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「なぜ高級フレンチに大盛りはないのか」本当に儲かる店が無意識にやっていること

プレジデントオンライン / 2021年7月17日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ClaudioValdes

なぜ高級フレンチには「大盛り」がないのか。小売りコンサルタントのダグ・スティーブンスさんは「料理の盛りが小さいのは、食材を減らして儲けを増やすためではない。そこには顧客の満足度を高めるための工夫がある」という――。

※本稿は、ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■売れる店、うまい店は知っている「顧客体験」の重要性

「顧客の体験」というコンセプトを語るとき、「旗艦店」ありきの発想はもう終わりにしたい。これにはいくつか理由がある。

第1に、私の経験上、旗艦店は社内的に、やりたい放題の手に負えない子供のような存在になりがちなのだ。店舗全体の運営を担うチームにしてみれば、こうした旗艦店は、往々にしてマーケティング上、不必要な存在である。

軽薄でカネ食い虫で見掛け倒しと見られていることも少なくない。業務の面からは「実店舗」とは言い難い存在なのである。

逆に、マーケティング関係者は、旗艦店を店舗運営の領域と見ていて、体験を構成する美的な部分や贅沢な部分に息を吹き込むのが旗艦店だと考えている。旗艦店が力を発揮できず、期待に応えられなければ、たびたび責任のなすり合いに発展する。全員に責任があるからこそ、誰も責任を負わないのだ。

第2の問題は、旗艦店には独自性があるにもかかわらず、通常の店舗の財務実績を測る際に使う従来の基準で旗艦店も測られることが多いという点だ。むろん、一般に旗艦店の売上高販管費率は、従来型店舗よりはるかに高いことも問題である。

何よりも、純粋に実益の面から言えば、なぜブランド各社は「旗艦店をつくる」という、通常店舗がかすんで見えるようなことをあえてするのだろうか。

顧客の体験は、特定の店舗や地域でしか手に入らないようなノベルティグッズではいけない。旗艦店に限らず、顧客との接点になるありとあらゆる場に広く行き渡るべきである。突き詰めれば、すべての店舗がいわば旗艦店でなければならないはずだ。

■料理は小盛り、少量が理にかなっている

だからこそ、私は、ブランド各社には旗艦店ではなく「コンセプトストア」という発想を持ってもらいたいと常々思っている。コンセプトとは、繰り返しの取り組みや創意工夫、継続的な開発を示唆する言葉だ。コンセプトストアは、本格展開も視野に入れた価値あるイノベーションを生み出す傾向があり、当然、全店舗へと展開できる可能性も高い。

また、コンセプト自体は、マーケティング部門と営業部門の双方が共同で所有・運営することも可能だ。旗艦店なら「これが私たちに精一杯できること」と言いそうなところが、コンセプトストアなら「私たちはイノベーションへの取り組みをやめない」となる。

旗艦店は、大がかりな体験ほどいいと考える。だが、実生活でよくあるように、ちょっとした体験に大きな満足感を覚えることは少なくない。オートキュイジーヌ(高級フランス料理)がいい例だ。腕利きシェフが創り出す素晴らしい料理は、量的にはほんのちょっとだけだ。「料理の盛りが小さいのは、食材を減らして儲けを増やすため」と冷ややかな見方をする人もいるが、実は小盛りのほうが生理学的に理にかなっているのだ。

客のオーダーを書きとめるウェイター
写真=iStock.com/LightFieldStudios
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LightFieldStudios

まず、量が少ないほうが見た目が美しくなる。小盛りは食器の上で見栄えがよく、芸術的な盛り付けができるため、見た目で食欲がそそられる。だが、もっと重要なポイントは、科学的に、いかなる食べ物も最初の3~4口は舌の味蕾(みらい)の反応が飛び抜けていいと言われる。その後は、あまり代わり映えがしなくなる。また、少ない量に抑えれば、1回の食事で多くの種類の料理を味わうことができる。

こんなふうに、大がかりな体験だからといって、必ずいい体験になるわけではないのである。確かに、私自身、ショッピングの場で、とことん洗練されていて、おもしろく、記憶に残るような体験を思い出してみると、極めて小さな小売りスペースが舞台になったものもいくつかある。

