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「粉飾決算、パワハラ、いじめ」が横行するヤバい職場に共通する"ある雰囲気"

プレジデントオンライン / 2021年6月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiraphorn

粉飾決算、パワハラ、いじめなどの「組織の不祥事」を繰り返す組織にはどんな共通点があるのか。同志社大学の太田肇教授は「個人の役割が明確ではない日本型の組織構造、承認欲求、同調圧力が結びついて悪循環を生んでいる」と指摘する――。

※本稿は、太田肇『同調圧力の正体』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■大企業やスポーツ界、学校までも…

平成時代の後半には、さまざまな種類の不祥事が世間を賑わした。一つは、大手企業で立て続けに発覚した組織不祥事である。

大手電機メーカーの東芝では、2008年から14年にかけて決算の利益を水増しするなど不正な会計を行っていたことが判明した。2000年以降、組織的なリコール隠しが次々に発覚した三菱自動車では、2016年には自動車の燃費データを改ざんしていたことが明るみに出た。

また建物の免震ゴムに関するデータの改ざんが2015年に発覚した東洋ゴムでも、2006年ごろからたびたび偽装を繰り返していた。そのほか食品メーカーの商品偽装や、生命保険の不適切な販売などが近年、次々に発生した。

いっぽうスポーツ界では、2018年に起きた日大アメリカンフットボール部の部員による悪質タックルをはじめ、女子レスリングや女子体操、日本ボクシング協会におけるパワハラなど不祥事の告発があいついだ。

そして教育現場では、2019年に神戸市の公立小学校で教員同士のイジメが発覚し、刑事事件寸前にまで発展した。

■意識改革は進んでいるはずなのになぜ?

このように企業や役所で続発した組織的な不正、職場や各種団体の中で発生したイジメ、パワハラ、セクハラなどは平成時代の組織イメージに暗い影を落とした。

特徴的なのは、いずれも同調圧力をもたらす3つの要因、すなわち閉鎖的、同質的、そして個人が分化されていない環境のもとで起きている点だ。その意味では起きるべくして起きた出来事だといえる。それを裏づけるように、前述のほかにも同じ組織が同種の不祥事を繰り返している事例が少なくない。東日本大震災の際に原発事故を起こした東京電力で、その後もミスやトラブルがたびたび発生しているのはまさに象徴的である。

問題の深刻さは、意識改革を求める政策や運動が展開されている中で不祥事が発生し続けているところにもあらわれている。

日本でも最近は人権の啓発活動が進み、国民の間で人権に対する意識は高まっているはずである。また政治や行政、企業経営においてはコンプライアンス(法令遵守)やポリティカル・コレクトネス(政治的正当性)、アカウンタビリティー(説明責任)が求められるようになった。

ところが組織の中に目を向けると、それによって問題が解消されないばかりか、数字だけをみるとむしろ世論に逆行するかのような様相さえみられる。

■「命にかかわるイジメ」が過去最多に

文部科学省の調査によると小・中・高校のイジメ件数は平成の後半からうなぎ登りで2019年には61万件を超え、過去最多となった。件数の増加そのものはイジメが社会問題化し、それまで見過ごされていたものが表面化したということもあるだろうし、現場で積極的に対応した結果のあらわれともいえる。

しかし、いじめ防止対策推進法でいうところの重大事態、すなわち「児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認める」事態もまた過去最多となっていることをみると、やはり問題は深刻さを増しているといわざるをえない。

イジメは通常、児童・生徒間で発生するものだが、教師から児童や生徒に対して行われるものに体罰がある。文部科学省は部活動中の体罰が生徒の自殺につながったとみられる件を受けて、2012年に全国の中学校・高校で詳細な実態調査を行った。その結果、体罰件数が5088件、うち部活中に発生したものが2022件にのぼった。

■「相談しても無駄だと思った」が67.3%に

また神戸市の公立小学校における暴行事件がきっかけで注目を集めた教職員間のハラスメントも、依然として後を絶たない。全日本教職員組合が青年教職員を対象として2019年に行った調査では、回答のあった811人のうち、パワハラを受けた(「よくある」「ときどきある」の合計)という人が31.9%と3割強を占めている。さらにハラスメントを受けた人の3割近く(29.4%)が「ハラスメントが原因で退職しようと思ったことがある」と答えている。

