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「男性が年収で選ばれ、安心して家事育児ができない」そんな国で子どもが増えるわけがない

プレジデントオンライン / 2021年5月29日 8時15分

日本はさまざまな少子化対策を講じてきたものの、少子化は改善するどころか加速しています。フローレンスの前田晃平さんはその理由について「出産育児の負担が、女性に偏りすぎているのです。そしてそのことと男性の稼ぐことへのプレッシャー、安心して家事育児ができない状況は表裏をなしています」と指摘します――。

※本稿は前田晃平『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』(光文社)の一部を再編集したものです。

■「私は、お母さんなんだから」

ある週末のことです。妻の友人が生まれたばかりの赤ちゃんを連れて、家に遊びに来てくれました。妻と友人はお互いに赤ちゃんを抱えたまま、リビングで話し込んでいます。私は根暗な性格なので、二人にお茶を出したり、台所で食器を洗ったりしながら、二人の会話にひっそりと耳を傾けていました。

そして、話題が仕事に及んだ時の友人の言葉を、私は忘れられません。

「今の職場だと定時に帰るのは無理だし、フルタイムで復帰なんてできないよね。だから、今の会社でキャリアを積むのは難しいだろうな。保育園のお迎えの時間があるし。夫は色々やってはくれるけど、平日は仕事で帰りが遅いから、しょうがないよね。これまでたくさん頑張ってきたけど……私は、お母さんなんだから」

妻は友人の話に聞き入り、私は黙って食器を洗い続けていました。

■九州と四国の人口分が消滅する、2035年の日本

日本の少子化が、止まりません。2019年、日本人の国内出生数は86.5万人となり、1899年の統計開始以来、初めて90万人を割りました。合計特殊出生率(1人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子どもの数の平均値)は、1.36です。2018年の1.42から0.06ポイント悪化しました。

このペースだと、2035年には九州と四国の人口分がそっくり消滅します。この10年の人口減少は400万人ですが、これからの10年では800万人減り、その後の10年では1000万人近く減ります。図表1で平安時代からの日本の人口推移をみてみると、その異常さが際立ちます。まるで、ジェットコースターです。

この状況を打開すべく、政府は少子化対策に力を注いできました。2020年まで続いた安倍政権が喧伝していた「すべての女性が輝く社会づくり」もその一環です。しかし、日本の少子化に改善の兆しは、全くみえません。「3年間抱っこし放題」を実現する育児休業の拡充とか、「3歳からの幼保無償化」とか、たくさんやったのに、いったいなぜ⁉ 政治家の中には、頭を抱えている方もいらっしゃると思います。

■男女の不平等が、少子化の根源

でも、私は、その答えを知っています。たくさん聞いてきた、というべきか。それは、冒頭の妻と友人の会話に集約されています。出産育児の負担が、女性に偏りすぎているのです。つまりは、この国の男女不平等、いわゆる、ジェンダーギャップがひどすぎる。女性のキャリアの機会損失が大きすぎるともいえます。

ジェンダーとは、「社会的な性差」のことで、生物学的な性差である「セックス」と対比して使われます。わかりやすいのは、妊娠・出産・育児でしょう。妊娠出産は女性にしかできませんが、育児は男性にだってできます。でも、なぜか社会がその仕事を女性にばかり押し付けている現状があります。こうした、性別に基づいて社会が与える枠組みを「ジェンダー規範」と言います。

世界経済フォーラムは「Global Gender Gap Report 2021」の中で、各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数を公表しています。この指数は、経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を表します。2021年の日本の総合スコアは0.656、順位は156カ国中120位でした。過去最低だった2020年の121位からわずかに1つ順位を上げましたが、主要7カ国(G7)では変わらず最下位です。お隣の中国(107位)や韓国(102位)はもとより、アラブ首長国連邦(72位)より下です。

■どうしたら女性に対する不当な差別を無くせるか

「いやいや、俺たちだって頑張ってるんだし、さすがにそんなに下ってことはなくね⁉」という男たちの疑問の声が聞こえてきます。確かに、私たち日本男児は頑張っています。数年前と比べれば、状況は間違いなく改善されていると思います。でも、このジェンダーギャップ指数は、相対評価です。他の国の方がもっと深刻な危機感をもって、真剣に取り組んでいるのです。

そして実は、このジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率の間には相関関係があります(図表2)。男女平等な社会ほど、女性が安心して子どもを産めるのです(ただし、先進国に限った現象)。

