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「中国の宇宙ステーションが完成へ」日米欧が後塵を拝するようになった根本原因

プレジデントオンライン / 2021年6月7日 11時15分

中国の無人補給船「天舟2号」を載せ、打ち上げられる運搬ロケット「長征7号」(中国・海南島の文昌発射場) - 写真=AFP/時事通信フォト

宇宙で中国の存在感が高まっている。2022年には独自の宇宙ステーションを完成させる予定だ。日米欧などの国際宇宙ステーションは老朽化しており、近く宇宙に拠点をもつ国は中国だけとなる恐れもある。ジャーナリストの知野恵子氏は「米ロが40年以上前に実現した古臭い技術でも、中国はこつこつと再現してきた。その継続性が奏功しつつある」と指摘する――。

■「古い」と酷評されたのが20年で一転

宇宙開発分野で中国が存在感を発揮するようになったのは、ここ20年ほどのことだ。2003年10月、ロケットと有人宇宙船「神舟5号」で、人間を宇宙へ送りだすことに成功し、旧ソ連、米国に次ぐ3番目の国となったことがきっかけだ。

1970年4月に初めて人工衛星を打ち上げ、宇宙開発国の仲間入りした中国だが、自国や海外の衛星を盛んに打ち上げていたものの、世界からはあまり注目されなかった。打ち上げ直後にロケットが墜落して死者を出したり、連続して衛星の軌道投入に失敗したりするなど、技術の未熟さが目立ったからだ。

中国が有人宇宙飛行を計画していることは1990年代後半に世界で知られるようになったが、専門家の間では実現性は低いと見られていたのも、このためだ。初の有人宇宙飛行に成功した後ですら、「40年前のロシアの古い技術を使っている」「技術に発展性がない」などと酷評された。

しかし、中国は、そうした声をものともせず、次々とさまざまなプロジェクトに取り組む。中国版GPS「北斗」衛星システムを構築し、世界初の月の裏側への探査機着陸、盗聴不可能とされる量子暗号通信衛星などの最先端技術に挑み、この4月には独自の宇宙ステーション建設に着手し、宇宙飛行士が生活する中核施設「天和」を打ち上げた。その際に使ったロケット「長征5号B」の残骸が5月上旬に地球に落下し、騒ぎを引き起こした。

■宇宙の有人拠点はISSと中国製の二つに

今後、日本や米国の宇宙政策に影響を与えるとみられるのは、この中国の宇宙ステーションだ。ロケット残骸落下騒ぎの後も、中国は宇宙ステーション建設を続けており、5月末に宇宙ステーションに燃料や食料を運ぶ無人補給船「天舟2号」を打ち上げ、「天和」とのドッキングにも成功した。今後、実験室などを打ち上げて組み立てていく。6月には、宇宙飛行士3人を打ち上げて3カ月滞在させ、22年までに宇宙ステーションを完成させる予定だ。

現在、日米欧ロなどの15カ国は、国際宇宙ステーション(ISS)を運用している。中国の宇宙ステーションが予定通り22年に完成すれば、宇宙空間には米国が主導するISSと中国宇宙ステーションという、二つの有人拠点ができることになる。

ただISSは24年まで運用することは決まっているものの、25年以降どうするかは定まっていない。欧米は30年ごろまで延長することを検討しているが、ロシアは24年でISSから撤退し独自の宇宙ステーションを建設する方針を打ち出し、米国に揺さぶりをかけている。米国と交渉を続ける一方で、早ければ25年に打ち上げを開始するともしており、宇宙で三つ目の拠点ができる可能性もある。

今年3月に、中国とロシアは月面基地建設計画で協力する政府間合意を交わしたが、宇宙ステーションで協力することも考えられる。

■これまでも外交ツールとして利用

中国への対抗を強める米国にとって、宇宙に中国の拠点ができるだけでも刺激的なことだが、25年以降、自分たちが拠点を失い、中国だけが宇宙に滞在することになれば痛手は大きい。

ISSは、1998年から四十数回に分けて部品などを打ち上げて建設し、2011年に完成した。建設開始から歳月がたち老朽化も進んでいる。米トランプ前政権は、政府からの資金拠出を打ち切り、ISSを民間に移管する方針を打ち出していたが、中国の宇宙ステーション完成が近づく中、今後どうするか、米国、日本をはじめ各国が喫緊に検討すべき課題だ。

地球の軌道上にある国際宇宙ステーション(ISS)
写真=iStock.com/dima_zel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dima_zel

すでに中国は宇宙ステーションを足場にして、国際協力を進めることを表明している。これまでも中国は宇宙を外交ツールとして利用してきた。途上国の衛星を打ち上げ、運用も担い、代わりに資源を獲得するといったやり方だ。

