです」

■「生産者の顔が見える」ビールを目指す

また、消費者とのコミュニケーションやタッチポイントについても工夫しているという。

「実を言うと、『スプリングバレー』は構想から10年を要している商品なので、ブランド担当や開発担当がかける思いもひとしおです。TVCMやデジタルを使ったプロモーション以外にも、メディアプラットフォームの「note」を使って担当者が思いの丈を綴っています。これは、お客様とのインタラクティブなコミュニケーションを意識していることもありますが、クラフトビールの特徴である『生産者の顔が見える』ことが大切だと考えているためです。デジタルで話題喚起してバズを狙うよりも、ブランドの価値をお客様と共有することに重点を置いています」

■新たなビール需要に応えたい

スプリングバレーの出だしは好調だ。4月の製造数量は当初の計画よりも3割増産し、出荷を行っている。

間木さんは、販売数量の成果に手応えをつかみつつも「普段クラフトビールの飲用機会がないお客様にも、飲んでもらえるようなブランドに育てたい」と抱負を語る。

「既存のビールや新ジャンル商品は定番であり、いわば『日常のど真ん中』に位置しています。要は仕事帰りの一杯や、スーパーでの『ついで買い』などライフスタイルのシーンに根付いている。他方、近年ビールの価値観が多様化し、よりおいしいものや、普段飲んでいるものとは違った商品を手に取りたくなるニーズも増えてきました」

「キリンビールとしてもスプリングバレーを『いつもよりちょっといいビールで、非日常感や高級感を味わいたい』というお客様の声に応える商品として訴求していきたい。これまで飲んでいただいた8割くらいのお客様は、クラフトビールを普段あまり飲まないユーザーという調査も出ており、まずは1本『スプリングバレー』を手に取ってもらうのを目下の目標にしています」

■「新しい価値を提供し続けられる」ブランドに育てたい

「一番搾り」(ビール)、「本麒麟」(新ジャンル)そして今回の「スプリングバレー」(クラフトビール)の3ブランドが揃い踏みした。競合他社の追随に屈せず、キリンビールが首位を守り続けるために、今後どのようなビール事業を展開していくのだろうか。

「何度も言葉にしていますが、やはり『お客様に新しい価値を提供し続ける』ことが重要だと考えています。ビール類は成熟市場で、今後著しく市場規模が拡大する状況にはありません。その中で、ブランドをお客様に手に取り続けていただくためには、ブランドを持続的に育成し、強固なものにしていかなければなりません。『一番搾り』や『本麒麟』といった既存ブランドに関しても、お客様の深い理解にこだわって、今後も期待に応えられるよう進化していきたいと考えています」

「また『スプリングバレー』についてはクラフトビール市場の裾野を広げ、クラフトビールの飲用機会の活性化に繋げていきたいですね。というのも、ビール類全体のうちクラフトビールの販売出荷数は1%にも満たない。これを1.5%にまで引き上げることができれば、ビール業界全体の盛り上がりにも寄与できる。クラフトビールを通じてビール自体をより魅力的なものへと発展させ、『スプリングバレー』のコンセプトである『人はビールで感動できる』を体現していきたいです」

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古田島 大介(こたじま・だいすけ)
フリーライター
1986年生まれ。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。

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(フリーライター 古田島 大介)

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