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「独身者は既婚者より10万円以上損している」未婚の中年男女が払う"ステルス独身税"の中身

プレジデントオンライン / 2021年5月26日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jakkapan21

■「預貯金が増えた」と話題になったが…

先日、2020年の家計調査が発表され、コロナ禍での消費の動向が明らかになりました。巣ごもり消費が好調などと言われもしましたが、全体の消費は大きく減少しました。ほぼ年間を通じて、外食や旅行などのいわゆるハレ消費が制限されたのですから当然と言えます。

一方で、預貯金が大きく増大したことも話題になりました。日本経済新聞は、「所得に対する貯蓄の増加の割合を示す平均貯蓄率は35.2%と前年度比3.2ポイント上昇した。新型コロナウイルスの影響で外出自粛が余儀なくされ、お金が貯蓄に向かっている」と報じています。さらに、「ゴールドマン・サックス証券の推計によると、2020年の預貯金総額は、国内総生産(GDP)の7%近い水準に相当する36兆円にも達する」とも紹介しています。

こうした事実を見ると、昨年の国民一人当たり10万円の一律給付金は、そのまま預貯金口座に収められたのではないかとも思えます。先行きが不透明な不安の中で、もらった金額を将来のための貯金に回すという心理は理解できますし、そもそも、自粛や時短などで消費する機会が奪われたという見方もできます。

■単身世帯は支出も預貯金も減っている

しかし、こうしてテレビや新聞で取り上げられるデータは、いつも家計調査のうちの「二人以上世帯」、つまり家族世帯の数字だけです。ひとり暮らしの単身世帯の数字は一切含まれていません。確かに、かつて昭和の時代は、世帯のほとんどが複数世帯でしたからそれでよかったのでしょう。そもそも単身世帯の正式の調査結果も2007年以降からしか存在しませんでした。

とはいえ、よくよく考えていただきたいのは、世帯数では単身世帯約1490万に対し、夫婦と子世帯は約1470万と単身世帯の方が上回っています(2019年国民生活基礎調査)。もはや無視できない規模にまで拡大した単身世帯の数字を透明化して、本当に日本の現実を分かったような気になっていいのでしょうか?

二人以上世帯の数字と同時に発表された単身世帯の数字を見ると、実は家族と独身とではコロナ禍におけるお金の出入りの違いが浮き彫りになります。

消費支出については、家族世帯と同様、単身世帯も大幅に減少しました。勤労者世帯に限れば、二人以上世帯も単身世帯も約7%の減少で、双方ほぼ一緒です。その一方で、預貯金純増額前年比でみると、家族世帯が7%増であるのに対して、単身世帯は逆に7%減少しています。年間収入階級五分位別の家族と、独身(男女年齢別)の預貯金純増の一カ月あたりの金額差を表したのが以下のグラフです。

【図表1】消費支出を節約したのに、貯金も減った独身者

■この差は一体何なのか?

全世帯とも消費支出は減少していますが、家族世帯に関しては、世帯年収にかかわらず、すべての世帯で預貯金が増えており、消費を抑えた分だけ貯金が増えているようにも見えます。対して、単身世帯の方は、こちらもどの年代も消費は減っているのに、34歳までの若い独身男性を除いて、貯金は減っています。特に、男女とも35~59歳の中年独身の預金減少が顕著です。

前述した通り、家族も独身も消費支出そのものは7%も節約しています。加えて、家族も独身も一律10万円を受け取っていますし、両者には、所得の前年増減の違いもほぼありません。にもかかわらず、貯金できた家族と貯金を切り崩さなければいけなかった独身との差は、一体どこにあったのでしょうか。

それは、所得税などの税金や社会保障費などのいわゆる「非消費支出」の違いにあります。2019年と2020年の非消費支出額の比較をすると、家族世帯全体に対して単身世帯は35~59歳単身女性以外、前年より負担が大きく増えています。特に、34歳までの若い単身男性は1カ月あたり前年より9000円近くも負担増です。家族と比べると、もっとも所得の多い962万円以上の世帯はその半分の4000円強しか増えていません。

実収入に対する非消費支出の割合でみても、単身世帯の負担率は家族でいえば751万円以上の世帯と同じレベルになります。ちなみに、単身世帯の平均収入は300万円台です。単身世帯は、収入が倍以上の世帯と同程度の税金・社会保障費を負担している計算になるのです。