中国は宇宙ステーションを科学実験の場として各国に公開することを明らかにしている。国連宇宙部と協力して、実験テーマの募集を行い、2019年6月に日本、スイス、ドイツ、ロシア、サウジアラビアなど17カ国9プロジェクトを実験テーマに選んだ、と発表した。宇宙での中国の影響力がさらに大きくなると見られる。

■開発計画を支える幅広さと継続性

それにしても20年ほどの間に、なぜ中国の宇宙開発は米国を脅かすほど強くなったのか。その鍵は、「幅広さ」と「継続性」にある。中国は、宇宙先進国の米国、ロシアをお手本に、自分たちも実際にやってみるという方法をとってきた。たとえそれが40年以上、あるいは20年以上前に米ロで実現した技術であってもだ。中国の宇宙開発プロジェクトにしばしば「既視感」や「レトロ感」が漂うのは、そのためだ。

1回だけで終わりにするのではなく、次の発展計画を持ち、体系的に進めていくのも特徴だ。例えば火星探査。現在の火星探査機の後は、2028年に火星から試料を採って地球に持ち帰る「サンプルリターン」を、50年には有人火星探査を実現させるという青写真を描いている。

月探査も同様だ。2007年に月を観測する衛星を打ち上げ、19年1月に世界で初めて月の裏側に探査機を着陸させた。20年12月には無人の月探査機が月の土壌試料を採取して地球に持ち帰る「サンプルリターン」を実施した。今後は、月への有人飛行、月面有人基地の建設という計画を立てている。

中国が2016年に公表した宇宙白書では、「宇宙強国の達成」「中国の夢の実現」という方針を示したが、その目標に向けて着々とこなしている。

■他国の衛星を危険にさらす懸念も

懸念されるのは中国による宇宙の軍事利用が一層進むことだ。中国は2007年に、運用を終了した自国の気象衛星を地上からミサイルで破壊する衛星破壊実験を行った。その後も、衛星破壊は伴わないミサイル発射実験を繰り返している。衛星から放出した宇宙ゴミに見立てたターゲットを、衛星に搭載したロボットアームで捕獲する実験や、衛星同士を接近させる実験も行っている。

宇宙開発で使われる技術は、軍用、民生用どちらにも使うことができる。衛星を捕獲したり、他の衛星に接近したりする技術は、表向きは、宇宙に漂っているロケットや衛星の破片などの宇宙ゴミを減らすためのものとされているが、使い方によっては、日本など他国の衛星を攻撃し、危険にさらす。

遠い宇宙にある衛星は、縁遠いものと思われがちだが、測位衛星による位置情報、通信衛星を介した通信、気象衛星による観測など、衛星の利用は安全保障や日常生活に深く結びついている。米国は、宇宙ステーションが建設される低軌道に、軍事用の小型衛星を多数打ち上げて、リアルタイムでの偵察、監視、追尾などに使う計画を進めている。新たに加わる宇宙ステーションに、中国がどのような役割を担わせるかが懸念される。

米国は警戒の目を光らせており、宇宙を巡る覇権争いは激化している。中国は偵察衛星などの軍事衛星をここ10年ほどの間に約3倍に増やし、ロシアを追い抜き、米国に迫る。これも米国や日本などの不安を増幅している。

■“米国一強”から新たな局面に入った

宇宙開発は政治や国際情勢に大きく左右されてきた。ISSにしても、当初はロシアの参加は予定されていなかった。ソ連崩壊によって宇宙技術が流出することを恐れた米国が、突然ロシアを加えると表明し、日本など参加国を驚かせた。ISSに参加する欧州はこれまで中国とさまざまなプロジェクトで協力をしてきた実績があり、今後の動向が気にかかる。

一方、破竹の勢いで成長を続けてきた中国だが、急速に少子高齢化が進み、これまでのように宇宙開発の勢いを保てるかどうかは不透明な状況になっている。

宇宙を舞台に大国間の思惑と駆け引きが今後、加速されることは避けられない。世界の宇宙開発はこれまで体験したことがない新たな局面を迎えている。そうした中で、日本もISSなどの宇宙政策をどう進めていくかが問われることになろう。

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知野 恵子(ちの・けいこ)
ジャーナリスト
東京大学文学部心理学科卒業後、読売新聞入社。婦人部(現・生活部)、政治部、経済部、科学部、解説部の各部記者、解説部次長、編集委員を務めた。約35年にわたり、宇宙開発、科学技術、ICTなどを取材・執筆している。1990年代末のパソコンブームを受けて読売新聞が発刊したパソコン雑誌「YOMIURI PC」の初代編集長も務めた。

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(ジャーナリスト 知野 恵子)

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