「デトックスにハマる人の根本的勘違い」断食もハーブも解毒効果はない
プレジデントオンライン / 2021年6月27日 11時15分
※本稿は、牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「なにを食べるか」プラス「どう出すか」が大事
食べ物は、単純に空腹を満たすだけのものではありません。たとえば、ご飯の炭水化物はブドウ糖に、肉や魚のタンパク質はアミノ酸に……といろいろな物質に分解され、小腸から血液中に吸収されます。そして全身に運ばれ、さまざまな用途に使われます。
だから、「好きなものを食べて、お腹がいっぱいになれば満足」というのではダメで、「体の働きのためにどんなものを食べるか」を考えることが重要だと、健康意識の高い人たちは知っています。
しかし、人生100年時代の健康管理には、それだけでは不十分です。体に「なにを入れるか」に加えて、老廃物や毒素を「どう出すか」が必要不可欠な視点です。
そして、老廃物や毒素は、もっぱら尿に排出されます。便ではありません。
■排便は「体外」で行われるゴミ捨て
医学用語では、口から肛門までを消化器、または消化管と呼びます。このひと続きの管は「体外」、つまり体の外に属していると捉えられています。驚くなかれ、体内とは異なる「外界」なのです。
食べ物や水や空気や消化液などが通りすぎ、その過程でさまざまな栄養素や必要な水分を吸収し、いらないものはそのまま肛門から排泄(はいせつ)されます。
我々の体は素晴らしく完璧にできていて、外界である消化管から必要なものを体内に取り入れ、不要なものや有害なものは絶対に体の中に入らないように設計されています。
たとえば、胃液が強い酸性なのは有害なウイルスや細菌を殺すためです。もし、胃を通ったあとも有害なものが残っていたら、そのまま外界である消化管を通過し、便の中に出してしまうため体内に問題は起きません。
つまり、便の排泄は、あくまで体外で行われている話なのです。大事なのは体内です。その体内で発生する有害物質をどう処理するかです。
■“神業”というべき腎臓の浄化システム
体内では、さまざまな有害物質が絶えず発生しています。もともと老廃物や毒素は、食事を摂らずとも呼吸しているだけで生成されますが、腎臓はそれら不要物だけを尿の中に捨てるという神業的な作業を行います。
とくに、体の中にある大量のタンパク質は絶えず新しいものにつくりかえられており、古くなったタンパク質は分解され、尿素という物質になって腎臓から排泄されます。腎臓が悪くなると、この尿素が出せなくなり、溜まってしまう「尿毒症」という状態に陥(おちい)ります。尿毒症になれば、体中に毒素が回り命を落とします。
このように、腎臓とは私たちの命を根幹から支える臓器であり、素晴らしい浄化システムとして、壊してはならないものなのです。
■尿を見るだけで健康状態はすべてわかる
腎臓がつくる尿からは、いろいろな体のサインが読み取れます。
糖尿病が進行すると、血液中にブドウ糖が溢(あふ)れるだけでなく、尿にも出てきます。塩分を摂りすぎれば、やはり尿に出てきます。
野菜にたくさん含まれるカリウムも、増えすぎて「高カリウム血症」という状態になれば不整脈を起こして命に関わりますから、腎臓が調節して尿に出しています。
アリナミンなどビタミンB剤を多く摂ったときには、少し黄色みが強い尿になって独特の匂いがしますね。これも、過剰な分を腎臓が尿に出しているからです。
このように、腎臓は体の中でいろいろな成分がほどよく存在するように調整し、多すぎるものを尿に出しています。私たちの尿には、腎臓の素晴らしい働きが集約されているのですが、あまりにも当たり前に毎日、何回も排泄しているために、そのありがたみに気づきません。
■便だけで健康かどうかは判断できない
一方で、みんな便には敏感です。下痢も便秘も嫌なものだし、すかっと快便で毎日を気分良く過ごしたいからでしょう。
しかし、便秘で死ぬことはありません。昔はコレラでひどい下痢をして脱水症で死ぬ人がいましたが、点滴が発明されて過去の話となりました。
「便の状態は健康のバロメーター」と考えて毎日気にかけている人も多いでしょうが、便を見て健康か否かの判定はなかなか下せません。
というのも、いくらすかっと快便であっても、それによって有毒物質が体外に出るわけではありません。便に含まれているのは、食べたもののカスと腸内細菌の死骸、大量に出た消化酵素などです。
■デトックスという“インチキ商売”
