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「国民の命より開業医が大事」まともな医者ほど距離を置く日本医師会はもう要らない

プレジデントオンライン / 2021年7月1日 11時15分

菅義偉首相との会談終了後、記者団の質問に答える日本医師会の中川俊男会長(中央)=2021年4月30日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■「国民の健康と命を守る」と口癖のようにいうが…

中川俊男(70)が会長を務めている日本医師会は「医療崩壊」「病床逼迫」の元凶ではないのか。

中川会長を含め、これまでの幹部たちは口癖のように、「国民の健康と命を守れ」「国民の側に立った医療政策」を唱えてきた。

だが、「その裏で、『医師の権益』『開業医の利益誘導』という国民の利益とは反するような本音が垣間見えるのもまた、事実」(辰濃哲郎『歪んだ権威 日本医師会 積怨と権力闘争の舞台裏』2010年9月初版・医薬経済社)なのだ。

コロナ感染が蔓延する中、コロナ患者のための病床は、感染症への対応可能な病床のうちの、わずか4%しかないという。

なぜ、新型コロナウイルスが蔓延してから1年半近くになるのに、なぜ、患者のために病床を確保できないのか、コロナに対応できる医師や看護師などの医療従事者を増やすことができないのか。

その大きな理由の一つに日本医師会の存在があるのではないか。

■「大半の病院は協力なんかしたくない」

医師会には約17万人の医師が加入している。勤務医もいるが主に開業医の病院経営のために活動する団体だといわれている。

その疑問に斬り込んだのが6月27日にNHKで放送された「検証“医療先進国”(後編)なぜ危機は繰り返されるのか」だった。

NHKスペシャル
NHKスペシャル パンデミック 激動の世界 (12) 検証“医療先進国”(後編)①(写真=NHKウェブサイトより)

大越健介がインタビューした神奈川県医療危機対策本部の阿南英明は怒りを露わにしてこう話した。

「大半(の病院=筆者注)は協力なんかしたくない、コロナとは無関係でいきたい。病院は決して一枚岩ではない。こういう世界の中で1床、2床をどうやって捻出するかということは大変な闘いなんですよ。
医療者が全員即理解をして、その必要性に応じて対応する、そんな甘い世界じゃない」

神奈川県内の病院の8割がコロナ患者を受け入れていないという。

大越は、市内の中堅病院の院長からも話を聞いているが、うちは耳鼻咽喉科など多くの疾患を扱っているため、コロナ患者を受け入れることはできないのだといわれる。

中には、コロナ患者を3人受け入れはしたが、一般患者がいる病室の奥にビニールカーテンで仕切っただけのスペースしかなかった。

なぜこのような未曽有の疫病が蔓延しているのに、国も厚生労働省も日本医師会にコロナ患者受け入れを“要請”できないのか。

中村秀一元厚労省局長は、日本は民間病院が多く国や行政の力が弱いから、要請することはあったが、法律の権限に基づいて強制することはなかったという。

病院自体小規模のものが多いので、「コロナ対応の病床としては(日本は=筆者注)大国ではもともとなかった」と指摘している。

■カネ儲けのできないことに首を突っ込むことはない

私は、素人考えだが、中国やアメリカのように短い期間で大規模な病院を建てることがなぜできないのか、例えば、東京ドームに何千人分というコロナ患者のための病床をなぜ造れないのか、疑問に思っていた。

だが、発想した役人はいたかもしれないが、ネックになった大きな要因の一つは長年、政治と癒着してきた医師会の存在だったのではないのか。

この“不可侵領域”に斬り込むのかと思って見ていたが、大越というよりNHKの限界だろう、中川会長にインタビューをしながら、相手の意見を聞き置くだけで、医師会のやり方に強い疑問と批判を加えることはしなかった。否、最初からする気はなかったというべきであろう。

中川会長は大越にこういってのけた。

「税金を莫大に投入されて経営しているところ(公立病院)と自立して経営努力だけでやっているところ(民間病院)とはちがうということは分かってほしい。

世界で最も評価が高い医療の日本において、守らなければならないことがあります。それはどんな新興感染症が襲来しても、その医療とそれ以外の通常の医療が絶対に両立していなければならない」

医師会会員はカネ儲けのできないことに首を突っ込むことはない、私はそう理解したのだが。

■政治家と長年癒着してきた医師会の体質

ここで日本医師会の歴史を振り返る余裕はないが、日本医師会は一貫して自民党の大口献金先であり、集票マシンでもあった。

政治家たちへのロビーイングは当たり前で、自分たちに不都合な“改悪”は力で潰してきた。

先の本で辰濃がこういっている。

「かつて日医は、カルテの開示の法制化を阻止してきた。インフォームド・コンセントの法制化もつぶした。植松(治雄16代会長=筆者注)執行部がつぶした医師免許更新制度だって、そうだ。

