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「石巻で全て失った寿司屋が"世界的な家具屋"に」新しい市場を切り拓ける人の発想法

プレジデントオンライン / 2021年6月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anilakkusi

2011年、東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市では、実は世界が驚く産業革命が起きていたといいます。ISHINOMAKI2.0創設メンバーの飯田昭雄さんが語る厳しい状況を乗り越える秘策とは――。

※本稿は、電通Bチーム『ニューコンセプト大全 仕事のアイデアが生まれる50の思考法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■震災で力を発揮した「とりあえずやってみる」精神

2011年4月下旬、僕は友人とともにキャンピングカーの荷台に、子どもたちに向けた救援物資を積めるだけ積み込んで、人づてに初めて石巻市に入りました。

そのときは、ショッキングな光景にただただ圧倒され、無力感とともに僕らができたことといえば、言葉をなくすことくらいしかありませんでした。

最大の被害があった場所で震災前と同じく生きていくことを決心した地元の人々と、僕をはじめ東京から来ていた作ることが好きな人々。

その偶然的必然ともいうべき出会いの結果、震災から約3カ月後、リセットされてしまった街を震災以前よりよくすることを考え、実行する組織が誕生しました。

それが一般社団法人 ISHINOMAKI2.0です。

ライフラインさえままならない、ましてや行政さえあてにできない極限の状態のなか、メンバーが集まり身の回りの道具と材料で「とりあえず作ってみた」のが、「復興バー」という手づくりの小さなバーでした。

結果、震災直後の暗闇で何もなかった夜の街に復興の明かりが灯り、世界中のボランティアと地元の人が連日連夜集う貴重な社交場となりました。究極の状況での最大の近道は、「とりあえずやってみる」精神によって導かれて自分の体を動かすことであると、実感しました。

■石巻発ローカルベンチャーズたちの相次ぐ成功

そういった逆境をともに切り抜けたISHINOMAKI2.0からスピンアウトしていった仲間である「ニュータイプ石巻人」は、世界さえも驚かす小さな産業革命を起こし始めます。

その一つが、石巻出身の古山隆幸くん率いる「イトナブ」という組織。

「震災から10年後の2021年までに石巻からIT技術者を1,000人育てる」という壮大な目標を掲げ、2013年に設立。「IT」×「遊ぶ」×「学ぶ」×「営む」という掛け合わせから生まれた「イトナブ」という名前の通り、小学生や中学生が学校帰りにプログラミングを無償で学べる場を作るほか、地元の工業高校で実践に役立つ授業を持っています。

また、震災翌年から行っているハッカソンは、日本最大級の規模にまで成長。地方ではなかなか起こり得なかったプログラミングスキルを学ぶ場を作ることで、子どもたちの間に新しい職業選択の価値観を生み出しました。

コードを書いている人の手元
写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai

既存産業がダメージを受けるなか、ITという新しい産業を生み出してしまったイトナブの存在は、これからの日本のローカルにおける希望の光のような存在です。

■すべてを失った寿司職人が立ち上げた家具工房

そしてもう一つが、元寿司職人の千葉隆博さんが代表を務める石巻工房という、実験的かつ実践的な家具工房。

千葉さんは、震災によって、自身の職場である寿司屋をはじめあらゆるものを一気になくしてしまいました。しかし、震災直後はプロ顔負けのDIYスキルを生かし、インパクトドライバー片手に街の便利屋さんのごとく、さまざまな修復作業に没頭します。

その行動力は、東京の建築家やハーマンミラーという高級家具メーカーの家具職人やデザイナー、経営者との運命的出会いを引き寄せます。

仮設住宅での不自由な生活を改善するため必要とされる家具を一緒に作るワークショップ活動から始まった石巻工房ですが、いまでは東京にショールームを構え、ミラノサローネをはじめ名だたる世界の家具イベントに出展すると同時に、大企業のオフィスにも導入され、NYのハーマンミラー旗艦店においても販売。

グッドデザイン賞はじめ、さまざまな賞を獲得するというブランドにまで成長しています。

■レッドもブルーも関係ない「すきまオーシャン」

電通Bチーム『ニューコンセプト大全 仕事のアイデアが生まれる50の思考法』(KADOKAWA)より

この2つの例にみるように、逆境の中でさえも最大限に楽しみつつ目の前の課題を一つひとつDIYで解決することを選択したからこそ、新しい発見やアイデアのタネが生まれたといえます。

結果、世間でいわれるレッドオーシャンでも、ブルーオーシャンでもない、「すきまオーシャン」とでもいうべき新しいフィールドを開拓してしまいました。

「復興」という特殊な過程だからこそ生まれた新しい視点かもしれませんが、かといってそれは被災地に限らず、日本はもとより全世界においても再現可能なことではないでしょうか。

■逆境を力に変えるには

そして僕たちは今、ここで取り上げたイトナブの古山くんや石巻工房の千葉さんのような「とりあえずやってみた」人たちを講師に招きながら、その成功の秘訣を探るための講義を開催する、「とりあえずやってみよう大学~UNIVERSITY OF DON'T THINK, FEEL」という市民大学を立ち上げました。

電通Bチーム『ニューコンセプト大全 仕事のアイデアが生まれる50の思考法』(KADOKAWA)
電通Bチーム『ニューコンセプト大全 仕事のアイデアが生まれる50の思考法』(KADOKAWA)

「すきまオーシャン」を開拓した人たちの経験と声には、これから起業したい人やローカルを活性化するためのアイデアとヒントが満ちあふれています。

「DON'T THINK, FEEL」という言葉は、かのブルース・リー先生がよく使われていた言葉です。カンフーという唯一無二の武器を持って、映画界で新しい道を切り拓いていったブルース・リーの精神性は、東北で巻き起こったイノベーションに通ずるものがあり、時に考えるより先に行動する精神は、石巻でのローカルベンチャーズたちの成功から見ての通り、これからの未来により必要となる大切な考え方となっていくでしょう。

皆さんも、もし何かチャレンジしたいようなことがあれば、ぜひ「とりあえずやってみる」ことをお勧めします。そうすれば、あなただけの「すきまオーシャン」が見つかるかもしれません。

Point
考えるより先に行動する「とりあえずやってみる」精神は、「すきまオーシャン」という活躍の場につながる。

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電通Bチーム 電通の中に実在する特殊クリエーティブチーム。広告業(=A面)以外に、個人的なB面(=私的活動、すごい趣味、前職など)を持った社員が集まって組織されている。2014年7月発足。DJ、建築家、小説家、スキーヤー、平和活動家、AIエンジニアなど、現在56人の特任リサーチャーが1人1つの得意ジャンルを常にウォッチし、情報を収集、現代に必要な独自の「オルタナティブアプローチ」を開発し、社会と企業に提供している。チームのスローガンは「Curiosity First」。https://bbbbb.team/

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飯田 昭雄(いいだ・あきお)
電通Bチーム・ストリートカルチャー担当
ISHINOMAKI2.0創設メンバー。A面では建築業界のクリエイティブプロデューサー。温泉、スノーボード、ハワイ島、地元八戸をこよなく愛する。

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(電通Bチーム、電通Bチーム・ストリートカルチャー担当 飯田 昭雄)

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