「うちは高給取りなのに…」娘2人の中学受験で年収1000万円夫の小遣いは月3万円
プレジデントオンライン / 2021年7月7日 9時15分
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山氏のもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
夫 会社員 年収1000万円
本人 専業主婦
長女 中学(私立)3年生
次女 中学(私立)1年生
住まい 分譲マンション(住宅ローン16万円 ※管理費・修繕積立金込)
■夫婦ともに中学から私立、当たり前のように娘2人も受験
今回お話したいのは、子供の教育費についてです。小学4年の子を持つ私も今まさに中学受験戦争の渦に巻き込まれそうになっており、決してひとごとではありません。子の将来を思う親の気持ちはみな同じでも、教育にどれだけ資金を投下するかは家庭によって大きく異なり、親の生育環境や経済状況など、さまざまな要因が絡み合って算出されるものだと思います。
子の幸せを願うあまり「教育費貧乏」に陥らないよう、自戒を込めて相談者・倉田紗英さん(45歳/仮名)のケースをお届けしたいと思います。
専業主婦の倉田さんは、大手メーカーに勤める夫と、私立の名門女子校に通う15歳と13歳の娘の4人家族。23区内でも教育水準の高い地域に暮らしており、中学受験は当たり前という環境でした。娘さんの通っていた小学校ではクラスの95%が受験するため、2月の受験シーズンには小学6年生の教室に2、3人しか生徒がいなかったそうです。また、倉田さん夫婦はどちらも中学から私立に通っていたということもあり、子供が小さい時から受験が視野にありました。
夫は大手メーカー勤務だけあって、年収は1000万円。手取りにすると月60万円ほどで、家族4人を養うには十分な額です。倉田さん自身も「うちは高給取り」という意識があったせいか、結婚後すぐに仕事を辞め、専業主婦になりました。
ただ以前もお伝えしましたが、世帯年収800万円以上の家庭が抱きがちな「高給取り意識」というものは非常にやっかいで、「うちはお金持ちだから大丈夫」という気持ちが支出をルーズにさせていくのです。
■小5以降、毎月20万円が消えるようになった
そんな倉田さんのたがが外れた瞬間が、「お受験」でした。中学受験の場合、闘いは4年生からはじまります。倉田さんは長女と次女をそれぞれ大手中学受験塾に入れました。小4のうちは月3万~4万円だった塾代ですが、5年生の中盤になると塾に通う日数に加えて、授業時間数が増えて倍の7万円ほどに。さらに私立の難関校を目指す場合、塾とは別に家庭教師や個別塾をつけるのは当たり前らしく、こちらは塾代とは別になんと月10万円! 5年生以上になると、1人あたり月に約20万円もの教育費がかかるようになりました。
私の暮らす地域もお受験激戦地で、開成や麻布、桜蔭といった難関校を目指す場合、小学校入学と同時に“カリスマ家庭教師リスト”的なものをママ友同士が共有しあっています。私が紹介されたトップ家庭教師は1時間3万円……! 週1で月に12万円という超高額にもかかわらず、教えてもらった時点で3年待ちという人気ぶりでした。ツワモノたちは1年生の時点で予約を入れ、お受験シーズンに備えるといいます。
■このままでは老後の準備ができず、次女の大学進学費用も足りない
倉田さんが私のもとにやってきたのは、次女が合格を勝ち取った後。娘2人を見事有名中学に合格させた代償として残ったのは、火の車と化した家計でした。
倉田家の家計は夫の給料60万円のうち、16万円が住宅ローン。受験のための塾が終わっても私立の授業料は高額で、毎月1人あたり8万円の授業料が高校卒業までの6年間かかります。さらに大学附属ではないため、中学入学と同時に姉妹とも再び塾に入っており、受講料は1人2万円。加えて習い事の月謝を入れると結局、2人合わせて毎月20万円以上の教育費が重くのしかかっていました。
娘たちの5年間にわたる受験戦争ですっかり貯金をすり減らしていた倉田さん。私のもとにやってきた時の貯金は100万円でした。高給取りにもかかわらず夫のお小遣いが毎月3万円というのも頷けます。
大学進学費用は毎月の学資保険で貯めていたのでどうにかなるとしても、このままでは老後の準備ができません。夫の収入が減らされるなど、どこかで少し歯車が狂えば、下の子は奨学金での進学や、もっとも避けたい教育ローンに手を出さなければいけなくなるような状況でした。
しかも追い打ちかけるのが、「年収1000万円世帯」という事実です。倉田家のような高所得家庭は国や自治体の補助対象外となるケースが多く、昨年からスタートした私立高校授業料の実質無償化の恩恵も受けられません。