全部、国民にとっては必要な制度だった。

国民の利益と日医の利益が相反するときに、政治家を使って日医の利益を優先すれば、私たち国民は日医を自分たちの利益代弁者だとは思わない」

いい古された言葉だが「医は算術」なのである。それを最優先する医師会の本心が、コロナによってはっきりしたということであろう。

このところ、週刊誌による中川会長のスキャンダル暴露が続いているが、その背景には、世界的なコロナ感染症蔓延の中で、一番頼りたい医者たちの多くが、自分たちの利益や都合を優先させていることに、国民の間に批判や反発が広がっていることがあると、私は考えている。

■医師会に所属していないとワクチンがもらえない

それが分かりやすい形で報じられたのが、週刊文春(6/3日号)の「医師会に入らないとワクチンが来ない!」だった。

週刊文春によれば、今回のワクチン配布についても、医師会に所属していないと十分な数をもらえない、ワクチンの囲い込みが起きていると、ヘルス・マネジメント・クリニック(東京都中央区)の行松伸成院長が話している。

週刊文春が中央区に確認してみると、区内で高齢者へのワクチン個別接種を実施している28の医療施設はすべて日本医師会会員だと認めたのである。千代田区も同じ。日本医師会会員が6割程度の台東区でも、ワクチン提供を受けている医療機関の97%が会員だった。

コロナウイルスワクチン
写真=iStock.com/MarsBars
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsBars

さらに杜撰なことが起きていると週刊新潮(6/3日号)が報じている。

医療従事者は優先接種の対象だが、その定義が曖昧なため、横浜の歯科医院は、医師3人、アルバイトが2人しかいないのに、35人分と申請したらその通り送られてきたという。

この歯科医院が所属する医療法人クリニック全体では、勤務する700人の倍ぐらいのワクチンを申請したら、問題なく通ったというのである。

このような実態があるから、当初、370万人だった医療従事者が480万人に膨れ上がったが、その背景にはこうした不正があるのではないかと、個人病院の関係者が話している。

■接種を多くこなせば手当てが140万円にも

さらに週刊文春(6/24日号)は、「日給6万円も……医師会がワクチンで荒稼ぎ」と報じた。

日頃の政治献金が功を奏したのであろう、「かかりつけ医などの個別接種に多額の協力金が出ている」(厚労省関係者)というのである。

「現在、国や都道府県から医療機関に支払われる金額は、接種一回あたり二千七十円という基準があります。これに休日手当(二千百三十円)や時間外手当(七百三十円)、さらに各都道府県独自の手当も上乗せされる。例えば、東京都では一日五十~五十九回の接種を行った場合は十万円、六十回以上の接種を行った場合は十七万五千円の協力金が支給されます」(同)

週刊文春が、接種回数が少ないケースでシミュレーションしてみた。平日は週3日、診療後に10回、日曜日に50回の接種を行ったとすると「それでも、“手当て”は一週間で三十九万四千円」になる。

多くこなす医師では約140万円にもなるというのだ。これが事実だとしたら「コロナ太り」といわれても仕方あるまい。

しかも、大規模接種会場で接種している自衛隊医官は、「一日約三百四十人を問診しています。一日十時間以上の勤務ですが、週に一日しか休めません」といっている。

「朝八時から夜八時まで働き詰めで、一日の手当ては三千円です。土日だからといって、手当てが増えることもありません」(同)。あまりにもひどい“格差”ではないか。

■政治資金パーティーにすし屋で密会…

中川会長が4月21日の定例記者会見で、「3度目の緊急事態宣言が不可避の状況」「新型コロナの感染拡大を抑える基本は各人の意識と行動だ」と自粛を呼び掛けていたのに、その前日、自分が後援会長を務めている医師会お抱えの自見英子参院議員の政治資金パーティーの発起人になり、出席して祝辞を述べていたことを最初に報じたのは文春オンラインだった。

次に週刊新潮が、昨年の医師会選挙の後、会長に就任した中川が、親しくしている医師会傘下の総合政策研究機構の研究員の女性と高級すし屋で“密会”し、シャンパンを飲んでいたことを報じた。

