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「モザイク入りなら子ども写真も黙認」芸能事務所が週刊誌報道に猛抗議をしないワケ

プレジデントオンライン / 2021年7月18日 11時15分

2017年9月5日、ヴェネツィア・リドで開催された第74回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に出品された映画『三度目の殺人』のプレミアに出席する俳優の福山雅治さん - 写真=AFP/時事通信フォト

タレントの福山雅治さんが、子どもの写真を掲載した週刊誌について、ラジオ番組で「一線どころか随分越えている」と批判したことが話題になっている。ジャーナリストの赤石晋一郎さんは「週刊誌には必ず守る2つのルールがある。今回の報道もそれを守っているが、さらなる議論が必要な時期かもしれない」という――。

■「芸能人だから我慢して過ごしていかなきゃいけないのは違う」

福山雅治が批判の矛先を向けたのは「吹石一恵 子どもとのんびり歩いた『帰り道』」(『FRIDAY』 7月9日号)という記事だった。この記事では、福山の妻である女優の吹石一恵が子どもを連れて帰宅する様子を描き、吹石と子ども(全身モザイク)の2ショット写真を掲載している。福山は自身がパーソナリティーを務めるTOKYO FM「福山雅治 福のラジオ」において、次のように怒りをぶつけた。

「子どもの写真を撮られ、それが掲載され、かつ販売物となって世の中に出ていくことに黙っていることはできない。幼稚園に通って毎日通る場所で、全然知らない人が写真を撮っている。しかも、編集の方、さまざまな方が子どもの顔を知っていて、データを持っているって、とても怖いこと。守られるべきものが守られていない。一線どころか随分越えたところにきた。芸能人だからと我慢して、これから何年も過ごしていかなきゃいけないのは違う」

これまで週刊誌記事については「完全スルー」を貫いてきた福山が今回、異例の問題提起を行ったのは、子どもの写真が掲載されたことにある。なぜ、このような報道がされ、問題視されているのか。「一線を越えた」と批判された問題について、メディア側とタレント側のそれぞれの立場を踏まえて考えたい。

■大きな社会的影響を持つタレントは「準公人」

タレントのプライベート写真については、「公道」上の写真であれば許容されるというのが日本だけではなく、世界の芸能報道を見てもスタンダードな考え方といえるだろう。それは、「メディアに出るタレントは準公人であり、“ある程度の”プライベートが報じられることもありうる」という考え方があるからだ。

政治家など社会的影響力の大きい公人はプライベートを含む全てをメディアに検証される立場にある。タレントが準公人(みなし公人)とする考え方は、彼らの言動が大きな社会的影響力を持っているから故であり、福山発言の波紋の大きさはその一例ともいえる。

子どもの乗ったベビーカーを押して地下通路を歩く母親
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

タレントは芸事以外にも、結婚・離婚、育児といったプライベートがビジネスに直結する。私生活を切り売りするというタレントの特質と、その発言が社会的影響力を持つという準公人という立場を踏まえた上で、週刊誌はタレントのプライバシーを報じている。準公人を検証するという「社会的意義」、そしてより多いのが後述する「読者ニーズ」に応えることを目的として「タレントのプライバシーについて彼らの都合の良いことだけではなく、都合の悪いことも書く」というのが週刊誌のスタンスなのである。

■「子供の顔にはモザイク」という“業界内ルール”

一方で、「どこまでプライバシーを報じるか」という点については、さらなる議論が必要だと感じている。特に今回の福山のケースのような、「子ども」の報じ方は、記者の間でも意見が分かれるところだ。

「写真週刊誌の場合は、家族や子どもなどのプライベートショットは『タレントの商品価値の1つ』と考え、記事として掲載をしている。もちろん無秩序に掲載しているわけではなく、そこには『子どもの顔等にモザイクをかける』『事務所に写真掲載の事前通告をする』など、報道するに当たっての“業界内ルール”というものが存在しています。

『FRIDAY』編集部は記事を掲載するに当たり、ルールに従い福山の事務所に母子写真が掲載される旨を事前通知しており、配慮の上で記事を出したと聞いています」(芸能ジャーナリスト)

今回の『FRIDAY』記事は、ワイドショーなどで「子どもの写真を無断で掲載した」と批判されているが、誌面やウェブを読み比べると、一定のルールにのっとっていることが分かる。

1.子どもに全身モザイクをかける。顔だけではなく全身をモザイク加工しているのは、性別も分からないようにするためとみられる。

2.公道上で撮影されている。自宅や学校内ではなく、あくまで公道に出てきているところを撮影しており、「盗撮」とはいえない。

3.通学路やジムなどを特定されない写真を選んでいる。カメラマンは数か所で撮影しているはずだが、特徴の薄い場所の写真が使われているのは、撮影場所を特定されにくくするためと思われる。