企業など職場全体に視野を広げると、いっそう深刻な実態が浮かび上がってくる。

暴力・ハラスメントを根絶する条約がILO(国際労働機関)で採択され、日本では通称「パワハラ防止法」が成立した2019年、連合(日本労働組合総連合会)は全国の20~59歳の有職男女(経営者、自営業者などを除く)1000人に対してインターネットで調査を行った。

その結果、37.5%の人が「職場でハラスメントを受けたことがある」と答えている。しかも年齢層や性別の違いを超え、広く蔓延している実態がうかがえる。さらにハラスメントを受けた人の44.0%はハラスメントを受けても「だれにも相談しなかった」と答えており、理由としては「相談しても無駄だと思ったから」が67.3%と突出して多い。

回答の中からは、やはり組織に構造的な問題があることがひしひしと伝わってくる。

■日本型組織に根付く「個人の未分化」という問題

構造的な要因の中でも見逃されやすいのは、前述した「個人の未分化」である。個人の仕事の分担や権限などが明確になっていると、いわばシェルター(避難所)のように個人を外圧から守る。ところが日本の組織では一人ひとりの分担が不明確で、個人が組織や集団に溶け込んでいる。

たとえ制度上は分担が決められていても、実際は集団単位で仕事が行われるケースが多い。そのため、圧力が直接個人にかかる。上司と部下が一緒に仕事をする機会も多いのでパワハラも起きやすい。

未分化の問題はそれだけにとどまらない。上司を含めた集団単位で行う仕事が多いので、部下は命じられなくても上司の立場や意向を忖度し、行動する。また、大事な意思決定も非公式な話し合いやあうんの呼吸で行われる。その結果、いつ、だれが決定したのかはっきりしないようなことが起きる。

そうすると、たとえ不祥事が発覚し、責任を追及されても上司は「命じてはいない」「部下が勝手にやったことだ」と言い逃れできるし、部下はそもそも権限がないので責任を追及しようとしても限界がある。

日本人のビジネスマン
写真=iStock.com/Tony Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tony Studio

■「集団無責任体制」だと何が起こるか

かくして、そこに責任の空白地帯、「集団無責任体制」ができる。自分の責任が追及されないと思えば大胆になり、ルールを破ってでも自分の利益を追求する者があらわれる。個人が未分化な共同体型組織では個人が圧力の「犠牲者」になるだけでなく、組織を隠れ蓑にした不祥事の「犯人」になる場合も少なくないのである。

しかし、実は構造的な要因だけが不祥事を引き起こしているわけではない。企業等における不祥事の事例からは、共同体型組織という構造的な要因にイデオロギーとしての共同体主義が加わり、それが組織メンバーへの圧力となって不祥事を引き起こしたケースが多いことがわかる。

東芝の不適切な会計処理をめぐっては、経営陣があまりにも高い収益目標を設定し、「チャレンジ」と称してその目標を達成するよう現場に強く迫った。それが不適正な会計処理を引き起こしたといわれる。(注1)また三菱自動車の燃費データ偽装も、業界内の競争による焦りが背景にあったことが指摘されている。

(注1)第三者委員の調査会報告書による

■プレッシャーが不祥事を生みやすい

警察大学校警察政策研究センター教授の樋口晴彦も、多くの組織不祥事の背景について分析し、プレッシャーが不祥事につながったことを明らかにしている。

たとえば2007年に不適切な取引が発覚した加ト吉事件では、「売上拡大主義型の組織文化により、個々の事業部の責任者に対して売上拡大の強いプレッシャーがかかっていたことが循環取引を誘発した」と述べている。(注2)

(注2)樋口晴彦『組織不祥事研究 組織不祥事を引き起こす潜在的原因の解明』白桃書房、2012年 216頁

民間企業だけではない。各地の警察ではデータの改ざんや不適切な報告といった不祥事が後を絶たない。そこにも企業不祥事と同じ構図がみられる。その一例が大阪府警で2008年から12年にかけて発生した街頭犯罪を過少申告していたケースであり、当時の知事が掲げた「犯罪件数ワーストワン返上」という目標が大きなプレッシャーとして働いたといわれている。

