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「一体だれがウソをついているのか」河井元法相の買収事件で解決されていない謎

プレジデントオンライン / 2021年6月26日 11時15分

東京地裁に入る河井克行被告=2021年3月23日午前、東京都千代田区[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

■法相経験者が刑事裁判で実刑判決を受けるのは初めて

6月18日、東京地裁は公職選挙法違反(買収、事前運動)の罪に問われた元衆院議員で元法相の河井克行被告(58)に対し、懲役3年、追徴金130万円(求刑=懲役4年、追徴金150万円)の実刑判決を言い渡した。

法務大臣経験者が刑事裁判で実刑判決を受けるのは初めてというが、子供でも分かるような違法行為を国会議員の身分にありながら、悪びれることもなく、実行に移すのだから実刑判決は当然である。

河井被告は2019年7月の参院選をめぐる大規模買収事件で起訴された。今年3月の公判中に保釈されたが、今回の実刑判決に伴い、再び身柄を拘束された。河井被告側は即日控訴した。

判決によると、被告は2019年3月から8月にかけ、広島選挙区の自民党公認候補だった妻の河井案里氏(47)=有罪確定=を当選させるため、地元の地方議員ら100人に計2870万円を配った。河井被告は選挙運動を取り仕切る総括主宰者だった。

当初、河井被告は買収目的を否定して無罪を主張していた。しかし、3月の被告人質問で一転して起訴事実を認め、衆院議員を辞職した。昨年6月の逮捕以降に受け取った議員歳費相当額(700万円)を贖罪寄付したことも挙げて執行猶予を求めていた。

■河井被告は菅首相に近く、法相就任も菅首相が働きかけた

国会議員でありながら選挙で自分の妻を当選させるために現金をばらまく違法行為自体が、極めて悪質で前代未聞である。しかも犯行直後に法務大臣に就任するというのだから開いた口がふさがらない。

河井被告は広島県議を経て1996年に衆院議員に初当選し、計7回の当選を果たした。その間、首相補佐官や自民党総裁外交特別補佐などの要職を歴任し、1昨年9月11日には初入閣して法相に就任した。しかし同年10月31日、問題の案里氏の参院選挙でウグイス嬢(車上運動員)に対する違法報酬疑惑が週刊文春の報道で浮上し、わずか2カ月足らずで法相を辞任した。

ちなみに案里氏は2001年に河井被告と結婚し、2003年の広島県議選で初めて当選し、その後の参院選で当選した。

河井被告は菅義偉首相に極めて近かった。菅首相の支持基盤である無派閥議員グループの1つを主催するなど援助を惜しまなかった。菅首相もそんな河井被告に応え、法相への抜擢を後押しした。安倍晋三首相(当時)に対し、官房長官だった菅首相が強く推薦することで「河井法相」が実現したのである。

■1候補に1億5000万円というのは選挙活動資金として破格

買収事件の舞台となった参院選(2019年7月)で、自民党が拠出した選挙活動資金の1億5000万円が、河井被告の買収工作に使われたかどうかが大きな焦点となっている。

法務省
写真=iStock.com/tupungato
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tupungato

1候補に1億5000万円というのは選挙活動資金として破格だ。菅首相との親密な関係があったから実現したことだろう。なお1億5000万円のうち1億2000万円は、国民の税金である政党交付金だった。

裁判で河井被告は「1円も買収に使わなかったにもかかわらず、要らぬ疑念を抱かれ、自民党にも迷惑をかけた」と語っていたが、かなり疑わしい。

記者会見で菅首相は「支出は当時の自民党総裁の安倍前首相と幹事長の間で行われた。検察に押収されている関係書類が返還され次第、自民党の公認会計士が監査を行ってチェックする」と説明している。

菅首相は自民党の現在の総裁である。支出はだれの指示によるもので、どのように使われたのか。1億5000万円の使途を明確にかつ詳細に私たち国民に説明する責任がある。大半が税金なのだからその責任は重い。

