橋下徹「どんなに厳しい質問をされても慌てずに堂々とできる人の共通点」
プレジデントオンライン / 2021年7月16日 9時15分
※本稿は、橋下徹『決断力 誰もが納得する結論の導き方』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■議論の過程もメディアにさらけ出す
吉村洋文大阪府知事も、「手続的正義」の手法を使って、リーダーとしての信頼を集めています。大阪府庁の幹部たちから聞くところによると、僕のやり方よりもさらに時間をかけて議論をしているようです。幹部たちの話では、吉村さんは反対意見をじっくりと聞いて、議論を重ねているそうです。
※注釈:手続的正義……結果に至る過程・プロセスに正当性があるなら、正しい結果とみなす、という考え方。詳しくは7月8日配信「橋下徹『大接戦だった大阪都構想で米大統領選のような紛糾が起こらなかったワケ』」参照
吉村さんは、腹の中にストンと話が落ちるまでは結論を出さない。リミットの時間は決めているでしょうが、とことん意見を言わせてもらえるので、反対派も吉村さんの判断に納得をするようです。
吉村さんは議論をフルオープンにすることにこだわっています。議論の過程もできる限りメディアにさらけ出します。そしてカメラの前で記者からの質問にもできる限り答えています。大阪府民の多くが吉村さんのこのやり方や判断に納得し、彼の支持率が高まっている大きな理由の1つになっています。
■吉村府知事はみんなが納得するプロセスを踏んでいる
大阪で感染者数が増えると、TVのコメンテーターたちが批判したがるのは、実体的正義の考え方に基づくものです。「感染者数が増えたから吉村知事の判断や対策は失敗」という短絡的な見方をする。
しかし、何をやれば感染者数が減るのか、絶対的な正解は誰にもわかりません。感染者を減らすためには社会経済活動を抑制すればいいのでしょうが、そうするとまた別の弊害が出ます。しかも知事に与えられている法律上の武器は非常に限られており、基本的には府民や医療機関に呼びかけることしかできません。
このような状況下において、いつ何をどのようにやればいいのか。ウイルスの増殖、感染者数は今後どのように推移するのか。これらについて絶対的な正解を常に見つけられる者など、この世には存在しないでしょう。学者やコメンテーターたちは、後の結果を見てから、こうすればよかった、ああすればよかったと後付けで言うばかりです。だからこそ、手続的正義の考え方に基づいて、そのときに「正しいとみなせる」判断をしていかなければならないのです。
吉村さんは賛成派、反対派による議論を尽くして、適切なプロセスをきちんと踏んでいます。東京のコメンテーターたちがどれだけ吉村さんの批判をしても、大阪での吉村さんの評価が高いのは、大阪府民はこのプロセスをよく見ているからです。吉村さんが正解を出し続けているから評価が高いというより、みんなが納得するプロセスを踏んでいるから評価が高いのです。
■なぜ厳しい質問に答えられるのか
吉村さんの記者会見やテレビ出演を見れば一目瞭然ですが、彼はすべて自分の言葉で語っています。記者会見のときにも原稿に目を落とすことなどないし、プロンプターも使わない。ペーパーもプロンプターも見ないで、カメラの向こうの府民に語りかけています。だから、テレビを見ている人たちにメッセージがよく伝わるのだと思います。
なぜ、ペーパーやプロンプターを見ずに自分の言葉で話せるのか。様々な立場の人の様々な意見を、手続的正義に基づく適切なプロセスの中でしっかりと聞いているからです。
だから吉村さんの頭の中には、自分の考えだけでなく、反対の意見や持論の問題点、それに対する対処方法などもインプットされている。そのため、反対意見側からの厳しい質問を受けても、彼は自分の言葉ですべて答えられるのです。
実体的正義、すなわち絶対的な正解を追求する人は、持論が絶対的に正しいという前提なので、自分の考えだけを頭の中に残そうとします。そうすると反対意見側からの見え方に気付かない。自分の考えの問題点が見えず、それに対する対処法などについても意識が向きません。自分の考えの正当性は強く主張できますが、問題点を指摘されると慌てふためいてしまいます。
■自分の言葉には説得力がある
