「皇族の公務が少なすぎる」小室さん騒動で霞む"令和皇室"の本当の大問題
プレジデントオンライン / 2021年6月8日 9時15分
■置き去りにされた「皇室と国民との距離」問題
2021年3月から、政府は「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議を立ち上げ、安定的な皇位継承に向けて本格的に検討を開始した。
その第5回(5月31日開催)の会議のヒアリングに招かれ、筆者も私見を述べさせていただいたが、本稿ではその一端を簡単にまとめてみたい。
まず読者のみなさんに問いかけてみたい。現在、日本の皇室には15人ほどの皇族方がおられ、日々の公務に勤しんでおられるが、その全員のお顔とお名前を判別でき、おのおのの年齢やこれまでの足跡、どのようなことに関心を持たれ、どういう役職に就いておられるのか、といったことをすべて答えられるかたがどれぐらいいるだろうか。
天皇ご一家や秋篠宮ご一家についてはある程度はご存じであろうが、それ以外の宮家については国民の大半もほとんど認識していないのではないか。
日本の皇室が現在抱えている最大の問題が、この「皇室と国民との距離」という問題にある。それはまた一朝一夕に浮上した問題などではなく、戦後70年以上にわたって政府や宮内庁、さらには国民自身が「置き去り」にしてしまった、問題の積み重ねによる結果ともいえよう。
■「公務」の偏在と圧倒的な少なさ
確かに皇族の方々は「公務」をされている。しかしそれはヨーロッパ、とりわけ英国の王室と比べても格段に「少ない」といっても過言ではない。日本の皇室のなかで特に多忙なのは天皇皇后両陛下と、現況では高円宮久子妃ぐらいのものであり、残りの方々は多忙な公務の日々とは決して言えない毎日を過ごしておられる。
たとえば、総裁や名誉総裁、名誉会長として関わっておられる団体の数である。天皇と皇后を除き、現在各種団体に関わっている皇族は12人で、その団体の総数は88である。これが英国王室ともなると、18人の王族でおよそ3000にも及ぶ団体に「パトロン(総裁・会長)」として関わっているのだ。
日本の皇室で最も多くの団体を抱えておられるのが高円宮久子妃であり、2021年現在で29の団体に関わっておられるが、今年95歳のお誕生日を迎えられたエリザベス女王は実に600もの団体のパトロンを今も務め、コロナ禍にあってもZoomで関係団体の人々と会議を開いている。
そもそもが英国はヴィクトリア女王(在位1837~1901年)の時代から慈善団体に関わり、さらに英国のみならずカナダやオーストラリアといった「英連邦王国(エリザベス女王を国家元首にいただく国)」15カ国の団体にも王族が関わっている。
それゆえ日本の皇室とは桁違いの忙しさなのである。また、ベネルクス3国や北欧3国などの王室も、英国ほどの数ではないがそれでも王族各人が少なくとも2桁以上の団体に密接に関わり、文字どおり世界中を飛び回る多忙な生活にあるのが現状である。
■SNSを駆使する海外王室
21世紀のこんにち、王室は「国民の支持があってこそ」成り立つものである。英国王室もこうした各種団体に関わる活動は、一昔前までは「慎ましく」「目立たないかたちで」おこなってきた。しかしそれでは国民に十分理解してもらえない時代なのである。
それを如実に示したのが1997年夏の「ダイアナ事件」であった。当時の英国民の多くが、慈善活動に積極的なのはダイアナだけで、他の王族は冷たいとの誤解を抱いていた。
この誤解を払拭するために、王室はホームページやツイッター、ユーチューブ、インスタグラムといったSNSを活用し、自分たちの活動を喧伝した。国民にとってまさに目からうろこが落ちる思いとなった。いまや英国王室は国民からも絶大な支持を集めるようになった。
2020年1月にチャールズ皇太子の次男ヘンリ(ハリー)王子とメーガン妃が突然王室から離脱すると発表したとき、国民からの怒りが王室ではなく夫妻に向けられたのはこうした王室の地道な「広報努力」があったからにほかならない。
夫妻から「殿下」の称号とすべての公職を取り上げたエリザベス女王の決定は、国民の実に9割近くから「英断」として高く評価されている。
それはまた今年4月に99歳で大往生を遂げた女王の夫君エディンバラ公爵フィリップ殿下に対する国民の敬愛をも反映していた。老公は2017年5月に96歳目前で公務からの「引退」を表明したとき、なんと785もの団体のパトロンを務めていたのである。ハリーとメーガンはその多くをこれから引き継がなければならない矢先であったのに、国民の目から見れば夫妻の行動は「敵前逃亡」と映っていたのかもしれない。
■「いまだ雲上人」皇室の広報は不十分だ
いずれにせよ、英国に限らず、ヨーロッパで君主制をいただく国民の多くは、王族たちが自分たちや世界全体のために日夜努力している姿を見て、王室に信頼を抱いているのが現状なのである。そのいずれにおいても英国が「嚆矢(こうし)」となっており、各国の王室はいまやSNSを活用して、自分たちの喧伝にも努めているのである。
こうしたヨーロッパの王室に比べると、日本の皇室は公務の数もさることながら、国民の前に姿を現す頻度も、さらに広報にしても圧倒的に足りていないというのが現実である。
日本には「宮内庁」のホームページはあっても「皇室」のそれはない。ましてやツイッターもインスタグラムも開設していない。しかも深く関わっている団体が少ないなかでは、皇族の方々の活動も国民にはわかりづらい。いまだに「雲上人」というのが真実なのか。
21世紀のこんにちでは、高齢者や子ども、障がい者、さらにはLGBTの人々、他国籍の国民(多文化共生問題)など、いわゆる社会のなかの弱者といわれる人々に寄り添っていくことが大切である。こうしたときに、日々の政治や外交、軍事や通商(さらには昨今のコロナ対策など)で忙しい政府では手の回らない、これらの問題に積極的に関わることができるのが王族であり、皇族なのではないか。
