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「家族とも友人とも付き合いがない」ゴミ屋敷になる人が陥る"孤立孤独"という落とし穴

プレジデントオンライン / 2021年7月10日 15時15分

あるゴミ屋敷の風呂場の様子。

「ゴミ屋敷」の片付けは、本当に大変な作業だ。この仕事を専門にしている人たちは、一体どんな思いで整理業を続けているのか。連載ルポ「こんな家に住んでいると、人は死にます」の最終回では、作業員の胸のうちに迫る――。(連載第20回)

■「天井まで積もり、3分の2が生ゴミ」という現場も

私が初めてゴミ屋敷の現場に足を踏み入れたのは3年前だ。それ以降、生前遺品整理会社「あんしんネット」の作業員の1人として、さまざまな現場を片付けてきた。汚い現場を掃除した後は体調を崩したり、人が亡くなった現場を掃除した後は気分が優れない時もあった。

私は著書『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)の出版で、一連の取材に一区切りをつけようとしているが、特に社員の方々はこの仕事をずっと続けることになる。どんな思いで整理業を続けているのか。連載の締めくくりに、そのことを綴りたい。

【連載】「こんな家に住んでいると、人は死にます」はこちら
【連載】「こんな家に住んでいると、人は死にます」はこちら

作業員の間で「物が多い現場」はそれほど嫌われない。嫌われるのは「臭いの強い現場」だ。

あるアルバイトの男性作業員が「ほら笹井さん、真夏に行ったあの現場……」と言う。

「高級住宅街にあるアパートで、60歳男性が遺体で発見された部屋。あそこ、むちゃくちゃ生ゴミが多かったですよね」

私はうなずいた。たしかにその部屋は天井までゴミが積もり、その3分の2は生ゴミだった。私は1日目しか参加しなかったが、作業は数日間続き、彼は最終日までいたようだった。

あるゴミ屋敷の室内。天井まで趣味のプラモデルなどが積み上げられていた。
あるゴミ屋敷の室内。天井まで趣味のプラモデルなどが積み上げられていた。

■だれもが「地獄みたい」と口を揃える過酷な作業

「ゴミ山の一番下からマフィンが出てきたんですよ。やばかったですよ、もう。カップラーメンとか菓子類ならぜんぜんいいんですけど。ほんと生ゴミをためるのは、かんべんしてほしい」

もっとも臭いが強烈なのは、本連載でも何度か取り上げたションペット(尿の入ったペットボトル)だ。ゴミ部屋でションペットを発見すると、それが破裂しないように専用のケースに入れ、社(あんしんネット)に持ち帰って一本一本中身を処分しなければならない。アルバイト作業員は誰しも、「地獄みたいな作業」と口にする。

「あんしんネット」を運営しているアールキューブ本社の外観。
「あんしんネット」を運営しているアールキューブ本社の外観。

「夏場のゴミ部屋」というだけで臭いがすさまじいのに、その空間に尿や便がしみこんでいるものがあると、大抵の人は気分が悪くなる。もちろん私もそうだった。実際に吐いてしまう作業員も目にした。水分摂取を控えがちなゴミ部屋住人の濃縮された尿がペットボトルに入れられ、場合によっては何年も放置されているのである。

■ゴキブリが天井からぽたぽたとふってきたことも

「トイレで200本のションペットを流した時には、ちょっと人格が変わるんじゃないかと思いました」と、社員の平出勝哉さんが打ち明ける。

勤務10年目の社員、大島英充さんも、ションペットを処理する時は「これをやらないと終わらないぞという、ある種の覚悟が必要ですね」と苦笑いする。

大島英充さん。特殊清掃の防臭マスクをしている。(撮影=笹井恵里子)
大島英充さん。特殊清掃の防臭マスクをしている。

社員の仕事では「特殊清掃」(遺体の腐敗でダメージを受けた室内の原状回復をする作業)も厳しい仕事だ。連載7回目で紹介したように、腐敗した遺体からわいたウジやハエの殺虫作業のほか、人が亡くなった場所の体液や血液は手で拭き取っていくことになる。

「あんなに大量のハエを見たことはなかった」と私が言うと、大島さんが「ハエはよくありますよね」と事もなげに言う。

「殺虫作業で、ゴキブリが天井からぼたぼたとふってきたこともありますし、死んだネズミやネコに遭遇することもありますしね」

 

