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「竹島に自ら上陸」韓国大統領がわざと日本人の怒りを煽った本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年7月5日 9時15分

韓国大統領として初めて竹島に上陸した李明博韓国大統領(当時)=2012年8月10日 - 写真=Avalon/時事通信フォト

2012年8月、韓国の李明博大統領(当時)は、歴代大統領として初めて、韓国が実効支配する竹島(島根県)に上陸した。この行為は日韓関係の悪化を招き、それは現在も続いている。李大統領は、なぜ竹島問題にわざと火をつけるような行為に及んだのか――。(第2回/全3回)

※本稿は、青木理・安田浩一『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

■日韓友好が対立へ転換した背景

【安田浩一(ノンフィクションライター)】韓国ロビーが暗躍していた時代もありました。そういえば、九州と韓国・釜山を結ぶ日韓トンネル構想なんてのもありました。

ジャーナリストの青木理さん
ジャーナリストの青木理さん(撮影=西﨑進也)

【青木理(ジャーナリスト)】あれは統一教会も暗躍してましたね。構想自体は戦前からあったようですが。

【安田】そう。日韓トンネルを建設しようという統一教会の構想に、自民党の一部議員が呼応しようとする動きもあった。八〇年代から九〇年代にかけての自民党は、韓国ロビーなんかが行き交うなかで、たとえば統一教会から秘書を派遣されるようなこともしょっちゅうありました。

それは自民党議員にとってみれば当たり前のことだったわけです。統一教会がそれなりに力を持っていて、さまざまな人脈や資金を担っていて、それと密通する自民党が良かったと言うつもりはありませんが、まだ韓国と怪しげな分野で一定の繋がりは持っていた。

いまはそこすらも断ち切られてしまったかたちですよね。そして植民地時代を知っている人が皆無になってきている。韓国の中で日本語を話せる人は、親日家とか知日家と言われているだけではなくて、一部の人は日本のリベラル派と気脈を通じていたし、日本のことを理解してくれている人たちでもあった。

【青木】そのとおりです。反共や利権を接着剤として岸信介を筆頭とするタカ派が朴正熙、全斗煥といった軍事政権と密接につながっていましたが、一方で自民党内のハト派や社会党の政治家らも韓国内の民主化運動を支援し、そうした民主化勢力とさまざまな関係を築いていました。

■日韓関係の転機となった2003年

【青木】韓国側では金大中などがその代表格で、だから金大中は保守からリベラルまで日本政界に幅広くパイプを持ち、日本の表も裏も知り尽くしていたわけです。金大中に先立って政権を担った金泳三(キムヨンサム)なども同様です。

しかし、日本で戦前・戦中生まれの政治家がどんどん姿を消したのと同様、韓国でもそういう政治家が次第に政界から消えていった。時代の流れだから当然のことなのですが、軍事政権を率いた朴正熙や全斗煥にせよ、民主化後に政権を担った金泳三にせよ金大中にせよ、これは韓国にとって屈辱の歴史が根っこに横たわってもいるわけですが、全員が日本統治下で生まれ育ち、日本語も流暢にあやつる「知日派」でした。

つまり、かつての韓国政界は保守にしてもリベラルにしても――韓国ではこれを「保守」と「進歩」と称することが多いのですが、左右双方ともに日本と太いパイプを持って日本のことを知り尽くした政治家が政権を担ってきた。そうした状況が大きく変わったのはやはり二〇〇三年です。

【青木】この年、金大中の跡を継ぐかたちで盧武鉉(ノムヒョン)政権が誕生しています。僕も特派員として盧武鉉の大統領選を取材しましたが、これも金大中の積極政策などによっていち早くIT社会化を果たしたことなどを背景とし、当初は泡沫に近かった盧武鉉がネットなどを通じた若者たちの熱狂的支持を受けて当選を果たしました。