■ポイントカードを作っても無意味

顧客のロイヤリティ(愛着心・信頼)獲得を重視してポイントカードなどを導入している業界には、あまり外部に知られたくない不名誉な秘密がある。実はポイントプログラムは、得意客を増やす効果がないのだ。

各種調査によれば、小売業界のポイントカード会員と非会員の行動に関して、店に対するロイヤリティの差はごくわずかだという。実際、ポイントカード制度の多くが促進するのは、ブランドに対するロイヤリティでも何でもなく、専門家の間で指摘される「特典に対するロイヤリティ」に過ぎない。要は、買い物客が割引目当て、特典ほしさで反応しているというわけだ。

だが、私が考えるポイントカード制度の問題点は、ブランドと顧客の間でごく限られた一方通行のやり取りになってしまっているという点だ。やり取りといっても、特典、ポイント、購入くらいしかないのだ。

■ポイントカードでお客の愛は得られない

たとえば、夫婦がそんな要素だけでまともな相思相愛の関係が成立するだろうか。

「あなた、今月は浮気もせずにまじめにがんばってくれたから100ポイントね。ゴミを出してくれたらボーナスポイントよ。ポイントが貯まっているので、夕食か映画に交換する?」

こう考えると、入会無料のポイントカード制度が一番威力を発揮するのは、食品や航空、ホテル、クレジットカード、ガソリンなど、競合との差別化が難しい分野だろう。要するに、ヒルトンとシェラトンという2つのホテルチェーンの最大の違いは、どちらがポイントをたくさんくれるかに尽きるのだ。しかし、そこに問題がある。

小売業者は、単に客が「惰性」で利用しているだけなのに、ロイヤリティと勘違いしているのだ。客は、とりたてて忠誠心も愛着もないのだから、最後まで浮気せずにとどまってくれるわけではない。とどまってくれているのは、競合に乗り換えたところで、体験内容に大した差はないからだ。

オンラインショッピングにカード情報を入力する人
写真=iStock.com/Ridofranz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ridofranz

■ポイントカードは顧客の体験に紐づかない

ほとんどのポイントカード制度には、もう1つの問題がある。それは「ポイントカードが、体験自体と本質的には無関係」という点だ。要は、ポイントカードで得られるポイントは、ショッピングの体験とは切り離されて、別物になってしまうのである。なぜなら、その日のショッピングという体験が終わらなければ、ポイントは手に入らない。

たとえば、私はスターバックスに行くたびに不思議に思うのだが、オーダーを聞かれ、(商品受け渡し時に呼び出すための)名前を聞かれ、ようやく会員カードアプリがスキャンされる。

最初にアプリをスキャンしておけば、私を名前で呼ぶこともできるし、「いつものでよろしいですか」といった気の利いた応対もできるではないか。そうすれば、私がいつもオートミールクッキーを一緒に買っていることもわかるはずで、「クッキーもいかがですか」と一言添えることも可能だ。

結局、私のポイントカードは、店での体験とまったく無関係であることがわかる。それでは本末転倒だ。そこで強く推奨したいのが、有料会員制の採用である。

■有料制にすることで、顧客との関係性を強化できる

有料会員制は、さまざまな面でポイントカード制度に勝る。何よりも有料会員制は、本当にブランドや店舗に思い入れのある顧客を浮かび上がらせる手段になる。

たとえば、アマゾンプライム会員は、非会員に比べてアマゾンでの年間消費額が3.5倍以上に達する。会員制の威力を生かしているブランドは、アマゾンだけではない。

2016年、高級家具・インテリア販売の「レストレーションハードウェア(Restoration Hardware)」が総合戦略を見直し、販促策としての値引きを一切取りやめて、有料会員制を導入した。会員になると、全商品が毎日会員価格で購入できるほか、年1回のインテリアデザイン相談など目に見えるかたちの特典も多数ある。

同社が“値引き症候群”から抜け出したまではよかったが、売り上げが低下したことから、会員制移行を疑問視する声が多数上がった。だが、2018年には好調な業績を達成し、売り上げの95%が有料会員による購入であることを公表して、同社に対する批判の声を封じ込めたのである。

