「これは皇室の危機だ」小室さん騒動を収拾するために宮内庁がすぐやるべきこと
プレジデントオンライン / 2021年6月15日 11時15分
■「コカリナ」を吹きこなし、「点字楽譜」の普及に尽力
「美智子さまゆかり クスノキを楽器に 文京の大和郷幼稚園」。そんな見出しの記事を見つけたのは、6月5日だった(朝日新聞朝刊・東京版)。上皇后美智子さまが幼い頃に通った幼稚園の木が伐採され、「コカリナ」という楽器に生まれ変わる、6月4日にはコカリナ奏者の黒坂黒太郎さんらによるお別れコンサートが開かれた、という記事だった。
時系列でまとめてみる。
・1973年 皇太子妃になった美智子さまが来園、記念にクスノキの苗を植える(以後、美智子さま、同窓会などでたびたび来園)
・2016年 皇后になった美智子さま、親交のある黒坂さんのコンサートで客席からコカリナをサプライズ演奏
・2020年、クスノキの伐採が必要に。園長が黒坂さんにコカリナ制作を依頼、黒坂さん快諾
読後、「日本コカリナ協会」のホームページを見た。コカリナは黒田さんが1995年に命名した小さな木の笛で、国内に数万人の愛好家がいるとあった。とはいえ、メジャーとは言い難いこの楽器を、美智子さまは吹きこなすのだ。驚いた。そもそも1年だけ通った幼稚園の同窓会にたびたび出席している。その事実にも感じ入った。布石があった。
4月にも、朝日新聞で美智子さま関連の記事を読んだ(4月14日夕刊)。「点字楽譜利用連絡会」が4月18日にコンサートを開く、連絡会はそもそも美智子さまの寄付金をきっかけに誕生した団体だと伝えていた。
点字楽譜はオーダーメードが普通で、共有されにくい。そう知った美智子さまが2005年に自著の印税などを寄付したのが会の始まりで、今ではネット上にリストがある。「美智子さまのおかげで、点字楽譜はメジャーリーグに昇格できた」という会代表の言葉と、連絡会の集いで来場者に声をかける2017年の美智子さまの写真が紹介されていた。
■美智子さまの行動が、皇室の人気を支えてきた
自分の話で恐縮だが、『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)を2019年に出版した。中に「卓越した被写体であるということ」という一項を立てた。記者、編集者として、膨大な美智子さまの写真を見てきた実感だった。そこで政治学者・御厨貴さんの言葉を引用した。
「昭和二十二年の新憲法以来、ずっと続いてきた象徴天皇という制度は、国民の支持によって成り立っています。『開かれた皇室』をキャッチフレーズに、私的な部分、つまり理想の家族としてのプライバシーを部分的に国民に開放することで、人気と支持を勝ち得てきた。その切り札が、まさに美智子皇后だったのでしょう」(文藝春秋二〇〇八年四月号「天皇家に何が起きている」)
御厨さんはプライバシーを開放したと美智子さまの役割を語ったが、それに限った話ではないと思う。公務もプライベートも、美智子さまの行動がメディアを通して国民に伝わり、皇室への支持となった。
■象徴天皇制を意図的に「形」にしていく必要がある
美智子さまは結婚当初からマスコミを味方にしてきた。そこには軋轢もさまざまあったが、それでも自分を見せる覚悟のようなものがあった。「民間出身初」の皇太子妃として、それがサバイバルの道だったかもしれない。私はそれを「卓越した被写体」と感じ、御厨さんは「切り札」と表現した。僭越だが、そう思う。
その構図が今も続いていることを、「コカリナ」と「点字楽譜」の記事で思い知った。市井の人々とのつながりを大切にする美智子さま。ゆかりの場所に足を運び、窮状を知れば救いの手を差し伸べる。これこそが、皇室。美智子さまは「象徴天皇制」を「形」にして見せてくれる。
ここでやっと今回の本題、皇室の広報戦略について書く。令和の皇室は、象徴天皇制を意図的に「形」にして見せていく必要があると思う。
昭和から平成、美智子さまに「意図」はなかったはずだ。自然に振る舞ったら、切り札になっていった。が、令和という今、それでは追いつかないと思う。小室圭さんと新型コロナウイルス。二つの想定外の要素があるからだ。
■国民の頭に占める「小室さん」を相対的に小さくする
大半の国民にとって、今「皇室」といえば小室さんだろう。秋篠宮家の長女眞子さまとの婚約が内定している小室さんは、5月にフォーダム大ロースクールを卒業、7月にニューヨーク州の司法試験を受験する。その後に一時帰国? 母・佳代さんは入院? いやいや元気? そんな小室さん母子の動向が週刊誌やネットニュースを通じ、毎日のように流れてくる。
「金銭トラブル」の説明文書を公表→「借金でなく支援」と強調→4日後、代理人が「解決金」の支払い検討を明かす。4月のこの流れが裏目に出た。文書作成には眞子さまも関わったという宮内庁の説明も、むしろ批判の矛先を眞子さまや秋篠宮家に向けてしまう結果を招いてしまったようだ。
結婚時に眞子さまに支払われる、1億円超の「一時金」。これが「アンチ小室」の原点にあり、その感情はコロナ禍でますます強くなっているだろう。だからこそ、皇室は「小室さんでない情報」を出す必要があると思う。
