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「一族経営は諸刃の剣」社長の代替わりで傾く会社にみられる"3つの予兆"

プレジデントオンライン / 2021年6月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

社長の代替わりは会社経営の鬼門だ。弁護士の島田直行さんは「自社の事業承継について楽観しているオーナー経営者は多い。しかし、対応を一歩間違えれば経営が傾き、後継者も窮地に陥る」という――。

※本稿は、島田直行『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■会社の支配権は分散させてはいけない

ポイント① 会社の「支配権」は、一人の後継者に集約させた方がいい

事業承継における基本は、「後継者に会社の支配権を確実に渡す」ことだ。後継者が自由に経営の采配を振ることができなければ、事業を承継したとは言えない。

オーナーは自社株を保有しているからこそ、自社を所有し、支配することができる。代表取締役だから会社を支配することができるわけでは決してない。

いかに優秀な社長であっても、株主総会で解任決議をされれば、理由がなくても解任されてしまう。しかも解任決議には、一般的に過半数の株式を有する者の賛同があれば足りる。代表取締役だから安心ということではない。

だからこそ、会社の支配権が具体化された自社株を、後継者に集約させなければならない。「家族で支え合って」「家族の会社だから」ということで、子どもらに自社株を分散させる社長もいるが、絶対にやめたほうがいい。

むしろ家族間の対立を生みだす原因になってしまう。他の家族に経営に関与することをあきらめさせることも、ある意味では先代の役割だ。

■少なくとも3分の2以上の株式を後継者に渡す

後継者には「自社株のすべてを集約させる」ことが理想だ。自社株が分散しており、すべてを後継者に渡すことがなかなか難しい場合でも、発行済株式総数の少なくとも3分の2以上は、後継者が持てるようにしていかなければならない。たとえば、定款変更を確実に単独で実行するには、発行済株式総数の3分の2以上を確保しておくべきだ。

つまるところ、社長として決定できる範囲は、自社株の保有率によって決まってくる。オーナー企業の場合、社長が実質的に単独であらゆることを決めることができるからこそ、大企業にはないスピード感を持った経営を展開することができる。

社長の「そうだ、あれやってみよう」という感覚は、まさにオーナー企業の強さを表している。これが、何を決めるにしても、他の株主との調整が必要となれば、スピード感などあったものではない。

■小株主でも経営に介入される可能性がある

社長のなかには「うちは過半数の株式を確保しているから大丈夫。しかも株式の譲渡には、取締役会の承認も必要だから」と安穏たる思いの人も見受けられるが、自社株の怖さをまったく理解していない。

たとえば、3%の株式を持っていれば、会社の会計帳簿を閲覧することができる。これでは経営に関与しない株主に会計情報が筒抜けになってしまう。一定の場合に閲覧を拒絶することができるものの、その理由を会社にて説明しなければならない。

「会計情報を他人に知られたら困るので見せたくない」というのは理由にならない。たまたま手に入れたわずかな自社株であっても、法律とうまく組み合わせれば、社長の首元にナイフを突きつけることも可能なのである。

このような「予定しない第三者」が経営に介入することを防止するために、「株式の譲渡について取締役会などの承認が必要」と定款で定めている会社は多い。いわゆる「譲渡制限付株式」と呼ばれるものだ。たしかに譲渡制限すれば、「予定しない第三者」の介入をある程度防止することができる。ただし、これも絶対ではない。

企業構造、会社階層のコンセプトイメージ
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

たとえば、ある株主が亡くなり相続が発生した場合、譲渡制限は機能しない。つまり、自社株を相続した者であれば、会社の意向と関係なく、新たな株主として権利を行使することができる。

実際、ある会社では、相続で新たに株主になった者が「これまで株主総会の開催案内を見たことがない。社長の経営方針は違法だ」と批判してきたことがあった。

■自社株の買い取りで多額のキャッシュが出ていく

また、譲渡制限にはもうひとつ、社長が見落としがちな点がある。それは株主の譲渡承認請求を拒否した後の対応だ。会社として譲渡承認請求を拒否すれば、それで終わりという単純なものではない。

あるサービス業の会社では、親族のひとりが自社株を2割くらい保有していた。経営に対する方針の相違から感情的な対立になり、その親族は自社株を第三者に売却することになった。売却の相手はライバル会社の関係者であった。会社は、取締役会で譲渡承認請求を拒否したが、「これで安心」では終わらなかった。

譲渡承認請求を拒否された者は、会社に対して自社株の買い取りを求めることができる。買い取りを求められた会社は、譲渡不承認を通知した日から40日以内に一定の金額を供託のうえ、会社が買い取る旨を通知しなければならない。そうしないと、譲渡を承認したことになってしまう。