こうした側面からも、日本でも皇族の方々にさらに多くの各種団体に直接的に関わっていただき、国民により近づいてもらいたい。
■「公務の担い手」が減っては国民との距離は埋まらない
ところが、政府から国民に至るまで日本全体が戦後70年以上にわたって「置き去り」にしてきた問題のツケが回ってきている。いわゆる皇族数の減少である。「皇室典範」第12条にあるとおり、女性皇族が皇族以外の男性と結婚される場合には、皇室から離れなければならない。俗にいう「臣籍降下」である。
公務を担える皇族が他にも多数存在する状態であればいざしらず、いまや上記の各種団体に関わる皇族12名のうち実に10名が女性であり、そのうち4名が未婚の皇族である。さらに既婚の女性皇族にしても、三笠宮百合子妃(98歳)を筆頭に常陸宮華子妃(80歳)、そして高円宮久子妃(67歳)と、みなさまいつまでも公務を担えるわけではない。
これからさらに公務を担っていただきたいときに、それを支えられる皇族数が減少していては、皇室の国民からの支持はさらに減退してしまうのではないか。やはり女性の皇族にも男性と同様に「宮家」を創設していただき、その配偶者もお子様たちにも「皇族」となっていただき、天皇皇后両陛下を支えていただかなければ成り立たないのである。特に、高円宮家の三女絢子様が嫁がれた守谷慧氏は、青年時代からボランティアに積極的に関わっておられ、理想的な「皇族」になってくださるのではないか。
■「小室騒動」が投げかける令和皇室の深刻さ
そのような矢先に皇室に一石を投じたのが「小室圭さん問題」ではないだろうか。これまで報じられてきた、ご家族での負債の問題などについてはここでは触れるつもりはない。ただしこの一連の報道を通じて生じた現実問題についてだけは触れておきたい。
2017年5月に眞子内親王との婚約が内定して以来、これまでの「騒動」により内親王ご自身についてはもとより、秋篠宮家、ひいては皇室全体に及ぼした影響は計り知れないのではないか。報道内容の真実はどうであれ、このままお二人が結婚されてもそれは国民全体から真に祝福されるご成婚にはならないのではないか。さらに仮に女性皇族も宮家を創設できることになったとしたら、小室氏も「皇族」となるわけであり、これに反対する国民も多数出てくる可能性は高い。
そして宮家の創設だけではなく、この21世紀の現在にあっては「女性・女系天皇」の道を切り開くことも必定となってくるのであり、それが実現すれば将来的に眞子内親王が天皇になられる可能性もありうるわけで、国民からのさらなる反発も予想されよう。
こうした事態を避けるために、「男系男子」の皇位継承にこだわる人々は、終戦直後に皇籍を離脱した旧宮家の男系男子を養子などのかたちで皇室に戻せばよいのではないかと主張している。
しかし、本稿の最初で筆者がみなさんに質問したことについて立ち戻っていただきたい。報道等でもお顔などが出る可能性の高い、現在の皇族についてもなじみの少ない国民が、70年以上も前に皇室を離れ、顔も名前もほとんどわからない方々にどれだけの信頼を寄せられるだろうか。
■皇室はもっと国民に近づいてほしい
以上の議論を踏まえて、今後の皇室の進むべき道について私見を整理しておきたい。
現在の皇室を支えておられる女性皇族方を中心に、ご自身が特に関心を持たれている分野に関わる各種団体に総裁等の役職で(パロトンとして)さらに多数コミットしていただき、そうした活動は毎日更新するSNSによって国民にも活発に広報していただきたい。
また、皇室典範第12条も改定し、女性皇族方はご結婚後も皇族として留まり、配偶者やお子様も皇族とし、今後も天皇皇后両陛下を中心とする皇室の活動を支え続けていただきたい。
以上のことは、21世紀どころか、明治以降の150年以上に及ぶ日本の皇室史上で初めての試みとなることは百も承知である。しかし幸いなことに、イギリスをはじめヨーロッパにはこうした王室や王族の活動の活性化、SNSの活用について「先達」ともいうべき存在があまたあり、日本の皇室はこれらの王室ともやはり150年にもわたる長いお付き合いで結ばれているのだ。そのノウハウを伝授していただけるはずである。
2018年に上梓した『立憲君主制の現在:日本人は「象徴天皇」を維持できるか』(新潮選書)でも書いたように、21世紀の今日においては「国民の支持があってこそ」皇室は成り立つのである。
「小室圭さん問題」が投げかけた波紋は、一部の週刊誌が報じていること以上に、より深刻な問題をはらんでいることを忘れてはいけない。
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関東学院大学国際文化学部教授
1967年、東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒業。英国オックスフォード大学セント・アントニーズ・コレッジ留学。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程修了。博士(史学)。東京大学客員助教授、神奈川県立外語短期大学教授などを経て、関東学院大学国際文化学部教授。専攻はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。著書に『悪党たちの大英帝国』『立憲君主制の現在』(後者は2018年サントリー学芸賞受賞、ともに新潮選書)、『ヴィクトリア女王』、『エリザベス女王』『物語 イギリスの歴史(上)(下)』(以上、中公新書)、『肖像画で読み解く イギリス王室の物語』(光文社新書)、『ヨーロッパ近代史』(ちくま新書)、『女王陛下のブルーリボン』(中公文庫)、『女王陛下の外交戦略』(講談社)など多数。
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(関東学院大学国際文化学部教授 君塚 直隆)
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