■顧客を平等に扱う必要はない

また、会員制には、はるかに有意義な交流も期待できる。会員にしてみれば、自分だけの個別化されたやり取りにブランドが優先扱いで応じてくれる。だから、自らの行動に関する情報をかなりオープンにブランドに提供しても惜しくない。

ブランドが顧客についての深い情報を獲得すればするほど、顧客が味わう体験も充実していく。だから顧客はさらにデータを差し出すようになり、信頼の好循環が加速していくのだ。

さらに、有料会員制は、継続的な収益の源泉にもなる。一方、ほとんどのポイントカード制度は、バランスシートの上では負債である。この本質的な違いゆえに、各社はあの手この手でポイントカードの価値に制限をかけたり、あれこれ条件をつけたり、ときには価値自体を引き下げたりする。かたや、有料会員制を用意している小売業者は、制度を拡充して、付加価値を高める施策を常に模索する傾向がある。

取扱商品や客層は関係ない。魅力的な有料会員制戦略を打ち出し、一番の得意客向けにこれまで以上におもてなしの精神を発揮した体験を提供すべきだ。

アマゾンやアリババなど頂点に立つ怪物企業がビッグデータで群を抜いているというのなら、リアル小売店は会員制を駆使して「ベストデータ」を獲得しようではないか。

■値引きすることなかれ、絶対に

こんなことを言うと、「いくらなんでも純粋主義に走り過ぎではないか」と思われるかもしれないが、値引きは麻薬みたいなもので、そこに依存したからといって、状況が好転するわけではない。実際、「もっと、もっと」と深みにはまっていく。

タブレットでオンラインショップのセールを見る二人
写真=iStock.com/filadendron
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/filadendron

今年、セールを1日やったら、来年は2日連続で開催したくなる。販売目標と株主の期待が重くのしかかるなか、今月「1個買ったらもう1個プレゼント」という企画を打てば、来月には「1個買ったら2個プレゼント」にエスカレートする。そういうものだ。私自身、そのプレッシャーに追いまくられていたことがある。

だが、改めて言いたい。値引きはダメだ。

第1に、値引きをしたからといって、後日、それに見合う売り上げ増につながることはまずない。たとえば、10%の値下げをしたら、仮にがんばって20%多く売っても、しょせん本来得られたはずの利益にしかならない。そんな売り上げ増は不可能なだけでなく、そんな売り方をしているうちに、顧客には「そのうち、また値引きするさ」と期待を抱かせることになる。

■「それなりに払うけれど心強い、頼もしい」そんなブランドがベスト

「上得意客に報いたい」とか「おもてなしの気持ちを表したい」という理由であっても、値引き策は使ってはいけない。値引きをすることで、「普段は高値を吹っかけているのか」と見られても仕方ないし、せっかくの得意客が売買だけの関係になりかねない。おまけに値引きは、商人としての腕前やブランドとしての商品を安っぽく見せてしまう。

ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)
ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)

むしろ、大切な伴侶のように、顧客との関係を捉えるべきだろう。「顧客の暮らしに何らかの価値をもたらすには、どうしたらいいのか」と考えるべきだ。価格と価値のバランスをとることに関して、もっと広い視野で可能性を模索するのである。

仮に商品に高めの価格を設定しても、その分、顧客を魅了する手段があればいいのだ。競合他社は、徹底的な安値を狙って消耗戦を繰り広げている可能性がある。

今ではすっかり有名になった高級ビール「ステラアルトワ」の「reassuringly expensive」(「頼もしいくらい高い」の意)という広告コピーを思い出さずにいられない。「それなりに払うけれど心強い、頼もしい」と思われるブランドをめざすべきである。

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ダグ・スティーブンス(だぐ・すてぃーぶんす)
小売りコンサルタント
小売りコンサルタント、リテール・プロフェット社創業社長。メガトレンドを踏まえた未来予測は、ウォルマート、グーグル、BMWなどにも影響を与えている。著書に『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)。

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(小売りコンサルタント ダグ・スティーブンス)

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