新型コロナ対策や東京五輪の開催でつまずく菅政権は、内閣支持率が低迷を続けている。今回の河井被告に対する実刑判決はさらなる打撃となった。次の衆院総選挙にも大きな影響を与えるだろう。

■このままでは菅首相は「アベ1強」の轍を踏むことになる

菅首相は東京五輪を成功させ、それをバネに自民党総裁選と衆院総選挙に打って出ることで、首相続投を狙っている。

しかし、私たち国民は振り返ってよく考えなければならない。菅首相は憲政史上最長で、「アベ1強」といわれた安倍前政権の落とし子である。官房長官としてアベ1強の政治権力を何度も目にしている。安倍前首相に対し、閣僚として内閣に組み入れてもらうために多くの国会議員がひれ伏し、強い官邸主導で霞が関の官僚も手玉に取った。首相に対する「忖度」という言葉もよく登場した。

菅首相は「政治的に強くなれば怖いものなどない」という考えを持っているのだろう。だから周囲の意見を無視してまで頑なに東京オリンピック・パラリンピックを断行しようとするのである。

「もり・かけ問題」と揶揄された森友学園と加計学園の不祥事、安倍前首相に近い人々だけが優遇された「桜を見る会」、政治と金の問題の発覚による主要閣僚の相次ぐ辞任、そして今回の実刑判決を受けた河井被告の選挙違反事件。いずれもアベ1強という政治権力の歪みから生まれたものだ。

沙鴎一歩はここで菅首相に申し上げたい。首相の職を続けるというのならば、アベ1強の轍を踏むことだけは避けてほしい。

■「夫妻にだけ責任を帰して幕を引くわけにはいかない」と朝日社説

6月19日付の朝日新聞の社説は「元法相に実刑 不信の払拭 遠い道のり」との見出しを付け、「選挙という民主主義の土台を破壊する行為に、こともあろうに国会議員が手を染める。刑事責任はきわめて重く、実刑は当然といえる」と書き出し、こう訴える。

自由民主党
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

「夫妻にだけ責任を帰して幕を引くわけにはいかない。事件への自民党の関与の有無や程度は依然闇の中だ」

事件の背景には自民党の勢力拡大がある。安倍前首相と菅首相(当時の官房長官)がどう説明責任を果たすかが大きく注目される。

朝日社説もこう指摘する。

「改選2議席の独占をねらった同党は、当時の安倍首相や菅官房長官が主導して案里氏を2人目の候補として擁立。党本部から陣営には、選挙前に1億5千万円という破格の資金が提供された」
「買収に使った金について克行被告は『手持ちの資金だった』と説明するが、裏づける資料はなく、裁判でも解明されていない。事件に一区切りがついたいま、自民党は夫妻任せにせず、資金を拠出した経緯からその使途までを明らかにして、国民に説明しなければならない」

■二階幹事長「政治とカネの問題はきれいになってきている」

読売新聞(6月19日付)の社説はその中盤で「現金を受け取った広島県の地元議員と首長計40人は、いまだに刑事処分を受けていない。そのことを理由に、多くが今も公職にとどまっており、地元で不信感が高まっている」と指摘し、こう主張する。

「河井被告は今回、実刑判決を受けた。公正な処罰という観点からも、検察は、現金を受け取った側に対する厳正な刑事処分を速やかに行うべきである」

「公正な処罰」。贈収賄事件でもワイロを受け取った側だけではなく、ワイロを送った側も刑事立件される。その意味で今回の検察の捜査は不十分である。

読売社説は後半で「自民党に所属していた議員では、有権者に現金を配るなどした菅原一秀前経済産業相が略式起訴され、吉川貴盛元農相が汚職事件で在宅起訴されるなど、閣僚経験者の不祥事が相次いでいる」とも指摘したうえで、「こうした事件についても、党は説明を尽くしていない。しかも、二階幹事長は『随分、政治とカネの問題はきれいになってきている』と、国民の認識とはかけ離れた発言をしている」と訴える。