4.母子写真は雑誌のみで掲載する。『FRIDAY』は雑誌、ネットメディアの両方を持つが、ネット記事には母のみの写真が使用されている。ネットに子ども写真を掲載すると、アーカイブが残ってしまうことを考え、ネット記事には子ども写真を使わなかったとみられる。

■「表現の自由」で報道を黙認するのが一般的

さらに言えば、記事では福山や家族を批判することが一切書かれていないという「配慮」もなされている。週刊誌では記事掲載前には、事務所に事前通告することになっている。撮影場所と日時、写真の概要などが掲載前に伝えられるのだ。事務所サイドは「子どもにモザイクがかかっているか」「タレントがマスク着用をしているか」などの項目を確認し、「表現の自由」を鑑みて報道を止めることはできないと黙認する、という形式が取られている。

すなわち『FRIDAY』記事は、業界内のルールを守った上での報道だったいうことができるのである。

それでも、プライベート記事を掲載されることを嫌うタレントは多い。福山と同じアミューズ所属のタレント賀来賢人は、自身のインスタグラムで写真週刊誌の誌名をいくつか挙げながら「盗撮するのは100万歩譲って許します。しかし、もし次、私の子どもを盗撮した記事を例えモザイクをつけたとしても、載せた場合、私は本当に怒ります」と子どもの写真の掲載を控えるように強く要求して話題になった。

福山自身も「いつでもモザイクを外せるような状態でその(子ども写真の)データが共有されているという事実がとても恐ろしい」と、今回ラジオで言及している。

筆者の週刊誌経験から言わせてもらえば、取材メモや写真の類いを見ることができるのは「編集長、担当編集者、担当記者だけ」とされている。週刊誌の立場だと「取材写真・メモは編集部内で厳重に管理されている」という説明になるだろう。

■プライベートをビジネスにするタレントが“イタチごっこ”を生む

では、なぜこうした「子ども」のプライベート写真が記事になるのか。それはSNS時代となり、タレントがプライベートを公開することが当たり前になったからだろう。

例えばタレントの藤本美貴や芸人のくわばたりえなどは、ブログやインスタに目線だけを隠した「子ども写真」を堂々と掲載している。それにとどまらず一部芸能人の中には目線なしの「子ども写真」をアップしているケースもある。「タレント本人、もしくは子どもが認めているのならいいのではないか」という議論もあるが、実はこうした行為は週刊誌報道以上にリスクのある行為である。

「タレントのSNSでは子どもの顔が丸出しというケースも少なくなく、テレビでも顔出しで子育て特集などが放送されることが多い。ママタレと呼ばれる人たちもインスタに子どもの写真をバンバン上げています。子どもの顔にモザイクをかける必要があるという考え方は、子どもが誘拐事件のターゲットになったり学校でイジメに遭ったりするリスクを少なくするために出てきたもの。『子どものリスク』という観点から見れば、SNSやテレビなどのほうが、危険性がより高いといえます」(週刊誌記者)

iPhoneで子どもの写真を撮影する母親
写真=iStock.com/SolStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SolStock

それでも子育てコンテンツが人気になるのは、視聴者や読者がSNSや子育てドキュメントを楽しんでいるという“ニーズ”があるからだろう。こうした状況が、他の大物タレントの子どもやプライベートを知りたいという好奇心を喚起し、それに応えようとするメディアを生む。一部のタレントがプライベートを公開すればするほど、他のタレントのプライベートも見てみたいという読者ニーズが出現するという“イタチごっこ”となるのだ。

■このままでは「個人的意見」「週刊誌批判」で終わってしまう

子どもを含めたプライベートをビジネスにしているタレントが存在する以上、芸能事務所側も強く週刊誌側を批判できないという後ろめたさもあり、報道を黙認してきたというのがプライバシー報道の現状なのである。

例えば、『週刊文春』では「キムタク(木村拓哉)の犬の散歩問題」という事件があった。

文春がキムタクの犬の散歩写真を撮影した際に、キムタク側は「これから犬の散歩ができなくなるので、犬の顔を消してほしい」と主張。文春はキムタクの要望通り犬の顔を画像処理し、消した形で記事を掲載した。文春内には「犬にもプライバシーがあるのか?」「SNSに犬の写真が堂々と公開されているが?」という議論も起きたというが、そこはタレントの要望に配慮したという。こうしたタンレントのプライバシー報道については、水面下で週刊誌側と事務所の非公式合議を経て報道内容が決められていくことは少なくない。