ジェンダーギャップが改善すると出生率が上がる

日本社会に深く巣食うジェンダーギャップを撃滅しない限り、いくら“少子化対策”を講じたところで効果を発揮しません。私たちが考えるべきは「どうしたら子どもが増えるか」ではありません。そんなこと(と、あえて言いますが)より「どうしたら女性に対する不当な差別を社会から一掃することができるか」です。それを達成して初めて、私たちは少子化について正面から考えるステージに立てるのではないでしょうか。

■女性の社会進出が進むと、少子化が加速するという反論への反論

こういう話をすると必ずくる反論があります。

「女性の就業率が上がると出生率は下がるでしょ!」というやつです。女性の就業率を改善すると、女性が仕事にかまけて子どもを産まなくなるから、少子化には悪影響である、と。確かに、統計データを見ると、平均初婚年齢周辺の25〜34歳の女性の就業率が上がるほど出生率が下がっています(図表3)。

ところが、先進諸国に視野を広げてみると、女性の就労と合計特殊出生率の間には、正の相関があることがわかります(図表4)。女性の社会進出が進むほど、合計特殊出生率は改善しているのです。なお、この相関関係は福祉国家論の巨人、イエスタ・エスピン=アンデルセン教授も指摘しています。

日本では、女性の就業率が上がると出生率が下がる
OECD加盟24カ国における合計特殊出生率と女性労働力

でも、どうしてこんなチグハグなことが起こっているのでしょう。なぜ世界で通用することが、日本では通用しないのか……?

■女性のケアワークの負担を減らせば少子化は改善する

それは、ちょっと歴史を遡ってみるとわかります。1970年には、先進諸国でも女性の社会進出と合計特殊出生率の間には負の相関がありました(図表5の上のグラフ)。それが、1985年(同中央)、そして2000年(同下)と時を経て、徐々に正の相関になっていったのです。そしてそれは、ジェンダーギャップ改善の流れと一致しています。

先進諸国の女性の社会進出と出生率の関係の変化

このデータが提示する事実は極めてシンプルです。女性が男性と同じように社会で働くことを希望した時、女性のケアワークの負担が変わらなければ少子化は加速するし、社会がその負担を担えば少子化は改善します。

日本は、図表5上の1970年代の国々と同じ状況なのです。この状況では、女性の就労が進めば合計特殊出生率が下がるのは必然です。多くの日本女性が、他国の女性と同じように、普通に働きたいと感じています。でも、家事育児の負担が女性に偏ったままでは、絶対に無理です。その時間がないからです。

■今変わるべきは女性ではなく男性

では、この国のジェンダーギャップを解消するにはどうすればいいのか。私はまず、ターゲットの変更が必要だと思います。政府の掲げる「すべての女性が輝く社会づくり」が、もう違うと思う。なぜなら、今変わるべきは女性じゃなくて男性だからです。女性は社会進出したくてもできないんです。なぜなら、男性が家庭進出しないから!

イラストレーション=ハナウタ
イラストレーション=ハナウタ

前回の記事でも見てきた通り、日本人男性は、他の先進国と比べると驚くほど家事育児にコミットしません(できません)。

こんな状況で、妻がもっとキャリアを積むためには、夫がもっと家事育児を担うこと、これしかありません。それをせずに妻に「もっと頑張って働いて!」と言うのはあまりにひどい。想像力に欠けると思いますし、問題解決の手段として筋が悪すぎます。

つまり、女性の社会進出を実現するには、「男性の家庭進出」が必要不可欠です。政府・社会が本来出すべきメッセージは「すべての男性が安心して家事育児できる社会づくり」ではないでしょうか。

■日本人男性を縛る社会の“呪い”

ただ、これは男性だけが気合いを入れればどうにかなる問題ではありません。多くの女性がジェンダーギャップで悩んでいるように、私たち男性もまた「男らしくあれ」という社会からの謎のプレッシャーに悩んでいます。

内閣府の「男女共同参画社会に関する世論調査」によれば、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」と考えている男性は、未だに約40%もいます。女性ですら、約30%にも達します。

昨今、男女の出会いの場として定着しつつあるマッチングアプリでは、女性は男性をまず年収でフィルタリングすることが明らかになっています。結婚したくて果敢にアプリに挑むも、まともにマッチングすらされず涙を流した非正規雇用の友人は数知れず。いったい何度、赤提灯で「どーせ俺なんて……」という切ない愚痴を聞いたことか(一方、男は男で、女性を年齢でフィルタリングするという愚行を続けているわけですが)。

