メンタリストDaiGo「仕事の相談をするなら居酒屋より喫茶店を選ぶべき科学的理由」
プレジデントオンライン / 2021年6月22日 9時15分
※本稿は、メンタリストDaiGo『超影響力』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■聞き手の気をそらす要素を可能な限り排除する
相手の無意識をあなたの話に向けさせるために役立つのが、「アテンション・コントロール」です。
たとえば、演説がうまいとされている経営者や政治家、プロパガンディストは沈黙の意味をよく知っています。彼らは司会者に紹介され、登壇し、マイクの前に立ち、しかし、話し始めません。
十数秒の沈黙。ざわざわしていた会場の雰囲気に緊張感が生じ、聴衆は「どうしたんだろう?」という疑問とともに登壇者へ目を向けます。この時点でもうスピーチは半分以上成功しているわけです。
あるいは、新興宗教団体の信者募集会場やネットワークビジネスの販売集会、自己啓発セミナーの新規会員説明会など、来場者の注意力や判断力を低下させる狙いを持つ集まりでは、会場の室温を高くし、人々を密集させ、大音量で音楽を流します。
過剰な情報量で徐々に来場者の注意力や判断力を乱したあと、登壇者が強いメッセージを発し、入会や購入に導くのです。
どちらもアテンション・コントロールの代表例で、聞き手の無意識を操り、話し手の説得力、影響力を高めているのです。
仮にあなたが次のような考えを持ち、相手を説得したいと望んでいるのなら2人きりになり、できるだけ会話に集中できる状況を作ってみてください。
・上司(先輩)として、部下(後輩)に携わっている仕事の意義を伝えたい
・2人の将来についてパートナーと真剣に話し合いたい
・子どもに親としての自分の価値観を知ってもらいたい
大事なのは、聞き手の気をそらす要素を可能な限り、排除していくことです。
■スマホはしまって、聞き手の注意を一点に向ける
スマホは引き出しの中にでもしまってください。窓の外を通る人がいるならカーテンを閉じましょう。室温は暑くもなく寒くもない快適な温度に。テレビやラジオは消し、余計な音のない状態にして、静かにゆっくりと語りかけてください。
すると、聞き手は無意識のうちにあなたの話に集中し、その内容についても深く理解しようと努力してくれます。
もし、あなたが普段から「こちらが真剣に話しているのにいまいち伝わらない」という悩みを持っているなら、話をする環境をチェックしてみてください。聞き手の気をそらす要素があり、聞いているつもりが無意識のうちに聞き流してしまっているケースは多々あります。
「何度言ってもわかってくれない」と落胆し、相手を見限る前にアテンション・コントロールを試してみましょう。
ミニマリストと呼ばれる人たちが自分の周囲から余計な持ち物を減らし、集中力をコントロールしているように、聞き手の注意が一点に向くよう仕掛けていくのも影響力を高めたい話し手が覚えておきたいテクニックとなります。
■曜日、時間、場所、飲み物を整えて、相手の納得を引き出す
自分の話をしっかり聞いてもらいたいとき、相手によく理解してもらって次の行動につなげたいときなどは、今、紹介したミニマリスト的な環境を作る「アテンション・コントロール」が有効です。
また、可能ならば話す時間もケアしましょう。
相手の判断力が高まり、集中した状態で聞いてもらいたいと思うなら、血糖値が上がり、脳への血流も増え、注意力が高まってくる食後30分以降が狙い目です。
たとえば、職場の後輩に真剣なアドバイスをするなら、ランチを済ませ、少し歩いて腹ごなしの移動をしたあと、なるべく静かな場所でコーヒーなど温かい飲み物を手にしながら、ゆっくりとした口調で話しましょう。
ちなみに、温かい飲み物を勧めるのは口と手から伝わる温かさが対話する相手の印象をよくしてくれるからです。不思議なもので、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究によると、冷たい飲み物を手にしていると話している相手のネガティブな印象に注目するようになり、温かさを感じているとポジティブな印象が膨らんでいくことがわかっています。
また、人間の注意力にはアップダウンがあり、いつも一定ではありません。週末が休日のビジネスパーソンの場合、1週間のうち月曜日の朝が最も注意力が低くなり、金曜日の夜が最も高くなります。理由は単純で、仕事のプレッシャーから解放され、休日が待っているからです。
そう考えると、後輩に真剣なアドバイスをするベストなタイミングは、金曜日のランチ後だと言えるでしょう。
このように、同じメッセージでも環境次第で聞き手への浸透度は大きく変わってしまいます。無意識を動かし、影響力を高めるためには、話の内容だけでなく、周辺環境にも目を向ける必要があるのです。
■逆に相手の気をそらす環境づくりにも有効
「アテンション・コントロール」は相手の注意をそらす方向にも活用できます。
こちらの話す内容、スピーチの論理展開が磨かれている場合は相手の注意力が増しているほど説得しやすくなりますが、論理的におかしな点があるとき、突っ込みどころが多い場合には逆に反感や疑念を持たれることになります。
たとえば、プレゼンや上司への報告、あるいはプライベートで人を説得する場面などで「ここはデータが少ない」「ここはエビデンスが弱い」「この話題はあまり気にせず、結論だけを受け入れてくれないかな」といった部分があったとしましょう。
つまり、自信のない論点についてスルーしてもらいたい。そんな願いもアテンション・コントロールをうまく使えば、クリアできます。
ポイントは意図的に聞き手の注意力を下げること。来場者の注意力や判断力を低下させる狙いを持つ集まりでは、会場の室温を高くし、人々を密集させ、大音量で音楽を流すという例を紹介しましたが、こうした気をそらす環境づくりも有効です。
■赤ちょうちん的な居酒屋は好感度アップに最適?