前述したように、便に含まれるのはすべて「体外」のものです。重要なのは「体内」に発生する有毒物質をいかに確実に体外に排出するか。それを行うのは、もっぱら腎臓の役割なのです。
多くの人が間違っているのですが、解毒の本質は、大腸をきれいにすることではありません。腎臓をしっかり働かせることです。それをわかっていないと、効果の不確かな、怪しげな「デトックス商売」にはまってしまいます。
体から毒を出すという「デトックス」がなかば趣味のようになっていて、断食、ハーブ、イオンフットバス、コーヒー浣腸(かんちょう)……いろいろ試したい! という人がときどきいます。
残念ながら、どれも解毒には役立ちません。そもそも、デトックスという言葉は医学の場で扱われていません。医学的に効果が確認されたものはなく、“インチキビジネス”に無駄なお金を使っているだけだと、早く気づきましょう。
■尿アルブミン検査をしよう
それでは、腎臓の状態を確かめるためにどうしたらいいのか。病院で受けられる尿検査で、あなたが思う以上にいろいろなことがわかります。
あなたが受けている健康診断でも、尿検査は行っていると思います。ただ、そこで調べられるのは、尿の中に「血液」「タンパク」「糖」が出ているか否かであって、本当に大事な「尿アルブミン値」を測ることはまずしていないでしょう。
では、そもそも「アルブミン」と「タンパク」の関係はどうなっているのでしょうか。いったい、どう違うのでしょうか。
実は、アルブミンもタンパク質の一種で、肝臓でつくられています。血液中のタンパク質の60~70%をアルブミンが占めています。ただ、健康な人の尿にはほとんど含まれず、日本腎臓学会の示す正常値は「30(mg/gCr)未満」です(検査機関によって正常値は少し変わります)。
ところが、腎臓の濾過(ろか)機能が落ちてくると、アルブミンが尿に漏れ出てきます。そのため、尿中のアルブミン量を調べることで腎機能が正確にわかるのです。
一方で、血液中にはアルブミン以外のタンパクも存在していて、それらも腎機能が落ちれば尿中に出てきます。あなたが健康診断で受けている尿検査では、その尿に含まれるタンパクの程度によって、ごく大雑把(おおざっぱ)に腎臓の障害の有無を見ているにすぎません。
■尿タンパク検査は大雑把であてにならない
検査結果は、漏れ出ているタンパクの量によって「-」「±」「+」「++(2+)」などと表示されます。
もし、この検査で「尿にタンパクが出ている(+)」と指摘され、それが腎機能の低下によるものなら(激しい運動や発熱でも尿にタンパクが出ることがあります)、そのときはすでに尿アルブミン値は300を超えています。つまり、尿タンパクが陽性(+)になったときはかなり腎臓が悪くなっています。
ですから、尿タンパク検査は「早期発見に適している」とはとてもいえません。それでも、血清クレアチニンに頼るよりはマシです。血清クレアチニンと比べ、それでもまだ、尿タンパクのほうが早期に発見できるからです。
かつて糖尿病専門医の間では、「尿アルブミン値300」は透析を免れない「ポイント・オブ・ノーリターン」と呼ばれていました。現在では、この段階でもなんとか治療できます。しかし、「++(2+)」だと、2年で人工透析になるケースもあります。
尿に漏れ出たタンパクを見る一般的な尿検査では、慢性腎臓病を早期に見つけるには大雑把すぎてあまり役に立たないということです。
「健康診断の尿検査でタンパクが出ていないから安心だ」と判断するのは早計。何度でも述べますが、尿検査ではアルブミン値を測るのがベストです。
その前にもし尿タンパクが陽性(+)になったら、すぐに腎臓専門医を受診し、腎臓病の治療に入ることが大切です。この段階であれば、適切な治療を受ければ治すことができますから。
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AGE牧田クリニック院長
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。 2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。 著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。
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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)
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