パーティーに出席していた時には、「感染症対策のガイドラインに基づき開催した」と言い訳をしていたが、“密会”については「記憶にない」と沈黙した。

週刊新潮は続けて、この女性が中川の推しにより現在は主席研究員の要職にあり、年収は1800万円にもなると報じた。

日医総研は1997年4月に医師会のシンクタンクとしてつくられ、毎年多額の予算が投じられてきている。

だが、2004年に植松会長(当時)が福岡市にある会社との取引におかしな点があると気づき、調べるよう指示した。

すると会社の代表は日医総研の女性主席研究員で、取締役にも1人日医の人間が名を連ねていたことが判明した。

「報酬の二重取りではないか」と、すぐに契約を中止させた“事件”が起きていたことを、中川会長はまさか知らなかったわけではないと思うのだが。

■経営する病院でクラスターを起こす大失策

その後も中川会長は、感染対策が不十分だ、国民の命を守れといい続けていたが、会長にふさわしいのかどうかを疑わせる決定的ともいえるスキャンダルが報じられたのである。

週刊文春(7/1日号)の「『中川医師会長はコロナ患者を見殺しに』職員5人が告発」がそれである。

中川会長は、1988年、36歳の若さで北海道札幌市に新さっぽろ脳神経外科病院を開業し、日本で最初に脳ドックを導入したといわれる。

現在は急性期病院として病床135床を擁し、来夏にはJR新札幌駅近くに30億円を投じて新ビルを造り、移転する予定だというから、彼の権勢が分かろうというものである。

だが、その病院の職員5人が週刊文春に対して、「中川はコロナ患者を見殺しにした」と告発したというのだ。事実だとすれば、中川会長の進退問題にまで発展しかねない大スキャンダルである。

職員Aがいうには、5月15日に4階フロアから入院患者2人の感染が発覚したことが始まりだったという。

急ぎ5人部屋の416号室に隔離したが、その3日後、そこから最も離れた407号室で1人、408号室で2人の陽性者が出た。

Aは、416号室へ陽性者たちを移動させると思ったが、病院側は同じ部屋に留めおいたというのだ。ともに5人部屋だが、陽性者と陰性者のベッドは1メートルほどしか離れておらず、パーティションもない。

病院ベッド廊下
写真=iStock.com/upixa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/upixa

■不十分な対策でついに死者も

食事も歯磨きもトイレも同じところを使い、ゾーニングも不十分だったという。現場の責任者に訴えたが、保健所の指示でやっている(札幌市保健所医療対策室は一般論だとしながら、「そのような指導や助言をすることはない」といっている)、陰性の濃厚接触者はすぐ陽性に変わるとみなして対応するといわれたそうだ。

医師会のトップが自ら経営している病院が、このようなコロナ対応しかしてないとは、背筋が寒くなる話ではないか。

当然だが、感染対策が不十分なため、5月18日には患者6人、職員3人が感染し、北海道庁からクラスターと認定された。6月1日には職員1人、患者16人になった。

職員Dは、患者やその家族に真実を伝えられなかったことが何よりつらかったという。

患者の中には「隔離されていたのになぜコロナが移ったのか」と看護師に聞いてくるものもいたが、「陽性者と同じ病室でしかも隣のベッドが陽性者ですよ」とは口が裂けてもいえるはずはなかった。

ついに6月5日、初めてコロナ感染による死者が出た。脳出血で肺が悪化していた患者で、2日後に脳梗塞の患者も亡くなり、パーキンソン病の患者も亡くなった。

その上、中川会長が「医療従事者の待遇改善」を訴えてきたため、1日3000~4000円の手当が出るようになったが、この病院では6月21日現在、一切支給されていないとDはいっている。

■病院幹部の忖度で検査もうやむやに

こんなこともあった。中川が医師会長になった昨年6月ごろ、看護師が39度台の熱を出して、「心配だからPCR検査を受けさせてほしい」と申し出たが、病院幹部から、「極力、検査は受けないでほしい」といわれたというのである。

会長の病院から感染者を出すわけにはいかないという、病院幹部たちの中川への“忖度”からだったようだが、呆れ果てる。

使命感を持った医療従事者たちが、この病院の不十分な感染対策や患者への不誠実な説明に不信感が募り、辞める職員も多いようだ。

灯台下暗し。病院側は文春の取材に対して、そのようなことはないといっているが、中川会長は即刻、会長職を辞して病院へ戻り、事実関係を調べて公表すべきだと考えるのは、私ばかりではないはずだ。

■このままでは誰も医者を信じられなくなる

菅政権は、国民の命を脅かしても東京五輪を強行しようと突っ走り、「ワクチン敗戦国」といわれたワクチン接種はようやく始まったが、接種希望者にワクチン供給が間にあわない事態に陥っている。

患者の命を第一に守るべき医療機関が一枚岩ではなく、中にはコロナ禍を金儲けの機会ととらえている心得違いの医者や病院まであるようだ。

中川会長の言に倣っていわせてもらえば、こういうことではないか。

「どこの国の医療従事者も“守らなければならないことがあります”。それは、救えるはずの命はどんなことをしても救うということです。

どんな時代でも、自分たちの権益や利益を守るために救命を放棄してはいけないということです」

中川会長が今すぐにやるべきことは、医師会傘下のすべての病院にコロナ患者を受け入れるよう命じ、それを徹底させることである。

患者が信頼し、医者がその信頼にこたえるという当たり前のことができないならば、コロナ禍で医者離れが進んでいるといわれるが、今後コロナが終息したとしても、その傾向はさらに強まるはずだ。

国民皆保険制度を壊したのは日本医師会だった。そんな皮肉なことにならないために、今こそ医師会には国民の命を守る“覚悟”を見せてもらいたいものである。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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