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「お土産品を1万円分買うのがコツ」元ヤクザの運び屋が明かす"覚醒剤密輸"の手口

プレジデントオンライン / 2021年7月19日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/beest

日本は「覚醒剤大国」だ。覚醒剤の押収量は不正薬物全体の約8割を占めている。どのように密輸され、売られているのか。龍谷大学嘱託研究員の廣末登さんが解説する――。

■令和元年、摘発件数が過去最高を記録

覚醒剤の取引――これは暴力団員等がからんだ犯罪としては鉄板ネタで、あの手この手を使って日本国内に密輸しようという試みがなされている。

コロナ禍直前、令和元年の全国の税関における関税法違反事件の取り締まり状況(令和2年2月12日)詳細をみると、覚醒剤の摘発件数は、425件(前年比約2.5倍)と大幅に増加し、過去最高を記録した。覚醒剤の押収量も、約2570kg(前年比約2.2倍)と大幅に増加。史上初めて2.5トンを超えるとともに4年連続1トン超えとなった。さらに、洋上取引2件で計約1.6トンに上り、押収量全体の約半数以上を占めた。

わが国への覚醒剤の流入は特に深刻だ。覚醒剤の押収量は不正薬物全体の約8割を占める。押収した覚醒剤は、薬物乱用者の通常使用量で約8566万回分、末端価格にして約1542億円に相当するとあり、とても深刻な状況がうかがえる。

なお、大麻やその他薬物(あへん、麻薬=ヘロイン、コカイン、MDMA等、向精神薬および指定薬物を指す)不正薬物全体の摘発件数は1046件(前年比20%増)、押収量は約3318kg(前年比2.2倍)と、史上初めて3トンを超えたとある(財務省ホームページ)。

■快感を得るためから、現実から逃避するためへ

コロナ禍の期間、薬物の押収量は大幅に減じた。容易に出入国ができないため当然といえる。それでも、令和3年2月17日、最新の財務省報道では、「押収量は5年連続で1トンを超え、2トンに迫るMDMAおよび大麻樹脂等(大麻リキッドを含む)の押収量が増加」との見出しが付いた(令和3年2月17日、財務省報道発表資料)。

筆者の個人的な見解だが、大学の講義がオンラインばかりで登校できない、コロナ禍で仕事がなくなる、会社の人員整理で解雇される恐れがあるなどと考えたら、夜も寝られないという人が増えるのではないか。あるいは、夜の街のネオンが消え、自粛で孤独感に苛まれる人も増えているかもしれない。

そうすると、眠剤(睡眠薬)などの合法ドラッグをはじめ、大麻や覚醒剤などの薬物に手を出す人が増える可能性が否めない(実際にコロナ特需とも囁かれている)。それは、以前のように快感を得るためではなく、現実から逃避するための薬物使用である。

話は少しそれるが、若者の大麻ブームも懸念事項だ。今年6月25日に厚生労働省が発表した令和2年(2020年)の薬物情勢によると、大麻で検挙された人数は、前の年から690人増加し5260人と過去最多を更新している(大麻による検挙者のうち20代は2612人、10代は899人。10代には中学生が8人、高校生が159人)。

大麻はゲートウェイドラッグ(他のさらに強い副作用や依存性のある薬物の使用の入り口となる薬物)となりうる。人間は刺激に慣れる傾向がある。大麻の使用者が、さらなる刺激を求めて覚醒剤に手を出すという構図は、驚くには当たらないのである。

■覚醒剤はヤクザの専売特許

覚醒剤は、あまり値崩れすることはない。なぜなら、覚醒剤は他の薬物とは異なり、その流通の利権をヤクザが掌握しているので、国内において価格統制がなされている。ヤクザは覚醒剤でシノぎ、半グレは大麻や違法薬物、処方薬でシノぐというのが、筆者がアングラ社会で見た感想である。

ダークな路地
写真=iStock.com/DenisTangneyJr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DenisTangneyJr

ちなみに、ヤクザが覚醒剤に親しむのは無理もない。ヤクザでも好奇心からシャブに手を出し「こりゃ超気持ちいいわ」と、ズブズブの関係になる人がいる。彼らの多くは何らかの非行集団に関係していた過去があるから、日常生活において、比較的近いところにシャブがある。だから、つい、好奇心からツマミ食いしたくなるのも首肯できる。しかし、それ以外にも、ヤクザというサブカルチャーで生きていると、覚醒剤乱用者になるのは、やむを得ない事情があるのである。