■竹島、靖国、歴史教科書……

【青木】盧武鉉は、日本風にいえば「戦後生まれ初」というか、正確にいうなら「日本統治からの解放後生まれ初」となる韓国大統領でした。当然ながら日本語はできないし、人権派弁護士出身なので外交問題に精通しているわけでなく、日本のこともほとんど知りません。その盧武鉉政権下で「史上最高」と称されていた日韓関係は急速に悪化していくことになったわけです。

盧武鉉
盧武鉉(出典:ウィキメディア・コモンズ)

もちろんこれは盧武鉉のせいだけではありません。日本側の小泉政権は日朝首脳会談を成し遂げる一方、首相自身が靖国神社への参拝を繰り返し、右派団体が主導した復古的な歴史教科書問題にも韓国側から厳しい眼が注がれていました。

政権レベルの動きではありませんが、二〇〇五年には島根県が県条例で「竹島の日」を制定し、韓国世論の猛反発がわき起こります。

これをあまりくわしく話すと長くなるので手短に済ませますが、日韓が領有権を主張している竹島、韓国でいう独島(ドクト)は、韓国にとってみると単なる領土問題ではなく、歴史認識が濃密に絡んだ非常にセンシティブな問題なんですね。

領有権をめぐる日韓どちらの主張が理にかなっているかはともかく、朝鮮半島などの権益争いが背景にあった日露戦争に勝利した日本が一九〇五年に竹島=独島の領有を閣議決定し、これが日本による植民地支配の大きな一歩になったと韓国側ではとらえられている。だから単なる領土問題ではなく、歴史問題と直結した問題としてとらえられてしまう。

まさに二〇〇〇年代に入って日韓それぞれを率いた小泉政権と盧武鉉政権の間では、そんな竹島=独島問題と首相の靖国参拝問題、歴史教科書問題が三点セットとなって同時に持ちあがってきました。しかも日本国内では先ほどから話したような急速な右傾化というか、戦後的価値観へのバックラッシュのような排他的攻撃性が強まっていました。

それに対して盧武鉉政権はどう対応したか。当時ソウルで取材していた僕は、韓国政府の高官と懇談した際、こんなふうに尋ねられたのをいまも覚えています。靖国問題と教科書問題、そして独島=竹島問題に韓国政府はどう対処すべきだと思うか、と。

■韓国側の対決姿勢も鮮明に

【青木】僕はおおむねでこんなふうに答えました。まず、竹島=独島問題には深入りしないほうがいいと。現実的に韓国が実効支配しているわけだし、いくら韓国にとって歴史認識が絡んだ重要問題だとしても、領土問題はどんな政権同士でも完全解決などするはずがなく、日本政府としても譲歩などできない。また歴史教科書問題も、教科書検定に政府は直接介入できないのが一応の建前だから、これを外交問題としても小泉政権としては対応は難しい。

竹島の航空写真
写真=iStock.com/choi dongsu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/choi dongsu

一方の靖国参拝は首相自身の信念と行為の問題だから、これは首相の判断で対応が可能かもしれないと、そんなことを言ったんです。

また余談になってしまいますが、この話を以前どこかでしたら、一部から辛辣に批判を浴びましてね。「ジャーナリストとしての領分を超えた政治への協力行為で、お前がいつも批判している政治と一体化した政治記者と同じじゃないか」って。

なるほど、たしかにそう受け止められるのもわからなくはないけれど、僕は別にそれ以上のフィクサー的行動をとったわけじゃない。単に懇談の場で尋ねられたから答えただけにすぎないし、僕の発言が韓国政府に影響を与えるほどの力を持っているはずもない。

実際、盧武鉉政権はまもなく対日政策を転換し、とくに独島=竹島問題や歴史教科書問題を前面に打ち出す姿勢を鮮明にしてしまいました。背後には韓国世論の高まりもあったし、歴史のイフを語っても詮ないのですが、これが日本の表も裏も知り尽くした金大中政権だったらどうだったかとも思います。

