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「家は狭く、通勤地獄、休日少ない」それでも日本が世界一の長寿国になった本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年6月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tijana87

なぜ日本は世界一の長寿国になったのか。科学者のバーツラフ・シュミル氏は「長寿の1つの指標になるのは、1人当たりの食料供給量だ。日本は2700キロカロリーを下回り、欧米諸国と比べて約25%少ない」という——。

※本稿は、バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)の一部を再編集したものです。

■日本人は特異な遺伝子の持ち主なのか?

現代の日本。数字のうえでは豊かだが、人々は狭苦しい家に暮らし、満員電車に長々と揺られて通勤し、夜遅くまでの残業を強いられるうえ、休日は少なく、いまだに大勢の人が喫煙していて、因習的なヒエラルキー社会に従うよう大きな圧力をかけられている。

そのうえ、つねに大地震に見舞われるリスクがあり、国土の大半で火山が噴火するおそれもあり、季節によっては巨大台風や熱波の脅威にもさらされている。北朝鮮が隣国であるという脅威は言わずもがなだ。それでも、日本人の平均寿命はどの国よりも長い。最新の主要国の数字は次のようになっている。

平均寿命(女性/男性) 2015~20年
●日本 87.5歳/81.3歳
●スペイン 86.1歳/80.6歳
●フランス 85.4歳/79.4歳
●イギリス 82.9歳/79.4歳
●アメリカ 81.3歳/76.3歳

さらに特筆すべきは、80歳まで生きた日本人女性は平均してさらに12年生きると予想されること。アメリカは10年、イギリスは9.6年だ。

はたして、日本人は特異な遺伝子の持ち主なのだろうか? まず、そうは考えられない。というのも、近隣の大陸から渡来した人たちが日本列島に定住したと考えられているからだ。

近年、日本人の遺伝的集団構造と進化に関して詳細な研究が実施され、日本人の祖先にはおもに朝鮮半島を経由して渡来した人々、漢民族、そして東南アジア諸民族の特徴があったことが確認されている。

■背景には日本特有の食生活

もしかすると、国民のあいだに広く浸透している宗教的な教訓のおかげで長寿なのかもしれない。つまり「物質より精神」を重んじる考え方が功を奏している可能性がある。しかし、こうした日本人の思考の基本にあるのは、宗教心というよりは精神性かもしれない。

古い文化を継承している人口の多い国はほかにもあるが、伝統的なものの考え方が人々の胸に深く沁み込んでいる国として、日本に比肩するところはない。

さて、精神的な信条を除けば、長寿の第一の理由は日本特有の食生活ということになる。では、いったいどんな点が優れているのだろう? 日本人が大好きな食べ物や調味料に注目しても、あまり役には立たない。

たとえばしょうゆは、ミャンマーからフィリピンにいたるアジア大陸の大半で、その土地独自のしょうゆがあるし、豆腐も同様。少し範囲は狭くなるが、納豆でさえ、世界ではほかにも食べられている地域がある。

また日本の緑茶は、チャノキの葉を摘んですぐ熱処理を加えて茶葉にしたものだが、チャノキは中国原産である。日本の茶葉とは色合いが微妙にちがうものの、中国ではいまでも茶葉を生産していて、1人当たりの消費量は減っているとはいえ、その大半を国内で飲んでいる。

日本vs.アメリカ
出典=『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』

■アメリカ人の人工甘味料摂取量は日本人の2.5倍

ところが、フードバランスシートを見ると、平均的な日本人、フランス人、アメリカ人の食生活におけるたんぱく質・脂質・糖質の主要栄養素の割合に大きな差があることがわかる。食事から摂取する全エネルギーに占める動物性食品の割合は、フランスで35%、アメリカで27%だが、日本ではたったの20%だ。

このように、日本人の食生活には植物性食品を多く摂取する傾向があることはわかるものの、脂肪(植物性、動物性を問わず脂質)由来のエネルギー摂取、さらに砂糖や人工甘味料由来のエネルギー摂取の割合のほうがよほど重要な意味をもっている。

アメリカ、フランスの両国では、脂肪由来のエネルギー摂取が日本のほぼ2倍(正確には1.8倍)である。そのうえ、アメリカ人は1日に日本人の2.5倍近くの砂糖や人工甘味料(アメリカでは果糖ブドウ糖液糖が主流)をたっぷりと摂取していて、フランス人もやはり日本人の1.5倍の量を摂取している。

こうした数値は漠然とした関連性を示しているだけだということをつねに念頭に置くべきだが、そのうえであえていえば、悪影響を及ぼしていると疑われる栄養素を摂取しないようにすれば、やがて脂質と糖質の摂取を減らすことが長寿の秘訣だとわかるかもしれない。

■食料供給量から見えた「儒教の教え」

しかし、それが、実際に日本を特別な長寿国たらしめているいちばんの理由ではない。鍵を握るのは、日本の1人当たりの食料供給量(カロリーベース)がきわめて少ないことだ。

たとえば、欧米の先進諸国のフードバランスシートを見ると、アメリカであれ、スペインであれ、フランスであれ、ドイツであれ、ほぼすべての国の1日の食料供給量は1人当たり3400~4000キロカロリーであるのに対して、日本のそれは2700キロカロリーを下回り、欧米諸国と比べて約25%少ない。

バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)
バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)

もちろん、実際に欧米諸国の1日の平均消費カロリーが3500キロカロリーを超えるはずはない(それだけのエネルギーを必要とするのは重労働をこなす長身の男性くらいだ)が、フードロスの割合が弁解の余地さえないほど高いことを考慮しても、これほど過剰に食料を供給していれば、過食や肥満を生みだすのは必然だ。

いっぽう、実際のエネルギー摂取量を調査したところ、人口の年齢分布と、高齢者が身体を動かす機会が減っていることを考えれば当然の話だが、日本人1人当たりの1日のエネルギー摂取量は1900キロカロリーを下回っている。よって、日本が世界一の長寿国となっている最大の理由はしごく単純。

すなわち、なんでも「ほどほどの量を食べている」から。この習慣は、日本語では4つの漢字で表現されている。それが「腹八分目」。これは儒教の教えで、やはり中国からもたらされた考え方ではあるが、宴会好きで、食べ物をむだにしがちな中国の人たちとはちがい、日本人は「腹八分目」をしっかり実践しているというわけだ。

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バーツラフ・シュミル(ばーつらふ・しゅみる)
マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授
エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産、栄養、技術革新、リスクアセスメント、公共政策の分野で学際的研究に従事。カナダ王立協会(科学・芸術アカデミー)フェロー。2000年、米国科学振興協会より「科学技術の一般への普及」貢献賞を受賞。2010年、『フォーリン・ポリシー』誌により「世界の思想家トップ100」の1人に選出。2013年、カナダ勲章を受勲。2015年、そのエネルギー研究に対してOPEC研究賞が授与される。日本政府主導で技術イノベーションによる気候変動対策を協議する「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」運営委員会メンバー。

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(マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授 バーツラフ・シュミル)

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