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「『ドラゴン桜』には無くて『二月の勝者』にある」仕事がデキる人はすぐわかる"ある違い"

プレジデントオンライン / 2021年7月9日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Shoko Shimabukuro

ドラマ「ドラゴン桜2」が最終回を迎えた。同じく受験を取り上げた人気コミックに『二月の勝者』がある。マーケターの桶谷功さんは「『二月の勝者』には、大人が学べる仕事へのヒントが数多く隠されている」と指摘する――。

■読者対象が違う

こんにちは、桶谷功です。昨夜(6月27日)、同名の人気コミックを原作にしたドラマ「ドラゴン桜2」が最終回を迎えたタイミングで、この原稿を書いています。

ご存じのように「ドラゴン桜2」は阿部寛さん演じる弁護士・桜木建二が偏差値の低い私立高校の経営再建のため、生徒たちを東大合格に導くというストーリー。

一方で私がご紹介したいのが、中学受験をテーマにした『二月の勝者』(高瀬志帆作・小学館)というコミックです。どちらも「受験」を描いているのが共通点ですが、大きく違う点がいくつかあるので、比較しながら見ていきましょう。

まず、違うのが読者対象です。『ドラゴン桜』は受験生本人が対象ですが、『二月の勝者』の読者は受験生本人ではなく、その「親」。お父さんも読んでくださいね、というスタンスですが、おそらく実際に読んでいるのはお母さんのほうが多いでしょう。

実をいうと、私の娘も今年の春に中学受験をしました。そこでそのための準備を始めたころ、妻がこの漫画を買ってきた。それで私も引き込まれてしまったというわけです。

■ゴールが複数ある世界

もう一つの違いは、ゴール設定の差です。『ドラゴン桜』が東大合格というゴールを設定し、アクロバティックな受験テクニックを紹介しつつ、そのゴールに向かって一直線に突き進んでいくのに対し、『二月の勝者』のゴールは一つではありません。

『二月の勝者』は「桜花(おうか)ゼミナール」という架空の中学受験専門の塾が舞台。その吉祥寺校へ校長として赴任してきた黒木蔵人(くろき くろうど)というスーパー塾講師が主人公です。

黒木は塾で教える自分たちを「教育者」ではなく「サービス業」だと言い切り、売り上げを第一に追求する一見冷酷な人物ですが、講師としての腕は確か。その黒木の指導の下、中学受験に臨む子供たちとその親の姿が、新人講師・佐倉麻衣の目から描かれていきます。

桜花ゼミナールはどこがモデルとは言い切れない架空の塾ですが、難関校の合格者がいちばん多い業界トップクラスの大手塾ではなく、おそらく二番手くらいの中堅塾。この設定が絶妙で、この塾の最下位のクラスから最上位のトップクラスまで、さまざまな子供たちが登場してきます。

■受験の勝者は“中学受験をしてよかった”と思える人

勉強が好きで自分から目標に向かってがんばれる子もいれば、勉強に向いていないタイプの子もいる。引っ込み思案で自信のない子もいれば、勝気な子もいる。親のほうも、子供以上に熱心だったり、塾を子供の預け先として学童代わりに使ったりと、千差万別。

だからこそ、一人ひとり違った物語がある。さまざまな成長の物語が生まれる。「鉄(鉄道ファン)」の男の子は、ある中学の「鉄研」(部活の鉄道研究会)をめざして勉強を始めます。勝気な女の子と引っ込み思案の女の子は、お互い自分にない長所を認め合い、同じ学校を目指します。

親たちも、子供が行きたい学校こそが志望校であるという当たり前のことに気付いたり、子供の歩みを「待つ」ことの大切さを学んだりしながら、成長していきます。

こんな十人十色の親子を、彼らに寄り添って描いていけば、おのずと「偏差値の高いトップ校に合格することがすべてではなく、自分に合った学校に行くのが一番」という結論になるのはむしろ当然のことかもしれません。そう、漫画から引用するなら、「その学校に通って、勉強したり部活したりする姿が、なんかしっくりくる」ことが大事なのです。

ここが「東大合格」という1つのゴールを目指す『ドラゴン桜』とのいちばんの違いでしょう。

もちろん子供を中学受験させる親御さんのなかには、「将来は東大などのいい大学に行ってほしいから、中学受験をさせる」という方もけっこうな割合でいると思います。しかし中学受験では、子供はまだ12歳。そこで人生が決まるわけではないし、中学に入学してからが大事ということが描かれるのも共感できるポイントです。

試験の解答用紙に解答を書き込む女子生徒の手元
写真=iStock.com/Daisy-Daisy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daisy-Daisy

もし仮に、東大進学者数ナンバーワンの開成中学だけを目指すストーリーだったら、人気を博すことはなかったでしょう。私もこの本を読んで、「受験の勝者っていうのは、結果がどうだろうと、“中学受験をしてよかった”と思える人のことだよな」と心の底から思うようになりました。