まとめると、プライバシー報道については、週刊誌側も、タレント側も、それぞれの思惑があり、一定のルールの中でバランスを取ってきた。一方で、福山のようにプライベートは一切公開しないというタレントは、こうした状況に不満をため続け、今回の週刊誌批判となったのである。

福山発言のインパクトは大きく、ワイドショーを中心に週刊誌批判の声が上がっている。しかし、一方で芸能事務所側は公式見解を明らかにしたものの、編集部への正式抗議には至っていない。芸能界側にも週刊誌側にも議論を深めようという動きはなく、筆者には騒動の沈静化を図っているように見える。

現状では福山の発言は「個人的意見」に終わってしまっている。ワイドショーや世論は同情を寄せているものの、「週刊誌はいかがなものか」という批判に終始し議論が深まる様子はない。

ここで「週刊誌はもう要らない」とするのでは思考停止である。問題の背景には何があったのか? そして解決策はあるのか。「週刊誌側の問題」と「タレントサイドの問題」の両面を検証し、深堀りすることで、福山発言は初めて大きな社会的意義を持つことになるはずである。

つまり、「週刊誌は酷い」という感情論的な議論を行うだけでは、「問題提起」は時間とともに忘れ去られてしまう可能性が高いのだ。

■パパラッチ大国アメリカでも模索が続いている

ではアメリカではどうなのだろうか? 国際メディア論に詳しい在米ジャーナリストはこう解説する。

「アメリカでは『表現の自由』というのが憲法上強く保障されているので、ハリウッドスターのプライベートだけではなく、子どもの顔写真まで堂々と報道されていることが多くあります。今回の福山さんのケースでも、アメリカなら顔写真まで出るということがあり得たでしょう。一方でロサンゼルスのあるカリフォルニア州では通称・反パパラッチ法(606法)というものが制定されています。これはカメラマンなどが子どもを追い回すなどの迷惑行為を禁じた法律で、それらに違反した場合は軽犯罪として禁固一年などの処罰を受けることもあります」

常にパパラッチに囲まれる有名人
写真=iStock.com/Urilux
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Urilux

アメリカではタレントの子どもについての顔写真まで掲載されるなど報道がよりオープンである一方で、つけ回し行為などを罰する州もある。つまり世界的にもタレントの子どもをどう守るかについては、グレーゾーンの中で模索が続いている状況だと言えそうだ。

■SNS時代に子どもをどう守るかの議論が必要だ

決して週刊誌は“無軌道”に取材をしているわけではない。報道は一定の業界内ルールによって行われる。ただし、「政治スキャンダルから芸能人の下ネタまで」を扱う奔放なメディアであり、一定の「反権力性」を帯びている。故に「自主規制」や「忖度」を嫌う、というメディア的性格を持っている。だからといって決して「反社会的存在」ではない。

先に述べたようにプライバシーに関してはタレントが私生活公開をビジネスにしている以上は、週刊誌側もタレントを準公人としてその裏側も含めてプライバシー報道をするという状況を変えることはできないだろう。ただ、こうしたプライバシー議論とは別に、「子どもをどう守るのか」という議論があってしかるべきだと筆者は考える。

SNS時代となり、タレントは子どもを晒すことも含めプライベート公開により積極的となっている。今回の『FRIDAY』報道は、そうした“世相を反映”した形だったと思う。一方で、タレントのプライベートがより多くの人に簡単に拡散されるようになっており、それが子どもにどのような影響を与えるのかという点も考慮しなければならない。

私は『FRIDAY』記者時代、デスクから「週刊誌は社会の窓である」とよく言われた。世相に反した記事を作り続ければ、読者からそっぽを向かれてしまうだろう。週刊誌には常に世相が反映されるのだ。今回の記事についても社会的議論が高まれば、世相を反映する形で業界内ルールを見直そうという動きも出てくるはずだ。

親には子どもを守る義務がある。たとえ子ども本人の意思があったとしても、「メディアに出る」というリスクを十分に理解できているとは限らない。ましてやタレントである親が、子どもを頻繁にSNSやメディアに露出させることは慎重であるべきだ。同じように、週刊誌側の「子ども」写真のルールについても、「子どもを守る」という観点から考え直す必要があるだろう。

福山問題を一時の感情論だけで終わらせてはいけない。(敬称略)

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赤石 晋一郎(あかいし・しんいちろう)
ジャーナリスト
1970年生まれ。南アフリカ・ヨハネスブルグで育つ。「FRIDAY」や「週刊文春」の記者を経て、2019年にジャーナリストとして独立。日韓関係、人物ルポ、政治・事件、スポーツなど幅広い分野で記事執筆を行う。著書に『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)、『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(文藝春秋)など。

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(ジャーナリスト 赤石 晋一郎)

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