■正社員でそこそこ稼がないと結婚できない残酷なリアル

社会の建前は「男女平等」でも、市場は人の本音をこれでもかというくらい引っ張り出します。男たるもの、正社員でそこそこ稼いでないと、結婚相手として女性に認知すらされないという、あまりに残酷なリアル。かくいう私も、もし現在の妻と出会っていなかったら、確実に恋愛市場から排除されていたことでしょう。なにせ妻と出会った時、貯金ゼロで無職という、明日をも知れない30歳でしたから。

その結果、男たちはこう考えます。家庭を持って子どもを育てるには、正社員になってバリバリ働いて出世して、お給料をたくさん稼がねばならない、と。そして結婚してからも、家族のため、子どものため、そう信じて朝から晩まで歯を食いしばって働いている男たちのなんと多いことか。

■政府は現役世代への投資を

それなのに、この国ときたら実質賃金はずーっと下がりっぱなしです。働いても働いても、お給料が増えないのです。この異常事態は、先進国ではやはり日本だけ。貯蓄ゼロの現役世代が、うなぎ登りに増えています(図表6)。

下がり続ける日本の実質賃金

この状況では、男たちが自分の生き方を変えたくても、できません。がっつり働き続けなければ、まともに生活することもできない。結婚できない、子どもを持てない。だからもっと働かないと……、という負のスパイラルです。これが、ジェンダーギャップが日本で改善しない要因のひとつではないでしょうか。

では、いったいどうするか? 私の考え、というより、切実な願いですが、現役世代・家族に対する政府のサポートを手厚くしてほしい‼ 「いつかは結婚したい、子どもも欲しい、でも、今の経済力じゃ……」そんな不安に、耳を傾けてほしいのです。

日本政府は、私たち現役世代に対する投資をひたすらケチってきました。諸外国と家族関連支出を比較すると、そのケチり具合がよくわかります。ちなみに家族関連支出とは、国が家族手当、出産・育児休業給付、保育・就学前教育、その他の現金・現物給付のために行った支出です(図表7)。

政府の家族関連出資(2017年)

■男性も“稼ぐプレッシャー”から解放される

この家族関連支出が増えると、女性の就業率が上昇します。図表8で、いくつかの国の事例をまとめてみました。

就労適齢期女性の就労率と家族関連支出

近年、イギリスでは家族関連支出が増えており、女性の就労率も一緒に上昇しています。

前田晃平『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』(光文社)
前田晃平『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』(光文社)

実は、日本の家族関連支出も、他国と比べてケチケチしているとはいえ、増えています。女性の就労率も、やっぱり上昇! ある意味、伸び代しかないですね(上司が部下を励ます時によくいうやつ)! 一方、アメリカは家族関連支出を絞っており、アメリカ人女性の就労率は近年低下しています。自己責任論が強いアメリカらしいといえばらしいですが……。

なぜこうなるかというと、家族関連支出が増えると、現在女性が過剰に担っている家事育児を社会がサポートできるようになるからです。出産や育児に必要なお金が減り、保育・教育施設が充実するから、安心して子どもを預けて働けるようになります。こうなってようやく、男性も「ガンガン稼いでこないと……」というプレッシャーから解放され、安心して生き方を考え直せます。結果、女性の家事育児負担はますます軽くなり、いよいよ後顧の憂いなく社会進出できる、というわけです。まったく、道理でありますな!

■妻が専業主婦になると2億円損する

女性が出産育児によるキャリアの機会損失をなくすことができれば、世帯収入は大幅にアップします。内閣府「国民生活白書」(2005)で示されたケースでは、妻のキャリアが妊娠出産によって損なわれなかった場合、生涯所得が2億円以上もアップしています(図表9)。2億円……(じゅるり)。

出産で仕事をやめると、2億円損をする

家計が豊かになれば、おサイフの紐も緩みます。ジェンダーギャップが解消する時、日本経済くんも30年の長い昼寝からようやく醒めてくれるのではないかと思います。

そしてその時には、少子化も改善しているかもしれません。国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査〜結婚と出産に関する全国調査」によれば、既婚女性が理想とする子ども数を持たない理由のぶっちぎり1位は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」です。男性が安心して家事育児でき、女性がキャリアを損なうことがなくなれば、その悩みは解決するはずなのです。

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前田 晃平(まえだ・こうへい)
マーケター/認定NPO法人フローレンス 代表室
1983年、東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部中退。リクルートホールディングス新規事業開発室プロダクトマネージャーを経て、現在、認定NPO法人フローレンスでマーケティング、事業開発に従事。政府・行政に政策を提案、実現するソーシャルアクションを行う。妻と娘と三人暮らし。毎日子育てに奮闘中!

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(マーケター/認定NPO法人フローレンス 代表室 前田 晃平)

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