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なぜ仕事のデキない人は何でも「箇条書きの文章」にしてしまうのか

プレジデントオンライン / 2021年7月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/whyframestudio

仕事のデキる人は、どんな能力を身につけているのか。多摩大学名誉教授の久恒啓一氏は「仕事で成果を上げられるひとは、図を用いたコミュニケーションがうまい。私自身、図解を身につけたことで、会社員から大学教授へ転身できた」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、久恒啓一『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■どういう能力があれば仕事の成果が上がるのか

私は、1997年、47歳のときに大学教授に転身するまでは、日本航空で20年以上働いてきました。その間いつも念頭にあったのは、どういう能力があれば仕事の成果が上がるのかという問いでした。大企業で労務、広報、企画などの仕事を経験してきた私の結論は、3つの能力が備われば会社の仕事はできるということでした。3つの能力とは、「理解する(理解力)」「考える(企画力)」「伝える(伝達力)」です。

理解力とは、収集した情報の重要なポイントを理解する力です。企画力とは、自分の頭で新しい考えやアイデアを生み出す力、つまり収集した情報をもとに付加価値のある情報を創造する力です。伝達力は、そういった情報を他の人に的確に伝える力です。

これら3つの力はコミュニケーション能力ということもできます。理解と伝達は他人とのコミュニケーションであり、企画は自分自身とのコミュニケーションです。ビジネスの本質はコミュニケーション活動にあります。

メーカーを例にとってみても、まず、開発部門は顧客のニーズや声を聞いて製品を開発します。製造部門は関係各部門との調整が不可欠です。購買部門は取引先とのコミュニケーション活動抜きには仕事ができません。

宣伝・広報は文字通り、コミュニケーション活動が仕事です。人事部門は社内の人材を縦横斜めに流動化させるためのコミュニケーション活動を行うセクションです。その他の間接部門も「社内顧客」とのコミュニケーション活動によって業務が成り立ちます。経営者は社内外におけるコミュニケーションがうまく対流しているかを常に点検し、整備するためのコミュニケーション活動を行っているともいえます。

■相互理解を妨げる「箇条書き信仰」

一般的に、ものごとを簡潔に整理して理解したり、考えたり、相手に伝えようとしたりするとき、多くの人が用いるのが文章と箇条書きです。会社内で次々と作成される報告書、企画書、稟議書、連絡書など「書類」と名のつくものは、おおよそすべてが文章化されています。社会に出て仕事をする上で、「文章を上手に書けることが重要なスキルである」と、寸分も疑わずに仕事をしてきた人が大部分でしょう。

しかし、文章を書き、それをもとに議論すると、細かな言葉の使い方などに深入りすることになって徒労感にさいなまれることも多いでしょう。いわば「文章地獄」です。また、ものごとを構成する重要なポイントなどを箇条書きにすると、わかりやすく整理されたような気がするので、箇条書きを自明のこととして多用してしまう。ビジネス文書は箇条書きにするものと信じて疑わない。「箇条書き信仰」といってもいいでしょう。

文章は、文脈という線の上でものごとを表現しなければなりません。また文脈や読み手に合わせて文体をはじめ単語や言い回し、「て・に・を・は」や接続詞の使い方など、細かい部分に気を配らなければなりません。実際、文章はかなり複雑な表現方法で見通しがきかないだけに、矛盾があったり曖昧なままでも、自分でも気がつかなかったり、レトリックでごまかしたりすることが多いのです。

また、箇条書きは、列挙された各要素の関係性を明確に示すことが不得意です。それぞれの要素の大小、重なり、関係性、また全体とどんな関係にあるのかが不明確なため、ものごとを的確に理解し、考え、伝えることが難しいのです。

私が勤務していた日本航空も「文章地獄」の世界でした。私が作成する文書について、上司は「て・に・を・は」の使い方から句読点の打ち方まで、直しを入れようとします。上司は部下の書いた文章に直しを入れることが自分の役割であると思っているからです。

一方、文章の内容についての本質的な議論はありませんが、決裁の権限は上司が持っているので、従わざるを得ませんでした。どの部署に異動しても、同じような上司がいて、その繰り返しでした。こんなに生産性の低いままでいいのかと疑問を抱き続けました。