本件でも、親族から会社に自社株の買い取り請求がなされた。供託する額は、会社の純資産及び譲渡対象となる株式数などから算定される。会社は、相当な現金をあわてて用意せざるを得なくなり、事業にも影響が出てしまった。その後の交渉では、買取価格について合意できなかった。

最終的には、裁判所の手続のなかで買取価格について合意して解決したが、会社としては、あまりにも大きな負担となってしまった。

■「節税対策だけ」「自社株対策だけ」はNG

ポイント② 会社と個人の「バランス」にこだわる

事業承継においては、判断をするべき事項が多数にわたるがゆえに、バランスを意識して展開していかなければならない。「節税対策だけ」「自社株対策だけ」というのでは、安定した事業承継にはならず、別の問題を引き起こすことになりかねない。

オーナー企業において、とくに重要なのは「会社と個人のバランスをいかにとるか」ということだ。オーナー企業は、会社と社長が法律的には別の主体でありながら、「自社株保有」という事実を通じて、経済的に一体化しているところに特徴がある。事業承継を検討する場合には、会社と個人の全体を見ながら、対策を検討していかなければならない。

動揺するビジネスマン
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

たとえば、ある財産を会社で保有するか、個人で保有するかは、オーナーの判断ひとつで決めることができる。会社で保有すれば、自社株の評価に影響する。個人で保有すれば、相続に影響してくる。法人と個人のいずれの名義で資産を保有するかによって、事業承継において検討するべき内容が変わってくる。

事業承継をきっかけに、法人と個人の財産について、そこに自分なりの戦略があるのか、見直していただきたい。検討の手順としては、会社から社長個人に対するキャッシュの動かし方から考えていくとわかりやすい。

■オーナー自身の老後の個人資産を確保する

オーナー企業の社長は、個人資産を戦略的に形成しておかなければならない。社長は、事業についてすべて責任を負っている。予想しない事態で事業が傾けば、個人資産を会社に投入しなければならない。

個人資産は、事業を維持するための切り札となる。また、金融機関は、会社の資産のみならず、連帯保証人である社長個人の資産も一体のものとして、与信を判断していく。

時代の潮流として、連帯保証人の責任を軽減する方向に向かっているものの、社長が連帯保証人になることは、会社と個人が経済的に一体化しているオーナー企業においては、これからも求められるであろう。

さらに社長は、年金もあまり期待できない。経営から離れれば、個人資産を取り崩しながら暮らしていくことになる。医療の発達で寿命が長くなれば、生活費や介護費用の負担も自ずと増えてくる。財源が心もとないなかで暮らしていきたくはないであろう。豊かな老後の時間を過ごすためにも、個人資産が必要になってくる。

個人資産を形成するためには、会社から個人にキャッシュを戦略的に動かしていかなければならない。会社から個人にキャッシュを移動させる方法としては、役員報酬、役員退職金、及び賃料が代表的である。これら3つの方法にしても、顧問税理士と協議のうえ、全体としてもっとも効率の良い配分を模索することになる。

■節税対策は相続全体をみて考える

オーナー企業においては、税金の負担を「法人税」「所得税」と税金の項目ごとに検討してもあまり意味がない。社長として興味があるのは、個々の税金の多少よりも会社と家族を合わせた総額としての税負担だ。だからこそ、税金の計画にしても、会社と家族を合わせたうえでの最適解でなければならない。

たとえば、会社に利益が出れば、法人に法人税が課税される。役員報酬や退職金をもらえば、所得税が社長に課税される。さらに相続が発生すれば、後継者に相続税が課税される。このように、オーナー企業においては、様々な税金が異なる主体に課税されていく。

そして、税金の違いによって、税の計算方法も違ってくる。法人税は定率だが、所得税や相続税は超過累進課税である。節税対策を考える場合には、法人から後継者に至るまでの一連のキャッシュの動きを想定したうえで、全体としての税負担が軽減されるように仕組みを組み立てていくことになる。

「こうすれば、法人税が軽くなる」といった類のアドバイスは、たいてい戦術レベルのものでしかない。戦略は戦術に勝る。社長は戦略家でなければならない。

■事業承継のために10年は確保したほうがいい

ポイント③ 自分のなかに「時間軸」を持て

無理のない事業承継をするためには、「10年」という長期的な視座を確保していくべきだ。

硬貨がいっぱいに詰まった瓶を子に手渡す母の手
写真=iStock.com/RomoloTavani
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RomoloTavani

