「スポンサーの新聞各紙も否定的」菅首相は東京五輪中止を決断するべきだ
プレジデントオンライン / 2021年5月19日 18時15分
■このまま開催に向かって突き進んでいいのか
東京オリンピック・パラリンピックの開催中止や延期を求める声が強まっている。このまま7月23日の開催初日を迎えることができるのだろうか。
政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長も、4月28日の衆院厚生労働委員会で「オリンピックの開催については感染レベルや医療の逼迫(ひっぱく)状況を踏まえ、議論をしっかりやるべき時期にきている」と述べている。
このまま開催に向かって突き進んでいいのか。それとも早く中止・延期を決断すべきなのか。五輪のスポンサーとなっている新聞4社の社説も論調が変わってきている。各紙を読み比べながら考えてみたい。
■菅首相は「安全安心な大会が実現できるように」と繰り返すが…
菅義偉首相は5月10日の衆院予算委員会の集中審議の中で、東京オリンピック・パラリンピックについて「国民の命と健康を守り、安全安心な大会が実現できるように全力を尽くすことが私の責務だ」とこれまで通りに開催する意思を強く示した。また開催時の感染対策については次のように話した。
「選手たちの行動範囲を原則として宿泊施設や競技会場などに限定する。そのうえで、一般の日本人との接触を回避するため、それぞれの場所での動線分離を徹底する」
「移動方法を原則、専用車両に限定し、厳格な行動管理を実施する。ルールに違反した場合には、大会参加資格を剥奪する」
野党側から「オーバーシュート(感染爆発)しても開催するのか」と問われると、菅首相は「そんなことは全く申し上げていない」と強く反論した。
■菅政権周辺も延期・中止に傾きつつある
菅首相は「五輪開催が大前提」というスタンスを変えようとしない。かたくなである。盛り上がりに欠け、大半の国民が開催に疑問を抱くなかでのこの態度には驚かされる。
このかたくなさゆえに、沙鴎一歩の目には菅政権が揺れ、延期・中止に傾いているように映る。実際、政権周辺や一部の与党議員からも中止の声が聞こえてくる。延期・中止に傾けば、あとはどの時点でだれがどのような形で表明するかである。
開催までの残り時間は少ない。日本中いや、世界中の人々がともに楽しむことができない五輪に何の意味があるのか。延期・中止の決断が遅れれば遅れるほど負担が増すのは、メダルの獲得を目指してトレーニングを重ねている選手たちである。菅首相は早急に政治決断すべきである。
■朝日社説「五輪の可否 開催ありき 破綻あらわ」
東京五輪をめぐっては、読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞、毎日新聞の4社が「オフィシャルパートナー」としてスポンサーとなっている。各紙はこれまで東京五輪の開催について慎重な書きぶりだったが、ここにきて論調が変わってきた。
5月12日付の朝日新聞の社説は「五輪の可否 開催ありき 破綻あらわ」との見出しを付けてこう書き出す。
「答弁を聞いて、いったいどれだけの人が納得しただろうか。わかったのは、滞りなく大会を開ける状況にはおよそないという厳然たる事実だ」
「おとといの衆参両院の予算委員会で、東京五輪・パラリンピックの開催の可否が大きな論点になった。ところが菅首相は、『主催者はIOC(国際オリンピック委員会)、IPC(国際パラリンピック委員会)、東京都、大会組織委員会』と、責任逃れとしか思えぬ発言を繰り返し、人々に届く言葉はついに発せられなかった」
「おとといの予算委員会」とは前述した10日の国会での審議を含む。朝日社説の「菅首相の責任逃れ」という指摘は分かる。菅首相は新型コロナの感染拡大と開催日の近づく五輪との間に挟まれ、身動きができなくなっているのだ。
■「『開催ありき』の姿勢が随所に不信と破綻を生んでいる」
朝日社説は指摘する。
「感染爆発と定義されるステージ4の状態でも開催するのか。来日する数万人規模の関係者の行動をどう制御するのか。市民の生命・健康に影響を及ぼさずに、いかにして大会用の医療体制を整えるのか。こうした当然の疑問に対しても、『安全安心な大会が実現できるよう全力を尽くす』と言うだけで、質疑は全くかみあわなかった」
朝日社説は五輪の開催に慎重な立場を取っている。菅政権が強行に五輪を開催しようとしているから、菅首相が嫌いな朝日社説はなおさらその批判が強硬になる。
それにしてもこのまま開催して混乱を招くようでは、世界の国々から嘲笑される。日本の将来のためにもそんな事態だけは避けなければならない。
朝日社説は「世界から人が集い、交流し、理解を深め合うという五輪の最も大切な意義を果たせないことが確実になるなか、それでもなぜ大会を開くのか。社説は明らかにするよう求めてきたが、政府からも主催者からも説得力のある発信は今もってない」とも書き、最後にこう訴える。