■「火に油を注いだ」韓国大統領の竹島上陸

【青木】老練の金大中ならまた別の対応をしたのではないかと考えたりもするんですが、ある意味では日韓ともに――それは保守にしてもリベラルにしても、二一世紀に入った両国の政治は新たな時代に合わせてバージョンアップさせることができなかったといえるのでしょうね。

つまり日本側では、軍事独裁と結びついたタカ派はもちろん、民主化勢力を支援した政治家たちも姿を消し、陳腐な修正主義的歴史観を振りかざす政治家ばかりが増えていった。一方の韓国でも、善かれ悪しかれ日本を知り尽くした為政者の時代が終わり、ある意味で「純粋な正義」を正面に掲げた政権の時代になって、両国を結びつけてきたパイプはどんどん細っていった。

これは盧武鉉時代に限らず、以後の韓国保守政権も同じです。たとえば李明博(イミョンバク)大統領は、国内向けの政治アピールのために独島=竹島に上陸してしまったでしょう。

【安田】ある意味で火に油を注いだわけですよね。李明博が上陸したのは二〇一二年です。同じ年にロシアのメドベージェフ首相が北方領土に上陸しているんですよ。そしてロシアの国旗を振ってるんだけど、そのときはロシア大使館のある東京・狸穴(まみあな)周辺で日本の右翼がちょっと騒いだだけで、日本の草の根保守やネトウヨはだれも騒いでいない。

■嫌韓意識と差別感で沸き立つ世論

【安田】ところが李明博が竹島に上陸すると、沸騰するわけです。韓国大使館周辺はもとより、全国の街中でさまざまな反対運動や上陸に対するリアクションが盛大に行われる。

ノンフィクションライターの安田浩一さん
撮影=西﨑進也
ノンフィクションライターの安田浩一さん - 撮影=西﨑進也

これは通常のナショナリズムというよりも、やはり嫌韓意識と差別感、韓国だからここまで沸き立つという、いまの社会の特異な状況があるのかなと感じました。米軍が沖縄の土地や海を奪っても、ロシアの首相が北方領土に上陸しても、日本のネトウヨは騒がない。韓国がやると、途端に日本人のナショナリズムが高揚し、激しい反発が起きるというのが、日本型の排外主義の姿かなという気がします。

【青木】そうですね。排外主義に加え、根っこにはやはり朝鮮半島に対する抜きがたい偏見や差別意識が横たわってるんでしょう。また、弱いものいじめの気配もある。アメリカや中国、ロシアといった大国に刃向かったらリアクションが怖いけれど、北朝鮮はもちろん、韓国ぐらいが相手なら叩いても構わないといった心性もちらついて気分が悪くなります。

【安田】そのとおりですね。青木さんが言われたように、朝鮮半島との関係で言えば、拉致問題ではじめて日本が被害者になった。それはイコール、初めて韓国、北朝鮮に堂々とものを言えるようになったと思い込んでいる人間がいて、そのうちヘイトを吐き出すようになった。タガがはずれた状態になってしまったということでもありました。

本来、対等にものが言えるということは悪いことじゃないんだけど、戦争や植民地主義への反省を、たんなる抑圧だと思い込んでいる人間にとってみると、解き放たれた気持ちになって、それが一気に排外主義にまで突き抜けてしまったんじゃないか。

■アメリカ、中国、ロシアには物言わぬ日本

【青木】なるほど。しかし、よく言われる指摘をあえて持ち出しますが、ヘイト団体が訴える「特権」を日本で享受している者がいるとすれば、その最たるものはアメリカなわけでしょう。なのに「戦後レジームからの脱却」を打ち出した政権は「戦後レジーム」そのものであるアメリカとの関係を再構築する気はない。むしろ自ら尻尾を振ってひたすらにひれ伏すだけ。

世界から眉をひそめられたトランプ政権にも媚を売りまくり、目玉が飛び出るほど高額な兵器を爆買いさせられ、沖縄県・辺野古の基地建設や地位協定は見直しに言及することすらしない。アメリカが中国包囲網だと言い始めればその尻馬には乗るけれど、面と向かって中国に物申すこともほとんどない。