※支援が受けられるかどうかは、「住民税の課税標準」で判定されるため、実際には、夫婦の働き方や家族構成などによって、年収1000万円でも支援を受けられるケースもある。
■可能な限り、教育ローンには手を出してほしくない
一方、親の資金力がなくなってきている今、学校独自の奨学金がぞくぞくと創設されています。後で返済の必要な貸与型がほとんどですが、成績優秀者であれば返済義務のない給付型も、少ないながら存在します。勉強ができた私の知人の子は、あえてランクを少し下げて特待生で大学に入学し、4年間授業料無料で勉強していました。
倉田さんのように早い段階から名門私学を希望するのではない場合、通常、教育費の山場は大学。親はそこに向かってコツコツとお金を貯めていくことがセオリーです。
ちなみに、先ほどお話した教育ローンは金利が3~4%と、非常に高い。「このお金がないと子供が入学できない」というところまで追い込まれた場合には仕方ないのですが、その場合にも、即時入金される銀行で返済計画を立ててもらえるならまだ安心でしょう。
逆をいえば、教育ローンとはそれくらい手を出したくないものとも言えます。住宅ローンと並行して教育ローンを走らせてしまったら、老後資金を貯める間がなくなってしまうのは必然ですから……。
■一度中学受験レースに乗ったら、冷静になるのは難しい
そもそも倉田さんはなぜ、湯水のごとく教育費にお金をつぎ込んでしまったのでしょう。それはいくつかの要因が重なっている気がします。
まず、夫も妻も私立中学出身者だったことで、教育水準の高い区立中学が近隣にありながら、公立という選択肢は検討しませんでした。また、名門塾に入れられてしまう「年収1000万世帯」の高給取り意識に加え、親の期待に応えられてしまうお子さんの優秀さも、倉田さんをお受験戦争へと向かわせる大きな原動力になったでしょう。
でも、私もわかるんです。塾に通う子供の頑張りを見ていると、無理してでも応援したくなってしまう。一緒に通っているあの子に成果が出始めると、焦ってしまう。そうしてどんどんヒートアップして、合格を掴み取るまで引くに引けなくなってしまい、後先考えずお金を突っ込んでしまう……。
つまり、ひとたび受験勉強をはじめてしまうと、冷静になるのは非常に難しい。まして子供がやる気になった時、親がその芽を摘むようなことは絶対にしたくないはずです。
■教育費の見積もりは、子供が小さいうちに
そう考えると教育費貧乏を免れるには、子供が小さいうちに、お受験戦争の火蓋が切って落とされる前に一度、教育費の見積もりを冷静にするのがベストです。わが家で教育に使えるお金を明確にし、その上で学費を減らしたくないなら自分たちの働き方を変えるなり、出費を抑える方法を考えることです。そうして早い段階から軌道修正できれば、貯められるお金も変わってくるでしょう。
知り合いのママが教えてくれた、目からウロコの教育プランもありました。それは、あえて難関校を選ばない、という戦略です。というのも、難関校に入るとみんな勉強ができるので、いくら賢い子でも指定校推薦を取るのにかなりの努力が必要です。ゆえに難関校の場合、倉田さんのケースのように中学入学と同時にまたすぐ塾に入る子が多いわけですが、それでは親の財布も疲弊しますし、子供も一息つく時間がありません。
そこで知り合いのママは、あえて中堅クラスの私立中高一貫校に子供を入れ、受験シーズンや入学後の塾代を抑えることに成功。難関校ほど勉強でしのぎを削るような雰囲気もないので、子供はのびのびと6年間過ごせる。そうして定期テストをきちんと頑張って、指定校推薦で慶應義塾大学に入りました。先ほどの特待生の話にも通じるものがありますよね。
■老後資金のためには、妻が働くしかない
教育費の捻出が難しければ、難しいなりにできることはあります。子供の希望を聞きながら、「わが家のやり方」を冷静に模索してもらえたらと思います。
もはや夫の稼ぎだけでは貯金ができない倉田さんには、老後資金のためにもう一度働きに出ることをおすすめしています。夫に何かあった場合のセーフティーネットという意味でも、妻が働きに出るのが一番ではないでしょうか。
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Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)
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