たとえば、上司から「後輩に仕事の説教をしておくように」と言われ、汚れ役を引き受けざるを得ないようなケース。上司には何らかのアクションを起こした報告をしなくてはいけないので、会って話した事実が重要なのであれば、できるだけざわざわした店を選び、後輩を連れていきましょう。
昭和の赤ちょうちん的な居酒屋で酎ハイを飲みながら、改善すべきことを伝えつつ愚痴も言い合い、「まあ、がんばろう」と。注意力が散漫になる環境ですから、あなたから注意を受けたことによる悪印象は後輩に残りません。
しかも、極端に嫌われる態度を見せなければ、単純接触効果が働いて後輩からのあなたへの好感度はむしろ上昇。上司には「2時間話してわかってくれました」と報告できます。
重要なのは、聞き手の注意をそらすことです。
・プレゼンであれば、論の弱いところで照明を落とし、プロジェクターに写真や図版を映す
・上司への報告であれば、個室ではなくオフィスフロアで上司が忙しくしている時間帯にあえて時間を取ってもらう
アテンション・コントロールを使えば、相手にあなたの論点で一番強く印象づけたい部分を強調することもできれば、逆に注目してほしくない部分をスルーさせることもできるのです。
■ネガティブで注意を集めて、ポジティブで納得させる
もう1つ、別のアプローチでの「アテンション・コントロール」の使い方を解説します。
コミュニケーションを取る環境ではなく、話の組み立て、伝えるメッセージの順番に気をつけ、相手の注意を引きつけるやり方です。
ロンドン大学が過去に行なわれた「影響力」と「説得力」に関する約300件の文献をレビューし、他人に影響力を与えるために必要な要素をまとめた研究によると、「同じメッセージを伝えるときは、ネガティブな情報よりもポジティブな側面を強調したほうが人は納得しやすくなる」ことがわかっています。
しかし、感情の伝播(でんぱ)力を調べた研究ではポジティブな感情よりもネガティブな感情のほうが、6~7倍の伝播力があることも確かめられています。人はポジティブとネガティブなら、ネガティブな情報に注意を向けやすいのです。
・納得しやすいのはポジティブな情報
・注意を向けやすいのはネガティブな情報
この2つは、一見矛盾しています。
では、このロンドン大学の研究の成果はどのように活用すればいいのでしょうか。
そのポイントとなるのが、ネガティブで注意を集め、ポジティブで納得させることなのです。
「あなたは口にしていませんか? 婚活では、絶対に言ってはいけない5つのNGワードがあります。聞いた途端、相手の気持ちが冷め切ってしまう言葉ですが、実は『なぜ、言ってはいけないか』を理解すると、劇的にあなたの印象をよくすることもできるのです」
「5千万円の損を抱えたとき、もう株はやめると決めました。でも今、その心境は大きく変化しています。株式投資が悪かったのではなく、私のやり方に問題があったと気づいたからです。今日は、損をする痛みとともに身につけた投資の手法についてお話します」
語り始めにネガティブ目線の表現を入れることで、聞き手の注意を引くことができます。
「どうなの?」「どうなるの?」と一旦落とし、「こんなふうに思ったことはありませんか?」「うん、あるある」とネガティブな共感を集めます。
すると、聞き手の心に「どうしよう?」という不安が顔を出します。そこで、「でも安心してください」とポジティブな解決策を提示し、「気づいたあなたは大丈夫です」という流れに持っていきましょう。
■ヒトラーと占い師の話と同じ構造
これはアドルフ・ヒトラーの演説も基本構造は同じです。
「ドイツ国民は過酷な状況にいる」とネガティブな指摘で共感させ、注意を引きつけ、最後は「我々はすばらしい民族だから、行動を起こせ、未来は明るい」とポジティブなビジョンを見せることで聴衆を動かしていきました。
身近なところでは、占い師の話法もこの組み立てになっています。
「あなた、このままだと死ぬわよ」「結婚、今のままじゃ無理ね」「あなた、転職を考えているでしょう?」など、ネガティブなつかみで相談者のドキッとさせたあとで、「ここから運気が変わる」「こういった行動を心がければ出会いがある」といった転換点を用意し、ポジティブな展開に持っていきます。
大事なのは、ネガティブなまま話を進めないこと。必ず途中でポジティブに転じてください。この組み立てを心がけることで、同じ内容でも与える印象を大きく変え、記憶に強く残り、聞き手の無意識に働きかけることができるのです。
ポイント
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メンタリスト
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒。人の心をつくることに興味を持ち、人工知能記憶材料系マテリアルサイエンスを研究。英国発祥のメンタリズムを日本のメディアに初めて紹介し、日本唯一のメンタリストとしてTV番組に出演。その後、活動をビジネスやアカデミックな方向へ転換、企業のビジネスアドバイザーやプロダクト開発、作家、大学教授として活動。趣味は1日10~20冊程度の読書、猫と遊ぶこと、ニコニコ動画、ジム通いなど。ビジネスや話術、恋愛、子育てまで幅広いジャンルで人間心理をテーマにした著書は累計400万部を超える。主な著書に、『自分を操る超集中力』『知識を操る超読書術』(かんき出版)、『自分を操り、不安をなくす究極のマインドフルネス』(PHP研究所)などがある。
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(メンタリスト DaiGo)
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