【図表2】単身世帯と家族世帯 税・社会保障費負担比較

■給付金も消滅する「ステルス独身税」

これは、家族には適用される配偶者控除や扶養者控除などの税金の各種優遇が独身者にはないことが大きい。いってしまえば、目に見えない「独身税」のようなものです。しかし、これは単身独身者にとっては死活問題で、例えば34歳までの単身男性は非消費支出が1カ月あたり前年比9000円弱増えましたが、これは年間にすれば10万5300円になります。

お金
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

つまり、あの10万円の一律給付金はすべて税金や社会保障費の増額分で消えてしまったわけで、ある意味1円も給付金をもらっていないに等しいのです。

単身者で、会社の給与明細を毎月チェックする人も少ないし、家計簿などをつけている人も少ないでしょう。本人ですら気づいていない、この「ステルス独身税」によって、単身者は家族に比べて貯金ができない状態に追い込まれています。

同じコロナ禍で、同じ10万円の給付金をもらっていたとしても、独身と家族は決して公平なわけではありません。二人以上世帯だけが、国民全部を代表するという統計の切り出しをしてしまうと本当の現実を見誤るというのはこういうことです。

少子化の最大の原因は、結婚した夫婦が子を産まないことではありません。婚姻数の絶対数の減少こそが少子化に直結することは統計上明らかです。実際結婚した夫婦は、今でも全体的には2人の子を出産しています。言い換えれば、理論上は婚姻数を1つ増やせば、プラス2人の子どもが純増する計算となります。政府の少子化対策においても近年ようやく婚姻数の増加の課題を取り上げるようになっています。

■彼らは「社会のフリーライダー」ではない

その一方、「金がないから結婚できない」という未婚男性の声もあります。婚活の現場では、今なお年収の低い男性が足切りされてしまっていることも事実です。東京など大都市を別にすれば「年収300万円の壁」という定説も存在します。要するに、“年収300万円稼げない男は結婚できない”ということです。

収入が上がらない上に、独身者へのこうした高い税負担があることは、かえって彼らを、結婚どころか恋愛すらする暇もないほど日々の生活だけで精一杯な状況に追い込む羽目になっていやしないでしょうか。

今までご説明した通り、むしろ独身のままより結婚した方が経済的には優遇されます。しかし、経済的に余裕のない独身者はそんな広い視野は持てないものです。皮肉なのは、ある一定以上の収入を確保した層だけが結婚して子を産むことができ、なおかつ、税制的にも優遇されるという現実になっています。

だからといって、私は「独身者たちよ、不公平に怒れ」などというつもりは毛頭ありませんし、当の独身者たちも、こうした現実は薄々認識しているし、それを「自分たちだけ損をしている」などと声を荒げることはないでしょう。ただ、独身時代は何の控除もない高い税や社会保障費を払っていた既婚者の一部が「結婚も子育てもしていない者たちは社会のフリーライダーだ」などと非難する声を上げていることの方に心を痛めていると理解してほしいのです。

■独身だって見えない形で社会を支えている

独身者たちが家族よりも税負担の大きい割合は、長期的に平均2%弱です。これは、家族世帯が子どもの授業料などに費やす教育費とほぼ同じ割合です(もちろん、この中には子のいない世帯も入れての平均ですから、実際子育て世帯の教育費はもっとかかっているとは思いますが)。

超高層ビル
写真=iStock.com/twinsterphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/twinsterphoto

いってみれば、独身者たちも税金などの形で未来の宝である子どもたちの教育費相当分を国庫に預けているとも言えます。決してフリーライダーなんかではありません。独身は独身なりに社会的役割を果たしています。

家族に比べて高い税負担を、独身であることの罰則的意味の「ステルス独身税」ととらえるのではなく、すべての子育て世帯のための独身者による「ステルス子育て支援金」だと考えてはどうでしょうか。税以外にも、独身者の消費だって、経済を回して結果的には誰かの給料を支払っているようなものです。そうやって社会は支えあっているのです。

もはや全員結婚する皆婚時代は終わりました。だからといって「結婚も子育てもしない独身者は国民の義務を果たしていない」などと独身者をなじったところで何かが好転するわけではありません。それより、互いがそれぞれの立場でそれぞれの役割を果たしていることを理解し、「見えないけれど確かな支えあい」があることを実感するようになってほしいと考えます。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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