以下、やむを得ない事情について、関東で暴力団の幹部をしていた方の語りを紹介する。

「ヤクザはね、シャブやんないといけない場面があり、2つの理由から(シャブの使用は)やむを得ないこともあるんだよ」と言う。

「理由の一つは、部屋住みの時(住み込みで雑用をさせられる時期)ね、若い衆は寝る時間がないんだよ。だって、親分が外出するのは夜でしょ(シマ内の店のハシゴなど)。車の中で待ってなきゃなんない。この待ってる間は眠たいんだよね。だから眠気覚ましにポンとやっちゃう。

もう一つの理由。それは、兄貴分から勧められるんだよ。でもね、嫌とは言えないでしょう。だって、ヤクザは親(分)のために命を捨てる覚悟がいるんだからね。そこで、もし断ったりしたら、『何やお前、われの命、組に預けたんちゃうんかい。死ぬんが怖いんか』って言われるよ。だから、ヤクザになると嫌でもシャブやんなきゃなんないんだよね」と。

■覚醒剤の相場とかさ増しの正体

覚醒剤には相場がある。若干、値段が上下するが、1グラム(ワンジーという)を、末端の売人は2万~2万5000円ほどで入手する(6月~7月初旬現在・関西地区)。これを小分けして、覚醒剤使用者に売る。この時、フウタイとよばれるビニールに入れて「やりパケ(使用1回分の覚醒剤)」の状態で取引される。

近年、「やりパケ」一包あたりの分量は0.2~0.3グラムであったが、現在はハーフ(0.5グラム)で1万1000~1万3000円になっていることから、覚醒剤の値段が下がったことがわかる(純度が落ちたという声も聞かれる)。売買の際、このハーフがフウタイ(ビニールの包み)の重量込みか、薬物の内容のみかは、売人のサービス精神いかんであろう。覚醒剤中毒者となると、早く接種したい一心で、そこまで冷静に考えている余裕などないからだ。

覚醒剤の値段が下がった理由としては,大麻リキッドの人気に押されたことが理由と、裏社会歴が長い住民に聞いた。ただ、覚醒剤の価格は諸物価同様、時期によってはつり上げられるから、今後の価格推移は分からないとのこと。時期とはクリスマスや正月のイベントシーズンである。特に今夏はオリンピックが開催されるから、1カ月後の価格は分からないというのだ。

■注射器も入手困難でシノギの対象に

もっとも、覚醒剤を輸入してから使用者の手に渡るまで、さまざまな中間ブローカーを経ている。そこで中抜きならぬかさ増しされている(希釈増量)。かさ増しに使用されるのは、点滴に用いるブドウ糖のアンプルなどだ。これをベニヤ板などに点々と垂らして一週間ほど放置しておく。すると、水分が木部に吸収され結晶化する。この結晶は水に溶けやすいという性質がある(かさ増しの際は、この結晶をさらに細かく砕いて用いる)。これがかさ増しに使う物質の正体だ。

他にかさ増しで加えるものとして、金魚鉢などに入れるカルキ抜き剤や、牛や馬の種付け用興奮剤(アンナカ)も用いられる。アンナカの正式名称は「安息香酸ナトリウムカフェイン」である。覚醒剤をセックスに使用する人には、この混ぜ物は違和感がないのではないだろうか。ただし、断っておくが、この興奮剤は家畜用である。

筆者が知る限り、1990年代から2000年代初頭、覚醒剤は大っぴらに流通していた。やりパケにポンプ(注射器)までセットで1万円くらいの価格で流通していたと記憶する。しかし、現在は、このポンプですらシノギの対象となる。めっきり入手しにくくなったからだ。例えば、昔は昆虫採集セットにはホルマリン注入用の注射器が付属していたが、これすら最近では見なくなった。

ポンプの末端価格は、1000円から1500円。もれなく「やりパケ」にサービスで付いてくるなんてことはなくなった。関西では、このポンプのみを扱う「道具屋」で家を建てた者がいるという。

日本では、不況下でも稼げる覚醒剤だが、その密輸と取り締まりはイタチごっこである。

■ゴルフクラブや体内に隠して覚醒剤を密輸

2019年3月13日の時事通信ニュースによると、タイ警察が元暴力団員(以下、元暴)を、知人の日本人男性を運び屋にして覚醒剤を日本に密輸しようとした疑いで逮捕したと発表した。

逮捕された元暴は、日本に一時帰国するバンコク在住の男性にゴルフバッグの搬送を依頼。男性が調べたところ、ドライバーから白い粉が出てきたという。この粉末は覚醒剤で推定700グラム入っていたとのこと。警察は12日にバンコクの容疑者宅を捜索し、覚醒剤4.46グラム、大麻0.063グラムなどを押収。薬物の販売目的所持容疑で逮捕した。

先述したように、日本の覚醒剤市場は暴力団が管理している関係で高値で取引され、値崩れもしづらいことから、裏社会では、多少リスキーであるものの堅実なビジネスとして支持される。

