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「Clubhouseは復活する」音声メディアはこれからが熱いと断言できるワケ

プレジデントオンライン / 2021年7月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YakobchukOlena

米国発の音声SNS「Clubhouse」が2021年初頭の日本を席巻した。一時の熱狂はすっかり去ったようにも見えるが、音声メディア関係者は「Clubhouseの体験は復活する」と声をそろえる。『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』を著し、起業家が成功の秘密を本音で語る話題のラジオ番組「ビジプロ」のDJとしても活躍中の事業投資家・三戸政和氏は、「投資するならむしろ今」と指摘する──。(第1回/全2回)

■日本を席巻したClubhouseブーム

今年1月、Clubhouseが日本に上陸した。久しぶりの新しいSNSであり、招待制だったこともあって、「誰か招待してくれ」「招待枠あります」という書き込みがFacebookやTwitterで飛び交い、あれよあれよという間に日本中を巻き込むブームとなった。年長の人の中にはかつての日本の草分けSNS、mixiのブームを思い出した人も多いだろう。

動画でもなくテキストでもなく、純粋な音楽でもない。主におしゃべりという「音声」で発信する音声メディア。

古くからあるラジオもそのひとつだが、Podcast(ニュースや情報などさまざまなコンテンツがある。アプリやウェブなどいろいろなところに配信する仕組みのことをいう)やSpotify(音声配信プラットフォーム、音楽配信で火が付いた)など、ウェブサイトやアプリで聞ける音声メディアが増えてきている。

アメリカ発のClubhouseもそんな音声メディアのひとつだ。

■アメリカ・中国で巨大市場化する音声メディア

音声メディアはアメリカや中国ではすでに巨大市場となっている。

アメリカの調査会社、Global Web Indexの2018年の調査では、毎月Podcastを聞いている人はアメリカでは全人口の26%(約8300万人)、中国では29%(約4億人)を数える。デジタル音声広告の市場規模を見ると、アメリカ市場は20年には3000億円を超えている(デジタル広告業界団体IAB調べ)。

一方の日本では音声メディアの市場はまだまだ小さい。Global Web Indexの調査では日本のPodcastの月間利用者は8%(約960万人)である。日本の市場調査会社のデジタルインファクトの調べでは、国内の20年のデジタル音声広告の市場規模はわずか16億円だ。

日本発の音声メディアとしては、スマホで全国のさまざまな局のラジオが聞ける「radiko」が有名だが、ネットオリジナルの音声コンテンツが聞けるメディアで、誰もが知っているというものはまだ出てきていない。

そんな中でのClubhouseの到来だった。日本の音声メディアはその影響をもろに受けて、利用者をごっそり減らしたのだろうと思っていたが、ところがどっこい、現実はその逆で、利用者数を大きく増やしていた。

■日本人が発見した「声」の魅力

日本の音声プラットフォームの老舗「Voicy」は、月間利用者数がClubhouse上陸前、100万人だったところ、1月から毎月50%ずつ増加し、3月には250万人を超えた。音声配信プラットフォーム「Radiotalk」も利用者数は非公表だが、筆者の取材に対し「増えた」と答えている。

音声メディア関係者は、利用者増の理由について、Clubhouseを経験したことで、多くの日本人が「声」の持つ魅力に気づいたからだと推測する。

Clubhouseは音声市場が立ち遅れている日本に、新しいSNSということで突然、現れた。多くの人ははやりに乗って、よくわからないながらも、イヤホンを付けてClubhouseのルームに参加してみた。

すると、著名人やインフルエンサー、気になる人が「声」として耳に飛び込んで来た。そこで彼らに届いたのが、動画で聞いていたものとはまた違う、「声」そのものの魅力だった。そんな声の魅力を知った人が、声を求めて、VoicyやRadiotalkに流れていった、ということのようだ。

それは、いつまでもラジオが廃れない理由と通じるところかもしれない。ラジオの持つ大きな魅力のひとつはDJの声であり、声に癒やされ、ラジオのチューニングを合わせる人(古い言い方!)は絶えない。

■ターニングポイントは「ワイヤレスイヤホンの浸透」

Voicyの創業者、緒方憲太郎さんは人の声の魅力について、「声をずっと聞いていると、人となりや本人性が届いて、その人を信頼して好きになりやすい」と話す。Radiotalkを立ち上げた井上佳央里さんも、「声は、あったかい人の気配や居心地のよさみたいな、形に見えない、言語化できないものが届く」と捉えている。

そんな声の持つ魅力をネットに実装させたのがClubhouseであり、彼らの作る音声メディアなのだ。

Clubhouseがもたらした現状を、緒方さんも井上さんも、「追い風だ」と話す。Clubhouseの予想外の広がりが、音声メディアの可能性を高め、日本の音声メディア市場が飛躍するチャンスとなっているのだ。

もともと下地はできていた。米中の音声市場の大きさはすでに述べたが、大きいのはAppleのAirPodsに代表されるワイヤレスイヤホンの急速な浸透だ。テレビを家族みんなで見るライフスタイルから、それぞれが個別に、スマホやタブレットで動画などのコンテンツをイヤホンで聞くというライフスタイルが一般的になった。