沙鴎一歩も二階俊博幹事長の発言には驚かされた。一体、国民の政治に対する不信感をどう考えているのか。こうした人物が自民党を牛耳っているのだから政治が信頼されないのである。

最後に読売社説は「政治への国民の視線は厳しい。襟を正し、自浄作用を示さなければ信頼回復は到底かなわない」と主張するが、日本を代表する自民党には自らに厳しくあってほしい。

■「まぎれもない自民党議員の公選法違反事件である」と産経社説

「河井元法相に実刑 党の無責任体質も猛省を」との見出しを掲げた産経新聞(6月19日付)の社説は、二階氏の別の発言を問題視している。

「自民党幹部からは無責任な発言が相次いだ。3月に河井被告が議員辞職願を提出した際には、二階俊博幹事長が『党もこうしたことを他山の石として、しっかり対応しなくては』と述べて世間をあきれさせた。『他山の石』ではあり得ず、まぎれもない自民党議員の公選法違反事件である」

その通りである。だれがどう言おうと、自民党議員の悪質極まりない事件なのである。

産経社説は「5月には1億5千万円の送金をめぐり、二階氏が『私は関係していない』と主張し、林幹雄幹事長代理は『実質的には当時の(甘利明)選対委員長が担当した』と述べた。担当者と名指しされたも同然の甘利氏は『1ミクロンも関わっていない』と否定した。こうした責任の押し付け合いが有権者にどう映ったか」とも指摘する。

要は、彼らは自民党の要人としての自覚がないのである。政党を背負って立つという自覚を持ち、国民のための国民の政治をしっかりと実行してもらいたいものである。

産経社説はさらに指摘する。

「林氏は、検察が押収した関連資料が党に戻ってくれば『買収資金に使われていないと、きちんと証明する』とも述べた。この言質を忘れまい。約束は必ず果たしてもらおう」

そうだ。そうである。きちんと約束を果たすのが筋である。それが自民党を背負って立つ者の使命である。

■責任の押し付け合いはみっともない

6月19日付の毎日新聞の社説は「河井元法相に実刑判決 買収の全容なお未解明だ」との見出しを掲げ、判決内容について触れながら選挙違反での実刑判決を「異例だ」と指摘したうえでこう強調する。

「だが、事件の全容は、いまだ解明されていない」

前述したように1億5000万円の使途など未解明なところが多い。それゆえ自民党側がしっかりと説明する必要がある。

毎日社説は書く。

「自民党総裁の菅義偉首相は『検察に押収された書類が返還され次第、党の公認会計士が監査する』と繰り返すだけだ」
「党幹部は責任を押しつけ合った末、二階俊博幹事長が、提供を決めた責任は、当時の総裁だった安倍晋三前首相と自分にあると認めた。ならば、両氏は速やかに経緯を説明すべきだ」

責任の押し付け合いはみっともない。繰り返すが、菅首相には重い説明責任がある。同様に安倍前首相や二階幹事長にも責任がある。

■立花隆さんがジャーナリストとして追及しつづけたこと

最後に毎日社説はこう主張する。

「判決で幕引きとはならない。自民党議員の『政治とカネ』を巡る事件が相次いでいる。自民党は、国民の政治不信にきちんと向き合わなければならない」

問題は「政治とカネ」なのである。

ところでジャーナリストで評論家の立花隆氏(80)が4月30日に死去していたことが、6月23日付夕刊各紙やテレビのニュースなどで大きく伝えられた。立花氏は『田中角栄研究 その金脈と人脈』(1974年)で田中首相(当時)の金権政治の実態を暴露し、田中首相退陣のきっかけを作ったことで知られる。田中金権政治はロッキード事件へと発展し、司直の手で裁かれることになる。

政治とカネ。立花氏が活躍したあのころと問題は変わっていない。これからもジャーナリストが政治権力に立ち向かい、政治とカネの問題を追及していく必要がある、と沙鴎一歩は思う。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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