この覚醒剤の密輸に関してよくある事例は、体内に隠して日本に持ち込むという方法である。この方法は、もし、体内で覚醒剤が漏れたら命とりになるから、とてもリスクが高い密輸方法といえる。しかし、同様のスタイルは、その筋の密売人には依然として支持されているようだ。

■元公務員も覚醒剤の運び屋に

筆者が支援に携わった元暴(50代)の人は、この方法で覚醒剤を国内に持ち込んで逮捕されている。その手口等を、筆者が支援の際に参考にした「犯罪概要」から見てみよう。

本人と共犯者3名A~Cは、元暴で反社周辺者(筆者の解釈)Dらと共謀の上、営利の目的で、覚醒剤を輸入しようと策略。外国内において、覚醒剤をポリ袋に入れ、透明な粘着テープで球状に巻くなどして175包に小分けした上、A、Bがこれを飲み込んだり肛門から挿入したりしてそれぞれの体内に隠したほか、全員が履いていた靴の中に隠して国際線に搭乗し日本に密輸を試みた。4人は、空港内にある税関支署入国旅具検査場の携帯品検査で覚醒剤所持を職員に発見されたという。

なお、この犯罪事実に対し、元暴である本人は次のように供述している。

「当該覚醒剤は中東の○○国製であり、直接輸入する予定であったが、手違いで東南アジアのマフィアに渡ってしまい、そこを経由して仕入れることになった。報酬は40万円で、10グラムに小分けされた袋状の物(ビニール製キッチン手袋の指の部分に10グラムの覚醒剤を入れ、ミシン糸で上部を縫って二重にテーピングしたもの)30個のみ込んで犯行に及んだ」。犯行を振り返り「長期の受刑と引き換えに高い外国旅行になった」と述べている(現地の動物園などに行っている)。

この「本人」とは、もともと公務員。十数年勤務し、中間管理職に就いた頃に、職場で上司との確執が原因で傷害事件を起こして離職の末、暴力団に加入している。しかし組織の方針が自分の考えと合わずに離脱し、何度も転職をする生活を送りながら、一方で詐欺や窃盗などの犯罪を重ねていた。

■手荷物密輸スタイルと受け渡しのリアル

最近は、台湾や中国から覚醒剤が大量に船で密輸される。オーソドックスな密輸方法を、かつて薬物の運び屋だったという人の証言を紹介する。

当時、外国から持ってきた薬物は、二カ所の県に下ろす必要がありました。これは、日本に着いてから振り分けられます。大体、朝の到着便で成田に帰国します。運び屋は東京駅で薬物を受け取り、そのまま運ぶという段取りですから、至ってシンプルなんですよ。長い間、これでうまくまわっていた。

外国では、お土産品をダミーで買います。お茶などのお土産を入れておかないと、税関で疑われるから、必ず目いっぱい荷物を詰め込むようにしています。お土産代は、出国する時に、密輸組織から10万円もらうんです。この内、1万円でお土産を買ってから9万円を懐に入れてもいいんです。

私が運ぶときは、薬物を下ろす県の引き渡し場所にある車のナンバー、車種と色を、電話で聞くようにしていました。駅前に行くと、その車がパーキングに停まっている。そして、4ドアの車で、必ずドアの一つが空いている。私は、そのドアの最も近い場所にカバンを入れて、ドアをロックして一件落着となるわけですよ。このとき、運転席のドアが開いているからといって、助手席に乗せたらダメ。運転席なら、運転席の上か下に置くというルールがありました。

密輸組織は、あの手この手を駆使し、神経をすり減らし、苦労して覚醒剤を密輸している。その苦労のかいがあるほど、日本社会では覚醒剤で稼げるのだ。

ブドウ糖や家畜用の興奮剤を混ぜた0.5グラムの白い粉に、虎の子の1万円を支払うということは、われわれには理解しがたい。その答えを知るには、覚醒剤中毒者の声を聞く必要がある。

後編では、覚醒剤を購入して使用している人は、なぜそれに手を出し、使用し続けたのか。覚醒剤使用者の貴重な声をお伝えする。

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廣末 登(ひろすえ・のぼる)
龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学)
博士(学術)。1970年福岡市生まれ。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了。専門は犯罪社会学。青少年の健全な社会化をサポートする家族社会や地域社会の整備が中心テーマ。現在、大学非常勤講師、日本キャリア開発協会のキャリアカウンセラーなどを務める傍ら、「人々の経験を書き残す者」として執筆活動を続けている。著書に『若者はなぜヤクザになったのか』(ハーベスト社)、『ヤクザになる理由』(新潮新書)、『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』(新潮文庫)『ヤクザと介護――暴力団離脱者たちの研究』(角川新書)など。

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(龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学) 廣末 登)

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