「『開催ありき』の姿勢が随所に不信と破綻を生んでいる」
朝日社説が書くように「世界から人が集い、交流し、理解を深め合う」のがオリンピックだ。それができないようでは開催しても意味がない。菅首相はやはり、開催ありきのかたくなな態度を改めるべきである。
■読売社説「選手に参加辞退を迫り、非難の矛先を向けるのは筋違い」
朝日社説と同じ5月12日付の読売新聞の社説は、「五輪開催の賛否 選手を批判するのは筋違いだ」という見出しを掲げ、白血病による長期の治療を経て五輪代表入りを決めた競泳女子の池江璃花子選手(20)に対してSNSで誹謗中傷が寄せられている問題を取り上げている。
読売社説の書き出しはこうだ。
「新型コロナウイルスの感染拡大が収束せず、東京五輪・パラリンピックの開催中止を求める声が上がっている」
「だからといって、選手に参加を辞退するよう迫ったり、非難の矛先を向けたりするのは筋違いである」
その通りだ。この問題を知ったとき、思わず怒りが込み上げてきた。深刻な病に打ち勝って、日本を代表するアスリートに返り咲いた選手を攻撃するような意見がどうして出るのか。決して許すことはできない。
読売社説は書く。
「池江選手は自身のツイッターで、五輪中止を求める声に対し、『仕方なく、当然のこと』と理解を示す一方、『私は何も変えることができない。それを選手個人に当てるのはとても苦しいです』と心境を吐露している」
愚かなメッセージにも理解を示す、池江氏の度量には頭が下がる。問題のメッセージを投稿した愚か者は、池江氏の心境をしっかり把握すべきである。
■池江選手が出場を取りやめれば、開催の機運もしぼむ?
読売社説は続けて書く。
「SNS上には池江選手への中傷も見られる。丸川五輪相が『いかなる理由があっても許されない』と述べたのは当然だ。五輪の開催を巡り、心ない言葉を投げかけられている選手は他にもいる」
「五輪の中止を求めるなら、政府や東京都などに向けて声を上げるべきである。出場を目指して努力を重ねてきたアスリート個人に、『辞退して』『反対の声をあげて』と要求するのは、あまりに酷な注文で、配慮を欠いている」
これもその通りである。不満があるのなら、菅首相や小池百合子都知事に向けて発信すべきである。それを正々堂々と行えばいいだけの話だ。
読売社説は前半で「五輪の中止を望んでいる人たちの一部は、そんな池江選手が出場を取りやめれば、開催の機運もしぼむと考えたのだろうか」と言及し、後半で「五輪開催の是非論に、選手を無理やり巻き込むべきではない」と主張する。
■政府や都などが十分な説明をしないことへの苛立ち
五輪開催の是非。これまで沙鴎一歩は五輪の開催には賛成してきた。
たとえば、昨年4月1日の記事「東京五輪を『1年延期』として本当によかったのか」との見出しを掲げ、こう主張している。
「延期は過剰反応だ。新型コロナは感染力や毒性が弱い。五輪の競技の大半は野外で行われるため、感染は起きない。室内競技でも密接、密閉、密集の3密がなければ問題ない。無観客とすれば競技は行える」という趣旨を書いた。
しかし、いまは事情が違う。感染力の強い変異ウイルスが世界中で大流行している。感染のコントロールがある程度できているとは言え、五輪開催で混乱を招く恐れは否定できない。
読売社説は「読売新聞の全国世論調査では、五輪を『中止する』が59%で最も多く、『開催する』は『観客数を制限して』と『観客を入れずに』を合わせた39%にとどまった」と解説した後、「菅首相は『安全、安心な大会の実現に全力を尽くす』と開催に意欲的だが、大会実現の具体策は示していない。開催への批判が選手に向かう背景には、政府や都などが十分な説明をしないことへの苛立ちがあるのではないか」と分析する。
■日経新聞だけは社説で「五輪開催の是非」を論じていない
そのうえで読売社説は最後に「観客は入れるのか、選手やコーチの安全はどう確保するのか、開幕までにワクチン接種はどの程度進むのか。政府はこうした点を早急に明確にして、国民や各国の選手たちに伝えねばならない」と主張する。
毎日新聞は、5月12日付の社説で、朝日社説と同じく衆参予算員会での審議を取り上げ、「首相から納得のいく説明は聞かれなかった」と菅政権を追及し、最後に「まずは人々の不安に正面から向き合わなければならない」と訴えるなど五輪の開催に否定的だ。菅首相はこうした新聞各社の主張に耳を傾けるべきではないだろうか。
ちなみにオフィシャルパートナーの新聞4社のうち、日経新聞だけはこれまで社説で五輪開催の是非を論じていない。五輪開催に反対なのか、賛成なのか。読者としてはそのスタンスに注目している。もしスポンサーとしての立場が社説にまで影響しているとしたら、新聞社説の存在価値に関わる重大な問題である。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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