役人は優秀ですから、会見などの際には一応念のための回答案を作ってくれています。しかし、自分の頭の中にないことを話そうとすると、ペーパーの棒読みになりますし、そもそも役人の回答も、通り一辺倒のもので、周囲の者を納得させるものになっていないことが多い。様々な意見をぶつけ合った適切なプロセスを踏んでいないので、役人自身も表面的な問題点の指摘とそれに対する一応の回答しか用意できないからです。
手続的正義を重視する人は、適切な議論のプロセスをきちんと踏んでいるので、自分の考えへの賛成派、反対派の議論が頭の中に入っています。吉村さんも、自分の考えへの反対派の意見を十分に知っていて、それに対する自分なりの回答を用意しています。だから何を聞かれても答えられるし、ペーパーを見る必要もありません。堂々と自分の言葉で答えているため、説得力があるのです。
危機におけるリーダーのあり方として、重要なのはこの点です。質問されるたびに手元の紙や資料を見ているリーダーでは、「この人で本当に大丈夫?」と、周囲の者や組織のメンバーは不安になります。手続的正義を踏まえているリーダーは、平時であろうと危機であろうと、ペーパーを見ずに自分の言葉で話せます。それが力強いメッセージとして、見聞きする側に伝わるのです。
■安倍前総理の演説が心に響かない理由
先ほど話に出たプロンプターとは、演説の原稿を読んでいる雰囲気を視聴者に見せないために、原稿内容を映した透明な板を演説者の視線の先に置く装置です。演説者は演台上の原稿に目を落とさず、目の前の透明な板を見て話せばよいので、視線は必然的に前を向きます。ただ、演説原稿を読んでいることに変わりはありません。
演説原稿を事前に用意すると、どうしても演説の格調や文章の美しさを気にしはじめます。また、色々な情報を盛り込もうとして力が入っていく。原稿を何度も修正しながら、文章のかたちや情報量の多さにエネルギーを割くようになってしまう。結果、話し言葉として弱く、聴衆の心情に響かないスピーチになりがちです。
安倍前総理は、新型コロナ問題に関する演説ではプロンプターを使っていました。たしかに語り口はきれいで、情緒的なフレーズが多かった。ですが、ウイルスへの対処に関する肝心なメッセージの強さが抜けてしまい、聞いている側からすると迫力が足りないように感じました。
ウイルスへの不安を抱える国民が最も知りたかったところが不明確で、メディアの論調などを見ると、すこぶる評判が悪かった。つまり、聞く側のハートに突き刺さる力が弱かったということです。
■リーダーの役割は「説明すること」ではない
役人の説明は、表現の正確さに重きが置かれます。情報量も多く、聞いている者の「脳ミソ」に「論理的に」働きかけるものになりやすい。ゆえに、小難しく味気ない説明になってしまいます。ミスをしないようにすることが役人の本分なので、ある意味仕方がありません。
しかし、リーダーが発するメッセージは、聞いている者の「ハート」にズバッと情熱的に届くものでなければなりません。ハートを揺さぶるものです。リーダーは誤りなく正確に「説明すること」が役割ではない。メンバーのモチベーションを上げ、一定の目標・方向性に向かって組織・集団を動かしていくことが使命です。
この点、吉村さんの会見ではプロンプターを使うこともなく、原稿も用意されていない。必要で重要なポイントを、自分の言葉でズバズバ語っています。無駄で余分な言葉や回りくどい表現、ポエムのような話はそぎ落とされています。平時の場では、スピーチライターが練り上げる格式ばった表現や情緒的な話は許されます。が、有事の場合には厳禁。中身のない話をもっともらしく話す語り口は、緊急事態のスピーチとして最悪です。
コロナ禍で先行きが不透明な社会状況において、国民は一筋の光明を求めているのです。長く暗いトンネルを走る中で、はるか先でもいいから、とにかく出口の光を見たい。自分の言葉で語るリーダーのメッセージにかすかな光を見出したい、と願うのが、国民の感覚ではいでしょうか。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年、東京都生まれ。弁護士、政治評論家。2008年から大阪府知事、11年から大阪市長を歴任し、大阪都構想住民投票の実施や、行政組織・財政改革などを行う。15年に大阪市長を任期満了で退任。現在、テレビ出演、講演、執筆活動を中心に多方面で活動。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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