こうした事例から、共同体主義が目にみえない形でプレッシャーをかけ、それが不祥事につながっている実態がうかがえる。

■加害者も被害者もとらわれる「承認欲求」

イジメ、体罰、ハラスメント、組織不祥事を取り上げ、それらが共同体型の組織・集団と、共同体主義によってもたらされていることを説明してきた。

ところで個人の立場からみると、自分の外からくるこれらの要因は、心理という内面の要因と絡み合いながら問題を引き起こしている。そこで視点を変え、個人の心理面からこれらの問題に光を当ててみよう。

「心理」の中でもとくに注目したいのが、承認欲求である。そこに注目すると直接手を下した者だけでなく、周囲の傍観者、そしてイジメやハラスメントの場合には被害者もまた承認欲求にとらわれていることがわかる。

それを具体的に説明しよう。

まず体罰やハラスメントでしばしばみられるのは、自分の力や地位を素直に認めようとしなかった者に対して加害者が力尽くで認めさせようとしたり、制裁を加えたりするパターンである。あるいは周囲に自分の力を誇示するため、イジメやハラスメントのような行為に及ぶ場合もある。

■ホロコーストでも同じ原理が働いていた

もちろん承認欲求が人を加害行為に駆り立てるのは日本人にかぎらない。ナチスのもとポーランドで大量のユダヤ人を強制輸送し、殺害したホロコースト。それに携わったのはごく普通の労働者たちであり、彼らが自ら残虐行為に手を染めたのは、仲間から臆病者とみられたくないという思いや、軍団の前で面子を失うことへの恐れだったと記されている。(注3)

(注3)C・R・ブラウニング(谷喬夫訳)『増補 普通の人びと ホロコーストと第101警察予備大隊』筑摩書房、2019年

ドイツ文学者でファシズム研究家の池田浩士もまた、ナチス・ドイツや戦時の日本における行為について、「人びとに知られて評価され、賞讃され、人びとの共感を呼んで人びとに共有されながら、拡大再生産されて、人びとの結束を固める力となっていく」と表現している。(注4)

(注4)池田浩士『ボランティアとファシズム 自発性と社会貢献の近現代史』人文書院、2019年、311頁

要するに、たとえ背後に強制力が働いていたとしても、共同体の中で承認されたいという意識が加害行動に駆り立てていたことは否定できない。

■イジメに加担、傍観してしまう人の心理

いっぽう傍観者と被害者については、より消極的な形で承認欲求が働いている場合が多い。

イジメやハラスメントがあっても、みてみぬふりをする人や加担する人。彼らはそれを阻止することで加害者であるボスから、あるいは共同体のメンバーたちから承認を失うのがこわいのである。仲間はずれに同調した人は口々に、「仲間はずれするのに加わらないと自分が仲間はずれにされる」と語る。

そのため、内心では助けたい、イジメに加わってはいけないと思ってもそうする勇気がわかない。ちなみに神戸市の公立小学校で起きた教員間の事件でも、ハラスメントを止めたり是正したりする者が出てこなかったと指摘されている。(注5)

(注5)第三者委員会の調査報告書による

組織不祥事も同様であり、多くのケースでは問題が世間に発覚するまでだれも止められない。制度による対策がなかなか効果をあげないことをみても、その深刻さがわかる。

不祥事防止の切り札として2004年に制定されたのが、「公益通報者保護法」であり、内部通報者を保護するため通報者に対して解雇や降格など不利益な取り扱いをすることが禁じられた。

ところが前記の電機メーカーや自動車メーカーによる不祥事などのケースでは、社内に内部通報制度が設けられていたのにもかかわらず不正を早期に発見する役割が果たされなかった。そこからは社員が不正を告発することで、社内の承認を失うのをいかに恐れているかが伝わってくる。

夕暮れのオフィス
写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

■3者の承認欲求がイジメをエスカレートさせる

そしてイジメやハラスメントの被害者の立場からすると、被害をうったえることは自分の弱さを認めることになり、自尊心が傷つく。とくに子どもの場合、学校でいじめられていることを親や兄弟に打ち明けたら、家族という共同体の中での地位、たとえば「頼りになる子」「強い兄(姉)」という評価を失うかもしれない。それは子どもにとっても耐えられないことだ。そのため学校で少々いじめられてもがまんしてしまうのである。

またイジメやハラスメントに抗議すれば、下手をすると共同体を敵に回すことにもなりかねない。共同体の中には公式・非公式の序列が存在するので、承認を失わないためには上下関係に基づく少々の理不尽は堪え忍ばなければならないのである。

それをよいことに加害者は図に乗る。こうしてイジメやハラスメントがだんだんエスカレートしていく。なお神戸市公立小学校の事件でも、加害者は被害者より年長で教員歴も長く指導的立場にあったことが報告されている。(注6)

(注6)第三者委員会の調査報告書による

このように加害者、傍観者、被害者の3者がそれぞれ承認欲求に呪縛され、それが共同体の構造的な要因と相まって不幸な結果をもたらしていると考えられる。

■なぜ犯罪にまで手を染めてしまうのか?