「後継者を呼び戻して、自社株を渡せば、終わり」という単純なものではない。後継者の経営手腕を磨き、関係者の視線を先代から後継者へと変えていかないといけない。そうなると、圧倒的に時間が必要だ。「いつかはじめる」というのでは、いつまでもはじめることができず、事業と家庭に混乱をもたらす。

社長のなかには、事業承継を「自分が亡くなった後のこと」と漫然とイメージしている人がいる。こういった人に限って、「自分は健康だから大丈夫。事業承継はまだ先のこと」と安直に捉えて、目の前の業務ばかりに集中してしまう。

事業承継は、重要性が高いものの緊急性は低い。そのため、重要性が低いものの緊急性が高い目の前の業務に劣後してしまいがちだ。判断は、重要性を基準にしなければならない。

■ある会社のケース:取引先の離反と古参社員の反乱

「社長の死」という危機は、いつ訪れるか、誰にもわからない。ある水産業の会社では、優秀な社長の下で、確固たる経営が展開されていた。将来の後継者とされた次男も呼び戻されて、「これでさらなる成長を」と決意を新たにされていた。

されど、不幸はノックもせずに人生に立ち入ってくる。社長は、急病により60歳で亡くなった。それから次男にとって、修羅の道がはじまった。

次男は自社に呼び戻されていたものの、経営についてまったく教わっていなかった。また、先代に人望があったため、周囲の人も突然の不幸に同情し、自分を支援してくれるだろうと安易に考えていた。しかし、その期待は見事に裏切られることになる。

オーナー企業の売上というのは、社長個人の信用によって生み出されている。「あの社長のところから買おう」という意識だ。前触れもなく代替わりが発生すると、「あの後継者で大丈夫だろうか」という疑念が取引先に生まれてしまう。

■法律論よりも後継者としての覚悟が必要な時もある

このケースでも、当初は「後継者を支援しよう」と取引を継続してくれていた会社の中に、要を得ない次男の対応に「取引中止」という判断をするところが出てきた。

しかも、自社内部も混乱した。古参社員の一部は、次男に対して平然と「自分に経営を任せろ」と言い出した。実績もない後継者の下で働くことが、プライドとして許せなかったのだろう。先代の妻が「息子に協力してほしい」と懇願しても、相手にされなかった。

社内に相談先のない次男は、母親とともに私の事務所に来所された。私は「そこまで会社の方針に合わないのであれば、(古参社員には)退職してもらうしかない。これは法律論よりも後継者としての覚悟です」と淡々と回答した。どこかで覚悟していたことではあるが、不安で言葉にできなかったことを弁護士に明確に伝えられて、次男は驚かれていた。

しかし、それからの次男は立派だった。次男は自分の言葉で古参社員に退職を勧めた。もちろん反発を受けたものの、なんとか金銭的に解決できた。そのとき、はじめて「自分の会社」になった。

このような突然の混乱に至らないために、社長は、自分のなかに「時間軸」を持って事業承継に取り組んでいかなければならない。

■長い老後の人生設計も重要

典型的なオーナーの人生を、時間とともに少し考えてみよう。自社の采配を振ってきた社長は、どこかの時点で社長の椅子を後継者に渡し、会長職に就く。会長職として後継者を陰ながら支援していくことになる。同時にオーナーは、税理士とも協議しながら自社株の移転について少しずつ実施していくことになる。

島田直行『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(プレジデント社)
島田直行『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(プレジデント社)

人は年齢とともに、次第に足腰が弱くなり、病気も増えてくる。すると、「誰がオーナー夫婦の面倒を見るか」という介護の問題が生じてくる。最近は、後継者と同居していないオーナーが圧倒的に多い。後継者夫婦にとって、事業をしながら両親の介護を担うのは、相当の負担だ。娘はみな結婚しており、地元には誰もいないというオーナーも少なくない。こうなってくると、「自分の老後をどこで過ごすか」から考える必要も出てくる。

「夫婦でいつか施設に入るよ」と語る方もいるが、「どこの施設に入る予定ですか」とまじめに質問すると、たいてい言葉に詰まる。千差万別の施設のなかで、自分に合った施設を見つけることは簡単でない。しかも、オーナーのなかには、自社株を保持したまま、認知症にかかって、判断能力を喪失してしまう人もいる。

こうなると、株主総会すら開けず、事業に支障が出る。金融機関から借入をするにしても、判断能力がないため、連帯保証人にもなれない。こういった認知症のリスクをセミナーで語ると、「想定していなかった」と愕然とされる方も少なくない。自己の死の前に、すでに壁はある。

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島田 直行(しまだ・なおゆき)
島田法律事務所代表弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(いずれもプレジデント社)がある。

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(島田法律事務所代表弁護士 島田 直行)

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