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「夫はなぜ死んだのか」赤木夫妻の魂の叫びを、財務省はいつまで無視するのか

プレジデントオンライン / 2021年7月1日 15時15分

森友学園をめぐる公文書改竄問題で、国が開示した「赤木ファイル」を目にする赤木雅子さん=2021年6月22日午前、大阪市北区 - 写真=時事通信フォト

■財務省は改竄問題の再調査に乗り出す責任がある

学校法人・森友学園への国有地売却をめぐる財務省の決裁文書の改竄問題で、財務省がやっと「赤木ファイル」の開示に応じた。財務省に決裁文書の改竄を強いられ、それが原因でうつ病を発症して2018年3月に自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫さん(当時54)が改竄の経緯を記録した文書である。

財務省が赤木ファイルを開示したのは6月22日。この日の閣議後記者会見で財務相の麻生太郎氏はこう話していた。

「すでに財務省はできる限り調査した結果を示している。改竄問題の再調査はしない」
「(ファイルの一部が黒塗りになっているのは)個人のプライバシーの関係や情報セキュリティーを守るためで、黒塗りの理由は裁判所に提出している」

しかし、公文書の改竄という罪を犯したのは財務省である。確かに財務省は改竄の事実を認めて問題を調査し、2018年6月に調査報告書を公表しているが、首相官邸の関与など肝心なことには一切触れていない。赤木ファイルに至ってはその存在さえ明らかにしようとしなかった。

■「修正は行うべきではないと強く抗議も行った」

財務省の決裁文書の改竄問題は不明な点が多く、解明が終わっていない。なぜ財務省は改竄に及んだのか。きちんと再調査して私たち国民の前に明らかにするのが財務省の義務である。それに一部が黒塗りされていたのでは、財務省理財局内でだれがだれにどのように改竄を指示したのかの指示系統も分からない。黒塗りのない赤木ファイルを開示すべきである。

赤木ファイルは、昨年3月に国などを相手に損害賠償請求訴訟を大阪地裁に起こした赤木さんの妻、雅子さん(50)が何度も開示を求めていたものだった。雅子さんは「改竄を記録したファイルがある」と赤木さんから聞いていた。ファイルは赤木さんの魂の叫びだった。

財務省は大阪地裁に提出を促され、今年5月になってようやく開示に同意した。雅子さんの思いが裁判所を通じて財務省を動かしたのである。

赤木ファイルは500ページ以上に及び、赤木さんが備忘録として改竄の経緯をまとめた部分には次のような記載がある。

「意思表示し、修正に抵抗した」
「修正することは問題があり、行うべきではないと強く抗議も行った」

「修正」とは改竄のことであり、決裁文書の改竄は2017年2月から4月に行われ、約300カ所が削除されたり、書き換えられたりしていた。

■改竄の発端は「森友学園に対する国有地の大幅な値引き売却」

赤木ファイルには、財務省理財局と近畿財務局との間で送受信されたメールやその添付文書も含まれていたが、差出人や宛先などは一部黒塗りにされていた。たとえば、財務省理財局の職員が2017年3月20日付で赤木さんら近畿財務局職員に送ったメールには「佐川局長からの指示により、(決裁文書は)現在までの国会答弁を踏まえたうえで作成するよう直接指示があった」などと記されていた。財務省理財局の職員名は黒く塗り潰されていた。

森友学園に対する国有地の大幅な値引き売却。これが改竄問題の発端である。

まず、安倍晋三首相(当時)が国会で「私や妻が関係していたら首相も国会議員も辞める」と答えた。次に改竄当時、財務省理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)氏が「森友学園との交渉記録は廃棄した」と虚偽答弁を行い、その2日後には安倍氏の妻で、森友学園が開設しようとしていた小学校の名誉校長に就任していた昭恵氏についての記載を決裁文書から削除するよう求めるメールを財務省理財局が近畿財務局に送った。

財務省
写真=iStock.com/7maru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/7maru

2018年3月の国会での佐川氏に対する証人喚問で野党は「安倍首相や官邸を忖度したのではないか」と追及したが、佐川氏は「刑事訴追の可能性がある」と証言を拒否した。

■「佐川理財局長らが真相を語ることが不可欠だ」と朝日社説

財務省は改竄を指揮したのは佐川氏だったと認めている。だが、佐川氏が改竄を指示した理由については解明されていない。佐川氏はだれに、そしてどこに気を使ったのだろうか。赤木さんの妻の雅子さんが訴訟で強く求めているのは、この問いに対する答えである。