しかし、それだけではまだ納得できない疑問が残る。いくら共同体組織という特殊な環境があり、その中で認められることが大切だとしても、犯罪にまで手を染め、場合によっては民事的・刑事的に訴えられるようなリスクを冒すだろうか? また不正義を目にしたメンバー全員が傍観するようなことがあるだろうか?

やはり、そこには冷静な判断、合理的な計算を麻痺させる力が働いていたと想像される。冷静な判断や計算抜きで共同体の論理に従わせたもの。たとえ我に返って正義との葛藤に陥ったとしても、その葛藤を打ち消したもの。それがイデオロギーとしての共同体主義である。

そのことを裏づけるように、部員への暴力事件を起こした名門校の監督や、不祥事に関わった企業の幹部は当時を振り返って、「部員に熱意が感じられなかったので、つい手を出してしまった」とか、「当時は異論を唱えられる空気ではなかった」「会社の方針に反することは考えないようにしていた」と口にする。また「組織を守ろうとする一心から一線を越えてしまった」と述懐する人もいる。

容易に想像がつくとおり、そこにはファシズムや軍国主義に洗脳された人たちが無感情に、ときには自ら進んで残虐行為に及んだ姿とも共通するものがある。

心理的圧力を受けた人間が容易に思考停止状態に陥ることを裏づけた研究としてよく知られているのが、いわゆる「アイヒマン実験」である。(注7)

(注7)S・ミルグラム(岸田秀訳)『服従の心理 アイヒマン実験』河出書房新社、1980年

■共同体主義がブレーキを外している

ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺の指揮官から名を取ってこう名づけられた実験では、教師役の被験者と生徒役の人(サクラ)が同じ部屋に入れられ、生徒役の人は電気いすに縛りつけられた。教師役の被験者は実験者から、生徒役の人が答えをまちがえるたびに強度を上げながら電気を流すよう言い渡された。

太田肇『同調圧力の正体』(PHP新書)
太田肇『同調圧力の正体』(PHP新書)

すると教師役の被験者は指示どおり電気を流し、高圧の電流で生徒役の人がもがき苦しむ姿(演技)を目にしても、ためらわずに電気を流し続けたのである。

同調圧力で思考停止に陥ることがいかに危険かを物語っている。

問題は、このような危険性が十分に認識されていないことである。たとえば不祥事が明るみに出ると、責任者は判で押したように「管理の徹底」や「綱紀粛正」を唱え、周囲もそれを受け入れる。その結果、当面は不祥事を防ぐことができるかもしれないが、問題意識と責任感は内面化されていない。

そのため、管理が強化されるとますます無批判に追随し不祥事を繰り返すといった現象が起きる。前述したように同じ企業で同種の不祥事が繰り返され、行政の啓発活動や人権意識の高まりの中でもイジメやハラスメントがなくならない背景には、このような悪循環が生じている可能性がある。それを防ぐためにも、不祥事の根底に共同体主義という目にみえない病根が潜んでいることを疑わなければならない。

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太田 肇(おおた・はじめ)
同志社大学政策学部教授
1954年、兵庫県生まれ。神戸大学大学院経営学研究科修了。京都大学博士(経済学)。必要以上に同調を迫る日本の組織に反対し、「個人を尊重する組織」を専門に研究している。ライフワークは、「組織が苦手な人でも受け入れられ、自由に能力や個性を発揮できるような組織や社会をつくる」こと。著書に『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)をはじめ、『「ネコ型」人間の時代』(平凡社新書)『「超」働き方改革――四次元の「分ける」戦略』(ちくま新書)などがあり、海外でもさまざまな書籍が翻訳されている。近著に『同調圧力の正体』(PHP新書)がある。

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(同志社大学政策学部教授 太田 肇)

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