官邸主導のロシア外交もひどいものでした。北方領土交渉が前進するかのようなムードを勝手に振り撒き、「固有の領土」という表現すら封印したあげく、安倍晋三はプーチンに向けて「ゴールまで、ウラジーミル、二人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」などと気持ち悪い台詞で呼びかけたけれど、最終的には一蹴されて一巻の終わり。

【青木】これほどみっともない外交的失敗は近年珍しいでしょう。しかしそれも政権支持の右派連中はたいして問題視することもない。なのに韓国が相手だと途端に居丈高になり、けしからんと声を荒らげてふんぞりかえる。排外主義にしてもレベルが低い。政治や外交としてのレベルの低さに加え、強きに弱くて弱きに強がるというか、その心性の醜さにほとほと嫌気がさします。

■上から見下し、かつ下から見上げる差別

【安田】日本に住んでるコリアンに対する見方にしても、日本社会では昔から差別と偏見を抱えている。在日は怖いとか貧しいとか犯罪者が多いとか、そういうデマに基づいた上から見下す差別はかつての世代には典型的にあったし、もちろんいまでもあると思うんだけど、現在は、上から見下す差別をがっちり抱え込みながら、下から見上げる差別も同時に抱えている人が多いと思います。

青木理・安田浩一『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』(講談社+α新書)
青木理・安田浩一『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』(講談社+α新書)

その典型が「在日特権」という言葉だと思うんです。在日コリアンは優遇されている、恵まれている――そうした見方。日本人は苦しんでいるのに、在日は生活保護を優先的に利用できる、日本人から福祉を奪っている。あるいは大学入試でも、日本人は英語だ第二外国語だと苦労しているのに、在日は韓国語で入試を通ってしまう。なかには在日コリアンは電気、水道の料金も免除されているのだと主張する者もいる。すべてデマです。あり得ない話です。

外国人のくせに恵まれている、自分より優遇されている、下駄を履かされているという意識ですよね。上からの差別を抱えながら、そこに下からの差別を持ち込んで、在日コリアンをわざわざ特別な地位に押し上げている。そういうところが昔との違いかなという気がしますね。

これは一度記事に書いたことがあるんだけど、「韓国の文句ばかり言ってるけど、アメリカとかロシアとかに言ったらいいじゃん」みたいな話をネトウヨにしたら、「あそこは外国だから」と答えた者がいました。一瞬わけがわからなくて。当然、韓国も外国なわけだけど、彼らにとっては、アメリカやロシアこそが外国なんですよ。物理的、精神的な距離感がある。

ところが韓国はネトウヨにとって、植民地という意識ともまた違っていて、類似した価値観、物理的に近い距離感が相まって、他の外国とは違うという感じ。取材相手はたまたまボキャブラリーが貧困だからそういう言い方をしたんだけど、特異な視点だけは伝わってきました。

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青木 理(あおき・おさむ)
ジャーナリスト
1966年、長野県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。1990年、共同通信社入社。大阪社会部、成田支局などを経て、東京社会部で警視庁の警備・公安担当記者を務める。ソウル特派員を経て、2006年からフリーランス。著書に『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』『絞首刑』『北朝鮮に潜入せよ』『日本の公安警察』などがある。

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安田 浩一(やすだ・こういち)
ノンフィクションライター
1964年生まれ。静岡県出身。「週刊宝石」「サンデー毎日」記者を経て2001年よりフリーに。事件・社会問題を主なテーマに執筆活動を続ける。ヘイトスピーチの問題について警鐘を鳴らした『ネットと愛国』(講談社)で2012年、第34回講談社ノンフィクション賞を受賞。2015年、「ルポ 外国人『隷属』労働者」(「G2」vol.17)で大宅壮一ノンフィクション賞雑誌部門受賞。著書に『「右翼」の戦後史』(講談社現代新書)、『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『ヘイトスピーチ』(文春新書)などがある。

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(ジャーナリスト 青木 理、ノンフィクションライター 安田 浩一)

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