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「最悪の場合は死に至る」スポーツドリンクの飲み過ぎが引き起こす悲劇

プレジデントオンライン / 2021年7月26日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

熱中症対策として、水分補給は大切だ。だが、スポーツドリンクの飲み過ぎが思わぬ事態を招くことがある。急性の糖尿病の状態になる「ペットボトル症候群」だ。どうすれば防げるのか。産業医の池井佑丞さんが解説する――。

■2020年8月は熱中症で搬送された人が約1.2倍に

熱中症は毎年7月から8月に多く発生します。2020年は8月の熱中症救急搬送者数が2019年の約1.2倍となりました(総務省「令和2年8月の熱中症による緊急搬送状況」)。また、梅雨の晴れ間や梅雨明けは、暑さに身体が慣れていないため特に起こりやすいとされています。熱中症対策が必要な時期を迎え、「こまめな水分補給を」「喉が渇く前に」と積極的に水分を取っている人も多いと思います。そんなときに注意しなければいけないのが「ペットボトル症候群」です。

この記事では熱中症対策と、ペットボトル症候群についてお話しします。

■寝不足、二日酔い、食事抜きのときも要注意

一般的に熱中症は「環境」「身体」「行動」の3つの要因により引き起こされる可能性があるとされます。「環境」の要因としては気温、湿度、風がない場所など。「身体」の要因としては暑さに慣れていない、疲れや寝不足で体調が悪いなど。「行動」の要因としてはスポーツや屋外作業などがあります(環境省「熱中症予防情報サイト」)。

熱中症の対策として必要なことは、「暑いところを避ける」「こまめな水分補給」「暑さに負けない身体づくり」の大きく3つに分けられます。

暑いところを避ける

・新型コロナウイルス対策で常時窓を開放している所や換気扇をまわしている所も多いと思いますが、エアコンを付け温度設定をこまめに調節しましょう。

・服装は、通気性・吸湿性のよいものにしましょう。首元が締め付けられると熱がこもるため、ネクタイはなるべく外し襟元をゆるめましょう。

・外に出るときはうまく日陰も使いましょう。日傘や帽子などの着用もおすすめです。

こまめな水分補給

・喉が渇く前に水分をとりましょう。皆さんご存知の通り人間の身体の大半は水でできており、生命活動にとって大事な要素のひとつです。体内の水分量の5%を失うと頭痛などの症状が、10%を失うと筋肉のけいれんや循環不全などの症状が起こり、20%を失うと死に至ることもあります(厚生労働省「健康のために水を飲もう講座」より)。水分を失うことがどれだけ危険かお分かりいただけたでしょうか。喉の渇きは脱水のサインですから、渇きを感じる前の水分補給が必要です。

・飲み水としては1日あたり1.2Lを目安に摂取しましょう。外出やスポーツの際はもちろん、就寝時や入浴中にも思っている以上に汗をかき、水分が不足します。起床時・入浴後にコップ1杯ずつプラスして摂取することを心がけましょう。

・スポーツや屋外作業でたくさんの汗をかくと、水分とともに塩分やミネラルも失われ不足します。経口補水液やスポーツドリンクなどは塩分やミネラルが含まれており、手軽に摂取することができますので活用しましょう。

暑さに負けない身体づくり

・身体が暑さに慣れていないと、うまく汗をかくことができず熱中症のリスクが高くなります。暑くなる前から汗をかく習慣をつけましょう。ウォーキングであれば30分程度でかまいませんので、通勤中に一駅分歩いてみるなど工夫をされてはいかがでしょうか。入浴で汗をかくのもおすすめです。

・寝不足や二日酔い、疲れがたまっている、食事抜きなど、体調が悪いときにも熱中症になりやすいため、十分な栄養と休養をとりましょう。

いよいよ夏本番です。暑さに負けない身体づくりや熱中症対策をしていきましょう。

■糖が多い飲料の飲みすぎで起こる「ペットボトル症候群」

ところで、「ペットボトル症候群」という言葉をご存知でしょうか。一度聞いたら忘れないネーミングですが、内容を詳しく知っている人はあまり多くないでしょう。

ペットボトル
写真=iStock.com/fokusgood
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fokusgood

熱中症対策として、水分・塩分補給には経口補水液やスポーツドリンクが手軽であるとお伝えしました。しかし、多量に摂取すればよいわけではなく、気を付けなければならないことがあります。それがペットボトル症候群なのです。

ペットボトル症候群とは、スポーツドリンク、ジュースや甘い炭酸飲料水など糖が含まれる飲料を多量に飲んだことで起こる病気で、正式名称は「ソフトドリンクケトーシス」といいます。1992年に聖マリアンナ医科大学の研究グループが報告し、命名されました。

症状としては、喉の渇き、尿量が多くなる、体重減少、倦怠感、イライラ感という兆候があります。それに加えて、目立った自覚症状もないのに、突然意識消失などを起こすこともあるのです。なぜ起きるのか、説明しましょう。

