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健康、生涯賃金、社会的地位…なぜ高身長の人たちはすべてに恵まれているのか

プレジデントオンライン / 2021年6月7日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Imgorthand

統計上は、高身長の人ほど、健康、生涯賃金、社会的地位に恵まれている。科学者のバーツラフ・シュミル氏は「身長と所得が相関関係にあることは、1915年に初めて立証され、以来、インドの炭坑作業員からスウェーデンの企業のCEOまで、多岐にわたるグループを対象にした調査によって、たびたび裏付けられている」という——。

※本稿は、バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)の一部を再編集したものです。

■月齢や年齢で予想される身長が正確にわかる時代

人間の体格に関する調査の例に漏れず、身長に関する研究が始まったのもだいぶ遅かった。フランスの弁護士、フィリベール・ゲノー・ドゥ・モンベヤールが、1759~77年まで、息子の身長を生後すぐから半年おきに18歳の誕生日まで計測し、それをビュフォン伯爵がかの有名な『博物誌(イストワール・ナチュレル)』の1777年刊行の巻で表にして発表したのである。

ところが、モンベヤールの息子は当時としては長身だった(18歳のころには現代のオランダ人男性の平均と同じくらいの身長になっていた)。そして1830年代になると、ようやく人間の身長と、幼年期から青年期にかけての成長のデータが体系立てて大規模に収集されるようになる。その功を立てたのはエドュアール・マレとアドルフ・ケトレーという2人の研究者だった。

以来、人間の身長に関してはあらゆる側面から研究が重ねられてきた。年齢ごとに予測できる身長の伸びや身長と体重の関係、栄養が身長に及ぼす影響、遺伝的要因、はては成長期における性差まで、じつにさまざまな研究がおこなわれてきたのだ。

その結果、月齢や年齢で予想される身長(と体重)が、かなり正確にわかるようになった。たとえば、アメリカ人の若いお母さんが身長93センチメートルの2歳男児を連れて小児科に行けば、息子さんは同年齢のお子さんの90%より背が高いですよ、と言われるだろう。

■世界的に平均身長はどんどん高くなっている

さて、現代にいたるまでに人間の身長がどのくらい伸びてきたのか、また国によってどのくらいの差があるのかに興味があるみなさんに、成長に関して体系的に実施された研究結果のなかから、最善のものを紹介しよう。

平均身長がどんどん高くなっていることを示す記録がしっかりと残されているのだ。身体の成長が遅れ、小児の低身長などにつながる発育不良は、多くの貧しい国々ではいまだによく見られるものの、世界的に見ると減少傾向にある。

1990年には約40%だったのに、2020年には22%へと減少しているが、これはおそらく、中国の状況が急速に改善したのがおもな要因だろう。いっぽうで、どんどん身長が高くなる傾向がすでに20世紀に世界的に見られるようになっていた。

以前より健康になり、栄養状態がよくなったおかげで、この傾向は加速した。なんといっても、良質な動物性たんぱく質(牛乳、乳製品、肉、卵)を以前よりはるかに多く摂取するようになったのが大きい。

そのうえ、身長が高くなるにつれ、驚くほど多くの恩恵がもたらされることもわかった。たとえば、背が高いからといって一般に平均寿命が長くなるわけではないが、長身の人は心血管疾患に罹患するリスクが低く、認知機能、生涯賃金、社会的地位のすべてが高い。

■総資産額の高い企業のCEOほど身長が高い

身長と所得が相関関係にあることは、1915年に初めて立証され、以来、インドの炭坑作業員からスウェーデンの企業のCEO(最高経営責任者)まで、多岐にわたるグループを対象にした調査によって、たびたび裏付けられてきた。

さらに、スウェーデンのCEOたちを対象にした調査によれば、なんと総資産額の高い企業のCEOほど身長が高いそうだ。

全人口を対象とした長期にわたる調査結果に目を向けると、こちらもじつにおもしろい。産業化以前のヨーロッパにおける男性の平均身長は169~171センチメートル、世界平均はおよそ167センチメートルだった。

入手可能な200カ国の膨大な身体測定データによれば、20世紀全体での身長の伸びは、成人女性で平均8.3センチメートル、成人男性で8.8センチメートル。ヨーロッパと北アメリカではどこの国でも身長が伸びているいっぽう、20世紀最大の伸びを記録したのは韓国の女性(20.2センチメートル)で、男性のトップはイランの男性(16.5センチメートル)だ。

バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)
バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)

日本では1900年から、男女とも6~24歳までの詳細なデータが収集されていて、これを見ると、栄養が十分にとれているかどうかが、身長の伸びに影響を及ぼしていることがわかる。1900~40年、10歳男児の平均身長は1年で0.15センチメートル高くなっていたが、戦時中は食料不足のせいで1年で0.6センチメートル低くなっていた。

平均身長がふたたび高くなりはじめたのは、ようやく1949年になってからのことで、世紀後半の伸びは1年当たり平均0.25センチメートルだった。同様に、中国でも身長の伸びは世界最悪の大飢饉(ききん)(1959~61年)のあいだは止まっていたが、それでも主要都市の男性の身長は、20世紀後半には1年で平均1.3センチメートル伸びていた。

それとは対照的に、同時期のインドとナイジェリアではわずかな伸びにとどまり、エチオピアではまったく伸びず、バングラデシュでは平均身長がわずかに低くなっていた。

■アメリカ人よりたくさん牛乳を飲むオランダ人

では、いちばん背が高いのはどこの国民だろう? 男性ではオランダ、ベルギー、エストニア、ラトビア、デンマークが高く、女性ではラトビア、オランダ、エストニア、チェコ、セルビアが高い。そして栄えある長身国民ナンバーワンは、20世紀最後の四半世紀に生まれたオランダ人で、平均身長は182.5センチメートルを超える。

18歳日本人男性の身長:1900~2020年
出典=『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』

こうした成長をうながすおもな要因となったのは、日本でもオランダでも、牛乳だった。第二次世界大戦前のオランダ人男性はアメリカ人男性より背が低かったが、1950年以降、アメリカの牛乳消費量が減ったいっぽうで、オランダでは1960年代まで増えた。

現在でも、オランダ人はアメリカ人よりたくさん牛乳を飲んでいる。これが意味するところは明々白々。子どもの身長を高くしたいのなら、もっと牛乳を飲ませればいい。

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バーツラフ・シュミル(ばーつらふ・しゅみる)
マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授
エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産、栄養、技術革新、リスクアセスメント、公共政策の分野で学際的研究に従事。カナダ王立協会(科学・芸術アカデミー)フェロー。2000年、米国科学振興協会より「科学技術の一般への普及」貢献賞を受賞。2010年、『フォーリン・ポリシー』誌により「世界の思想家トップ100」の1人に選出。2013年、カナダ勲章を受勲。2015年、そのエネルギー研究に対してOPEC研究賞が授与される。日本政府主導で技術イノベーションによる気候変動対策を協議する「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」運営委員会メンバー。

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(マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授 バーツラフ・シュミル)

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