声だけを届ける音声コンテンツは、音に集中できるイヤホンとすこぶる相性がいい。新型コロナウイルスによるパンデミックの巣ごもり需要も後押しになった。

■「耳の可処分時間」というブルーオーシャン

音声メディアを試してみると、「声」には、確かに動画のときでは感じられない魅力があるのがわかる。では、メディアとしての「声」にはどんな特徴があるのだろうか。

まず、音声を聞く「耳」の可処分時間が長いことが挙げられる。人の持つ1日の時間は、睡眠時間を除くと15~16時間ほどだろう。

「目」の場合、起きている間のその可処分時間を奪い合うライバルが多い。スマホ、ゲーム、テレビ、マンガ、本などのメディアのほか、仕事や家事、勉強、歩行中など、視覚が絶対に必要な行動は多い。可処分時間を奪い合う市場として、「目」はレッドオーシャンといえるだろう。

それに引き換え「耳」は、注視が必要な「目」とは違い、集中して聞くことが必要ない「ながら聞き」が中心だ。スマホでSNSをしながら、ゲームをしながら、家事や勉強をしながら、歩きながら、などほとんどのことが可能で、可処分時間は目よりはるかに長い。

起きている間、耳から音声を流しっぱなしにすることさえできる。リスナーとしても、「耳」を利用したい側からしても、市場としての「耳」は、まだブルーオーシャンといえる。

ワイヤレスイヤホンを手にする女性
写真=iStock.com/Mariia Kokorina
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mariia Kokorina

■10分しゃべるだけで「そのままコンテンツ」

堀江貴文さんを中心に運営されている「ZATSUDAN」という音声メディアがある。各分野のプロフェッショナルが雑談をし、それがそのままコンテンツになるという音声配信プラットフォームだ。

筆者はこれまで何回もZATSUDANに参加したが、動画とは違い、顔出しが不要なので、場所や身なりを気にする必要がなく、移動中ですら配信できるという気軽さを感じた。

またClubhouseにも共通するところだが、雑談中にゲストが飛び入りで参加したり、リスナーからの質問がインタラクティブに来たりして、そこから新しいアイデアが生まれることもあった。そうした気軽さとインタラクティブ感は、Twitterに近いと感じた。

Voicy創業者の緒方さんも、音声メディアの魅力はその気軽さにあるとしている。Voicyではあえて編集や加工をできない仕様にしており、10分しゃべればそれがそのまま10分のコンテンツになる。

緒方さんは「世の中に発信するメディアの中で、最も低労力、低コストでできるところがVoicyのメリットだ」と話す。そして、「Voicyはどんなに忙しい人でもちょっとの隙間時間で配信できる。忙しくて魅力的な人ほどそれが刺さる」という。

準備時間がほとんどかからず、気軽に配信できるから、忙しい著名人でも配信しやすいというのだ。

■「音声」の未来可能性は想像以上

そんな音声メディアの特徴から、筆者は今後、忙しくて時間のない、トップのタレントや経済人、スポーツ選手などが、動画よりも音声メディアに移行して、どんどん配信が広がるのではないかと考えている。

彼らはマルチタスクに慣れており、世の中に伝えたいメッセージや動機を持ち、その需要もありながら、決定的に時間がない。しかし音声メディアなら、5分の隙間時間で5分間のおしゃべりという、かなり充実したコンテンツを届けることができるからだ。

著名人が牽引(けんいん)することで、多くの人がどんどん音声メディアに参加、配信をしていけば、これまでテキストと動画中心だったインターネットに、良質な音声コンテンツが加わり、それがアーカイブされていくことが予想できる。

音声によるテキスト入力は、キーボードやフリック入力より4倍ほど速いといわれている。筆者もTwitterやメール返信、簡単な文章などは、すでに音声入力で行っているが、変換の精度はここ1~2年でかなり進化した。テキスト化されたものを見直してもほぼ修正する必要がない。

このように、気軽に音声でアウトプットできる環境が整い、音声入力する人が増えていけば、ネットの音声データはかなり早いスピードで、その情報量が増えていくと思われる。そして、そうした音声データは、多くの人が楽しめるようになるだけでなく、それ自体が膨大なビッグデータとなり、それをAIが解析することで、知識やアイデアが連結されて、どんどん新しいものが生まれていくはずだ。

■音声&AIは「買い」

以前、別件で取材した、営業ツールを開発する日本のセールステック企業では、営業マンと顧客とのすべての会話を音声データで取得してビッグデータを作り、営業トークと営業成績との関連性を分析するツールを開発していた。

三戸政和『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント社)
三戸政和『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント社)

わかりやすいところでは、「ありがとうございます」という言葉がよく出てくる営業トークは営業成功の場合が多い。つまりそのツールを使えば、営業トークという音声を基に作られたビッグデータがAIによって分析され、「どんな資料を基に、どんな言葉を使ってどう会話を組み立てれば営業が成功するか」という営業の勝ちパターンが見いだせるということだ。

このように音声を基にしたビッグデータが増えていくと、AIによってできることが増えていく。

音声メディアの利用が広がれば広がるほど、その可能性は高まるだろう。こうしたところが、事業投資家という立場から見える音声メディアの可能性だ。

今後の音声メディアは「買い」だといえる。

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三戸 政和(みと・まさかず)
事業投資家、ラジオDJ
1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先でのM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、ロケット開発会社インターステラテクノロジズの社外取締役も務める。著書に『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社+α新書)、『資本家マインドセット』(幻冬舎NewsPicks)、『営業はいらない』(SB新書)、『サラリーマンがオーナー社長になるための企業買収完全ガイド』(ダイヤモンド)、『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント)などがある。また、InterFMにて、ベンチャービジネス番組「ビジプロ」のDJも務める。Twitterのアカウントは、@310JPN。

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(事業投資家、ラジオDJ 三戸 政和)

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