■提案を一発で通す「図解」の威力

文章ではなく、図解を使ってはどうかと思いついたのは、30代半ばに客室乗務員の人員計画から労務までを担当する客室本部業務部へ異動になり、労使交渉で会社側の末席に連なる立場になったときです。

当時、客室乗務員だけでも2つの組合がありました。経営側と対立路線をとるA組合と協調路線のB組合です。2つの組合とそれぞれ交渉して労働条件を決めていくのは苦労が多く、実に忍耐のいる仕事でした。

労使交渉の相手となる各組合の委員長は、会社の経営のこともよく勉強して知っています。団体交渉で会社側の末席に座り、交渉のやり取りを記録するのも私の役割でした。

それぞれの組合の要求を受けて会社として再回答するときは、関係者が集まって議論します。いろいろと意見が噴出してなかなか結論が出ません。みんな沈黙してしまって、天井を見上げて、思案投げ首の体です。

クエスチョンマークを浮かべる人々
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

この状態を打開するため、私は図解を用いて回答案を提案してみました。A組合の要求、B組合の要求、会社提示の受け入れ許容範囲の3つの囲みを描いて、重ね合わせるとその一部分が重なります。この重なった部分は無条件で受け入れてよい部分です。それに加え、両労組が共通して要求している部分、さらにプラスアルファとして、A組合の要求の一部分、B組合の要求の一部分を受け入れてはどうかと図を示し、その下に要求を文字で書き入れて提案しました(図表1)。

労使交渉
出典=久恒啓一『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)

この図を見た経営側の交渉担当者たちは納得し、私の提案は一発でとおりました。「君、なんでもっと早くこの図を出さなかったのか」と上司にいわれたものです。私はこのとき、図解の威力を知りました。以来、図解を適宜使うことで、仕事がうまく回るようになりました。その成果が著書『コミュニケーションのための図解の技術』として結実し、後に大学教授への転身を導くきっかけになったのです。

図解することは、決して難しいことではありません。簡単にいえば、マルと線と矢印が描ければ、年齢や学歴、教養のあるなしにかかわらず、誰でも図を描き、使うことができます。図解は、もちろん仕事だけでなく、日常生活でのさまざまな問題解決にも活用できます。

まず、白紙を用意し、解決したい問題点を真ん中に書きます。そのまわりに思いつくままに関係する項目を書き込んでいきます。そして「これとこれはどう結びつくか」「AとBではどちらの重要度が高いか」などと、マルで囲んだり、線を引いて結びつけたり、矢印を描いたりしながら考えていきます。

手を動かしながら、紙の上でいろいろとシミュレーションをしていると、ものごとを具体的に考えながら、同時に全体像が見えてきて問題の本質が浮かび上がり、あっさりと解決策が見つかることが多いのです。

人と議論をするときも同様です。相手と自分の言い分が対立しているとき、紙に論点の全体像を描きながら、その論点についての相手の言い分と自分の言い分を図解してみるのです。すると、どの部分が共通点で、どの部分が対立点かが明確になり、歩み寄りが可能なポイントが浮かび上がってきます。それを提案すると、相手も納得してくれることが多いのです。

部分と部分の関係を描いて結びつけることによって全体像が浮かび上がる。あるいは、全体の構造を描いてみることによって、それぞれの部分が関係づけられる。図を描いてみると、「木を見て森を見る」と同時に「森を見て木を見る」ことができて、しかもそれがひと目で見渡せるようになるのです。

■すべてはマルと矢印で表現できる

「図解思考」の特色に続いて、図の描き方の基本について説明しましょう。用意するのは、A4サイズの用紙と鉛筆、消しゴムです。パソコンを使う場合もありますが、手描きのほうが思いどおりに描くことができます。パソコンを使うと見かけはきれいな図が描けますが、スペースの中に収めようとして文字数が制限され、それに合わせるため短く箇条書きにしてしまいがちです。

鉛筆を使うのは、描いては消し、また描いては直しと繰り返し、少しずつ進化させることができるからです。濃いめの鉛筆がおすすめで、消しゴムも必需品です。

用紙は横向きにします。横向きのほうが空間が広く感じられ、思考も自由に広がりやすくなります。縦向きにすると、上から下への一方的な流れしか描けなくなり、思考が縮こまる恐れもあります。