こんな公務をした、宮中祭祀に臨んだ。そういう日常の情報でなく、人柄に触れられるような情報。そう「コカリナ」や「点字楽譜」のような情報が増えれば、国民の頭に占める「小室さん」は相対的に小さくなる。目指すはそれだと思う。
■コロナ禍で皇室の活動が見えづらくなっている
そういう観点で見るなら、その最前線に立つべき天皇陛下と雅子さまは苦戦中だ。背景にあるのが、新型コロナウイルス。2020年の3月以降、お二人はほとんど赤坂御所か皇居にいる。
宮内庁ホームページの「天皇皇后両陛下のご日程」を見てみると、直近(2021年4月1日から6月8日まで)でお二人が皇居外に出たのは1回。千代田区で開かれた「第15回みどりの式典」への出席(4月23日)だけで、「福島県行幸啓」(4月28日)と「島根県行幸啓」(5月30日)もあったが、どちらもオンライン。感染拡大防止という観点からはやむを得ないが、バーチャルには限界がある。
この間の朝日新聞の報道を見ても、お二人の動向を伝える13本の記事はほとんどが短信だ。陛下が皇居内で稲の種もみを蒔き(4月6日)、陛下と雅子さまが熊本&鹿児島の児童らとオンラインで交流し(5月12日)、陛下は田植えをし(5月26日)……。ルーティンワークが中心だから、そうなってしまう。
■「各国の王室はいまやSNSを活用して、喧伝に努めている」
唯一の例外が、「愛子さま、愛馬とお別れ」という5月12日夕刊の記事だった。愛子さまが小さい時から何度も乗った雄馬が人間なら80歳くらいの高齢になり、御料牧場で余生を過ごすことになった。そこで愛子さまは5月6日、皇居内の宮内庁主馬班を訪問、別れを告げた。そういう内容だった。
コロナ禍で活動が見えなくなり、目立つ情報は眞子さま(というか小室さん)のものばかり。このままでは、存在意義さえ見えなくなりそうな皇室に必要なのは、国民の心をつかむハートウォームな情報だ。こんな情報が積み重なれば、事態はだいぶ変わる。読みつつ、そう思った。今は、そのための広報体制を整えるべき時なのだ。
関東学院大学の君塚直隆教授は、<「皇族の公務が少なすぎる」小室さん騒動で霞む“令和皇室”の本当の大問題>という記事(プレジデントオンライン、2021年6月8日)でこう指摘している。
「ヨーロッパで君主制をいただく国民の多くは、王族たちが自分たちや世界全体のために日夜努力している姿を見て、王室に信頼を抱いているのが現状なのである。そのいずれにおいても英国が『嚆矢』となっており、各国の王室はいまやSNSを活用して、自分たちの喧伝にも努めているのである」
■「国民と皇族をつなぐという意識が、宮内庁から薄れている」
君塚さんは『立憲君主制の現在』(新潮選書、2018年)でも各国王室のSNS活用を指摘、日本の皇室も「さらなる広報が必要」と訴えていた。が、事態は全く変わっていない。なぜなのか。名古屋大学の河西秀哉准教授が、宮内庁の変化を語っていた。ある取材で話を聞いた際、「国民と皇族をつなぐという意識が、宮内庁から薄れている」と指摘していた。
昭和の時代、宮内庁職員はテレビにも出演、国民の意識を感じ取り、皇族の素顔を伝えた。だが、昨今の宮内庁は「普通の官庁」。出向組も増え、皇族のことを一心に思う職員がいなくなっている、という指摘だった。
SNSひとつとっても、皇室にとっては簡単なことではないのだろう。皇族に信頼される肝の据わった職員が必要で、きっといないのだろうなと思う。が、だからしょうがない、とは思えない。コロナ禍と小室さんで、事はかなり切迫している。
■宮内庁は「新たな広報体制づくり」を早急に進めるべき
発想を変えれば、今こそチャンスだと思う。「適応障害」という病名が2004年に公表されて以降、皇太子さま(当時)と雅子さまのテーマは「闘病」になった。だから、伝えられたお二人のエピソードは決して多くない。それはつまり、これからは発掘し放題、伝え放題ということでもある。
たとえば「愛子さま、愛馬とお別れ」の記事には陛下と雅子さまのエピソードも出てきた。愛馬の名前は「豊歓号」で、名付けの親はお二人だとあった。そもそも「豊歓号」の母馬は、お二人が1994年に中東を訪問した際、オマーン国王から贈られた雌馬「アハージージュ号」。アラビア語で「歓喜の歌」だから「豊歓号」にしたという。
この日、雅子さまは皇室の伝統行事「御養蚕始の儀」を終え、それから愛子さまと厩舎に行ったとも書かれていた。そうか、雅子さまは「伝統」と「母親」と「生物好きの自分」とを、このようにまとめているのだな。そんなふうに思い、少し楽しい気持ちになった。
宮内庁が早急に進めるべきは、新たな広報体制づくり。小室さん問題の収拾とともに、ぜひともよろしくお願いしたいと切に思っている。
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コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。
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(コラムニスト 矢部 万紀子)
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