6月24日付の朝日新聞の社説は「赤木ファイル 佐川氏は真相を語る時」との見出しを掲げ、こう書き出している。

「公文書改竄という民主主義の根幹を揺るがす行為に、財務省はなぜ手を染めたのか。担当部局以外の幹部や首相官邸は、本当に何も知らなかったのか。改めて突きつけられた疑念を晴らすには、佐川宣寿元理財局長ら関係者が、公の場で真相を語ることが不可欠だ」

改竄はいい意味で言われることはなく、悪用されるケースについて使われる言葉である。財務省、国は佐川氏に責任を押し付け、佐川氏はトカゲの尻尾切りにされた格好である。ならば、佐川氏自らが真実を明らかにして国家の犯罪行為を正すべきである。

■遺族は民事訴訟で真相の究明を続けている

朝日社説は佐川氏にこう求める。

「佐川氏は何に配慮し、改竄へと向かったのか。18年3月の国会での証人喚問では、刑事訴追の恐れがあることを理由に大半の証言を拒んだ。しかし、捜査が終結し、不起訴となった今、経緯をつまびらかにすることに何ら支障はないはずだ」

もう一度、佐川氏の証人喚問を行うべきだ。国会は佐川氏が正直に真相を語れる場を設けるべきである。

朝日社説も「そして国会である。国民の代表からなる国権の最高機関が、虚偽答弁や改竄文書でだまされていたという由々しき事態である。行政監視の使命を果たすためには、閉会中審査に佐川氏らを招致し、徹底して事実関係をただす必要がある」と訴える。

最後に朝日社説は主張する。

「ファイルの開示について、雅子さん側は『第一歩がようやく進む』と語った。真相解明はまだこれからであり、その歩みを止めるわけにはいかない」

まだ真相解明への扉が開いたにすぎない。民事訴訟の場で国と佐川氏を相手取って真相の究明を続ける雅子さんにとってこれからが正念場である。がんばれ雅子さん、と沙鴎一歩はエールを送りたい。

■「妻の心情を思うとやりきれない」と産経社説

6月23日の産経新聞の社説(主張)は冒頭部分でこう訴える。

「『最後の夫の声。つらい思いをしながら残してくれた夫に感謝したい』と語った妻の心情を思うとやりきれない」

もちろん、最後の夫の声とは赤木ファイルを指す。産経社説は「やりきれない」としているが、沙鴎一歩も妻の雅子さんのことを考えると、目頭が熱くなる。

産経社説は「国側は当初、ファイルの存否さえ『答える必要はない』とはねつけ、その後は『探索中』として存在確認に1年以上を要してきた。大阪地裁が存否の回答を求め、ようやく存在を認めた。あまりに不自然であり、意図的な隠蔽を疑われても仕方がなかった」と指摘する。

まさに隠蔽工作だ。財務省は隠蔽体質をあらため、再び調査を開始し、きちんとその結果を公表すべきである。

■いまの菅政権には「ぬくもり」がまったく感じられない

産経社説は「妻側に開示されたファイルには財務省理財局と近畿財務局との間で送受信されたメールや添付文書もあったが、差出人や宛先がマスキングされたものもあった」と指摘したうえで、こう主張する。

「差出人や宛先は当時の指示系統を明らかにする上で欠かせない情報である。黒塗りの下にある情報が『直接関係のない第三者』であるかどうか、妻側や裁判所には判断がつかない。マスキングの範囲を被告側が選択できること自体に妥当性を認めがたく、裁判所は非公開の席での全面開示などの方策を探ってほしい」

赤木ファイルの開示は今回、大阪地裁が財務省側に求めた結果、実現した。さらに大阪地裁はマスキングのない赤木ファイルの開示を強く求めてほしい、と思う。

産経社説は最後にこう訴える。

「麻生太郎財務相は『訴訟の場で審理が行われるのでコメントは控える』と述べ、加藤勝信官房長官は『訴訟への対応は関係省庁で真摯かつ適切に対応される』と語った。言葉にはまるで体温が感じられない。もっと人に温かい政治であってほしい」

産経社説の指摘の通りである。いまの菅政権にはぬくもりがまったく感じられない。それは、感染症対策の専門家らの意見を正面から受け止めず、冷めたオリンピックムードも無視し、開催ありきで突き進む菅首相のかたくなさを見ていても強く感じられる。国民のためのまつりごとが政治なのである。菅首相はそのことを理解しなければ、念願である首相続投も危うくなるだろう。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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