図解で使う記号は、基本的にはマルと矢印です。三角や四角を使う場合があるかもしれませんが、あまり堅苦しく考えず、マルの変形だと考えればいいのです。

テーマに沿って思いついた要素を書き出したら、共通項のあるもの、似たような内容や性質を持ったものごとにまとめて、ぐるっとマルで囲みます。そのマルにタイトルをつけます。共通項や類似性がひと目でわかるキーワードがタイトルになります。

これで一つ固まりができます。いくつかの固まりができたら、それぞれの大きさを考えます。実際に大きいものや重要度の高いものは大きなマルに描き直します。このマル同士で、互いの関係を考え、マルの配置の仕方で、それぞれの関係・構造などを表現します(図表2)。

マルの使い方
出典=久恒啓一『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)

大きなマルが小さなマルを含む構造の「包含」、隣り合う「隣接」、重なり合う「交差」、それぞれ独立した関係を表す「分離」、対比を示す「並列」、親会社と子会社の関係のような「郡立」など、さまざまなパターンで構造が表現できます。

ちなみに、四角よりマルのほうが印象がソフトになり、人に受け入れられやすくなります。マルと四角を混在させる場合も、マルはマル同士、四角は四角同士、同じレベルで統一することが大切です。

マル同士の配置や構成がある程度決まったら、それぞれを矢印でつないで関係性を表します(図表3)。

矢印の使い方
出典=久恒啓一『50歳からの人生戦略は「図」で考える』

矢印の使い方で、「連続性」「場面の展開」「思考の流れ」「対立」「双方向性」「拡散」「収縮」など、さまざまなパターンが表現できます。

■まずは気楽に図を描いてみよう

何かを考えたり、伝えようとするとき、各項目が箇条書きで並んでいる場合にはあまり気がつきませんが、それらを使って図を描こうとした途端に、それぞれの情報を選別しようとする意識が立ち上がってきます。どの項目が大きいか小さいか、どのキーワードの優先順位が高いか低いかと、いわば遠近法のような考え方で対象を眺めるようになります。

頭では何となくわかっていたつもりでも、実際に図を描きながら各項目を並べてみると、不足している情報や新たな情報が自然に見えてくることが実感できるでしょう。キーワードや情報が浮き彫りになってくるといった感覚です。

そして、新たに収集すべき情報や自分で考えるべきポイントなどに気づくでしょう。そうやって調べたり考えたりしながら情報をつけ加えたり、消したりしていくと、図解は見違えるようによくなってきます。つまり、図解には考えを発展させる何かが含まれているのです。図解を友とすることによって、思考の幅が広がり、その結果、仕事や生活の質が高まってくるのです。

久恒啓一『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)
久恒啓一『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)

図解には、「完全な図解」や「間違った図解」というものはありません。あるのは「よりよい図解」と「より悪い図解」の2つだけです。

また図解は、無理にまとめる必要はありません。曖昧な状態で終わる場合もあります。まとめ切れない場合はそれでいいのです。無理をして正解を求めようとすると、文章で曖昧なまま、まとめるのと同じで、わかった気になって終わり、ということになってしまいます。最後のところで答えが出なくても、わからないものはわからないままにして、何度も考えてみることが大切です。

そんな気楽なスタンスで「図解」を始められてはいかがでしょうか。しばらくすると、その蓄積で、自分で考える習慣が身につき、いいアイデアを考えつける面白さを味わえることにつながるでしょう。

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久恒 啓一(ひさつね・けいいち)
多摩大学大学院客員教授・多摩大学名誉教授
1950年大分県中津市生まれ。九州大学法学部卒業。1973年日本航空に入社、広報課長、経営企画担当次長などを歴任。社外の「知的生産の技術」研究会で活動を重ね、「図解」の理論と技術を開発し、1990年に初の単著『コミュニケーションのための図解の技術』を刊行した。1997年早期退職し、新設の県立宮城大学教授、2008年多摩大学教授に就任。経営情報学部長、副学長、多摩大学総合研究所所長等を歴任し、2021年より現職。著書は100冊を超える。久恒啓一図解WEB http://www.hisatune.net/

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(多摩大学大学院客員教授・多摩大学名誉教授 久恒 啓一)

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