■スポーツドリンク1本には20~30gの糖が含まれている

甘い炭酸飲料水や清涼飲料水には一般的に500mlのペットボトルでおよそ30~50gの糖が含まれているとされ、スポーツドリンクでは20~30g以上、コーラでは50g以上ともなり、角砂糖に置き換えると約15個分にもなります(※各飲料の成分表示より換算)。熱中症対策によいとされる経口補水液でも10g前後の糖が含まれると言われます。経口補水液は先に挙げた飲料と比べると甘みをあまり感じませんから、ご存知ない方も多いのではないでしょうか。

体型にもよりますが、10%程度の糖分を含む清涼飲料水を、1日1.5L以上、また1カ月以上連続で飲むと、ペットボトル症候群のリスクが上がると言われています(全国清涼飲料連合会「健康のため、かしこく飲みましょう」)。

ペットボトル症候群がとても身近な疾病であることがお分かりいただけたでしょうか。

また、WHO(世界保健機関)では、糖の摂取量を1日の摂取カロリーの10%未満にするよう推奨しており、5%未満に保てば健康効果が増大すると発表しています(内閣府食品安全委員会 食品安全総合情報システム「世界保健機関(WHO)、ガイドライン「成人及び児童の糖類摂取量」を発表」)。糖の摂取量を1日の摂取カロリーの5%未満にした場合、砂糖にして約25gに相当すると言われています。清涼飲料水のペットボトル500ml1本を飲むことで、倍近くの糖を摂取することになってしまいますから、健康的な生活のためにはさらに気を付ける必要があると言えます。

■甘いドリンクを飲むほど喉が渇くという悪循環

ペットボトル症候群はどのようにして起きるのか。スポーツドリンクを例にして説明していきます。

喉が渇いたときにスポーツドリンクを多量に飲むと、スポーツドリンクに含まれる糖により血糖値が上昇します。実は、血糖値の上昇には喉の渇きを促進させる作用があり、そこで水代わりのようにスポーツドリンクを飲み続けると、さらに血糖値が上がり、喉が渇く、という悪循環を引き起こしてしまいます。

通常であれば、血糖値が上がると膵臓からインスリンが出て血糖値を下げていきます。インスリンには、食事などから摂取されたブトウ糖を細胞内に取り込み、エネルギーに変えるという働きがあり、そのため血糖値が下がるといった仕組みです。

しかしスポーツドリンクを飲み続けることで糖の摂取が止まらない場合、インスリンの働きが悪くなり、ブトウ糖からエネルギーを得られなくなります。

そうすると、ブドウ糖の代わりに身体に蓄えられていた脂肪がエネルギー源として使われることになり、ケトン体という物質が作られます。酸性の物質であるケトン体が大量に増えることで身体も酸性に傾いていきます。人の身体は酸性が強くなるとうまく機能できなくなってしまうため、これが意識障害を起こす原因となります。

■10~30代の男性に多く、糖尿病でなくても発症する

また、これまでの研究によると、ペットボトル症候群は、一般的に10~30代の若い男性が多く、糖尿病などの既往がなくとも発症することが特徴とされています。万一発症してしまった場合、発症の初期にはインスリンの治療が必要となります。改善とともに食事療法のみでコントロールできるようになることが多いですが、一部では内服での治療も必要になることがあります(山守育雄他「インスリン初期分泌の正常化をみた清涼飲料水ケトーシスの1例」「糖尿病」40巻8号)。

汗をかくビジネスマン
写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

運送業や肉体労働者、外出が多い仕事の人は特に注意が必要です。ペットボトル症候群によって倦怠感を抱いているのに、熱中症と勘違いしてさらにスポーツドリンクを飲んで悪化させることもあります。

喉の渇きや倦怠感には脱水症以外にも糖尿病などの病気が潜んでいることもあるので、気になる症状がある場合には受診して検査を受けるようにしてください。

■2~3倍に薄めて飲むなどの工夫を

ただし、ペットボトル症候群を怖がって水分補給を控えてしまっては本末転倒です。対策としては、お茶や水などの糖分を含まない飲み物を選んだり、清涼飲料水を飲む場合には2、3倍に薄めて飲んだり、ひと工夫してみることをお勧めします。

また、飲み物を買う際には成分表示を確認する癖をつけましょう。健康志向の人が増えたために、「糖質ゼロ」や「糖質控え目」などの表示がされている食品を多く見かけるようになりましたが、実際には全く糖が入っていないわけではありません。消費者庁より定められている栄養強調表示では「糖質ゼロ」は100mlあたり0.5g未満、「糖質控え目」は100mlあたり2.5g未満であれば表示してよいとされています(消費者庁「栄養強調表示等について」)。ペットボトル500mlに換算すると糖質オフでも最大2.5g、糖質控え目は最大12.5g糖分が含まれていることがあるのです。

「ペットボトル症候群」と聞くと、何だか重症ではないように感じてしまう方も多いのではないでしょうか。しかしこれは急性の糖尿病の状態であり、最悪の場合には死につながることもある病気なのです。

これからの時期、熱中症予防には水分摂取が大切ですが、ペットボトル症候群にも十分ご注意の上、暑さを乗り切っていただきたいと思います。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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