■「自分の家の不要品」をゴミ部屋に運び込んできた

それでも作業後に依頼人から「ありがとう」と言われれば前向きな気持ちになるが、感謝どころか「文句」を言われたこともあったという。大島さんが話す。

「まだ入社して1年目の時ですよ。ゴミ屋敷に住む人からの依頼で、『キッチンまわりをきれいにしてくれ』と。もちろん一生懸命やったのですが、作業後に『もっときれいにしてもらえると思った』と言われたんです。ハウスクリーニングのレベルを求められていたんですね。僕らは『整理業』であって、『清掃業』ではありません。今なら最初に契約を交わす時にそのあたりの説明も正確にするのですが、当時は新人でしたからね……。結局、丸一日かけて1人で掃除をしました。キツい現場や作業の内容より、お客さんの言葉で疲れ具合が変わると思います」

孤独死現場の第一人者で同社事業部長である石見良教さんも、過去に依頼人とトラブルになったことがある。

事業部長の石見良教さん
撮影=松波 賢
事業部長の石見良教さん - 撮影=松波 賢

「高齢の男性が認知症を発症し、生活保護を受けながら暮らしていたのですが、部屋がゴミだらけになってしまったんです。それで男性の娘から『介護を受けるために環境を整備してほしい』という依頼がありました。ところが作業日に、車に乗って娘たちが現れ、“自分の家の不要品”を男性(父親)の部屋に運んできたのです」

■作業後に「物を盗まれた」と通報され、事情聴取も

生活保護を受ける男性の整理費用は税金でまかなわれているため、石見さんは娘たちの不要品の処理を拒否した。すると「融通のきかない人」などと罵られ、最後には「役所にクレームを入れるから!」と捨てぜりふを吐かれたという。その日の作業は中止になった。

「筋が通らないことは受けられません」と、石見さんは力を込めて言う。

別の認知症の高齢者宅では、こんなこともあった。

「区役所からの紹介で片付けることになりましたが、部屋はゴキブリの糞だらけの不衛生な環境でした。区役所の担当者や本人の立ち会いのもとに作業を進め、本人に確認しながら物を処分したにも関わらず、作業後に本人が『物を盗まれた』と警察に届け出たのです。区役所職員とともに事情聴取を受けました」

のちにその疑惑は晴れたが、当初まるで“泥棒扱い”だったことに憤りを感じたという。

あるゴミ屋敷の廊下。この現場は趣味で集めたものが多かった。
あるゴミ屋敷の廊下。この現場は趣味で集めたものが多かった。

■勢いよく棒が飛び出してきて、鼻から大量の出血

現場には危険もある。連載第1回で記したように現場で負った足の傷から細菌が入り込み、足切断となった作業員もいる。石見さん自身も大量出血をした経験がある。

「美容院で遺品整理を行った時のことです。パーマをあてるヘルメットのような器具を外す時に、その仕組みがわからず、不用意にボタンを押してしまったのです。中の棒が勢いよく飛び出してきました。それが鼻をかすめて肉が切れ、大量の血が噴き出し……。すぐ病院に運ばれたのですが、『あと2センチずれていたら失明していた』と言われました」

病院で15針を縫う処置を受けたが、翌日にはまた現場に戻ったという。

このように生前遺品整理業は、「きつい、汚い、危険」の連続である。それなのに、なぜこの仕事を続けられるのか。

あるゴミ屋敷の玄関。物がうずたかく積み上げられ、家の中に入ることも難しくなっていた。
あるゴミ屋敷の玄関。物がうずたかく積み上げられ、家の中に入ることも難しくなっていた。

社員の溝上大輔さんは特殊清掃について「遺族の代わりにやってあげているという気持ち」と言っていた。亡くなった人の体液や血液をふきとり、遺族がおだやかな気持ちで現場を見られる状態にすることが務めだ、と。しかし依頼人への思いだけで、過酷な現場を乗り越えていくのは厳しい。