■勉強もスポーツや習い事と同じ

そしてもうひとつ特徴的なのが、この漫画では勉強をスポーツや部活や習い事などと同じように「努力する対象」「夢中になる対象」としてとらえていることだと思います。

とかく中学受験というと、「遊びたい盛りの小学生に無理やり勉強を押し付けるなんて、子供がかわいそう」という見方をされる。しかしそれは一面的な見方にすぎないと、この作品を読むと気づかされます。

主人公の黒木が、塾でトップクラスの前田花恋(かれん)ちゃんに、こんな言葉をかけるシーンがあります。

「なんで『勉強ができる』って特技は、『リレー選手になれた』とか『合唱コンクールでピアノ弾いた』とかと同じ感じで褒めてもらえないんだろうね? 『クラスで一番足が速い』子を『みんな』が褒めるテンションで、『クラスで一番頭がいい』子も褒めてくれればいいのに。」

公立の学校の授業では、誰も置き去りにならないようにすることが一番の目標です。だから、5分で問題が解けた子は、残り40分はただ静かに待っていないといけない。その点、塾は成績別にクラスが分かれているし、「この問題、おもしろい!」とわくわくしたり、「ひらめいた!」とぞくぞくしたりできる。そういう子にとっては、塾のほうが自分らしくのびのびできるのです。

そして、それはいわゆる「できる子」に限ったことではありません。わからないことがわかるとか、できなかったことができるようになるというのは、知的な興奮があって、本来、とても楽しいことなのです。

■中学受験の身もフタもない話

このように中学受験のポジティブな面を描く『二月の勝者』ですが、いっぽうで受験ビジネスの身もフタもない現実もしっかり描いています。

この漫画は黒木が子供たちに向かって、

「君たちが合格できたのは、父親の『経済力』と母親の『狂気』のおかげだ」

という内容を言い放つ非常にショッキングな場面から始まります。漫画の舞台となる塾では、6年生になると、年間の授業料が総額で約126万円かかると計算するシーンが出てきます。しかし一回始めたら、なかなか途中でやめられません。たとえ成績が芳しくなくても、「いま辞めるなんてもったいない。受験当日まで学力は伸びます」と言われれば、多少無理をしてでも続けることになります。

しかも恐ろしいのは、「土曜特訓」「日曜特訓」「合宿」「夏休み講習」「冬休み講習」「正月特訓」と、どんどん追加料金が発生していくところ。「正月特訓は、冬休み講習とは別料金なんだー」と驚きながらも、「ここで差がついたら困る」と申し込んでしまう。作中でも、「課金ゲーム」にたとえられていましたが、まさにそんな感じ。

また合格実績によって塾講師の先生たちの給料も変わってくるなど、内幕のリアルさがこの漫画自体を信憑性のあるものにしています。

そして受験のタイムスケジュールにそって物語が進んでいくので、「ここからは受験生本人よりも、親のメンタルのほうがつらい時期なんだ」というように、ガイドブックとしても使える。わが家の場合、先に漫画で「予習」していたので、心の準備もできました。まさに受験生の親の必読書だといえるでしょう。

■難題への挑戦を楽しめる大人になる

私は娘の受験を経て、受験のいいところに改めて気が付きました。受験勉強を通して、思いっきり頭を使って「新しいことを学ぶ興奮」や「解けたときの嬉しさ」を体験し、勉強に挑戦する習慣を身につけることは、その子にとっての財産になります。また、それは、大人になってからの「仕事を楽しむ」ことにもつながるのではないかと思うのです。

たとえば、マーケティングに関わるチームは、しばしば「これは解けそうもない」という問題に直面します。しかも毎回、お題が違う。でもそんな難題に対して、

「これ、めっちゃ難しいじゃないですか」
「このお題は、そもそも問い自体が間違ってるんじゃないかなあ」

などと言いながらも、みんな嬉々としてそれに取り組んでいる。それは、課題そのものから考え、いろいろな解法やアプローチ方法を編み出し、難しいことに挑戦してやり遂げる、という「興奮感」が原動力になっているのではないかと思います。

いまは「ジョブ型雇用が主流になると雇用が不安定になる」などと言われていますが、こんなふうに仕事に興奮できるようになると、むしろ「ほかの会社に行ったら行ったで、今まで取り組んだことがないような新しいお題に挑戦できる!」とワクワクするようになる。

『二月の勝者』は、中学受験をテーマとした作品でありながら、大人になってからも、新しいことにチャレンジする興奮感やワクワク感がいかに大切かを思い起こさせてくれる作品なのです。

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桶谷 功(おけたに・いさお)
株式会社インサイト 代表取締役
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っている。

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(株式会社インサイト 代表取締役 桶谷 功 構成=長山清子)

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