■「整理業をしていると、亡き母親に話しかけている気持ちになる」

私の疑問に対して、石見さんは「亡き母親への孝行がある」と教えてくれた。

整理の様子。ここまで片付けられれば、あと一息。
整理の様子。ここまで片付けられれば、あと一息。

「母親は整理整頓、清掃好きな人でした。最後は認知症で施設で旅立ちましたが、私は当時、孝行らしいことをできませんでした。現在、整理業をしていると、亡き母親に話しかけている気持ちになりますね。どの現場でも完結すれば、きちんとできたよと、心の中で亡き母に報告しています」

実際に母親の遺品整理をした時には、普段の仕事とは違って作業が進まなかったという。しかしその時に、この仕事は“依頼人の心の整理”だとも感じた。

遺品整理も生前整理も、本来は他人任せではなく、身内や本人が行ったほうがいい。気持ちを整理することができるからだ。けれども力が足りず困っている人がいるのなら、駆けつけて手助けをしたい。石見さんはそう話す。

■「ゆるやかなつながり」がゴミ屋敷化を防ぐ

早稲田大学の石田光規教授の調査によれば、人が生きていく上でのサポート役は、本人が結婚するまでは「親」、結婚後は「配偶者」、結婚を解消、つまり離婚や死別した後は「子供」が主になるという。

早稲田大学の石田光規教授
早稲田大学の石田光規教授

「特に、オンラインが主流となった現代では、あまり意識しなくても維持できる家族とのつながりがますます重要になります」

たしかに家族とのつながりがあれば、本人がピンチの時にサポートを得られやすく、社会とのつながりも失われにくいだろう。しかし、連載第16回でも述べたように「結婚できない人」がいるし、「家族」とのつながりが希薄な人もいる。

私自身も幼い頃に母を亡くし、父とは離れて暮らしたため、一般的な家庭が思い描けないことと、それに対する嫌悪感がある。一方で家族への強烈な憧れ、他者と親しくなりたいという思いもある。それらが入り交じり、結局は傷つきたくないがために大事なところで人と壁をつくる。だから私の家は汚くはないものの、ゴミ屋敷に住む人の気持ちに共感できる部分がある。

孤立孤独に陥りやすい人はどうすればいいか。石田教授は「ゆるやかなつながり」を勧める。

「誰でも、たとえゴミ屋敷の住人でも、日常生活の中で行く場所があると思うんです。買い物に行く、髪の毛を切る、そういった場所でお互いにゆるやかに見守れる、つながれる社会であるといいですね」

■作業員の「笑顔」がある現場とない現場の決定的な違い

ある50代の独身男性が母親の介護が始まって孤立感を深めていった。以前は人付き合いが盛んだったのに、介護の苦労話を打ち明けられず、やがて母親が亡くなると自暴自棄になり、ゴミだらけの自宅に一人で過ごすようになった。

だが、自宅のゴミを片付けるために呼んだ業者に、介護の苦労話を話すことができた。その結果、男性は孤立から脱却し、ゴミを片付けることができたという。

作業員として働いていると、“家主の心”を感じる。物を買うことや置く事に少しでも明るい気持ちがあったと感じられると、どんなに汚れていても、その現場に関わることに明るい気持ちになれる。しかし、家主が自分を大切にしていない状態で物が乱雑になっていると、作業を進める上でこちらの気持ちも重くなっていく。同じゴミ屋敷でも、作業員の笑顔がみられる現場と、そうでない現場があるのだ。

■依頼人が物をためようとする感情がどこからくるのか

私は取材者として、依頼人が物をためようとする感情がどこからくるのか、できるだけ見つめようとしてきた。

笹井恵里子『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中央公論新社)
笹井恵里子『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中央公論新社)

認知症の人であれば「不安感」から物に囲まれていたいと思っているのかもしれない、物をためるウキウキ感からプラモデルを集めてしまうのかもしれない、あるいは自暴自棄になって生ゴミや自分の排泄物さえも処理できないのかもしれない――。

物との向き合い方は、おそらく自分との向き合い方で、その人がいる居場所は自分の心を映し出すものだ。何がほしくて何を捨てたくて、何をそばに置いておきたいか。それがわからなくなったのなら、“一緒に”やっていこう。いつの間にかそんな気持ちになっていた。

依頼人が住み、歪め、汚れた家が、人としての生活が送れる環境になった時、気づかぬうちにたまっていた私自身の心のゴミも一掃されたようだった。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)など。新著に、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)がある。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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